暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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81 氷と炎

 ハドラーが砦を訪れた――

 

「この結果は……予想の内のひとつではあったが……」

「はい」

 

 ――困惑の顔で。

 

「まさか本当にこうなるとは……。王を人質にされて大半が動かんとは、な。いや、こうなるだろうと貴様は言っていたが」

「そういう国民性ですからね、もう」

 

 額のアレルギーについて解説する。

 

「お前を処刑した後遺症……。そこまでか」

「別にどっちでも良かったんですけどね」

「うむ。国民に狙われて勇者にダメージが行くか、王を失って国にダメージが行くか……。どちらでも、魔王軍としては得だ」

 

 魔王軍としては得。では、潜在反逆者としてはどうか。

 勇者ダイにダメージが行けば、その弱みを突いて取り込み、手駒にし得る。

 国にダメージが行けば――最低限、魔王軍としてのポイントは稼げる。王を失えば軍事力の統制が緩み、侵略がしやすくなるだろうから。

 

「ともあれ、あとは勇者ダイを討つのみ……!」

 

 拳を握り述べる。

 

「ダイを叩く戦力は我々だけですか?」

「妖魔士団の担当するリンガイア王国も、魔影軍団の担当するカール王国も、抵抗が激しいからな……。今そこから軍団長を引き抜けば、これまでの戦果が水の泡になるほど徹底的に反撃されるだろう。

 勇者ダイ討伐という一大事だが、ここは俺と貴様でやるしかない」

「承知しました」

 

 リュンナは丁重に頷いた。

 今のところは、おおむね理想的だ。

 

 バーンが死にハドラーが生き残るには、ダイの成長はほぼ必須だろう。そのために強敵との死闘を強いつつ、戦場の不確定要素は小さい状況になった。

 ほとんどをリュンナの『味方』が占めているからだ。

 竜騎衆。

 

「ぼくたちは物の数じゃないってことかな、魔軍司令さま?」

 

 ベルベルが膨れっ面で言った。

 リバストとボラホーンも不満そうだ。

 

「リュンナのペットどもか……」

 

 ハドラーはまるで、今気付いたとでも言わんばかりだった。

 ずっとここにいるのだが。

 

「別に期待していないワケではないがな。精々役に立て」

「ふん! リュンナの役には立つけど、おまえなんか知らないもん!」

「我が姫の役には立つが、それ以外は知らぬ」

「お前ら、もう少し協調性を持つべきではないかとワシは思うが……」

 

 ここに来てボラホーンが常識人とは。いや、元からこういう性格か?

 ともあれ。

 

「実際、わたしとハドラーさまで結界呪法を使って迎え撃つ手筈だからね。それが主軸だから」

「分かってるけどさあ~」

 

 ベルベルを撫で倒して何とか宥める。

 

「そういうワケで、ダイたちが来次第――今日か明日か、もっと後かは分かりませんけど。準備はよろしいですか、ハドラーさま」

「問題ない」

「上手くダイを仕留めたら、傷を癒しつつ暗黒闘気と呪法で操っちゃいましょう」

 

 それも本音だ。

 ここで負けるようなら、素質は素質止まりだったということ。

 本物を、魅せて。

 

 

 

 

 そして数日後、ダイ一行は境の山を訪れた。

 かつて魔王ハドラーが尖兵に軍勢を整えさせていた場所。勇者アバンや勇者姫リュンナが、異変を調査しに登った山。

 そこに今、勇者ダイが。

 

 現在では超竜軍団の前線基地となっているその山には、多数の竜種が生息していた――が、最早この程度は、勇者たちの敵ではなかった。

 

「海波斬!」

 

 ダイの斬撃が、炎ごとドラゴンの首を断つ。

 その剣はドラゴンキラー。従来のジャマダハル型ではなく、普通の刀剣型のそれである。城の聖騎士団長から貸し出され、鍛冶師のサイズ調整を受けたモノだ。

 同様に鎧も調整してもらい、ドラゴンメイルを着ていた。

 

 ポップはスノードラゴンを、魔道士の杖で増幅したベギラマで焼き払う。

 マァムは前に出て、ドラゴンシールドでブレスを防ぐ。

 ヒュンケルは空裂斬で竜の急所を撃ち抜き、一撃で昏倒させていく鮮やかさ。

 ソアラに至っては竜と正面から切り結び、反撃の諸刃斬りで一方的に打ち勝つ始末。

 レオナは回復呪文を担当しているが、未だ出番はない。

 

 パーティーは以上6名――と数日前は想定していたが、まだいる。

 

 クロコダインの斧の一撃が、大型竜を叩き潰す。

 一方で小型の竜を、バルトスの6刀流が狩っていく。

 鬼岩城の足跡を死の大地の手前まで追跡し、その後戻ってきて合流したふたりである。

 

