暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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72 リュンナとハドラー その3

 まさかヒュンケルが、光と闇の闘気を併用するとは思わなかった。

 しかもそれがどっちつかずの中途半端ではない。光は闇の誘惑に負けまいと己を強く律し、闇は光の潔癖さに唾棄しより燃え上がる。そしてそのどちらもが、ヒュンケル自身の素直な本音なのだ。

 だから強い。

 

 両者は強く混じりながらも反発して、大爆発を起こし――お蔭でその爆煙に紛れて、気付かれて警戒されることなくリバストがラーハルトを回収できる。

 些細なことだが、それ自体は嬉しい誤算と言えた。

 もっともスクライドそのものは直撃しているため、数分以内に死ぬようなボロ雑巾のありさまだが。

 

「ラーハルトは蘇生液に浸からせておきます」

「ふん、半端に生き残りおって……!」

 

 彼を嫌うハドラーは吐き捨てるように言うが、リュンナに捨て置くよう指示は出さない。

 役立たずは処刑しろと言うなら、今回は全員が役立たずだったせいもあるだろうが。

 

 ザボエラとミストバーンが去っていく。

 ハドラーも去ろうとしたが、リュンナが未だ悪魔の目玉の映す画面を眺めていることに気付いたせいか、足を止める。

 

「どうした」

「あれを」

 

 指し示した画面には、健在のバルトスが映っていた。

 

「何だ……!? ヒュンケルの奴めが粉砕したハズでは」

 

 当のヒュンケルたちも驚いている。

 落ち着いているのは、蘇ったバルトス本人のみだ。

 彼は語る。

 

「ヒュンケル……。どうやらワシは、今度はお前の眷属になったようだ」

「俺の……!?」

「暗黒闘気には魔物を作ったり操ったりする力がある。そしてある条件が揃うと、斃した魔物が起き上がって仲間になることがある――リュンナさまから聞いたことがあるだろう?」

 

 ヒュンケルは己の手を見詰めた。

 そこにある暗黒を。

 

「暗黒闘気でトドメを刺し――相手が『感謝』する……」

「そう、ワシは感謝したのだヒュンケル。お前は憎しみと激情に駆られながらも、己を見失うことなくワシとの約束を守った。だから……よくぞ立派に育ってくれた、ありがとう――とな」

「父さん……!!」

 

 親子の抱擁。

 

 正直、ラーハルトが他人の眷属まで操れるほど暗黒力を高めていたのは想定外だった。ラーハルト諸共にバルトスも回収して、ザオラルの必要があるかも知れない、と。アンデッドに蘇生液は効かない。

 しかし映像越しに暗黒の胎動を感じ、その必要はないと判断した。

 バルトスを止めたスクライドには、その時点でもう暗黒闘気が籠っていたのだろう。

 

 ヒュンケルがいつ闇に目覚めたのかは分からない。まさにそのバルトスを粉砕した時かも知れないし、もっと前かも知れない。

 眷属バルトスの感覚を盗めば、その時点で知れたのだろうが――その気はなかった。

 バルトスは、そう、ヒュンケルと一緒にいたらいい。

 

 ならばラーハルトは、誰といたらいいのか。

 人間憎しで意気投合できる原作バランはいない。

 ラーハルト当人はそこをリュンナに求めている素振りだったが、リュンナはそれを正直に受け流し続けてきている。

 

 問題を人間全体に一般化するのは誤謬も甚だしいし、そもそもあれはリュンナの自業自得だ。

 欲張った結果、深く考えずに安易な手に走り、その先を予測できず、それでも甘い見通しでい続けた。

 人間に、祖国に憎しみはない。愛ももうないが。家族はともかく。

 

 ラーハルトに対しても、別段愛はない――ただ、なるべく人死にを減らしてみると、約束したから。

 ハドラーの障害になるワケでもない。

 むしろ軍団長を助命するのは、魔王軍として違和感はない行動だろう。

 

 それに本人に自覚こそないが、原作の歴史よりもパプニカの死者は減っているハズ。

 魔剣戦士ヒュンケルは普通に攻め滅ぼしたが、魔槍戦士ラーハルトは人を一か所に集め、最後に一網打尽にしようとして失敗したから。

 その分の情状酌量があってもいい。そう思った。

 

 その策を提案したのはリュンナだが。

 ラーハルトはリュンナに一方的な仲間意識を持っている――それを利用した形。

 そうでなくば、今頃パプニカは滅びていただろう。

 

 ともあれ。

 映像の中、アバンの使徒らは空の技を死火山に放ち、マグマ溜まりを刺激して地上に噴き出させていた。噴火というほどではない、ただ、不死騎団ごと地底魔城が沈む程度にマグマが溢れ出す。

 妙なところで原作通りの結末だ。

 

