暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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58 獣王クロコダイン その1

 相変わらずのシャドー中継――獣王クロコダインとの戦いが始まった。

 原作と比べると、ダイたちはリュンナ流の修行でレベルアップしているが、クロコダインもリュンナとの組手などでレベルを上げている。

 結果的に、原作と似た流れに落ち着いた。

 

 具体的には、当初こそその圧倒的パワーとタフネス、真空の斧の威力により優位に進めていたクロコダインだったが、奥の手のハズの焼けつく息(ヒートブレス)を魔弾(ガン)キアリクであっさりと覆された辺りから、雲行きが怪しくなってきた。

 キアリクで消し切れなかった微かな痺れがあるのか、ダイは海波斬を放つほどの素早さは失っていたが、それでも力には陰りなし。

 マァムがハンマースピアで繰り出した海鳴閃がバギ系効果を割り、そこにポップがヒャダルコを通らせ、振り上げた斧ごと腕を凍らせた。

 そしてダイが跳躍からの振り下ろしを繰り出し――

 

「くっ! しかしそんな見え見えの攻撃を!」

 

 ――朝日が目に入らない。

 ダイたちが悪魔の目玉に発見されたのが、原作より早かったのだ。そのためにクロコダインとの戦闘も早まり、まだ夜が明けるには程遠い。

 獣王は自由な左腕を振るい、ダイをナイフごと打ち払った。

 

「うわっ!」

「ダイ!」

 

 ダイが転がる。

 真空魔法効果から逃れていたポップとマァムは遠い。

 

「少々驚いたが! この程度で獣王が止まるかあーッ!」

 

 クロコダインは、凍った右腕をそれでも振るった。肘まで凍っているならと、肩を回し、更に身を捻り体ごと叩きつける一撃としたのだ。

 動作が大きすぎて隙だらけの打撃、だが転がって身を起こす瞬間のダイには回避し切れる間では――

 

「ヒャダイン!!」

 

 ポップの冷気呪文、猛吹雪が吹き荒れた。

 クロコダインは右腕どころか右半身の大半が凍り付き、軋むような音を立てて動きが止まる。

 

「こ、こんな高度な呪文を……!?」

「やったわポップ!」

「良かった……。初めて成功したぜ」

 

 そしてその隙を見逃すダイではない

 

「アバンストラッシュ!」

 

 空の技を会得していない、竜闘気(ドラゴニックオーラ)も乗っていない、弱いストラッシュだ。

 だが腐ってもストラッシュであり、凍って脆くなった獣王の右腕を斧ごと粉砕するには充分だった。

 

「ぐわあああああああーー!!!」

 

 死んだかと思うほどの絶叫を上げ、クロコダインが吹き飛び転倒する。

 勝負あったと思ったか、ダイは追撃せず、ポップとマァムは走り寄っていった。

 

「バカな、バカな! 俺の……俺の! 俺の腕! 真空の斧ッ! こんな、こんなことがァッ……!」

 

 クロコダインは狂乱した。

 可哀想だが、ここから助ける術はない。

 リュンナ本体は、遠くアルキード王国にいるのだから。

 

「諦めて降参するんだ! マァムは回復呪文を使えるから――」

「しかも情けをかけようだとッ!?」

 

 獣王、赫怒の形相。

 

「戦士の誇りを……よくもここまで……!! 必ず殺してやる、この俺の手で!! ダイッ!!」

 

 左手で闘気弾を放ち、土煙で煙幕を張ると、クロコダインは逃げ出した。

 回り込む者はいなかった。

 

 

 

 

 その後はダイもポップも平等にマァムのベホイミによる回復を受け、村に大きな被害がなく済んだことを確認し、眠って身を休めていく。

 翌日になると、3人は修練を共にし、更に連携力を高めていった。

 そして一通りの修練を終え、お開きにしようという時分のことだ――マァムが悲壮な顔つきで、ふたりを問い詰めたのは。

 

「先生は――別の場所で戦ってるのよね?」

「う、うん……。どうしたの急に……?」

「具体的にはどこで?」

「そ、それは……」

 

 答えられるハズもない。

 見ているだけしか出来ず、師を失った――それがダイの現実なのだから。

 ポップが友の肩を叩いた。

 

「ダイ……。やっぱ、無理じゃねえか?」

「ポップ……! でも!」

「だいたいこんな会話しちまってる時点で、もう白状してるも同然だしよ……」

「あっ……」

 

 ダイが一気に暗い表情に。

 その重さを見れば、マァムも遂に明確に察した。

 

「やっぱり……先生は……」

「うん。ハドラーのせいで……」

「いや、リュンナだろ?」

「どういうこと……?」

 

 ここに来て、ダイとポップの語る内容が食い違った。

 マァムが怪訝の色を浮かべる。

 

「リュンナ姫は先生の友達なんだけど、ハドラーに操られてるんだ! それで先生を……殺させられて……!」

「正気っぽかったけどな……。王女だったのに国に捨てられた、とかハドラーも言ってたし」

 

 ダイは納得できない様子を見せた。

 

