暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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109 大魔王バーン その3

 デルムリン島での戦いにて、リュンナはアバンを打倒した。

 得意のゼロストラッシュではなく、わざわざそこから魔法力を抜いた闇のアバンストラッシュで。

 

 魔氷気では爆発が起きにくいからだ。純粋な暗黒闘気なら、爆煙で全てを覆い隠せる。

 ストラッシュを寸止めしつつ闘気を暴発させることで、直撃を演出しつつダメージを抑えもした。

 

 その上でレムオルとマヌーサの合体魔法――如何なる場所・体勢でもリアルタイムで背景に溶け込む幻像を纏う擬態幻術を施し、シャドーを憑けて、バシルーラの余裕まではなかったから遠くに蹴り飛ばした。

 

 あとはシャドー越しに連絡を取り合い、破邪の洞窟に挑んでもらったり、雌伏してもらったり――そして最後に、タイミングを見てリリルーラで合流してもらったのだ。

 憑依シャドーもリュンナのミスト吸収に伴い進化しており、アバンごと気配を隠蔽していた――ほとんど眼前にいるのにも(かか)わらず、バーンが気付くのが一瞬遅れるほどに。

 

 その間隙で、アバンは破邪の秘法を行使――極大化したマジャスティスで、バーンの動きを一瞬止めてみせた。それでも一瞬なことに恐れ入る。

 天地魔闘の硬直に、マジャスティスによる硬直が重なり、バーンは3人の必殺技をまともに受けたのだ。

 

「と思ったんですけどね……」

 

 それでもなお、バーンは反応反撃していた。

 ダイのギガストラッシュは、バーンのカラミティエンドと相討ちになった。ダイは右腕を飛ばしたが、その頃には自身の右腕と胴体と骨肉を砕かれていて、倒れた。

 バランのギガブレイクは、バーンのカイザーフェニックスと相討ちになった。彼は焼かれながら何とかバーンの臓腑を抉り、膝をついた。

 

 返す刀でバーンはフェニックスウィングを繰り出し、ハドラーの超魔爆炎覇を逸らし、その衝撃で腕すら折り――しかし覇者の剣が自在な雷光の太刀筋を描き、バーンの胸を貫いた。リュンナ流、魔神斬り。

 直撃したのはそれのみだ。

 

「この大魔王バーンを舐めるでないわーッ!!」

 

 バーンは右胸を魔炎気に消し飛ばされながら、構わず重い蹴りを繰り出してハドラーを吹き飛ばした。

 もっともハドラーはそれを腹に貰わず、腕で防御することは出来ていたが。

 折れた右腕を、使い潰す勢いでクッションにした。

 

「アバン、勇者アバン! 早々に消えて、安心していたのだがな……! まさかそれが……!!」

 

 バーンの鬼眼から閃光。ダイとバランが『瞳』と化す。

 アバンはバギの応用で風を起こし、瞳を集めると、纏めてマントに包んだ。更に後退し、避難していく。

 去り際に、戦うふたりにシルバーフェザーを投げ刺しながら。魔法力の回復。

 

「私のレベルでは、この程度の援護が精一杯です……! あとは頼みましたよ、リュンナ姫! ……そしてハドラー!」

「言われるまでもない!」

 

 ハドラーとアバンは、一度も視線を絡ませなかった。

 しかし確かに通じ合っていた――リュンナにはそう見えた。

 

「おのれ……おのれ、おのれ!!」

 

 如何にも苛立たしげに床を打ち砕くバーンは、右腕がなく、その土台となる右の肩や胸もない。

 三つある心臓のうち、右側のそれはハドラーの魔炎気で焼かれたせいか、腕ともども再生する気配がない。

 腹の傷からは内臓が零れている。少しずつ這うように、体内に戻っていくが――亀の歩みだ。

 

「リュンナ……! 最初から余を(たばか)り、裏切っていたワケか!」

「最初からハドラーを(たばか)って裏切っていたのは、あなたでしょうに。黒の核晶(コア)を埋め込み、地上消滅の本意を隠して、さも地上征服を今度こそ達成できるかのように……」

「それも竜眼の力か? リュンナ」

 

 ハドラーがふと問う。

 なぜ気付き、なぜ知ったのか、と。

 

「いえ、夢で見ました。生まれる前に」

「そうか」

 

 ハドラーは納得した。

 

「夢で見た……だと……!? 生まれる前にッ!? ふざけているのかッ!」

 

 バーンは納得しなかった。

 激昂し、闘気を激しく噴出――周囲が崩壊していく。

 

「ふざけてるのは、あなたですよ。バーン」

 

 リュンナは淡々と述べ、ハドラーが相槌を打つ。

 

「そうだな……。黒の核晶(コア)をあれだけ用意していたのなら、魔王軍など必要なかった。粛々と地上を吹き飛ばせば良かったのだ。先制の奇襲で……!」

「わたしを取り込んだのも、竜眼への興味と、ミストのスペア候補と、理由はあったんでしょうけどね。不可欠な行動ではなかった。で、結果がこれです」

 

