73 買い物へ
新しくより強力な装備を手に入れるには、復興中のパプニカより、今まさに激戦を繰り広げている国に行くのが有効なのでは?
ポップの提案に、パプニカ王女レオナは即答した。
「ならアルキードかベンガーナね。――って言いたいところだけど、どうもベンガーナ、魔王軍にやられちゃったみたいなのよ。物資の、つまり武器の豊かさでは最大の国だったのに……」
「そんな……!」
ロモス、パプニカはダイたちが救った。オーザムはノヴァが。リンガイア、カール、アルキードは持ち堪えている。テランは狙われていない。
そんな中、ベンガーナが落ちた――ついに魔王軍に屈する国が現れてしまったのだ。
滅ぼしたワケじゃあないけど。人を殺さずに支配している。
だからポップ、そんなに苦い顔しなくてもいいよ。
「でも大丈夫――って言うのもおかしいけど、今回はアルキードに行きましょう。あそこはパラディンの国だから、装備に関してはベンガーナに匹敵するし。
て言うか、質の上限では上回るわね……。伝説級の武器を作る職人もいるって聞くわ」
ダイの目が輝いた。
「伝説級の武器!? それって、クロコダインの真空の斧とか……」
「そうそう、そういう感じの。それにマァムの鎧なんかも揃うんじゃないかしら」
僧侶戦士の素養を持つマァムは、それを通り越してパラディンになっているのだ。
なのに未だに旅人の服なのだから、この世界の装備事情は厳しい。
「へえ~っ、すっげーな~!!」
「ダイ君……。行きたい?」
「行きたい!!!」
「おい、イヤな予感がするんだけどよ……」
ポップの予感通り、レオナはアルキードに行くため、城にひとつしかない気球を奪ってしまった。脱走である。
今回の戦でパプニカ王家に死者はなく、王が健在であるため、ある意味今レオナがいなくても問題はないと言えばない。
だからと言って、管理員をラリホーで眠らせてまで気球を奪い、王女が勝手に国外まで行くというのは、相当に大問題ではあるが……。
「まったく、とんでもねえ姫さんだぜ……!」
ポップがぼやき、ダイが宥める、空のありさま。
「まあまあ……。国が残るかどうかの瀬戸際だったんだし、レオナだってちょっとくらい羽目を外したくなるって」
「さっすが、ダイ君は分かってるわね!」
「これ、ちょっとか……?」
一方、ヒュンケルは遠く北東へ視線を飛ばしていた。
マァムが気遣わしげに話しかける。
「お父さんが心配なの……?」
「ああ、マァムか。いや、心配と言うとどうなのか……。単に俺が親離れできていなくて、寂しいだけかも知れん」
自嘲の笑み。
クロコダインが鬼岩城の動向を探りに行ったのだが、それにバルトスもついていったのだ。
身軽さを失わない程度にもうひとり仲間がいても良かろうし、魔物同士で親睦を深めてくる、と述べて。
「私は心配だわ。バルトスさん、地獄の騎士の姿のままだったし……」
「それは……まあな。
人間たちが怯えないようにと、父さんはいつも骨の体を隠していた。だがクロコダインに倣ったのか、今回はそのまま……。吉と出るか凶と出るか、確かに不安なところはある。
だが大丈夫だろう。父さんは誇り高き騎士だと、人間たちも少し接すれば分かるハズだ」
それは楽観というより、父への深い信頼と尊敬なのだろう。
マァムは微笑ましげだった。
そうして空の旅の中、クロコの兄貴の仇! などと叫んで攻めてきたガルダンディーなる鳥人とその乗騎のスカイドラゴンを一蹴し追い払い、やがてアルキード王国の東端の町へ到着。
そこから馬車を借りて王都へ向かった。
王都は賑わっていた。
国そのものは超竜軍団の攻撃を受けているものの、主な戦場は北のベンガーナとの国境近くの地域で、南寄りに位置する王都には戦火が届いていないのだ。
とは言え野生の魔物の狂暴化もあり、人々の目には確か不安と、それを超える闘志が渦巻いているありさま。
一行は商店街を回って買い物に勤しみ、装備を更新していった。
