暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

賛否両論あるだろうと思っていましたが、想像以上に作者のメンタルは脆弱でした。
感想を受け付けない設定へと、試験的に変えさせていただきました。
ご了承ください。

続きは書きます。


56 竜騎衆

 あれから再びハドラーと話し合い、ダイの打倒または取り込みを画策した。

 表向き魔王軍として、言葉の裏で反逆者として。

 

 しかしどちらにせよ、リュンナは現在、主にマジャスティスのダメージで弱っている。これが回復するまでは、返り討ちに遭う危険を避けるため、他の軍団長がダイに対応することとなった。

 それでダイが倒れるなら、それはそれである――とはハドラー談。

 しかし彼としても、強くなったダイを取り込めるなら歓迎のようだ。

 

 結果的に、原作にごく近い流れになるのかも知れない。

 好都合と言えば好都合。

 

 ダイを強く鍛え上げるために。

 大魔王バーンを始末するためには、強力な勇者が欲しい。それがダイである必要はないが、ダイほど都合のいい存在もいない。

 素質、種族、戦意――どれを取っても、ダイは一級品なのだから。仲間も多い。更にハドラーとリュンナ自身をも加えられれば、如何なバーンとて……。

 

 恩義と忠誠を当然の態度で受け取りながら、実は黒の核晶(コア)を仕掛けて最初から裏切っていた――死ぬべき邪悪、バーン。隠された黒の核晶(コア)の存在を、竜眼は見抜き、ハドラーも知るところとなった。バーンは殺す。

 しかしもし原作通りなら、真バーンはまさに神をも超える桁外れの強者である。あまつさえその先に鬼眼王バーンすら控えているし、そも老バーンの時点で――幕越しに謁見した際に、その圧倒的プレッシャーは感じていた。

 

 先にミストバーンを斃して合体を防ぐ方法もあるにはある。凍てつく波動を持つリュンナであれば、凍れる時間の秘法を解いて普通にダメージを通すことが可能だ。が、『若さと力』の権化であるミストバーンは、たとえ無敵でなくても充分過ぎるほどの強敵だろう。

 ともすれば彼は、老バーンにいつでも肉体を返すこともできる。合体を防ごうとして合体を誘発しては、本末転倒の極みだ。

 或いは、よしんば上手くミストバーンを斃せたとして、それで消耗したところを老バーンや死神などに刈り取られる危険性も高い。

 

 リュンナやハドラーのみで事を為すのは、現実的には非常に難しいと言える。

 故にダイたちを鍛え、バーンに敵対する強者を増やす。

 敵も味方もなるべく死なせずに、厳しい戦いでレベルを上げさせようという算段。

 

 そのために都合良く事が進むよう、監視と調整を行わなくてはならない。

 が、鬼岩城司令室――悪魔の目玉の情報が集まるその場所に常駐することは出来ない。

 回復するまでの間、各国の侵攻をしっかり進めるように仰せつかってしまったからだ。魔王軍に忠実な駒として振る舞うには当然のこと。

 

 百獣魔団はロモス王国を。

 不死騎団はパプニカ王国を。

 氷炎魔団はオーザム王国を。

 魔影軍団はカール王国を。

 妖魔士団はリンガイア王国を――それぞれ担当し、攻撃している。

 

 そしてテラン王国は弱小過ぎて捨て置かれ、残るベンガーナ王国とアルキード王国を超竜軍団が担当しているのだ。

 

 リュンナのところだけ2か国なのである。

 確かに立地的には近いし、超竜軍団そのものは最強だが、全く異なる2か国を同時に相手取る以上、上位者の指揮は必須。

 いわんや知恵ある竜は冥竜王ヴェルザーが最後と言われており、事実、魔王軍の竜種には人間並の知性を持つ者がおらず――それはリュンナ自身が創造した眷属も当て嵌まる――しっかりした指揮がないと作戦行動を取れないのだ。

 

 そういうワケで、リュンナは鬼岩城を半ば追い出されるようにして現場に送られた。

 砦――暗黒闘気を使いゴーレムを創造するにも似た要領で、その辺の土石を固め組み上げて過日に建造したモノ――その執務室で、リュンナは眷属から報告を受け取る。

 

「あー、やっぱり?」

「そりゃリュンナが破邪呪文で弱ったら、眷属竜も弱るよ。スノードラゴン、メタルドラゴン、虎の子のグレイトドラゴンやバトルレックスまで……もう戦車隊にメタクソにやられちゃって」

「ごめんねー。流石に先輩は強くって……」

 

 その眷属は、青い肌に長く尖った耳――魔族の少女の姿。明るい金髪は多数の束に編み込まれ、触手めいて長く垂れ下がっている。頭部左右に鈴飾りふたつ。身に纏っているのは水の羽衣。

 眷属でありながらリュンナを呼び捨てにすらし、リュンナもまたそれを当然とばかりに、砕けた口調で返していた。

 

「じゃあ今は通常竜で?」

「うん、それと竜戦士を肉盾にしてる」

「おお」

 

 竜戦士もリュンナが創造した眷属だが、その材料は捕えた敵兵だ。そしてわざと呪法を緩めにし、瀕死ギリギリに追い込むことで元の人間に戻るようにしてある。

 これが死体利用なら人間側の赫怒と苛烈な反撃を呼ぶだろうが、生きて取り戻せるとなれば話は別だ。

 敵は竜戦士を殺さぬように加減して戦わねばならず、それを盾にすれば超竜軍団の被害は抑えられるという寸法。

 

