暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

73 / 112
竜眼姫リュンナ編
73 買い物へ


 新しくより強力な装備を手に入れるには、復興中のパプニカより、今まさに激戦を繰り広げている国に行くのが有効なのでは?

 ポップの提案に、パプニカ王女レオナは即答した。

 

「ならアルキードかベンガーナね。――って言いたいところだけど、どうもベンガーナ、魔王軍にやられちゃったみたいなのよ。物資の、つまり武器の豊かさでは最大の国だったのに……」

「そんな……!」

 

 ロモス、パプニカはダイたちが救った。オーザムはノヴァが。リンガイア、カール、アルキードは持ち堪えている。テランは狙われていない。

 そんな中、ベンガーナが落ちた――ついに魔王軍に屈する国が現れてしまったのだ。

 

 滅ぼしたワケじゃあないけど。人を殺さずに支配している。

 だからポップ、そんなに苦い顔しなくてもいいよ。

 

「でも大丈夫――って言うのもおかしいけど、今回はアルキードに行きましょう。あそこはパラディンの国だから、装備に関してはベンガーナに匹敵するし。

 て言うか、質の上限では上回るわね……。伝説級の武器を作る職人もいるって聞くわ」

 

 ダイの目が輝いた。

 

「伝説級の武器!? それって、クロコダインの真空の斧とか……」

「そうそう、そういう感じの。それにマァムの鎧なんかも揃うんじゃないかしら」

 

 僧侶戦士の素養を持つマァムは、それを通り越してパラディンになっているのだ。

 なのに未だに旅人の服なのだから、この世界の装備事情は厳しい。

 

「へえ~っ、すっげーな~!!」

「ダイ君……。行きたい?」

「行きたい!!!」

「おい、イヤな予感がするんだけどよ……」

 

 ポップの予感通り、レオナはアルキードに行くため、城にひとつしかない気球を奪ってしまった。脱走である。

 今回の戦でパプニカ王家に死者はなく、王が健在であるため、ある意味今レオナがいなくても問題はないと言えばない。

 だからと言って、管理員をラリホーで眠らせてまで気球を奪い、王女が勝手に国外まで行くというのは、相当に大問題ではあるが……。

 

「まったく、とんでもねえ姫さんだぜ……!」

 

 ポップがぼやき、ダイが宥める、空のありさま。

 

「まあまあ……。国が残るかどうかの瀬戸際だったんだし、レオナだってちょっとくらい羽目を外したくなるって」

「さっすが、ダイ君は分かってるわね!」

「これ、ちょっとか……?」

 

 一方、ヒュンケルは遠く北東へ視線を飛ばしていた。

 マァムが気遣わしげに話しかける。

 

「お父さんが心配なの……?」

「ああ、マァムか。いや、心配と言うとどうなのか……。単に俺が親離れできていなくて、寂しいだけかも知れん」

 

 自嘲の笑み。

 クロコダインが鬼岩城の動向を探りに行ったのだが、それにバルトスもついていったのだ。

 身軽さを失わない程度にもうひとり仲間がいても良かろうし、魔物同士で親睦を深めてくる、と述べて。

 

「私は心配だわ。バルトスさん、地獄の騎士の姿のままだったし……」

 

「それは……まあな。

 人間たちが怯えないようにと、父さんはいつも骨の体を隠していた。だがクロコダインに倣ったのか、今回はそのまま……。吉と出るか凶と出るか、確かに不安なところはある。

 だが大丈夫だろう。父さんは誇り高き騎士だと、人間たちも少し接すれば分かるハズだ」

 

 それは楽観というより、父への深い信頼と尊敬なのだろう。

 マァムは微笑ましげだった。

 

 そうして空の旅の中、クロコの兄貴の仇! などと叫んで攻めてきたガルダンディーなる鳥人とその乗騎のスカイドラゴンを一蹴し追い払い、やがてアルキード王国の東端の町へ到着。

 そこから馬車を借りて王都へ向かった。

 

 王都は賑わっていた。

 国そのものは超竜軍団の攻撃を受けているものの、主な戦場は北のベンガーナとの国境近くの地域で、南寄りに位置する王都には戦火が届いていないのだ。

 とは言え野生の魔物の狂暴化もあり、人々の目には確か不安と、それを超える闘志が渦巻いているありさま。

 