 もちろん、バーンにも言い分はあろう。

 彼にとっては、地上を消し去って終わりではない。地上攻撃を機に、後々まで続く最強の軍団を作り上げる――なるほど、一石二鳥だ。

 だが二兎を追う者は、一兎をも得ない。それもまた世の習い。

 

 バーンは拳を握り、震えた。

 

「最新にして最後の神となるべき余を、どこまでも愚弄しおって……!! 確かに天地魔闘を破られ隻腕となったが、うぬらも既にたったふたりを残すばかり! 充分だ……! 左腕があれば充分ッ!!」

 

 バーンは負傷をモノともしない電光石火で駆け抜けた。リュンナに迫る――が、機動力にかけては、スラスターと竜翼を併せ持つ人竜超魔ハドラーに勝る者はない。割り込んだ。

 

「大魔王バーン! 魔王ハドラーとして、あなたは超えるべき壁だ……!! 挑ませてもらうぞッ!」

「しゃらくさいわッ!!」

 

 魔炎気を纏う覇者の剣と、暗黒闘気を纏う手刀。

 それで互角なのだから、なおもバーンは底が知れぬ。

 バーンは隻腕。ハドラーも五体こそ繋がっているものの、胴にカラミティエンドを受け、右腕もへし折られている。左手のみで覇者の剣を振るう形。

 

 近距離での打ち合いでは、超魔爆炎覇の溜めの隙がない。

 一方バーンも、白兵戦に集中するため、呪文攻撃を併用できない。

 力は互角。だがリーチはハドラーが上――魔神斬りがバーンの脚を払い、

 

「カラミティエンドッ!!」

「がぐ、ッう……!?」

 

 だがバーンはトベルーラで、一切姿勢を崩さなかった。

 あまつさえ流石に溜めが速い。究極の手刀がハドラーの胸を穿つ――心臓がひとつ潰れた位置。

 

「がはッ……!」

 

 ハドラーが鮮血を吐いて倒れる。

 

「フハハハ!! ハハ――」

 

 だがその間に、リュンナは、魔氷気を最大限に高めていた。

 高めた気を、呪文に注ぎ込む。

 

「ドラゴラム」

 

 闇の衣の鎧ドレスの、マントのみが吸収還元される。

 銀髪が異様に伸び、無数の束になって枝分かれして骨格を(かたど)り、それを芯に皮膜の翼が、細長い尾が、2本の角が形成される。

 人竜の様相――それが完成しゆく中、

 

「リュンナアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 バーンがトベルーラで突貫してくる。

 左手、暗黒闘気の闇の輝き。

 

「――カラミティエンドォッッ!!!」

 

 その名は『災厄の終わり』を意味する。

 使い手に対する災厄――敵対者の命運を終わらせる、痛恨の一撃。

 

 それを繰り出しながら、しかし、バーンの顔に浮かんだのは驚愕と絶望の色だった。

 竜眼にはそう窺えた。

 

 リュンナの構えを見てしまったからだろう。

 天地魔闘の構えを。

 

「闇の翼」

 

 究極の手刀は、常闇の輝きを宿したリュンナの左掌打により、あっさりと威力を殺された。

 闇の衣の力を一点集中して放つ、必生の一打。フェニックスウィングの親戚。

 

「ポーラドラゴン」

 

 その手がそのまま、竜眼姫のマヒャドを放つ。

 冷気の竜がバーンに喰らいつき、全身を凍てつかせ(いまし)めた。

 それは魔法力の代わりに魔氷気を用いた、呪いの氷。

 

「あ、ああ……あああ……!!」

 

 その時には既に、右手の(ひのき)の棒を芯とした闘気剣(オーラブレード)は振り被られていた。

 魔氷気の輝きを限界まで凝縮した、究極の剣だ。

 あまつさえ竜翼の振りの反動すら乗せる、人間には絶対に実現不可能な威力。

 振り下ろした。

 

「アルテマソード――ぉおおおおおおおおッッッ!!!」

 

 その全威力を、呪いの氷が逃がさない。

 余波はなく、爆発も広がらず、一切の力のロスなしにただ敵のみを殺す剣技。

 バーンは一瞬で斬断され、凍結粉砕された。

 

 既に元から瞬間2動作が可能な以上、そこから人竜と化し更なる強化を施せば、瞬間3動作が可能となるのは必然。

 あまつさえ感知に優れた竜眼で、バーンのそれを何度も見たのだ。

 リュンナの天地魔闘は、ならば、成る。

 

 それでも咄嗟にイオラを唱えて自爆気味に吹き飛ぶことで、辛うじてバーンは逃れていた。流石と言えよう。

 最早、頭部と胸の一部しかない姿が、ボテッと落ちるのが結末だが。

 

 ――まだ、終わっていない。

 

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