107 大魔王バーン その1
眷属たちから話を聞いた。
超魔スライムを斃したあと、マキシマムを名乗るオリハルコンの
それを他の仲間たちに任せ、リュンナを心配して眷属のみこちらに来た、と。
「連戦連戦で……もうくったくただよ……」
「ワシも骨格が崩れそうで……」
ベルベルは床にべちゃりと伏し、バルトスはただの屍めいて崩れ落ちた骨の山になりそうだった。
そんな中、リバストのみが辛うじて立つ。
「我が姫。今ベホマを」
「あっ、ずるーい! ぼくもやる!」
「ワシも回復呪文を会得したかった……。代わりにこちらを」
眷属たちのベホマと薬草を受け、ミストを呑んで増大した闘気量もあり、傷が回復していく。
落ちた手足でさえ、血と闘気で眷属を作る要領で部位を作り、生やすことができた。
と、そこでハドラーを振り向いた。
「ハドラー」
「何だ」
「降ろして」
無視された。
抱き上げられたままなのだが。
「降ろしてってば」
「勝手に降りれば良かろう」
無視した。
眷属たちを見下ろす。
「動けるようになったら、地上班を助けてあげて。わたしたちは先にバーンのところに行くから」
「リュンナ……最後まで一緒に行けなくてごめんね」
リュンナはハドラーの腕から降りると、ベルベルを抱き締め、リバストを抱き締め、バルトスも抱き締めた。
「ありがとう。皆の声、ちゃんと届いてたからね」
「うん。うん……!」
そしてハドラーの腕の上にまた座った。
「降ろしてほしいんじゃなかったのか」
「いいじゃない、細かいことは。ほら行くよ! 出発!」
「分かった分かった」
ハドラーの肩を叩く――と、肩のスラスターを開き、竜翼をはためかせ、ハドラーは宙を駆けた。
大魔宮の外周部から内部へ、結界をすり抜けた感触。
美しかったのだろう大魔宮は、進めば進むほど、ただの瓦礫の山と化していた。黒の
しかし黒の
大魔宮の6か所に設置されたピラァ・オブ・バーンだ。
これらを起爆されては堪ったモノではない。
ハドラーに飛ぶ方向を指示し、1か所ずつ巡っては凍らせていく。
作業を終えれば、中央、天魔の塔跡へ。
爆心地だ。見上げればまるまる上空を窺えるほど、死の大地の土地が吹き飛んでいた。
魔力炉もゴロアも、跡形も残っていない。
やがて前方に、超越的な力同士の激突の気配。
そのまま更に進むと――
「――カラミティウォールッ!!」
地を走りながら噴出し続ける衝撃波流を、ダイとバランが闘気を同調させ受け流していく様子があった。
ハドラーは高度を上げ、ウォールを上から迂回するコースで飛ぶ。
間際、ピロロの遺骸がウォールに砕かれるのが見えた。
着地し、合流する。
「ダイくん、バラン、大丈夫?」
「リュンナ……! へへっ、まだまだ平気だよ!」
ダイは笑みを浮かべるが、既に肩から血を流し、息を切らしていた。
バランも全身に焼け焦げた跡がある。
「バーン……」
ハドラーがリュンナを降ろし、前に出た。
「ハドラーに……リュンナか」
応えるバーンの姿は、若々しいモノだった。
バランが言う。
「気を付けろ、リュンナ、……ハドラーもな。
奴は体をふたつに分けていた。満身創痍のところから、融合して真の体を取り戻し、こうして復活してきたのだ……!」
「そういうことだ」
バーンは具合を確かめるように、手を閉じ開きしながら述べる。
「いやしかし、本当にヒヤッとした記憶があるぞ……。ミストの凍れる
いっそ愉快げに、大魔王は笑う。
「それも黒の
つまりそなたのお蔭だな、リュンナ。礼を言うぞ」
ボロボロの光魔の杖が、傍らに落ちていた。
老バーンはあれの最大出力で
これはこれで、老バーン戦を省いて真バーン戦に進むことが出来た、と言えよう。
その分の消耗がない。
ともあれ、リュンナは眉根を寄せた。
「あなたに感謝されたくはないですね。バーン」
「そう言うな。余とそなたの仲ではないか」
