暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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60 獣王クロコダイン その3

 ロカは生きていた――と、知っていた。

 ハドラー討伐後からバランが来るまでにも、何度か会ったことがある。

 

 なぜ生きているのかは不明だ。そもそも原作での死亡理由が不明なのだから。

 だが原作の歴史とこの世界でのロカの差異は、魔王ハドラーの最終攻略に参加したかどうかがやはり大きいだろう。恐らくはそこが分岐点。

 例えば地底魔城で重傷を負い、その後遺症で後に死ぬことになるハズだったとか。

 

 ともかくロカは死亡フラグを知らぬ間に避け、ごく普通に今日まで生きていた。

 ネイル村にいなかったのは、ほかの男手同様、王都を守るために駆り出されていたからだ。

 

 そして今日も、戦っていた。

 

「町の魔物を半分くらいは片付けてきたぜ。お蔭で来るのが遅くなっちまった……。だがよく踏ん張ってくれた」

 

 ロカがポップの頭を乱暴に撫で、前に出ていく。

 

「ウチの娘って……それにその髪……マァムの親父さん!?」

「おうよ。このクロコダインとは、王都に襲ってくる度にやり合ってんだがな……。なかなか決着がつかなくてよ。しかし今日こそ終わりにさせてもらうぜ」

 

 鋼鉄の大剣を緩やかに構える姿は、強さよりも美しさをすら感じられる。

 だが武において、美しいということは、それは裏に強さを秘めているのだ。

 

「ほざけッ! 不意打ちでいい気になりおって……!」

「テメエだって毎回不意打ちだろうが、いつもいつも急に軍団率いて襲ってきやがってよ。宣戦布告してきたことが一度でもあったか?

 だいたい戦士の誇りだの何だの言うがよ、実態は自分が可愛いだけなんだよな。だから追い詰められたら簡単に卑怯な手に頼るし、そんな自分の汚さに耐えて卑怯を貫徹するってこともできねえ。

 薄っぺらいんだよ。テメエは」

「う、……ううッ……!」

 

 クロコダインが、押されている。

 痛恨撃を潰した空裂斬以来、剣を振られてすらいないのに。

 ロカが背後のポップを一瞥した。

 

「その点、こいつは見込みがありやがる。ポップ、さっきも言ったがよ、お前がひとりで持ち堪えたから、このロカおじさんが間に合ったんだぜ。お前は立派に、ウチの娘とダイの坊主を守った! あの鬼面道士も、王さまも、兵士も! 自分自身もだ!」

「ロ、ロカのおっさん……!」

「おじさんだっつってんだろうが! 丁寧に呼びやがれ!」

 

 ロカひとりだけ、明るい空気で笑った。

 

「さあ立ちな、ポップ。戦士が前で戦い、魔法使いが後ろで支える。パーティーってのはそういうモンだろ」

「お、おう……! 俺だって守ってもらってばかりじゃないぜ!」

 

 ポップが立ち上がり、再び魔法力を高める。

 クロコダインは両腕を失った満身創痍だが、ロカは一切油断していないのだ。

 

「好き放題言ってくれる……! ならばここで貴様らを殺し、我が誇りを取り戻してくれるわッ!!」

「バーカ。戦士の誇りってのはよ、何を守ったかだ。誰を殺したかじゃねえ。

 俺の最高のダチを殺しやがった魔王軍がよ――誇りだの何だの、御大層なことブチ抜かしてんじゃあねえぞッッッ!!!!」

 

 ごめんなさい。

 先輩を退場させたのはわたしです。

 

 ともあれ、怒号と共に大剣を担ぎ構えるロカ――が、くるりと背を向けた。

 

「――と思ったが、俺はもう要らねえみてえだわ」

「なに!? ――はッ!」

 

 マァムと――そして額に(ドラゴン)の紋章を輝かせたダイが、壁の穴から戻って来ていた。

 クロコダインの注意がそちらに向いた瞬間、

 

「こいつが最後だ! メラゾーマ!」

 

 ポップが火炎を放つ。

 

「うっ、うおおお……あああ!!!」

 

 炎上するクロコダインは、闘気弾で敵諸共に炎を吹き飛ばそうするが、

 

「海鳴閃!」

 

 前に出たマァムのハンマースピアが、それを斬り裂いて不発に。

 声にならぬ絶望の声を漏らした獣王は、そして、

 

「じいちゃんを攫って、仲間を傷付けて……! 赦すことは――できないッ!

