暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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13 オークキング

 思えば例の勇者パーティーも、結界に囚われて出られなくなったのだろう。

 そして起点を破壊して結界を解除するべく、アジトの場所を察知し、そこへ向かったハズだ。

 というのも、アジトへ向かう道行きで、真新しい野営跡を発見したのである。その様子からして、少なくとも2日ほど前まではこうして生きていた痕跡――続いて1日前の痕跡をも。確実にアジトに近付いていた。

 

 リュンナたちがスムースに移動している距離に彼らが数日をかけたのは、魔物の数が違うからだろう。先行した勇者パーティーが粗方を倒したからこそ、後続のリュンナパーティーが楽に進めているのだ。

 その事実を示すように、腐り始めたばかりのような野獣系の骸や、打ち砕かれた鎧兵士の破片などが、そこかしこに転がっていた。

 

「どうやらこの勇者パーティー、実力は本物みたいですね。早く追い付いて共闘したいところです」

「そうね、とても頼りになりそうだわ」

 

 リュンナとソアラはあくまでもマイペース。

 一方、隊長や熊さんは戦慄の様相。

 

「このゴールドオーク、たった一太刀で……。リュンナさま以外に、これほどの実力者が……」

「合流したら、もう俺いなくてもいいんじゃねえか」

 

 仮にいなくてもいいとしても、帰ることはできないのだ、行くところまで行ってもらうしかない。

 そしてもちろん、いてくれた方が助かる。

 と、思うだけなら意味はない。

 

「そんなことないですよ、熊さん。あなたの斧捌きは頼りになるものです」

「へへっ……! 勇者姫さまにそう言われちゃあ、気張るしかねえや! 前は任せてくだせえ!」

 

 熊さんが力強く笑みを見せ、パーティーの士気は取り戻された。

 隊長? 彼女は「流石はリュンナさま」の平常運転だから……。

 

 ともあれそんな矢先であった、不意に殺気が飛んできたのは――

 

「前ッ!」

 

 ――投げ槍であった。

 リュンナの叫びに、弛緩していた熊さんが一気に緊張。前に出てバトルアックスの巨大な刃で受け、逸らし、それでもなお衝撃に押され轍を作る。

 

「ぐううう、……ッ!」

 

 彼はバトルアックスを取り落とし、膝をついた。両腕がブランと垂れ下がっている――肩が外れたのか。

 

「大変……! ベホイミ!」

 

 ソアラが慌てて回復呪文をかけるが、脱臼相手には効果が薄い。

 駆け寄ったリュンナが彼の肩を嵌め込み、ベホイミがその痛みを緩和する間、隊長が盾を構えて前衛に出た。

 

 向かってくるのは、青い毛皮の猪獣人――オークキングだ。

 先ほど投げてきたのとは別に、まだ槍を持っている。

 

「ここまで来ただけはある……! 俺の槍投げを防ぐとは!」

 

 重く力強い声、人語を介する高等な魔物だ。山の野獣系のヌシか何かか。

 彼は見事な刺突を放ち、しかしそれを隊長が鉄の盾で受け流す。

 

「王女さまがたに手は出させぬッ!」

「ぬかせ」

 

 隊長はカウンター気味に鋼鉄(はがね)の剣を叩き込もうとするも、オークキングはなんとそれを素手で掴んだ。

 そして引き寄せ、鎧をモノともせずに隊長の胴に膝を入れる。

 

「うぐ、ッ……!」

 

 隊長が崩れ落ちる――と、その頭上を高速で通り過ぎるのは、ベルベルの刃のブーメラン。

 オークキングは余裕の顔でそれを弾こうとするが、ブーメランは変化球めいて突如として軌道を変化、猪の腹に突き立った。

 

「うおおっ!?」

 

 傷は浅いが、虚を突くには充分。

 前衛を迂回して左右からオークキングを挟み撃ちにする立ち位置に、既にリュンナとソアラは移動していた。

 

「ヒャダルコ!」

「ギラ!」

 

 冷気呪文がオークキングの脚を氷漬けにし、地に釘付けに。

 同時に閃熱呪文が顔面を狙ったが、これは片腕で防がれた。逆に言えば、片腕を焼いてダメージは確実に与えたのだが。

 

「小癪な人間どもめ……! だが!」

 

 続いて白兵戦に移ろうとしていたリュンナとソアラの背後や、ベルベルの呪文治療を受ける隊長と熊さんの脇――木々の陰から不意に気配が湧く。

 伏兵としてゴールドオークどもが隠されていたのだ。こちらが勝ったと油断した瞬間を突くために!

