暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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62 6大団長集結……!?

 ダイが空裂斬を会得した。

 ポップに憑けたシャドーに意識を戻す。

 

 彼らはロモス王国に船を手配してもらい、まずデルムリン島へとブラスを送り返した。幸い、傷は呪文治療で事足りるものだった。

 操られていた間のことを説明し、護衛にロモス騎士が残る。

 説明役はダイ自身が務めた。ブラスは旅立ったダイにこのタイミングで会うことを――ダイのことを想って――不満がったが、ブラスに対する説明役としてダイ以上はいない。

 

 大きな悶着はなく、船は次にパプニカ王国へと航路を取る。

 常に聖水を垂れ流すことで海の魔物を除けながら進む、とてもリッチな船だ。

 

 ――などと思っていると、伝令用悪魔の目玉から、全軍団長集結の指示が来た。

 シャドーに引き続き監視することを改めて命じ、意識を本体に引き上げる。

 そして暗黒闘気の繋がりを介してベルベルとリバストには念話を飛ばし、その繋がりのないボラホーンには別のシャドーを遣わした。アルキード・ベンガーナ両国の攻略について、遅滞戦闘を続けるようにと。

 

 さて、どうなることやら。ヒュンケルこっちにいないし。

 思いながら、リリルーラでハドラーの傍らに飛んだ。

 

「ッ!? リュンナか……。驚かすな」

 

 鬼岩城――窓の外には、雷鳴轟く荒涼とした山脈の光景。

 既に左肩(レフトショルダー)の間に彼はいた。

 

 見上げる巨躯は変わらぬまま。一方で銀髪は一部逆立っていたものが、今はオールバックに。左目の上下、額から顎近くまでを繋ぐ黒い模様が顔にできている。服装も、胸当てと一体化した豪華なマントになっていた。

 様変わり。ベギラゴンも習得したのだろう。

 

 ドラゴンローブを纏い吹雪の剣を携えたリュンナは、頭を下げて挨拶した。

 

「ただいま帰りました。ハドラーさま」

「うむ……。それはいいが、なぜ毎回俺のところに直接……。ルーラ港を使えと言っているだろう」

 

 ルーラ系で鬼岩城に帰るときはここに着地してね、という場所のことだ。

 前世で言うヘリポートのようなモノで、屋上に六芒星が描かれたスペースがある。この六芒星は塗料にルラムーン草を使っており、本来は人物を目印にする呪文であるリリルーラの飛び先として使うことができるのだ。

 そして普通はそれを使う。瞬間移動でいきなり相手の背後に出るのは、とても無礼だからだ。

 機密などの問題もある。

 

 だがリュンナはどこ吹く風。

 ハドラーの腕に腕を絡めて抱き付き、頬を摺り寄せながら述べる。

 

「1秒でも早くハドラーさまに会いたいからです」

「そういう冗談は気に入らぬと言ったハズだが」

 

 すげなく振り払われてしまう。

 酷い。リュンナは頬を膨らませた。

 ハドラーが苦々しい表情を浮かべる。

 

「そういう顔もやめろ……! 威厳に関わる!」

「誰も見てないんですから、いいじゃないですか」

「すぐに誰かしら来るわ! 座れ」

 

 ハドラーの隣の席に座ると同時、表情は凪。

 

「クロコダインがやられたそうですね」

 

 悪魔の目玉を介した伝令には、その情報も含まれていた。

 何食わぬ声音。

 

「うむ。やったのはダイ……! またしても! 早くどうにかしなくてはならん……!」

 

 ハドラーは拳を握り歯を食い縛った。

 実際のところ、ダイが強くなったなら、それはそれでいい。

 取り込むか、なし崩しに共闘するかだ。

 

「わたしに出来ることがありましたら、何なりと……」

「うむ」

 

 やがて軍団長がひとり、またひとりと現れ、着席していく。

 超竜軍団長、『竜眼姫』リュンナ。

 魔影軍団長、『魔影参謀』ミストバーン。

 妖魔士団長、『妖魔司教』ザボエラ。

 不死騎団長、『魔槍戦士』ラーハルト。

 

 百獣魔団長、『獣王』クロコダインは蘇生液に浸かっており、欠席。

 

「遠路遥々ご苦労……!」

 

 そこまで集まったところで、ハドラーがそう口を開いた。

 しかしひとり足りないことに気付いたザボエラが、

 

「フレイザードの奴はどうしたんじゃ?」

 

 と様子を窺う。

 

「そのことなのだが……諸君には申し訳ないことになってしまった……」

 

 重々しく言葉を紡ぐハドラー。

 一同が彼に注目する。

 

「俺は全軍団力を集結させダイを叩くつもりだった。そしてその際に要となるのは、敵対者の力を激減させるフレイザードの結界呪法だろうと。しかしフレイザードは――」

 

 魔軍司令は懐から、掌に乗る程度の岩石を取り出した。

 放射状に伸びる多数の太いトゲの塊、といった風情の2色それを、机に置く。

 

「そっ……それはあっ!?」

 

 ザボエラが鼻水を垂らした。汚い。

 

「フレイザードの(コア)だ。奴め、やられおった……。幸い復活は可能だが、時間がかかる。それまでは作戦が実行できん」

「いったい誰が? ダイはクロコダインと戦ってたハズですよね」

 

 リュンナのポーカーフェイス。

 ハドラーもまたごく普通に話を続ける。

 

