暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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66 魔槍戦士ラーハルト その2

「ヒュンケル……! また貴様か!」

 

 ラーハルトが忌々しげに吐き捨てる。

 

「こちらのセリフだ。今日こそ決着をつけるぞ……! 不死騎団長!」

 

 ポップに憑けたシャドー越しに聞きながら、感慨深い気持ちになる。

 原作でも対決したこのふたりだが、それがこういう形になるとは。

 ヒュンケルは闇に堕ちなかったのだ。改めての安堵がある。

 

「ヒュンケルさん! これまでにもあいつと戦って……!?」

「ああ、奴が町を襲う度に、何とか駆けつけてな。だが奴は素早い……! 奴の軍団を片付けて撤退させることはできても、俺はまだ一太刀も奴に当てたことがない」

「マジかよ……!」

 

 強力な助っ人が来たと思ったら、敵はより強大だったと判明する絶望感。

 それを吹き飛ばすからこその、勇者一行だ。

 

「だったら今日ここで何とかするだけだっ! あ、おれはダイです!」

 

 ダイに続いてポップとマァムも名乗り――ローブの双刀使いもまた、バルトスを名乗った。更にヒュンケルが「俺の父さんだ」と補足する。

 ラーハルトは余裕ぶってそれを眺めていた。

 

「相談は済んだか?」

「ラーハルトっ! 絶対におまえを止めてみせる!」

「ほざけ! やれ、スカルゴン!」

 

 死後も動き続ける竜の骨格、スカルゴン――肺もないのに大きく息を吸い込み、凍てつく息を吐き出した。

 しかしそれを、マァムの海鳴閃が斬り裂き防ぐ。

 

「アバン流!? お前たちも先生の弟子なのか!」

「ってことは、ヒュンケルさんも!?」

「ヒュンケルで構わん。そういうことならな……!」

 

 パーティーの防御は、パラディンであるマァムの役目。

 ならば残った者たちは攻撃だ。ダイは既に跳躍、スカルゴンに乗るラーハルトへと肉薄しようとしていた。

 

「大地斬!」

「ギラ!」

 

 一瞬迎え撃つ構えを取ったラーハルトを、ポップのギラが襲う。

 閃熱の帯が高速で迫り、しかしそれ以上にラーハルトは素早かった。その回避行動は、まるで消え去ったとしか見えぬほどの迅速。

 だがその回避が逆に、ダイの大地斬をスカルゴンに命中させた。骨が砕け散る。

 

「はっ!」

「そこだッ!」

 

 そしてヒュンケルの後ろに回り込んでいたラーハルトの突きは、ヒュンケルの剣に辛うじて防がれた。

 勇者たちが振り返れば、戦士はなんと目を閉じている。

 

「相変わらず勘のいい……!」

「肉眼に頼らず心眼で探れば、反応防御は間に合う……。こう何度も戦えばな」

「だが俺に当てることはできまい!」

 

 一瞬動きの止まったラーハルトに斬りかかったバルトスだが、それは既に残像であった。

 本体は跳躍し、

 

「かあああーッ!」

 

 連続突きで雨のような真空刃を放ってくる。

 ヒュンケルは剣で打ち払い、バルトスは当たっているのに、金属音が響きダメージになった様子がない――ローブの下に残り4本の腕があり、その刀で防いでいるのだろう。ダイたちは鎧だと思っただろうが。

 一方マァムは、最も脆いポップを庇った。盾を逸れて幾つもの刺突が霞め、血が噴き出す!

 

「マァム!」

「私のことは! それよりダイ、ごめんなさい……!」

「うわああああ!!!」

 

 ひとりが庇えるのはひとりのみ。ダイは刃の雨にあちこちを穿たれ、膝をついた。

 咄嗟に魔弾銃を抜いたマァムがベホイミ弾を撃とうとし――ポップが後ろからその手を押さえつけた。

 

「イオラ!」

「ポップ!?」

 

 あまつさえダイに向けて攻撃呪文を唱える始末。

 混乱でもしたかと焦った様子のマァムだが、次の瞬間は納得の顔になっていた。

 

「ぐああああッ!?」

 

 爆発を受けて上がった苦悶の声は、ダイではなくラーハルトのモノだ。

 刃の雨で最もダメージを受けたのがダイなら、次に狙うのはダイのハズ。まず頭数を減らすと言う戦いの鉄則からしても、ダイが魔王軍に狙われて然るべき勇者だという事情を鑑みても。

 ポップはそこまで読み、ダイに突っ込んでくるラーハルトに当たるように呪文を放った形。

 

 ラーハルトは転がり、起き上がろうとモガく。

 

「おっ、俺の素早さを……超えただと……!?」

「超えちゃいねえよ。いい感じのところにイオラを『置いた』だけさ。今だみんなッ!」

 

 ポップが叫ぶ頃には、既に戦士たちは動き始めていた。

 

「海波斬!」「海波斬……!」「海波斬ッ!」

 

 ダイ、ヒュンケル、バルトスが、アバン流最速の技で剣圧を飛ばす。

 マァムは念のために仲間を庇う構え。

 

「はァッ!!」

 

 ラーハルトは立ち上がりざまに槍を振るい、剣圧を2発まで打ち払ったが、ひとつを胴に受けた。両断には至らぬまでも、浅くはない傷だ。

 そこから更に畳みかけるべく、戦士たちが肉薄していく――

 

「――鎧化(アムド)ッ!!」

 