 ――アバンストラッシュッ!!!」

 

 ダイに掻っ捌かれて、終わった。

 

「こんな! こんな! どうせ負けるなら――正々堂々――! せっかく、せっかく誇りを取り戻せると……! 俺は……!」

 

 獣王の声は酷く震え、掠れていた。

 泣いているのだろうか――涙も燃えて、分からない。

 ストラッシュの余波で崩れた背後の壁の穴へと、炎上しながらよろめいて後退していく。

 

「すまない――」

 

 最後に漏れたのは、謝罪だった。

 

「すまない、ポップ……ダイ……。俺が……俺が愚かだった――」

 

 そして断末魔の叫びと共に落下し、あとに残るのは一瞬の静寂。

 生き残った百獣魔団が、潮の引くように町から撤退していき、そして兵士や民が歓喜を叫んだ。

 

 一度は避難させられた王も、護衛の兵士すら追い越して真っ先に戻ってくる。

 本当は逃げたくもなかったのだ、この人は。

 

「見事じゃ! なんと見事にやってくれおった……! ありがとう、ロモスを救ってくれてありがとう……!」

 

 ダイ、ポップ、マァム、ロカ。

 ひとりひとり手を握って、王は喝采した。

 

 

 

 

 その後、改めて公式的に、王は勇者たちに感謝と賛辞を送った。

 そして原作通りに、ダイは勇者を名乗ることを勧められ――緊張と共に受け容れた。島で「先生の分まで勇者をやる」と述べただけはある。

 

 一方、ブラスとの微笑ましいやり取りはなかった。

 マホカトールが使われていないからだ。鬼面道士は、ダイが島から持ち出していた魔法の筒に封印された状態。

 自分で歩けないほど負傷した仲間を連れて逃げるなどの運用が、本来は想定されていたモノだ。

 

 だから装備を貰ってお披露目をした際も、嬉しさにはどことなく陰りがあった。

 眷属の憑依によって、ある意味で誰よりも近くで見ているからこそ、分かることかも知れないが。

 

「じゃあな、マァム。村や城は父さんに任せて、しっかり戦って来い!」

「うん、父さん。私頑張るわ……!」

「これからもよろしくね! マァム!」

 

 ロカは同行しない。

 獣王は斃れたとは言え、百獣魔団を構成する魔物そのものは多く残っているし、別の軍団が送り込まれてくる可能性もあるのだ。

 守り手は必要である。

 

「なあ、ダイ。これからどうすんだ?」

「じいちゃんを島に送り返したら、パプニカに行くよ! 王女のレオナとは友達なんだ」

「それ、ちょっと遅らせることできねえか?」

 

 ダイはキョトンとした――それから不満と疑問の表情。

 世界中が魔王軍に襲われている今、知り合いから助けていくという優先順位は自然なこと。それを覆す何かがあるのか、といったところか。

 

「どこに行くって言うのさ」

「行くんじゃなくてよ、ここで修行すんだよ。ロカのおやっさん!」

「おう?」

 

 国民へのお披露目から引っ込んだ後の王城内である。

 帰ろうとしていたロカが、呼ばれて戻ってきた。

 ポップはダイをズイッと彼に向けて押し出す。

 

「頼む! ダイに空裂斬を教えてやってくれ!」

「あ、そっか!」

「どういうこった? アバンから教わってねえのか」

 

 ハドラーが襲ってきたため、アバンからは海波斬までしか教わっていないのだ。

 ロカは納得の頷きを見せた。

 

「言われてみりゃ、クロコの野郎にやったストラッシュ――ありゃどこか歪だったな。パワーで押し切っちゃいたが、力の集中が甘かった。道理でな……。よし! そういうことなら、おじさんに任せな!」

「やったあ! ありがとう!」

 

 ダイが飛び上がり、ロカは微笑ましげに見る。

 ふとロカは小さく息をついた。

 

「懐かしいぜ……。リュンナ姫にも、アバンとふたりがかりで教えて差し上げたもんだ。暗黒闘気向けに調整するのが大変で、なかなか苦労したんだよなあ。

 それでも数日で済むんだからマジで天才だよ、あの方は。まあ剣に関しちゃ俺ほどじゃねえが――」

「――何だって?」

「うん? おじさんが天才剣士だって話か?」

「ちげーよ! リュンナって――」

 

 ポップが驚き、喰ってかかるにも似たありさま。

 

「お前ら会ったんだろ? ハドラーの部下になって、アバンをやっちまったとか」

「そうだけどそうじゃねえ! あいつ、もともと暗黒闘気の使い手だったのかよ!? 操られてたからじゃなく!?」

 

 ロカは平然と説明する。

 

「ああ。なんか愛国心の裏返しだとか言ってたけどな。実際あの方は、『国のため』って常に考える高潔な方だったよ。

 しかしホントに操られてんのかね……いや、違うと思いたいだけなのか。メチャクチャな目に遭ったからな……。正直、口にするのも嫌だ。もしお前らがアルキードに行くってなったら……そんときゃ覚悟決めて説明するけどよ……」

 

 後半の言葉を、ポップは半ば聞いていなかった。

 ぶつぶつと、思わず漏れたという風情の小声。

 

「先生が空の技で支配を解いたあとも暗黒闘気を使ってたから、やっぱ操られてんのかなって……考え始めてたけど……。違うんだ。あいつ正気で人間の敵をやってる……! そんな人間がいるのかよ……」

 

 さて。

 空裂斬の修行でロモスに滞在するなら、その間はこちらの監視に集中する必要はない。

 別の場所でもやっておきたい工作がある。

 

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