暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

100 / 112
100 ミストとリュンナ

「どういうことだ、ミストバーン!!!」

 

 具現化した闇の衣――星の海の鎧ドレスを纏うミストリュンナに、ハドラーが掴みかかった。

 肩を掴む手を、そっとどけようと触れる。

 

「痛いですよ、ハドラー」

「余計な演技はやめろ! リュンナの声で、リュンナの顔で……! 貴様に言っているのだぞ、ミストバーン!!」

 

 そう言いながらも、掴む力は弱まったが。

 

「リュンナ……! 俺の声は、届かんのか……?」

「……」

 

 届いては、いる。

 ただどう反応を返すか返さないかを決めるのは、この体を動かすのは、ミストだ。リュンナではない。

 

 ハドラーは手を放し、半歩退いた。

 

「俺はリュンナを取り戻すために、この身を魔獣と変えた。バーンさまもそれをお認めくださった! にも(かか)わらずミストバーン、バーンさまの臣下である貴様が、それを反故にするなど……!」

「今はミストリュンナです」

 

 大魔宮の床が、ハドラーの足元で砕け散った。闘気の噴出に耐え切れなかったようだ。

 元気なモノである。原作のように、超魔改造に伴う黒の核晶(コア)の副作用で苦しんでいる様子はない。リュンナの血の圧倒的生命力が為せる業か。

 

 ともあれ、ミストリュンナは肩を竦めた。

 

「バーンさまは仰った――新しい器は好きに探せ、と。だから好きに探したまで。大魔王さまのお言葉は全てに優先するんですから……」

 

 そうだ。バーンは言った。

 わたし(ミスト)に言ったのだ――次の皆既日食では、お前に肉体を預けぬと。しかしこうも言った。その次は分からぬが、と。

 ならば慈悲深い主の期待に応えなくてはならない。

 最強の肉体を得て、最強の守護者となるのだ。今度こそ失敗しないために。

 

 若バーンの肉体は、老バーンの魔力で再生を促されている。

 分身に過ぎず自我のない若バーンの肉体では、闘気を生成し自己再生を行うことが出来ないからだ。老バーンが力を加えてもなお遅い。

 終われば融合するだろう。

 

 ハドラーとしては歯痒いか。

 もし今リュンナが健在なら、黒の核晶(コア)を取り除いてバーンを討つ、千載一遇の機会だったろうに。

 それは先日の鬼岩城で合流できていれば、でもあるが。

 

 ともあれ。

 

「ぬう……!」

 

 ハドラーは歯を食い縛って唸った。

 最早言い募ったところで仕方ないと悟ったか。

 いや、数秒の後、覚悟を決めた顔。

 

「ならば俺の体を」

「え、ヤです」

「なぜだ!!」

 

 その胸の奥に、黒の核晶(コア)が埋まっているからだ。

 そこまでは口にしないが。

 ミストは知らないからね。

 

「くっ……! お前が実体のない存在だとは薄々気付いていたが……その手のモノを取り除くには、光の闘気がやはり最善の手! それは俺には出来ん技……」

「諦めたら?」

「バーンさまにかけ合う! 勇者どもの首を手土産に……!」

 

 ふと目が合った。ハドラーと――リュンナの。

 瞬き。アイコンタクト。

 

 ハドラーは背を向け、立ち去っていく。

 

「待っていろ、リュンナ。必ずお前を奪い返す! 俺はそのために……!」

 

 見送る――と、今度はザボエラがぺたりぺたりと歩いてきた。

 

「ミストバーン……いや、ミストリュンナじゃったか……。ハドラーさまを放っておいてよいのか?」

「と言うと?」

「今のハドラーさまは……改造したワシだから断言するが、大魔王さまを除いたら地上最強じゃろ」

 

 このミストリュンナより上だと述べるのは、いい度胸だ。

 面白い。

 

 ザボエラは寒気を感じたように震えた。

 

「ともかくじゃ、勇者どもを本当に纏めて討ち取ってしまうかも知れん……! それは困る。手柄首を根こそぎにされるのはな……。オヌシだってそうじゃろ? それこそバーンさまが、リュンナを返してやれ、と言うかも知れんのじゃぞ」

「それは……」

 

 それは、あり得る。

 わたし(ミスト)は既に重大な失態を犯した身。最強になったのはいいが、それで何もしないのでは意味がない。

 ハドラーに全ての手柄を奪われれば、この器さえ奪われてしまうかも知れないのだ。

 

 先にリュンナの魂を消せれば、手遅れだとしてその沙汰はないかも知れないが、なかなかしぶとく、半端に混じり合っているのが現状である。支配力はミストが圧倒的に上だが……。

 ともあれ、手柄を立てねばならない。

 

「そうですね、ザボエラさん。言う通りです」

「ミストバーンがそれ言ってると思うと気持ち悪いのう」

 

 失礼な。

 自分だって妖怪ジジイのくせに。

 

「そういうのいいですから。で?」

「うむ。つまり、協力して事に当たらんか、ということよ」

「具体的には?」

「それなんじゃが……」

 