「アルキード王国だっけ? その国を恨むならおれだって分かるけど、アバン先生は関係ないんじゃ……」

「助けが間に合わなかったって言ってたし、その逆恨みかもな。それとも、ハドラーに心酔っつうのか、してる風だったから、それか」

「それを操られてるって言うんじゃないの?」

「うーん」

 

 釈然としないようだ。

 ダイはハドラーと戦っていて、リュンナとは顔こそ合わせたものの、ほぼ会話をしていない。

 直接会話をしたのはポップの方だが、彼もそれで人となりの全てを知れたとは言えないだろう。

 

 一方、マァムは沈痛。

 

「よく分からないけど……つまりどっち道、先生はもう……」

「うん……。ごめん、黙ってて……」

「いいのよ、とは言えないけど……。仕方ないわよね。軽々しく言えることじゃないもの」

 

 そして声もなく、はらはらと涙をこぼした。

 少年たちは暗い顔を見合わせ――しかしポップが意を決し、

 

「つ、使うかよ……?」

 

 ハンカチを差し出した。

 その親切心が嬉しかったのか。マァムは微笑み、受け取って、涙を拭いた。

 

 ここまで来れば、もう心は仲間になっている。

 だからネイル村を発つ彼らを見て、母レイラに背中を押されたマァムは、素直に旅立つこととなった。

 

 

 

 

 そして魔の森を抜け、ロモス王都に辿り着き、王城で門前払いにされ、宿を取って、偽勇者パーティーと出会い――翌日。

 

「出て来いダイ!!! さもなくば――ロモス王国は今日で壊滅だ!!!!」

 

 響き渡る獣王の絶叫が、最悪の朝の訪れを告げた。

 空も陸も区別なく埋めるような魔物の群れ、百獣魔団の大進撃だ。

 

「行け行けえッ!! ロモス城を殲滅するのだ!!」

 

 ガルーダに掴まれて空を行くクロコダインが、赫怒に歪んだ形相にて。

 見上げた者たちは、例外なく心胆寒からしめられたことだろう。

 

 しかし勇者は、その恐怖に打ち勝つ。勝ってしまう。

 何も言わずひとりで飛び出したダイは、

 

「ヒャド!」

 

 ポップに足元を凍らせられ、滑って転んだ。

 顔面から床に行った。

 

「いってて……! 何すんだよポップ!」

「何してんだはこっちのセリフだぜ! ひとりで先に行くな!」

 

 ダイは鼻の頭を赤くしながら起き上がる。

 

「その通りよダイ、百獣魔団を突破しなきゃいけないんだから……! 3人で行きましょう」

「ピィ!」

「あ、ゴメちゃんもね」

 

 言いながら装備を整える仲間たちの光景。

 ダイはポップに不思議そうな目を向けた。

 

「そういえば、島じゃあんなに怖がって逃げたがってたのに……。村で戦ったときも、逃げずに普通に戦ってくれたよね」

「ああ、まあな……。自分が死ぬよりも怖いことがあるって……知ったからよ……」

 

 恐怖を更なる恐怖で塗り潰しているのが、今のポップであるようだ。

 ともあれ、

 

「よしっ、準備できた!」

「行こう!」

「ええ!」

 

 3人は恐怖する偽勇者パーティーを後目に、王城へと駆け抜けていく。

 ダイの出発こそ原作から遅れたが、道中の魔物を3人で排除できたことで、進行速度は寧ろ高まったようだ。

 ロモス王はまだ、クロコダインに捕まっていなかった。あと少しではあったが。

 

「王さまから離れろ!」

「来たか――ダイ!」

 

 瓦礫の山と化した城内。

 マァムは負傷した兵士らを回復するべく走り、ポップはダイと並び立つ。

 震える頬を両手で張って、喝を入れて。

 

 獣王クロコダイン――右腕を失い、左手に代わりのバトルアックスを握っている。

 過日よりも明らかに弱っているハズだが、威圧感はなおも衰えず、むしろ増してすらいた。

 そんな姿に、少年たちは果敢に立ち向かっていく。

 

「メラゾーマ!」

「王さま! こっちに!」

 

 ポップの火炎がクロコダインを押さえる隙に、ロモス王の前にダイが立ちはだかる。

 王は瓦礫が多少当たったくらいの負傷で、歩ける体力があったため、ゆっくり下がっていった。

 

「ぐううう……おおおおお……!」

 

 炎上するクロコダイン、のたうちながら斧を振り回す。

 刃の圧力が炎を散らすが、不定形をしっかりと斬り裂けるほどの、海波斬のようなキレがない。

 炎はすぐには緩まない。

 

「よしっ! もういっちょ――メラゾーマ!」

 

 そこに重ねがけだ。

 堪らず苦悶の絶叫を漏らすクロコダインに、しかし諦めの様子はない。気迫はそのままだ。

 何かするつもりならそれを察知して潰そうと、ダイはパプニカのナイフを構えた。

 

「使うしかないか……!」

 

 獣王は斧を床に突き立てると片手を空け、魔法の筒を取り出し――しかしプライドが齎した一瞬の躊躇の隙に、

 

「海波斬!」

 

 助っ人を出される前にと、ダイが炎ごと剣圧で筒を斬った。

 破壊された筒は中身を溢れさせる。

 剣圧に深い傷を刻まれた、鬼面道士ブラスの身を。

 

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