境の山に向かうパーティーメンバーは、以下の通りである。
リュンナ。アルキード王国第二王女にして勇者姫。9歳。
流れる銀髪と深い赤の双眸は、どこか儚くも妖しげな雰囲気を醸し出す――が、口を開くと丁寧語なのにどことなく粗雑で、王族らしさに欠ける。
装備は子供用にと小さく誂えられたもの。武器はある種の聖剣であるゾンビキラー、ゾンビ以外もよく斬れる強力なレアアイテムだ。防具は体捌き重視で身かわしの服。
ベルベル。リュンナの仲間となったホイミスライム。♀。
ほかのホイミスライムと区別するため、赤いリボンで鈴をふたつ、触手に結び付けてある。
装備は刃のブーメラン。
最近、回復呪文はベホイミまで覚えた。
ソアラ。リュンナの姉、第一王女。14歳。
リュンナの指導の賜物なのか、元々の才能なのか、メキメキと実力を伸ばしている。闘気こそ未だ使えないが、勇者系の万能職的な成長性。何だこれ、とリュンナは思った。
装備は
第三近衛部隊隊長の女騎士。20代。
リュンナを担当する近衛部隊の取り纏め役であるため同行しているが、当の護衛対象が強過ぎるため、最近はむしろソアラの護衛としての色が濃い。この人事に、本来ソアラを担当している近衛は不満を示しているそうだ。
装備は鋼鉄の剣、鋼鉄の鎧、鉄の盾、鉄兜。
元は僧侶であったが戦士に転職したといい、剣技のほかにベホイミなども使うことができる。
ルアソニドの町の腕利きの兵士。30代。人間。
町長に派遣されてきた戦士。熊のような巨漢で、実際に「熊さん」「豪傑熊」などの愛称で親しまれているベテランらしい。元は
装備はバトルアックス、皮の腰巻、皮の帽子。
どう見ても蛮族であった。
――以上5名。
筆頭戦力はリュンナだが、権威そのものは第一王女のソアラが上で、しかし実際の指揮を執るのは経験値から言って隊長――近衛隊長の女騎士でありつつ、一方で山を案内するのは慣れた元樵の熊さんだ。
指揮系統が混乱しないだろうか、とリュンナは不安に思った。
そんな中、指揮に一切関わらないベルベルを撫でて落ち着く。
隊長と熊さんを前に、リュンナとベルベルを後ろに、ソアラを中央に置いた布陣で、一行は山に分け入っていく。
魔王ハドラーが侵略を開始する以前――魔物が大人しかった頃には、普通に人が行き来していたらしい。山道が通っていて、登るにそう苦労はなかった。
しかし山道はやがて途切れ、険しい山の本性がじわじわと露。
獣道を辿ることになってからは、当然のように野獣系の魔物と遭遇する。
大ねずみは気配を感じ次第逃げていくが、豪傑熊は襲ってくるし、マッドオックスに至ってはギラを噴いてくる始末。
それでも味方の方の熊が存外頼りになる熊であり、豪傑熊相手でも一歩も引かずにバトルアックスを振るってくれるため、戦線は安定していた。
マッドオックスのギラも、真空斬りや呪文攻撃による相殺で対処できる。或いは木々や地形を盾に使ってもいい、生木は意外と燃えない。ソアラが防具の耐性で受け止める場面もあった。
そこまでは良かった。
ある程度登ると、野獣系とは異なる魔物が出現するようになったのだ。
例えば鎧兵士――いわゆる
「この山に、こんな魔物は棲んでなかったハズですぜ。何かありやがるな……」
熊さんが怪訝そうに言った。
地元民がそう言うなら、リュンナとしても同意見である。
非生物系と野獣系は敵対している風でもなく、混成で出現した場合、いずれも非生物系が指揮を執っている雰囲気があった。
かと言って、両者のレベルはおよそ同じくらいで、片方が一方的に従うほどの差は見られない。
つまり――恐らく、より上位の非生物系魔物が親玉として君臨している。少なくとも、プレーシの町を襲ったアークデーモン程度のレベルはありそうだ。
「これは……リュンナさま、一度持ち帰るべき案件かと愚行いたします」
「そうですね……」
隊長の具申に頷く。
このまま親玉を探して、一気呵成に斃してしまうこともできるだろう。ただその場合、敗残兵となった非生物系魔物たちがどう動くかが読めない。
大人しく撤退してくれればいいが、混乱して、或いはヤケクソでルアソニドの町を攻撃されては困る。
町はその可能性を把握していないため、不意打ちとなってしまい、少なくない被害が出るだろうからだ。
「では撤収で。帰り道で例の勇者パーティーが見付かる可能性もありますので、徒歩で行きましょう」
全員で頷き合い、そして来た道を戻った――戻った、ハズだ。
気付けば知らない道に出ていた。ここまでの登山で一度も見ていない風景。
「バカな……!」熊さんが呻く。「さっきの場所からこんなところに出るハズがねえ! 俺はガキの頃から何度もこの山に登ってたんだ! 確実におかしい!