(コア)を回収したフレイムによると、リンガイア王国の戦士ノヴァだそうだ。『北の勇者』を名乗っていたとのことだが……」

「ふん! 勇者がふたり現れ、軍団長もふたりやられた――と。不甲斐ないことだ」

 

 ラーハルトが鼻で笑った。

 バランが竜騎衆を結成していないせいか、この男はこんなところで不死騎団長をしているのだ。

 どうもミストバーンに拾われたらしい。原作ヒュンケルの代役といったところか。

 彼は言葉を続ける。

 

「不甲斐ないと言えば貴様もだな、ザボエラ。貴様がリンガイアをとっとと落としていれば、フレイザードは無様な姿を晒さずに済んだだろう。可哀想に」

 

 口だけで可哀想だと述べながら、酷薄に笑む。

 ザボエラは鼻水と唾を飛ばしながら猛った。汚い。

 

「何を言うか! お前こそパプニカを落とせておらんくせに……!」

「攻めあぐねている貴様と違って、こちらは時間の問題だ。各地の人間どもは我々に町を追われ、王都に逃げ込んでいる――あとは王都を囲んで磨り潰すのみ!」

「ぐぬぬっ……!」

 

 ラーハルトは人間とのハーフであることから軽んじられがちだが、それで腐ることなく相手を煽り返す根性の持ち主であった。

 一方でリュンナは最早人間の形をしているのみの『竜』であるため、侮られてはいない。

 

 と、そのリュンナが軌道修正を図る。

 

「フレイザードが敗北し、勇者が増えた。どうなさるんです、ハドラーさま」

「うむ……。ノヴァとやらもだが、ダイはこの俺に手傷を負わせた強者だ。念には念を入れて挑みたい。よってフレイザードの復活まで総攻撃は延期する」

 

 途端、ラーハルトが食ってかかった。

 拳が机を叩く。

 

「臆したか? 魔軍司令どの! そこまで慎重にならずとも、ごく普通に囲んで叩くのみでよいではないか!」

「仮にダイを仕留めても、また軍団長が減ればどうなる。後の地上征服に支障をきたすぞ。解放されてしまったロモス王国も再侵攻せねば」

「勇者討伐が最優先だろう! ミストバーン、貴様はどうなのだ!」

 

 ミストバーンは微動だにせず、ただ沈黙のみで返した。

 名台詞「大魔王さまのお言葉は全てに優先する……」は聞けないようだ。

 何しろ今回、大魔王は何も言っていない。バーンはラーハルトに対しては、原作ヒュンケルほどの強い興味がないらしい。

 ラーハルトは舌打ちをこぼし、次はリュンナに矛先を向けてくる。

 

「リュンナ! 貴様は――」だがすぐに考え直した。「いや、貴様にとっては、恨み冷めやらぬアルキードを落とす方が、勇者抹殺よりも優先か……」

 

 リュンナはただ肩を竦めた。

 そして再び軌道修正を図る。

 

「ちなみに、ダイ一行は今どこにいるんです?」

「パプニカ王国に向かっているようだ」

「なんと! 俺の担当地域ではないか」

 

 ラーハルトは一転、歓喜に顔を歪めた。

 

「ならば魔軍司令どの、俺がダイと戦うことに何らの異論もありますまいな? まさかせっかく追い詰めたパプニカを捨てろなどとは……」

「もちろん、そんなことは言わん。パプニカ攻略に障害が発生したなら、それを排除するのは貴様の仕事だからな」

 

 ハドラーはしれっと言った。

 熱の籠っていない声音だ。

 

「よろしい! ならば俺の槍がダイを貫くことになるだろう!

 ――ああ、様子を見て勝てそうだったら援軍を送ってくれても構わんぞ。ついた頃には全てが終わっているだろうがな……。

 方針は決まったな? では失礼する!」

 

 勝手に席を立ち背を向けて出ていくラーハルトを、誰も追わない。

 ハドラーもリュンナもミストバーンも沈黙で見送り、ザボエラのみが、

 

「混じり物の分際で……!」

 

 と毒を吐くのみ。

 やがて立ち去る足音すら聞こえなくなったころ、ハドラーが沈黙を破った。

 

「では――お手並み拝見と行こうか。『援軍』の準備をしつつな……」

 

 意地の悪い笑みだ。

 これはつまり――ラーハルトを捨て駒にする気か。

 

 ラーハルトの母は人間、父は魔族である。父は早くに死に、母は女手一つで彼を育てたが、彼が幼いころ、魔王ハドラーによる地上侵略が発生。彼が魔族の血を引くことで、彼自身ばかりか母までをも迫害された過去がある。

 ――と、人間に迫害された同士として聞く機会があった。

 そのことで彼はハドラーを恨んでおり、すると当然、ハドラーとしてもラーハルトが気に入らない。

 

 何より『人間を滅ぼす』という点でラーハルトとバーンの思惑は一致しており、対バーン戦線に取り込むのが難しい。

 この機にダイにラーハルトを始末させつつ、経験も積ませる気だろう。

 

 なおハドラーのこの態度は、表向きには――

 この機にダイにラーハルトを始末させ、弱ったダイを仕留める気だろう。或いはラーハルトが勝ったら『援軍』で殺して、ダイにやられたことにし、上前を撥ねるか。

 ――と見える。

 

 それはそれで、『魔軍司令ハドラー』として違和感は小さい。

 未だ、全ては水面下だ。

 

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