資金は不死騎団撃退の報奨金がメイン。
ポップはギラ系の魔法が封じられた魔道士の杖と、更にホイミ系の魔法が封じられた賢者の杖も予備に持ち、防具には呪文耐性を持つ魔道士のローブ。
ヒュンケルはギラ系の魔法が封じられた破邪の剣と、炎や吹雪に耐性を持つドラゴンメイル。それからバルトス用にガイアの剣を6本、この世界では単純に性能のいい刀だ。
マァムは多彩な攻撃のできるハルベルトと、呪文耐性を持つ魔法の鎧、炎や吹雪に耐性を持つドラゴンシールド。盾はベルトで腕に固定し、武器の両手持ちが可能となっている。
レオナはデザイン重視の旅人の服とワイズ・パーム、原作通り。
特にようやくパラディンらしい重装備ができたマァムは、殊更に喜んだ。
しかしダイの装備が見付からない。武器にせよ鎧にせよ、小柄な彼に合うサイズがないのである。武器は両手持ちすればまだしも、鎧は尚更に。
店などで聞いてみたところ、そういうのは需要が少ないから受注生産になる、と言われてしまった。
いつ再び魔王軍が大きな行動を始めるか分からない今、アリモノで済ませたいところなのだが。
仕方がないので防具は隠れ身の服――身かわしの服の上位品を裾上げすることとして、問題は武器である。
どうしたモノかと歩き回っていたところ、一行は占い屋を発見した。
占い屋といっても、道路の端に机と椅子が設置してある即席のモノだ。路銀を稼ぐ旅の占い師といった風情。
占い師と思しき老婆と、助手か孫かという少女の組み合わせ。有体に言って、ナバラとメルルである。
原作ではベンガーナで出会ったのに、別の国に来たこの世界でも同じタイミングで合うのか。これが歴史の修正力というモノか――と、リュンナは心中で嘯いた。
先にベンガーナを落としてダイたちの行先をアルキードに絞った上で、占いに干渉してナバラとメルルを誘導したのみだ。
都合の悪い行動を選ぶことに対して殺意を強く持てば、占いによってそれを察知して避けてくれるのだから、楽なモノだった。
ともあれ、一行は占い屋に寄ることにしたようだ。
「何を知りたいんだい?」
「おれにちょうどいい武器がどこで手に入るか、占ってくださいっ!」
「5Gもらうよ」
それだけに、この占いの結果がどうなるのかは気になる。
手を加えずに見ていよう。
「ふうーむ……」
水晶玉にダイの手を乗せて、ナバラは精神を集中している。
「ロモス王国……。あるいはここアルキード王国だね。あっちの方に職人街があるから、そこに行ってみるのが一番早いだろう」
「どうもありがとう!」
ダイは素直に感謝している。
一方で他のメンバーは、思い思いにコメントしていた。
「ロモスにそんな強い武器なんてあったか?」
「あったら王さまから貰った褒美の品に混じってそうよね」
「出し惜しみしたんじゃない? それとも忘れてたとか……」
レオナが酷い。
しかし実際、なぜ覇者の剣をあそこでダイに託さなかったのか。メタ的なことを言えば、それが存在するという設定がまだなかっただけかも知れないが……。或いはダイの体格には合わないと思ったのか。
だとしても、オリハルコンの剣が『ダイにちょうどいい』と出るとは、割と的確な占いのようだ。
するとアルキードの職人街には、どんな職人がいるのだろう。まさかロン・ベルクか?
ベンガーナ王国は各町や村まで――ランカークス村も含めて制圧したが、ロンやポップの家族は確認できなかった。ロンが連れて逃げたのではないか、と思っていたが……。
ともあれ占い屋を後にしようとしたとき、
「待ってください!」
メルルだ。
妙に切羽詰った表情。冷や汗が酷い。
そんな様子で、ポップの腕を掴んで止めていた。
「え、な、なに?」
「どうしたんだいメルル。もうそのお客さんたちの用は済んだだろ」
「違う、違うんです……! この人に……!」
――目が合った。
憑けたシャドー越しに、リュンナとメルルの、目が合ったのだ。