「今初めて会うんですけど」
バーンはそっと、自らの額を指し示した。
第三の目。鬼眼。
「やっぱり――同種のモノなんですね?」
「
遠くを見る目つき。
「結果、余は魔界へと追いやられた。時の
バーンは拳を握った。
まるで憎しみを握り潰すよう。
「ならば余が新たな神となり、魔界に太陽を齎そう。それが大魔王バーンよ」
「そのために地上を消し飛ばしてでも?」
「知っていたか」
興味深げに見てくる。
リュンナは鼻を鳴らした。ただの原作知識だ。
「だがその計画も半ば潰えた。世界中に黒の
バーンは薄笑いを浮かべて述べる。
この事態に、まるで応えていない雰囲気。
「しかしリュンナ、ハドラー。そなたらが再び我がもとに参じるなら話は別だ。世界中の強者どもを打ち倒し、
「魔王だ」
ハドラーは静かに、だが、覇気に満ちた声音で。
「バーン、俺はあなたに復活させられ、その超魔力に屈した……。ただの使い魔に成り下がったのだ。しかしリュンナが、俺の目を覚まさせてくれた」
おい。
シリアスな話をしながら頭を撫でるな。
「魔界に俺の国はなくなった。民の僅かな生き残りも封印状態にある。食わせることが出来ないからだ……。だからこの地上に新天地を求めた。豊かな土地を手に入れてみせ、どうだ、お前たちの王は偉大なのだと――奴らが、誇りに思えるように……。なぜなら、俺は魔王ハドラーだからだ」
バーンは笑った。
それは嘲笑であり――どこか、嬉しそうでもあった。
ハドラーが猛る。
「この地上は俺のモノだ!! 消滅などさせんぞ、大魔王ォッ!!」
「
「リュンナがいる。業腹だが、勇者たちもな……」
ダイは頼もしげに笑い、バランは溜息をついた。
そしてバーンは――天地魔闘の構えを。
「あれがバーンの奥義だっ……! あの構えから、強烈な連続技を……!」
ダイが身構える。魔法の闘衣、ダイの剣。
バランは呻いた。竜騎将の鎧、真魔剛竜剣。
リュンナは布の服の上に闇の衣を――薄青い常闇に無数の輝きを宿した星の海の様相を、鎧ドレスに固めた。更に
ハドラーは魔炎気を高め、覇者の剣を両手持ち。
「さあ勇者に魔王たち、どう来る? 来ないのならば、こちらから行くが……」
「同時攻撃です。まずは相手の限界を見極めねば」
「よし」
「心得た」
「うんっ!」
バーンは余裕の笑み。
「フッ……。限界などないわ。冥土の土産に教えてやろう。完全無欠とはどういうことかを、な!!」
上は死の大地の山脈すら吹き飛んで、天空が天井の様相。
雲間から差し込む陽光に、バーンが照らされ――刹那、青天の霹靂。双竜が剣に雷を宿した。
「ギガストラッシュ!!!」
「ギガブレイク!!!」
竜と魔王は、それぞれの闘気を込める。
「ゼロストラッシュッ!!」
「超魔爆炎覇ッ!!」
原作通りなら、天地魔闘は3回行動。
ひとりは攻撃が通る計算――
「フェニックスウィング!!」
超高速の掌撃が、ギガブレイクをギガストラッシュに向けて逸らし、同士討ちへと導いた。
そう来たか……!
「カラミティエンドッ!!」
究極の手刀が超魔爆炎覇を打ち払いながら、ハドラー本体をも斬り裂き、
「カイザーフェニックスッ!!」
リュンナは炎の不死鳥に呑まれ――闇の衣で、吸収し切れない!
だが軽減は出来た。腐っても、同じ第三の目の開眼者同士。
「ッあああああああ!!!!」
焼き払われながら、しかし、突っ込んでいく。
「なにッ――」
カイザーフェニックスを放った直後の、前に伸ばしていた左手に切り傷を刻んだ。
傷口が凍てつき、呪いの氷が広がり始める。
「小癪な! この程度――」
「メドローア!!!」
ポップの叫ぶ声。走る光の矢。
何のために、バカ正直に会話に応じたと思っているのだ。
待っていた。
そして最高のタイミングで撃ってくれた。
「おッ――おおお……!?」
リュンナは避難した。
消滅が迫っていく。
間に合うか?