暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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70 合流

「マァム!」

「ポップ! ――ってクロコダイン!?」

 

 クロコダインに担がれたポップが合流したのはマァムだった。

 彼女は警戒心より驚きが勝っているようで、ポカンとしている。

 

「大丈夫だ、味方になってくれたんだよ。俺もさっき助けられてさ。そっちは――」

 

 マァムの周囲には、無数の鎧兵士の残骸が転がっていた。

 空気もどこか瘴気めいて気分が悪い。これはスモーク系の残骸だろうか。

 クロコダインが唸る。

 

「魔影軍団か。ならば戦っていたのは、魔影参謀ミストバーン」

「そういう名前だったのね……。全然喋らなくて戸惑ったわ」

「ああ、それなら間違いなくミストバーンだ」

 

 とにかく無口な男なのだ。

 

「ミスト『バーン』って……。何だそれ、大魔王が確かバーンだろ? 何か関係があるのかよ」

「俺も詳しいことは知らん。バーンの影の代理人だなどと、噂があるのみだ」

「得体が知れないわね……」

 

 原作知識では意外と激情家で熱い性格をしているのだが、リュンナ自身は未だ彼の声を聞いたことすらない。6大団長集結の巻でも、例の名台詞はなかった。

 

「で、そいつっぽい姿がないってことは……。やっつけたのか? マァム」

「いいえ、ひたすら手下をけしかけてきて……気が付いたらいなくなってたの」

「奴は読めんところがあるからな……」

 

 むしろ大半が読めないだろう、普通に付き合っている限りでは。

 原作知識を元にするなら、所詮魔王軍はバーンの壮大な戯れに過ぎず、ミストとしては威力偵察くらいの気持ちだったのだろう。どうせいつでも滅ぼせる、と。

 或いは主の戯れだからこそ、『遊び相手』であるダイ一行を自ら削るのは憚られたのかも知れない。

 

 ともあれ――

 

「ところで、ちょっと待てよ……。俺たち凄い揺れを感じてこっちに来たんだけど、なんかそれっぽい攻撃跡がないよな? ここ」

「それなら私も感じたわ。向こうよ」

「じゃあダイかヒュンケルがあっちに! 行こうぜ!」

「この際だ、マァムも俺に乗れ」

 

 クロコダインは左右の肩にそれぞれポップとマァムを乗せると、鎧兵士の残骸を踏み潰して猛然と走り出した。

 彼は巨体ゆえに歩幅が広く体力もあり、小回りでは人間の戦士に劣るものの、長距離を素早く移動するには向いているのだ。

 

 不死騎団のアンデッドどもを蹴散らしながら進むと、再び轟音が聞こえてきた。

 何かの燃える焦げ臭さもある――が、火薬や油の匂いはない。炎熱系の呪文だろう。

 

 進む先に見えた光へと飛び込むと、そこは地底魔城の屋外闘技場であった。

 かつて魔王ハドラーが捕えた人間を魔物と戦わせ、その死闘に酔い痴れたという場所。

 

 そこにいたのは、

 

「ベギラゴンッッ!!!」

「アバンストラッシュ!!!」

 

 魔軍司令ハドラーと、勇者ダイ。

 両者が持ち得る最強の攻撃手段をぶつけ合う、まさにその瞬間だった。

 ついでと言っては何だが、ハドラー親衛隊のアークデーモンどもの骸が周囲に転がるありさま。

 

 デルムリン島での戦いと比べると、両者ともレベルは上がっている。ハドラーはバーンから新たな肉体をもらい、ダイはクロコダインやラーハルトとの戦いを経験して。

 その上で(ドラゴン)の紋章が上乗せされている――ハドラーに勝ち目はなかったか。

 

 ダイの振るう剣圧が閃熱を割り、ハドラー本人をも穿つ。

 (アロー)タイプで良かった。(ブレイク)タイプであれば両断されていたかも知れない。

 それでもなお深手。ハドラーは胸から滂沱の血を流しながら、がっくりと膝をついた。

 

「バカな……! バカな、バカな! なぜ俺が、こんな、こんなガキに……!」

「観念しろハドラー! アバン先生の仇……!」

 

 ダイは油断なく剣を構え直した。

 そこへポップたちが寄っていく。

 

「おーい! ダイ!」

「ポップ、マァム! それにクロコダイン……!? 無事だったんだね!」

 

 ここでクロコダインについては「なぜここに」と思うのみで、無事だったことは素直に喜んでいるのが、ダイのダイたるところだろう。

 一方でハドラーは、あんぐりと口を開けて驚愕していた。

 

「ク、クロコダイン!? どういうことだ! その様子は――勇者どもの軍門に下ったというのかッ!?」

「俺を捨て置かず蘇生してくれたことには感謝している……。だが俺は考え直したのだ! 人間も捨てたモノではないと……!」

「う、裏切り者……!!!」

 