 今回、勇者たちが死の大地に攻めてくることは既定事項である。

 大魔宮の離陸を祝うため、勇者たちの血で場を彩りたい、というバーンの企てがあるのだ。そのために、離陸準備を兼ねてあからさまに死の大地を変形させた。ここが確かに本拠地だ、と示してみせた形。

 じきに海底の魔宮の門の存在にも気付くハズだ。開かずの門だが、双竜陣を以てすれば容易く砕かれてしまうだろう。

 

 しかし海底で自在に活動できる者は少ないことを考えると、大多数は死の大地の地上で敵を引き付けようとするハズ。

 つまり、ダイとバランの突入班、それ以外の地上班。こう分かれる。

 

 現状と原作知識を元に考えればこうなる、という想定。

 どこにどう介入していくのか。

 

「ハドラーさまに毒を打ち込むんじゃ。言葉の毒をな……」

 

 ザボエラは嫌らしく笑った。

 

「ダイ、バラン、ソアラ……。リュンナの家族さえも討ち果たす気か? と。眷属もそうじゃな……。リュンナを奪い返したとして、そのとき受け容れてもらえるか? とな。今は頭に血が上って、そこまで考えが至ってないようじゃが」

「確かに。いえまあ他の仲間なら殺していいってワケでもないですけどね。その辺は確かに、特に」

 

 ミストリュンナは(しき)りに頷いた。

 

「その上で、ハドラーさまを突入班の対処に回す。ハドラーさまは攻めあぐねるが、向こうにとってはただの仇敵、容赦する理由はないじゃろ。ハドラーさまは倒れる……。あとはミストリュンナ、オヌシが代わりに平らげたらよい。恩着せがましくな」

「ザボエラさんはどうするんです?」

「地上班を適当に蹴散らすわい。そのための兵器は出来上がった! ザムザは過労で倒れたが、まあよくやってくれたものよ」

 

 超魔ゾンビでも作ったのだろうか。

 原作では、この時期のザボエラは魔牢に閉じ込められていたが、この世界では全く自由だったし、ザムザも生きている。そのくらいの余裕はあったということか。

 いや、超魔ゾンビは閃華裂光拳対策で、この世界ではその流れにない。何か別の……? 何でもいいが。

 

 リュンナ(わたし)としては色々と止めたい部分もあるが、ミスト()としてはそれで構わない――そして後者の方が強いのがミストリュンナだ。

 

「じゃ、そのようにお願いします。わたしが言うより、ザボエラさんが言った方が効果的でしょう」

「じゃろうな。では、ワシのこの貢献を忘れんように……」

 

 ザボエラはぺたりぺたりと去って行った。

 

 ところでリュンナよ――魂に響くミストの声――この際だ、キルを返してもらおう。

 

 キルバーンは鬼岩城襲来のあの日から、凍結封印呪文(ヒャドカトール)で氷漬けに封印したままである。居場所はアルキード王城のリュンナの私室――悪趣味なインテリアと化していた。

 魔氷気が虚空に穴を開けるようにして離れた空間を繋ぎ、この場にキルバーンを取り寄せた。

 呪文を解くと、氷が蒸発して消えていく。

 

「ウウッ……。僕としたことが……! ッ、リュンナ!?」

 

 キルバーンは咄嗟に半歩引きながら大鎌を構えるが、

 

「ミストだよ、キル」

「なに……。確かに、リュンナとはかなり気配が違う……。むしろミストに近いモノだね」

「でしょう?」

 

 すぐに理解を示してくれた。

 旧友とは得難いモノだ。

 

 ミストがどういった存在であるか――バーンの若い肉体のことに関しては伏せたまま、大雑把に説明する。

 

「なるほどね……。ウフフッ、僕が暗殺したかったのに。でもミストがそうして『着替え』たのなら、あの時失敗したのも善し悪しか」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

「……違和感はあるけど」

「魂を消し切れなくて、リュンナと半端に混ざってる状態だからね。そのうち完全に支配するさ。この凝り固まった重い魂を……」

 

 ミストリュンナ、キル、ハドラー、ザボエラ。その他、魔物たちなど。

 戦力は意外と残っているモノだ。

 

 一方で勇者たちの戦力も充実している。

 原作と比べて、バランはいるわ、ソアラが生きて勇者職と化しているわ、バルトスも生きているわ、ノヴァが大成長しているわ、メンバーが違うとは言え竜騎衆もいるわ。

 残りのメンバーも、それぞれレベルは原作より高いハズ。

 

 まるでどうなるのか分からない。

 だから、ミストにいいように支配されている場合ではない――のだけれど。

 真っ向から抗おうとすれば、より強くぶつかり合うことになる。より混じり合うことに。混じった結果、そこで重要な記憶知識を知られた上で離脱されたら、目も当てられない。

 ミストに隠し通さねばならないことが、まだあるのだ。

 

 ミストの方が支配力は強いが、完全ではない。

 リュンナが頑なに秘密を抱えているから。裏から無意識を誘導しているから。

 その微妙なバランスの上に、ミストリュンナは成り立っている。

 

 どの道、長持ちするモノではないだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。