 ラーハルトの装備している槍――その巨大な穂先が展開、膨張伸展しながら彼の身を覆い、軽装の鎧として結実する。要した時間は一瞬。

 真っ先に飛び込んだのは、骨ゆえか身の軽いバルトスだった。だが双刀は鎧に遮られ、敵は無傷。

 

「見せてやろう。貴様らを侮っていた侘びに――俺と『鎧の魔槍』の力をなッ!」

 

 バルトスが貫かれた。

 

「バルトスさん!!! くそっ……!!」

 

 骨盤を砕かれたらしく、その場に座り込むように崩れ落ちるバルトスは、更にラーハルトの槍捌きによって投げられた。

 後に続いていたダイとヒュンケルは、それを受け止めさせられる。

 

「父さん、大丈夫か!」

「ワシは大丈夫だ! それより奴を……!」

「あの人、血が出ねえ……?」

 

 ポップがふとバルトスの違和感に気付いたが、首を振って忘れる仕草。確かに、今はそんな場合ではないだろう。

 ラーハルトが次に出現するのは――

 

「そこだッ! ギラッ!!」

 

 狙うのはバルトス、だが直接攻撃をしてはダイとヒュンケルに反撃を受ける恐れがある。だから真空刃を飛ばすだろう――その威力が弱まり過ぎない距離まで離れて。

 ポップの読みは的中し、ラーハルトはギラを無防備に受けた。

 しかし、何も起こらなかった。

 

「えっ……!?」

「無駄だ! この鎧に呪文は効かん!」

「そんなのありかよ!?」

 

 結果、ラーハルトの攻撃は止まらず。

 バルトスは寧ろダイとヒュンケルの巻き込みを防ぐべく身を挺し、ローブの内から褐色の骨の破片が散る。

 そしてそれでもなお、ダイもヒュンケルも手足を斬り裂かされる。

 特にダイの出血が激しい。

 

「ダイ! 今回復を!」

「させん!」

 

 マァムがダイへと駆け寄ろうとし、ラーハルトがそれを狙う。

 

「イオラ!」

「バカめ、呪文は効かんと――」

 

 ラーハルトは、ポップのイオラを避けなかった。

 爆発は彼の足元で起こり――

 

「うおおあッ!?」

 

 ――転倒に至った。

 イオラが地面を抉って開けた穴で、足を踏み外し躓いたのだ。

 素早さに優れる分だけ、転倒のダメージもまた大きい。

 ラーハルトは轍を作りながら、全速力の馬にでも轢かれたかのように手足を振り乱して吹き飛ぶ。

 

「敵そのものに呪文が効かないなら、敵の周りに呪文をかけろ! 先生に教わったことだぜ!」

「流石ポップ! 頼りになる!」

「先生はいい弟子を育てた……!」

 

 しかしそれは、後から振り返れば悪手だった。

 吹き飛び何度も地面でバウンドする激しい転倒はラーハルトと勇者たちの間に距離を作り、また狙いもつけづらく、すぐには追撃できなかったのだ。

 もちろん海波斬は放たれる間際だった――が、それより先に、

 

「闘魔傀儡掌!!」

 

 ラーハルトから放たれた暗黒闘気の糸が、ポップとバルトスを絡め取っていた。左右の手、それぞれ。

 原作の彼にこんな能力はないが、この世界ではミストバーンとリュンナから暗黒闘気の扱いを学んでいるのだ。

 

「なっ、何だ!? 体が動かねえ……!」

「うおおお……!!?」

 

 傀儡の糸は捕えた獲物を引き寄せ、勇者たちに対する盾とした。

 海波斬は放たれない。

 

「おのれ……おのれ、おのれ! 人間の分際で……この俺にッ! こうまでッ!」

「ラーハルト……貴様……! 戦士としての誇りはないのか!?」

 

 土まみれの魔槍戦士はゆっくりと立ち上がる。

 

「誇りだと……!? 俺から誇りを奪ったのは、貴様ら人間だろうが! あんな惨めな生活……!! 何度、俺を盾に取られ、母が殴られたか!」

 

 この世界の彼は、バランに巡り合っていない。尊敬できる主を、このラーハルトは持たないのだ。

 そのせいだろう。誇りがないのは。

 あるのはただ、怨恨のみか。

 

「空裂斬!」「虚空閃!」「空裂斬……!」

 

 ダイ、マァム、ヒュンケルが空の技を放った。

 空の技が三つ。だがラーハルトは素早い――命中したのは、ダイが放ったモノのみだった。ポップを縛る暗黒闘気がほどける。

 

「ぐええっ……!」

 

 ポップは尻から地面に落ちて呻き声を上げ、

 

「ちッ! ならばこいつだけでも貰っていくぞ! ルーラ!」

 

 バルトスは縛られたまま、飛び去るラーハルトに連れ去られた。

 

「父さんッッ!!! クソッ……!」

「バルトスさん!!」

 

 ――軍団長であるラーハルトが指揮を放棄していたせいか、不死騎団の魔物は途中から勢いを失っており、パプニカ兵によって粗方が撃破されていた。

 ダイたちも掃討戦に加わり、こうして、パプニカ王都は守られたのだ。

 しかし軍団長は健在。放置すれば、やがて再び攻めて来よう。

 

「そうなる前に、奴の本拠地に乗り込んで叩く! ダイ、ポップ、マァム、手伝ってくれるか?」

「うん!」

「おうよ!」

「ええ、バルトスさんを助けないと。それで、本拠地って……?」

 

 ヒュンケルは東に目を向けた。

 

「地底魔城。俺の故郷だ」

 

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