 一行は商店街を回って買い物に勤しみ、装備を更新していった。

 資金は不死騎団撃退の報奨金がメイン。

 

 ポップはギラ系の魔法が封じられた魔道士の杖と、更にホイミ系の魔法が封じられた賢者の杖も予備に持ち、防具には呪文耐性を持つ魔道士のローブ。

 ヒュンケルはギラ系の魔法が封じられた破邪の剣と、炎や吹雪に耐性を持つドラゴンメイル。それからバルトス用にガイアの剣を6本、この世界では単純に性能のいい刀だ。

 マァムは多彩な攻撃のできるハルベルトと、呪文耐性を持つ魔法の鎧、炎や吹雪に耐性を持つドラゴンシールド。盾はベルトで腕に固定し、武器の両手持ちが可能となっている。

 レオナはデザイン重視の旅人の服とワイズ・パーム、原作通り。

 特にようやくパラディンらしい重装備ができたマァムは、殊更に喜んだ。

 

 しかしダイの装備が見付からない。武器にせよ鎧にせよ、小柄な彼に合うサイズがないのである。武器は両手持ちすればまだしも、鎧は尚更に。

 店などで聞いてみたところ、そういうのは需要が少ないから受注生産になる、と言われてしまった。

 いつ再び魔王軍が大きな行動を始めるか分からない今、アリモノで済ませたいところなのだが。

 

 仕方がないので防具は隠れ身の服――身かわしの服の上位品を裾上げすることとして、問題は武器である。

 どうしたモノかと歩き回っていたところ、一行は占い屋を発見した。

 占い屋といっても、道路の端に机と椅子が設置してある即席のモノだ。路銀を稼ぐ旅の占い師といった風情。

 

 占い師と思しき老婆と、助手か孫かという少女の組み合わせ。有体に言って、ナバラとメルルである。

 原作ではベンガーナで出会ったのに、別の国に来たこの世界でも同じタイミングで合うのか。これが歴史の修正力というモノか――と、リュンナは心中で嘯いた。

 

 先にベンガーナを落としてダイたちの行先をアルキードに絞った上で、占いに干渉してナバラとメルルを誘導したのみだ。

 都合の悪い行動を選ぶことに対して殺意を強く持てば、占いによってそれを察知して避けてくれるのだから、楽なモノだった。

 

 ともあれ、一行は占い屋に寄ることにしたようだ。

 

「何を知りたいんだい?」

「おれにちょうどいい武器がどこで手に入るか、占ってくださいっ!」

「5Gもらうよ」

 

 それだけに、この占いの結果がどうなるのかは気になる。

 手を加えずに見ていよう。

 

「ふうーむ……」

 

 水晶玉にダイの手を乗せて、ナバラは精神を集中している。

 

「ロモス王国……。あるいはここアルキード王国だね。あっちの方に職人街があるから、そこに行ってみるのが一番早いだろう」

「どうもありがとう!」

 

 ダイは素直に感謝している。

 一方で他のメンバーは、思い思いにコメントしていた。

 

「ロモスにそんな強い武器なんてあったか?」

「あったら王さまから貰った褒美の品に混じってそうよね」

「出し惜しみしたんじゃない? それとも忘れてたとか……」

 

 レオナが酷い。

 しかし実際、なぜ覇者の剣をあそこでダイに託さなかったのか。メタ的なことを言えば、それが存在するという設定がまだなかっただけかも知れないが……。或いはダイの体格には合わないと思ったのか。

 

 だとしても、オリハルコンの剣が『ダイにちょうどいい』と出るとは、割と的確な占いのようだ。

 するとアルキードの職人街には、どんな職人がいるのだろう。まさかロン・ベルクか?

 ベンガーナ王国は各町や村まで――ランカークス村も含めて制圧したが、ロンやポップの家族は確認できなかった。ロンが連れて逃げたのではないか、と思っていたが……。

 

 ともあれ占い屋を後にしようとしたとき、

 

「待ってください!」

 

 メルルだ。

 妙に切羽詰った表情。冷や汗が酷い。

 そんな様子で、ポップの腕を掴んで止めていた。

 

「え、な、なに?」

「どうしたんだいメルル。もうそのお客さんたちの用は済んだだろ」

「違う、違うんです……! この人に……!」

 

 ――目が合った。

 憑けたシャドー越しに、リュンナとメルルの、目が合ったのだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。