本当だ姫さま、信じてくれ……!」
ルアソニドの町のベテラン戦士である熊さんには、リュンナでも比肩できない豊富な経験値がある。
その彼がここまで取り乱すのだ、責任を取らされたくないという思考はあるのだろうが、それにしても異常事態が起きていることは間違いなさそうである。
「熊さん、大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、わたしや姉上はルーラを習得しています。はい皆さん手を繋いで」
全員で輪になるように手を繋ぎ、
「ルーラ!」
しかし、不思議な力で掻き消された!
ルーラルーラルーラ――リュンナの声が山彦となって、虚しく響き渡る。
「リュンナ、魔法力が切れてたの? それならわたしが――」
「いえ、掻き消された感覚がありました。たぶん結界か何か……脱出を妨害するような……」
目を閉じて瞑想に入った。
死の感覚――無の境地――全てが消え去れば、全てが見える。
額に開く第三の目で、世界を見通すイメージ。
見えた。
確かにここは結界空間の中だ。山の半ばを包むような、広大な結界。
入ってくる者は拒まないが、出ようとする者は閉じ込める――結界壁を通り抜けようとすると、内部の別の場所に転移させられてしまう効果がある。ルーラも掻き消されるのは先ほどの通り。
またマヌーサの魔法効果が常時発動しており、転移に伴う風景変化の違和感を消すほか、魔物のアジトを風景の幻で隠しているようだ。そしてそのアジトに、結界の起点がある気配。
町に帰るには結界を破壊するしかない。
その上で、結界を破壊するには起点の破壊が必要で、起点は結界に隠されているため、結界を破壊しないと辿り着けない――堂々巡りの結界。
「そんな恐ろしい仕掛けを……! おのれ魔王軍め、こうして気付かれずに戦力を整え、ルアソニドの町を一気に落とすつもりか!」
隊長が拳を握り、敵の姦計に怒りを見せた。
熊さんはと言えば、絶望的な顔をしている。このまま手を拱いているしかないのか、と。
一方でソアラとベルベルは、促すようにリュンナを見る。
「でもリュンナ、分かるんでしょう? アジトの場所」「ぷるるー」
「ええ」
全てが見えるのだから、当然、アジトの場所すら見通せる。いや全てが見えるのは流石に誇張表現だが、とは言え、遠くのマヌーサ程度ならば見破れるのも事実。
透視能力つきの『鷹の目』の特技と言えようか。
「方向としては、あっち……あの尾根の、」指さしながら、「あの一か所だけ、木々がやたらと高くなってる……分かります? あそこです。行きましょう」
行くことになった。
「流石はリュンナさま! 日増しにお力が高まっておられる……!」
「これが勇者姫さまの力ってやつかい……。ただ強いだけじゃねえんだな。これなら我が国は実際安泰かもしれねえ」
隊長と熊さんは頻りに感心していた。
今は、どや顔も謙遜もするつもりはないが。