 眷属は照れと不安の入り混じった顔で、もじもじと身を揺らした。

 多数編み込まれた金髪が、伴って揺蕩うよう。

 

「あの、ね、ぼくの考えた作戦なんだ。勝手にやっちゃったけど……大丈夫だった……?」

「大丈夫! とってもいい作戦だもの。ベルベルはやっぱりいい子だね~」

 

 リュンナは自分と同じくらいの少女を傍らに跪かせると、上体をぎゅっと胸に抱き締め、頭を撫でた。

 眷属――魔族の少女の姿をしたホイミスライムが、嬉しそうに抱き返し、胸に顔を摺り寄せてくる。金髪の多数の束が、うねうねと動き絡みついてくる。

 

 竜眼の大魔力による魔物の進化。バーンが鬼眼の力で、ドラムーンのゴロアを超重力の支配者に変えたように。

 つまり竜眼とは、鬼眼の親戚なのか。

 バーンが肉体の材料を与えてまでリュンナを復活させたのは、そこが関係しているのかも知れない。

 とは言え、今はいい。

 

 処刑の日――アバンの手でベルベルとリバストは解放された。だが間に合わなかったアバンと行動を共にすることをふたりは厭って離れ、リュンナの行方を求めて長く旅をした末、目覚めた当のリュンナ本人から接触し、やっと合流した。

 そして竜眼姫へと新生したリュンナの助けとなるため、彼らは竜眼の魔力を身に受けたのだ。

 また旅の中で加わった仲間もリュンナの旗下に入り、合わせて『竜騎衆』と呼ばれている。(ドラゴン)の騎士ではないが、ほかに適当な呼称も浮かばなかったので。

 

 ホイミスライムのぷにぷにぷるぷるに、更に人肌のもちもちと髪のサラサラが相乗されたベルベルの抱き心地は、筆舌に尽くしがたい。いつまでもこうしていたい――が、そういうワケにもいかない。

 名残惜しみながらもベルベルを立たせる。

 

「わたしの可愛いベルベル。わたしが復帰するまで、そのまま遅滞戦闘をお願いね」

「うん! 任せて! リュンナはどうするの?」

「リバストは今前線だっけね。じゃあ悪いけどベルベルからよろしく言っておいてもらって。わたしはアルキード側の指揮を執るから」

「分かった! 行ってらっしゃ~い」

 

 その後、細かい指示を終え、対ベンガーナ戦線を後にする――ルーラ、対アルキード戦線へ。

 下り立つのは、ベンガーナとの国境にある山の砦――旧ハドラー軍のミラーアーマーが陣取っていたそこを改装し、指揮拠点とした場所。

 

「おお、リュンナさま! 心配しましたぞ!」

 

 出迎えたのは、立派な牙を生やした巨漢のトドマンだった。

 

「ごめんなさいね、ボラホーン。大丈夫でした?」

 

 そう――ボラホーンである。

 

「グフフッ、心配ご無用。

 竜戦士用の材料として捕えていた人間どもを、これ見よがしに人質にしましてな。助けに来たところを一網打尽! 在庫を倍にしてやりましたわ。グッハッハッハ!」

 

 豪快に笑うトドマン。

 似た策をベルベルも用いたが、何となく印象が違う気がする。

 

「この海戦騎ボラホーン! 天下無双の力などと驕っていたワシの目を覚まさせてくださったリュンナさまのためなら、何でもいたしますぞ」

 

 彼はベルベルとリバストがリュンナを探す旅の中で出会い、仲間となったらしい。特にリバストとの腕力対決で友情が芽生えたそうだ。そしてそのままリュンナの配下に入ってきた。

 この世界のバランは竜騎衆を組織していないのか、未だにそれらしき敵は出現していないし、ボラホーンはこの通りである。

 

「アルキードの戦士どももそこそこの腕前ですが、この海戦騎と超竜軍団には敵いませぬ! リュンナさまは養生され、疾く回復なさるべきでしょう。鬼岩城にいなくて宜しいのですか?」

「それがハドラーさまに追い出されちゃいまして」

「なんと! あの中間管理職め……! もっとリュンナさまを大切にすべきだ!」

 

 いきり立つボラホーンを、ぽんぽんと叩いて宥める。

 

「まあまあ、時間を置けば回復する程度ですから。さ、全体の指揮はわたしが執りますよ。最前線で暴れたらどうです?」

「グフフッ、流石リュンナさまはお分かりでいらっしゃる……! やはり自らの手で敵を薙ぎ払ってこそ、戦士冥利に尽きるというモノ!」

「殺さないように注意してくださいね」

「もちろん心得ております。なかなか手強い兵士が多く、手加減で逆転される心配はありますが……それをも技量で勝ってこその一流戦士ですからな!」

 

 殺さずに――重傷者を増やし治療看護に手を割かせる。そうして生存者=恐怖の語り部を増やすことで、敵の士気を挫いていく。或いは捕えて竜戦士に転生させ、人質兼戦力に変える。

 バーンの暗黒闘気の影響を受けていた頃から、リュンナはそういう方針だった――悪意の渦。弱者を弄ぶ戯れ。

 

 アバンの空の技で解放された今も、それを変えるつもりはなかった。

 なるべく人死にを減らしてみるって言ったからね。

 或いはもともと、人を殺したくない無意識の現れだったのか。

 

 眷属のシャドーを放ち、超竜軍団に指示を飛ばしていく。

 だがそれとは別のシャドーもいる――砦でひとり、そのシャドーの感覚を乗っ取り様子を窺う。

 デルムリン島での戦いの折、密かにポップに憑けておいたシャドーだ。

 


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