「良かったの? ヒュンケル……」

「これでもう、この先どんな悪が現れても、誰にも利用されることはない。俺の故郷に――これ以上の悪名は要らないんだ」

 

 ヒュンケルは寂しげに、しかし晴れ晴れと微笑んでいた。

 それを映していた悪魔の目玉が逃げ遅れてマグマの海に消え――映像が途切れる。

 

「沈んじゃいましたね。地底魔城」

「ふん、どうでもいいことだ。貴様とアバンに敗れ、バルトスが裏切り、最早アバンの使徒となったヒュンケルが育っていた場所だぞ。ロクな想い出がないわ」

 

 本当にどうでも良さそうだ。

 ただし地底魔城のみではない、バルトスやヒュンケルのことまでも含むどうでも良さ、という雰囲気。失敗作と、それが育てた敵対者――その手で捻り殺したくはないのだろうか。そういう殺意が見えない。

 

 口で言うほどには、バルトスのことも気にしていないのだろうか。

 思えばリュンナを部下にしてからも、眷属としてバルトスを操れだの処分しろだの、そういった指示は一切なかった。むしろバルトスに言及したことがない。

 

 男の価値というものは、過去への(こだわ)りをどれだけ捨てられるか――原作クロコダインの言葉だが、ハドラーは過去への拘りを捨ててしまったのだろうか。

 なんだか不気味だ。

 

 ハドラーは、ならば、何をこそ求めているのか。

 推測したことはある、共感したことはある。『国』を背負っているのではないかと。だがその話は拒まれてしまい、踏み込めない。

 太陽がなく、食料の乏しい魔界に民がいて、腹一杯に食わせてやるために地上の豊かな土地を求めている――だとしたら、『焦り』がないのもおかしい。早くしなければ餓死者が増えるハズなのに、『地上征服』ばかりを気にしている。

 

 それが魔軍司令としての仕事だから? なぜバーンに従う?

 いや、密かに裏切ってはいるのだが……。そもそも味方にならなければ、裏切るも何もない。

 元々は、単に復活させてもらった恩なのだろうか。

 

「何をじろじろ見ている」

 

 不快そうにされてしまった。

 

「失礼しました」

「戻るぞ……」

 

 司令室を後にした。

 

 

 

 

 そして、しばしの日数を置いてのことだった。

 

「グッドイヴニ~~~ング、鬼岩城の皆さん……!」

「しっ……死神……!」

「……キルバーン!」

 

 一つ目ピエロを連れ、大鎌を持つ、道化師めいた仮面の怪人が訪れたのは。

 それにしても、ミストバーンの声を初めて聞いた。ここでだけ、彼はキルでなくキルバーンと呼ぶのだ。

 現れたその男が他でもない『死神』であると、周囲へ明確に印象付けるためだろう。

 特に、ハドラーに対して。

 

「ところで……ハドラー君! 最近、君は戦績が優れないみたいだねえ……」

「そうそう! てんでだらしないんだよ!」

 

 一つ目ピエロ――ピロロが言い募る。

 勇者ダイを討ち漏らして以来、ロモス、パプニカを奪回され、地底魔城に全軍を集結してさえ逆にやられてしまったと。

 このままではバーンさまの機嫌を損ねる、と。

 

 しかしハドラーは揺れない。

 

「ふん、心配無用だ! そろそろ計画の準備が整う頃――」

「お待たせしました。ハドラーさま」

 

 そしてその場に、リリルーラでリュンナが現れる。

 先行させた鷹の目で会話は聞いていた――直前までベンガーナにいたのだが、そこから鬼岩城まで感覚を飛ばせるほどに回復が完了したということだ。竜眼の力。

 

「うおっ!? リュンナ……! だからいきなり背後に出て来るなと、いつもいつも!」

「ごめんなさい」

 

 狼狽えるハドラーに棒読み気味に謝りながら、キルバーンとピロロを窺う。なるほど、竜眼には魔法力の繋がりが見える――操り人形だ。

 ともあれ、ハドラーに報告する。

 

「ベンガーナ王国の制圧を完了しました。王家は全員を人質に取り、国民には魔王軍のための労働を強いています」

 

 主に食料や武装の生産などだ。

 ハドラーは聞くなり破顔した。

 

「クククッ、そうか……! これで例の計画を始めるだけの余裕ができたな」

「はい」

 

 キルバーンが興味深げに笑む。

 

「ウフフッ、なあんだ。しっかり次の手を考えてたんだね。しかも、かの『竜眼姫』リュンナを動かすとなれば、これは一安心かな?」

「ふん、見ていろ。必ずやダイを……!」

 

 それはそれとして、キルバーンが鍵を使い、鬼岩城が立ち上がり移動する。

 この揺れ、内側にいてすら腹に来る重い力感。莫大な質量を動かすバーンの魔力か。

 

 さて、始めよう。

 バラン編ならぬ――リュンナ編を。

 

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