暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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17 砦前の攻防

 ソアラは砦の外で、仲間たちと共に戦っていた。

 自分たちのパーティーからは他に隊長と熊さん、アバンのパーティーからは、当のアバン本人を除くロカ、レイラ、マトリフ。

 

 場の指揮は主にマトリフが執っていた。

 魔法使いという触れ込みだったが、攻撃系や補助系のみならず、回復系や防御系すら平然と使いこなす辺りは賢者と見える。

 

「スカラ!」

 

 マトリフの呪文、赤い光が熊さんを包む。

 すると熊さんに突き立てられた鎧兵士の剣は、しかし皮1枚で止まり、まるで刺さらないありさま。

 

「おおっこいつぁあスゲエ!」

 

 それは物体としての柔軟性や可動域を下げないままに硬さを増す、生身が鎧に変わる防御呪文。

 文献には存在が語られているものの、使用者を見るのはソアラは初めてだった。

 

「気を付けろよ熊、多少硬くなったところで――」

 

 熊さんは調子に乗って敵陣深くに斬り込んでいき、しかしそこでヒートギズモの集中砲火を受けた。

 

「ぐわああああああー!」

「――炎には無駄、って遅かったか」

「世話の焼ける!」

 

 もともと鎧で頑丈なロカと隊長が突っ込んでいって熊さんを守るさま。

 ロカが片手で剣を振り回し魔物を牽制しながら、もう片手で熊さんを後衛まで引き摺り、隊長は片手の盾で魔物を防ぎながら、もう片手で火傷にベホイミをかける。

 

「す、すまねえ……」

「パーティーは助け合いだぜ!」

 

 ロカは伊達でカール騎士団長だったワケではないのか、熊さんの半分程度しか生きていないだろうに、実力は倍はある。熊さんを庇いながらでも、その太刀筋の鋭さはまるで落ちないのだ。

 そうして迅速に熊さんを連れ戻し、隊長はレイラへとベホイミ役をバトンタッチ、再び前衛に専念する。

 

 とは言えしかし、熊さんもすぐには復帰しない。今、前衛の枚数が減った。

 そこで魔物たちが勢いに乗る。

 

「今だ、魔法使いを殺れ! 奴が要だ!」

「テメエら如き三下にやられるかよ。ヒャダルコ!」

 

 マトリフの冷気が、魔物たちを凍らせて動きを止める。それは氷漬けと化しただけで、体はそのままそこにある――後続の魔物たちの進行を妨害する障害物となるのだ。

 いや、なるハズだった。のっそりと歩み出たゴーレムたちが、凍った魔物を何の躊躇もなく蹴り飛ばし踏み砕いて進むまでは。

 

「ちッ――」

「マトリフ!」

 

 ロカと隊長とが1匹ずつゴーレムを押さえ、だが、残る1匹が抜けてしまう。

 後衛に迫る――レイラは熊さんを回復中、マトリフはギリギリで呪文の溜めが間に合わない。

 守るのは、ソアラの役目だ。

 

「ふッ、……!」

 

 元は呪文用に空けておいた片手に、既に鱗の盾を装備していた。

 ゴーレムの剛腕を、盾が受ける――受け流すでも受け止めるでもなく、受け弾かれる。

 だが吹き飛ばされる方向を後ろから前へと変える、受けの角度、回転の体捌き。ゴーレム自身の力でゴーレムへと踏み込み、己の力を上乗せして、鋼鉄(はがね)の剣を瞬間的に剛剣へと変えて叩き込んだ。

 その威力に胴体を丸ごと粉砕され、ゴーレムはその場に崩壊。

 

 盾持つ腕の筋肉断裂と引き換えに、肉を斬らせて骨を断った――『諸刃斬り』。

 やると決めたらやる、恐怖や躊躇を凌駕してしまうソアラの気質が導いた特技だ。

 そしてしかし、ソアラは戦士ではなく勇者の素養――自らのベホイミで傷を治してしまえば、デメリットは魔法力の僅かな消耗のみになる。

 冷や汗の出るような痛みに耐える精神力さえあれば、イオラを数発撃ち込んでようやく斃すより、遥かに安い出費であった。

 

 ふと魔物の群れを数えるでもなく数える、当初よりはだいぶ減った。

 そしてその向こう、砦を見上げる。

 

「リュンナは大丈夫かしら……!」

「ベギラマ!」マトリフが閃熱で敵を薙ぎ払いながら。「こうしてこっちで敵を引き付けてるんだし、大丈夫だとは思うがな。アバンの野郎もいるしよ。そんなことよりテメエの心配をしな」

「ふふっ」

 