 

「まあ油断してないんですけどね?」

 

 リュンナの真空斬りが、ソアラのメラミが、隊長の剣や熊さんの斧が、ベルベルの予備の刃のブーメランが、ゴールドオークどもに逆にカウンターを浴びせた。

 

 瞑想までせずとも、リュンナの気配察知は優秀なのだ。あまつさえ目線で仲間たちにも合図済み。

 アイコンタクトにそこまでの情報量を詰め込めるのは、殺気による威圧の親戚――単純に相手の感覚に訴えるのみの、言わば心気を飛ばすことによる言葉なき会話の賜物。

 

 ゴールドオークどもは目を剥いて驚愕、狼狽し、万全の攻撃力を発揮できない。

 だがオークキングのみは揺れない。脚を固める氷を気合の踏み込みで内から砕き、身を自由にするや否や、

 

「ならばこうだ! ザラキ!」

 

 その手から死の言葉の奔流を放った――隊長、熊さん、ベルベルを巻き込む角度で。

 

「しまった……!」

「みんな!」

 

 そこで咄嗟に3名に駆け寄ってしまうところが、ソアラの戦闘者として未熟な点だろう。ザラキの範囲に踏み入れば、自分もその威力を受けることになってしまうのに。

 あまつさえ、ソアラが突き飛ばして救ったのはベルベルだった。生命力を活性化する回復呪文使いだけに、死の威力に耐性があるのか、ベルベルや隊長は比較的余裕がありそうだった――最も危険そうなのは、熊さんなのに。

 

 こうしてソアラ、隊長、熊さんが死の言葉の渦に囚われた。今すぐに即死する気配こそないものの、全霊の気力体力で耐えるために身動きが取れない状況。

 顔を青くし、頭を抱え、蹲る様子。熊さんに至っては、完全に地に伏している。呼吸はしているが……。

 

 すると今、敵はオークキング1、ゴールドオーク4に対し、味方は動けるのがリュンナとベルベルのみ。

 ゴールドオークどもは、ザラキに耐える人間たちにトドメを刺そうと、その範囲外から槍による刺突を繰り出そうとしていた。

 

「ベルベル!」

 

 リュンナは鋭く心気を飛ばし、オークキングをベルベルに任せた。

 ベルベルでは4匹ものゴールドオークを押さえ切れないが、たった1匹のオークキングなら、しかもザラキで片手が塞がっているなら何とかできる。いわんやもう片手はギラの負傷があり、満足に槍を振るえないのだから。

 

「ぷるん!」

 

 気合の声、刃のブーメランの投擲。

 顔面に纏わりつくようなその軌道にオークキングは鬱陶しげ、集中が欠けてザラキの威力が緩む。

 

 同時にリュンナは、ゴールドオークどもに剣圧を飛ばした。

 ただの真空斬りではない――それでは仲間たちを囲む形の猪どもを、一撃で一網打尽にはできない。その隙に誰かが突き殺されてしまう。

 

 魔神斬り・急による、一切の減速なく自在に曲がる雷光の太刀筋。そのジグザグの軌跡の切先が、ほぼ同時とすら言える瞬時に、それぞれ別々の方向に真空斬りを放つ――味方の間を縫って、確実に敵の群れのみを斬り裂くつるぎのさみだれ。

 

「――五月雨剣ッ!」

 

 ゴールドオークどもの首が飛び、心臓が穿たれ、内臓が弾け、頭頂から股下までが両断された。

 今は一振り四斬が限界、オークキングまでは手が回らなかったが。

 

「なんと……!」

 

 しかしこれにはオークキングも驚愕したようだ、ベルベルへの警戒が疎かに。

 その瞬間、自在に飛び回るブーメランとベルベル本体との波状攻撃により、オークキングは遂に完全に集中を切らし、ザラキが掻き消えた。

 

「ぷるるるー!」

 

 ベルベルがまず、最も重症の熊さんの体力を補うためベホイミをかけに行き、入れ替わりにリュンナがオークキングと対峙する。

 

「最後は一騎打ちか……! 良かろう!」

「楽しむ余裕はないと思いますけどねッ!」

 

 互いに踏み込んでいく。距離が殺される。

 オークキングは無事な手に槍を移し、螺旋を描く回転をかけての強烈な刺突。

 リュンナは魔神斬り。雷光の太刀筋で槍を弾き、返す刃でほぼ同時にその胴を割る――ハズだった。

 

 槍の回転に巻き込まれ、剣が手から弾かれて飛んでいくまでは。

 

「!」

「ぐはは! 勝った――ッ」

 

 しかしリュンナは構わず懐に潜り込み、素手の掌打をオークキングの胴に叩き込んだ。

 ベルベルが最初に投げて突き立てた、刃のブーメランを狙って。

 

「油断ですよ」

 

 ブーメラン自体は浅い刺さりだった。ベルベルの力はそこまで強くない。

 だがリュンナがそれを更に深く打ち込み、あまつさえその威力に暗黒闘気を乗せればどうなるか。

 闘気の威力はブーメランを介して確実に猪に突き刺さり、有り余る衝撃が背中を内側から弾け飛ばして、その臓腑をぶち撒けさせるのだ。

 

 体重の数割を背後に撒き散らしたオークキングは、それでも立ち続け――

 

「お前の勝ちだ……人間……」

 

 その獣面が笑ったように、リュンナには見えた。

 肺も吹き飛んだから、既にその言葉は声ではなかったのだが、辛うじて心気で聞き取れる。

 

「リュンナです。人間ですけどね」

「リュンナ……俺を斃した勇者は、リュンナか。俺は……俺は……。俺は、オークキングだ……」

 

 その言葉は、どこか悲しげにこぼされた。

 そしてオークキングは前のめりに倒れ、地に伏す。

 

 久しく見ない強敵だった。プレーシの町のアークデーモンと同等以上のレベルはあっただろうか。

 流石のリュンナも、一息をついて気を抜いた。ベルベルが呪文治療を施している仲間たちの方へと歩く。

 

 そこで、ちょうどこちらを向いたソアラと目が合い――彼女が焦った顔で、リュンナの後ろを指さした。

 

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