 ハドラーが拳を振り下ろし、地に亀裂が走る。万全なら打ち砕けたろうに。

 主に裏切られ、部下にも裏切られたのだ。

 酷過ぎる。

 

「貴様はその忠誠心を見込んで……! この俺がッ! それを、それを……! それに、ザボエラとミストバーンは……! 奴らも失敗を!?」

 

 魔軍司令がその赫怒を原動力に、再び立ち上がろうとする。

 が、重傷と疲労がそれを赦さない。

 

 クロコダインが真空の斧を、その肩から降りたマァムがハンマースピアを構える。

 反対側の肩にいるポップは、既に魔法力が尽きているため動かないが。

 

「もう何も心配は要らんよ、魔軍司令どの。貴方はここで終わる……!」

「覚悟しろっ! ハドラー!」

 

 ダイが剣を振り上げた。

 

「ライデイン!!」

 

 晴天の霹靂。稲妻が剣に落ち、持ち主へと通電せずにそのまま剣に留まる奇怪。

 剣を介して、雷の魔法力と竜闘気(ドラゴニックオーラ)が合成されていく。

 

「ダイ!? 何だその技……!?」

「魔法剣! さっき思いついた!」

「さっき思いついたァ!?」

 

 地底魔城に来るまでに聞いていた会話によると、ライデインは本来、鎧の魔槍を持つラーハルトへの対策として習得したそうだ。

 しかしそれが今、ここで新たな必殺技として結実していた。

 原作で言うヒュンケル編やフレイザード編に当たる今、やはりこの世は運命に導かれているのか……? だが、緩い運命だ。必ず覆せる。

 

「あ、ああ……あううう……!!」

 

 ハドラーが漏らす絶望の声も、すぐに。

 

「ライデインストラッーーーッシュ!!!」

 

 心技体を一致した上でライデインオーラを纏う剣の一撃は、それはまさしく凄まじい。

 しかも今回は(ブレイク)タイプだ、ダイは直接ハドラーにトドメを刺そうと懐に飛び込んで――

 

「ブラッディースクライド!!!」

 

 槍から放たれる螺旋状衝撃波の刺突を横合いから受け、軸をブラされた。

 

「ううッ!!」

「ダイッ……!?」

 

 逸れたライデインオーラの剣圧が、ハドラーの向こうの観客席を吹き飛ばした。

 更に自ら放った刺突を追うように踏み込んできた影が、槍の薙ぎ払いでダイを打つ。

 ダイは威力に逆らわず受け流し、後退した。

 

「誰だっ!?」

「き、貴様……」

 

 それはオークキング――青い毛皮の猪獣人だった。ただし腕が四本あり、両手用と思しき長槍を2本持つ。クロコダインにも匹敵せんばかりの巨躯。

 猪はハドラーを背に庇い、彼に回復呪文をかけ始めた。

 

「ベホマ」

「リ……リバスト……!!」

 

 ハドラーが呻く。

 一方、クロコダインは警戒を強めた。

 

「リバストか……」

「知ってるのかよ、クロコダインのおっさん!」

 

 ポップがおっさん呼ばわりをし始めた。

 好き。

 

「超竜軍団長リュンナの配下だ。魔王軍そのものではなくリュンナ個人に忠誠を誓っていて、我々軍団長と同等の力を持つと聞く『竜騎衆』のひとり……」

「あんなのが、まだもっといるってのか……!? 不意打ちとは言えダイの必殺技を外したみたいな奴が!」

 

 必殺技の連発にダイが疲労し、紋章の輝きが消えていく。

 察知したポップに肩を叩かれて、クロコダインは少年勇者の前に出た。それを見てマァムも倣う。

 

 一方、リバストも身構えてはいるものの、攻撃はしない。

 

「少々遅れたが……。我が姫は、自分も援軍を送ると言って聞かぬでな。こうして俺が遣わされた。戻るぞ、ハドラーどの」

「も、戻るだと……!! このままおめおめと、か!?」

「そうだ」

 

 即答。

 

「我が姫はハドラーどのの死を望まぬ」

 

 たとえすぐに蘇るとしても。

 たとえそうして蘇った方が強くなるとしても。

 あなたが死ぬのは、イヤだ。

 

「わ……分かった」

 

 ハドラーが頷くと、リバストは彼を抱え、フッとその場から消えた。

 リリルーラだ。鬼岩城へ。

 

 ダイたちは、構えを解いた。

 そして傷を確かめ回復を行いながら、情報を交換していく。

 

 この闘技場がハドラーが見て愉しむためのモノである以上、ここから玉座の間は近いハズ。

 そう考えて探ったところ、案の定、道を発見。

 恐らくそこにラーハルトとヒュンケルがいるだろうと一行は進み――

 

「ブラッディースクライドッッ!!!」

 

 ヒュンケルがバルトスを打ち砕く場面を、見た。

 


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