 マトリフのブッキラボウながらに直球の気遣いの言葉を耳にし、ソアラは思わず笑みをこぼした。

 ソアラも立場的には態度や言葉遣いの修正を求めなければならないハズなのだが、異様に器が大きく受容性の高いその気質から、やはり全く気にしていない。リュンナと差を作らぬように、という意識もあるのだろうが。

 

 と、その時だ、不意にパーティーの後方から、草木を掻き分ける物音が。

 

「ちッ、回り込まれたか……!」

 

 これまではマトリフやソアラの範囲攻撃呪文により、こちらを囲もうとする敵を優先的に排除してきていた。

 そもそも後ろは鬱蒼とした森であり、敵としても動きづらいため、そう積極的に回り込もうとするでもなかったのだが、それでも数回はあった。

 

「わたしが!」

 

 前から来る怒涛の敵の群れは戦士たちが押さえる以上、後ろを押さえるのもソアラの役目である。中衛、遊撃、どのポジションでもこなせることの強み。

 いずれはリュンナと背中合わせで――などと考えて気力を回復しつつ、回復を終え戦線に復帰していく熊さんとすれ違う形で後方へ。

 

 そこにいたのは、青い毛皮の猪の獣人――オークキング。

 見れば腹に傷があり、そして体力を酷く消耗している様子だった。

 

「あなたは……」

 

 ソアラは、咄嗟に攻撃をやめた。

 

「おい何やってる!? 敵だろうが!」

 

 マトリフが前方にベギラマを放ちながら、振り向きざまに叫ぶ。

 それでもソアラは攻撃しないし、オークキングも攻撃しなかった。

 

「メダパニにでもかかったか!? オークキングが使うとは聞いたことがねえが……! メラゾ――」

 

 片手でベギラマを維持しながら、もう片手でメラゾーマをオークキングに向けようとし――しかし、それが放たれることはなかった。

 オークキングの更に背後に回り込んでいたガストの群れを、猪は槍を振るって薙ぎ払い、散らしたから。

 

「こいつ……! いったい!?」

「我が姫は?」

 

 オークキングが口を開いた。重く力強い声。

 

「やっぱりさっきのオークキングなのね? リュンナなら砦の中よ」

「承知した」

 

 オークキングは短く応え、魔物の群れへと踏み込もうとする。正面突破しようというのか。だが彼は、文字通りに死ぬほどのダメージから回復し切っていない様子。

 だからソアラは、その毛皮に触れて、

 

「ベホマ」

 

 ぱあっと温かい光が広がった。

 猪の顔色が見る見る良くなっていく。

 

「これは姉君……! (かたじけな)い」

「リュンナを」

「必ずや」

 

 会話は短く、それで充分だった。

 

「何で普通に通じ合ってんだ!? 色々とおかしくねえか……!?」

 

 マトリフが叫ぶ。後ろを見る余裕がないが、声から察知はしているロカや熊さんも同意するように頷いた。レイラに至ってはキョトンとしている。

 ベルベルがいるから、そういうこともあるのは分かるとして――しかし実際に目の当たりにすれば、困惑しないハズがない。倒した魔物が起き上がって仲間になりに来るなど、前代未聞なのだ。

 しかもそれを当然とばかりに受け容れるソアラの存在が、困惑に拍車をかけているのだろう。

 

 そんな空気の中、隊長だけが、まるで我がことのように自慢げに述べた。

 

「ベルベルのときと同じだ……! リュンナさまの威光は魔物にすら通じるッ! そしてソアラさまもまた、妹君と以心伝心! 麗しき絆ッ!」

「ええ、だって、リュンナと同じ感じがしたの。だから大丈夫よ」

 

 それはつまり暗黒闘気の気配なのでは。いや、正義の暗黒闘気らしいけど……。

 誰も口にはしなかったが、誰の顔にもそう書いてあった。もちろん、隊長を除いて。

 

「うおおおおおおおおッ!」

 

 オークキングが魔物の群れに突進していく。螺旋状に回転をかけた槍を振り回せば、いっそ面白いように敵が吹き飛んだ。

 そうして包囲に風穴を開け、

 

「イオラ!」

 

 ソアラの呪文支援でそれはより大きな穴となり、彼はそのまま砦へと入っていった。

 一行は戦いながらそれを見送り、そしてマトリフは気を取り直すよう、疲労から粘性の増した唾液を吐き捨てる。

 

「まあいい、味方が増えるってんなら歓迎すべき……! どうせなら、こうムチムチっとしたねーちゃんに増えてほしいところだがな」

 

 皆の溜息の音が、妙に響いた。

 

 オークキングが仲間に加わった!

 

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