 そして最後にもうひとり――大魔道士マトリフ。

 ホルキア大陸の外れに隠棲していたところを、ナバラとメルルの占いで居場所を特定――迎えに行こうとしたが、マトリフが自分で感知されたことに気付き、アルキードにルーラで飛んできたのだ。

 

「くだらん王家のために戦うのは御免だったがな……。昔の仲間のためとなりゃ仕方ない」

「ごめんなさいね、マトリフ。あなたは静かに暮らしたかったのでしょうに」

「ふん、ソアラ王妃におきましてはご機嫌麗しくねえようで……! 俺もだ。リュンナの奴、何をやってやがる……」

 

 山を歩きながら『アバンの書』に目を通し、転びもよろけもしない器用さを見せながら。

 彼はカールにも寄ったようだ。その図書館に寄贈されていた、かつてアバンが自らの手で著した書物を手に入れてきた。

 

「瞬間的な破邪力においてはマホカトールをも遥かに超える、古の秘呪文マジャスティス――か。俺にこれを使えと」

 

 アバンの書、海の章に記されているのだろう。

 ソアラが頷く。

 

「ええ。大魔道士に使えない呪文はないもの」

「デイン系以外ならな」

「最早アバン先生のいない今、貴方にしか出来ないことです」

 

 作戦を発案したヒュンケルが述べる。

 

「マジャスティスで竜眼を消し去れば、リュンナさまは『人間』です。これで再び受け容れられる」

「……」

 

 ポップがその会話を一瞥した。

 本当に受け容れられるか? 彼女がそれを望むか? ――そんなところか。

 それでも竜眼を抑えるのは倒すに有効だろうという計算か、作戦そのものには賛成しているようだ。

 

 しかしマトリフは唸る。

 

「契約はできた。発動もできる。理屈の上ならな」

「どういうことです? マトリフさん」

 

 ヒュンケルは鋭い表情。

 

「血の五芒星を描いて魔法力を増幅する必要がある。もちろん術者の俺自身の血じゃなきゃダメだ。だが血を流し過ぎれば、呪文を使う体力が残らない……」

「そこは私がベホマでサポートするわ」

 

 レオナが名乗りを上げた。

 

「パプニカ王家としての責任もあるしね……」

「ふん」

 

 原作通り、マトリフはパプニカで相談役の地位に就いたが、周囲の家臣に冷遇されて出奔した流れがあるようだ。

 

「まあベホマがあってもだ。どの道、そうデカい五芒星は描けない。そこにリュンナを誘い込む必要が――」

 

 不意に大地が揺れた。地震。

 

「うわあっ!?」

「ダイ、トベルーラだ! 宙に浮け! 浮けない奴は掴まれ!」

 

 ダイ、ポップ、ソアラ、マトリフといった浮遊できる面々は浮遊し、ほかの仲間はそれに掴まって揺れから逃れた。巨躯のクロコダインのみは普通に伏して耐えたが。

 

 そうするうち、山の景色に異変が生じる。

 向かう先の砦を左右に大きく離れて挟むような位置に、巨大な構造物が地から生えるようにして出現したのだ。

 

 向かって左手側には、氷でできた塔。

 向かって右手側には、炎を纏う岩でできた塔。

 地震はそれらが出現する際に大地を裂いたことによるモノだと、誰もが知っただろう。

 

 ふたつの塔を繋ぐように光の橋が架かり、光が広がって――結界が生じる。

 ダイたちをも包み込む。

 

「こ、これは……っ!?」

「魔王軍の攻撃だ!」

「効果は――ひゃっ!?」

 

 トベルーラで浮いていたソアラが落ちた。

 次いでポップも落ち、マトリフは墜落ではなく着地に成功したが、やはり浮く力は失った様子。

 

「これって……?」

「メラ」

 

 大魔道士が確認のために火炎呪文を唱える。

 しかし何も起こらなかった。

 

「なるほど……まあ、つまりそういうことだな。敵対者の力を封じる結界呪法だ。恐らくあの氷の塔と炎の塔が起点! あの塔を破壊して結界を解かない限り、リュンナは倒せないだろう。それどころか、俺たちもここで襲われれば死ぬ。

 まあダイを除いてだが……」

 

 皆がダイを見る。

 彼は未だに浮いていた。額には(ドラゴン)の紋章が淡く輝いている。

 

「あの……おれ全然力が減ってる感じしないんだけど……」

 

(ドラゴン)の騎士の力か……。結界の呪力を跳ね返してるみたいだな。

 よし、パーティーを三つに分けるぞ。

 ダイはひとりでリュンナのところに行って戦え。上手くダメージを与えて追い込めば、結界も消えるだろう。

 あとは半々に別れて、それぞれ塔を壊して自力で結界解除を試みる。ダイについていっても足手纏いになるだけだしな」

 

 マトリフは冷静に述べた。

 

「塔を壊すって……壊せるのかよ?」

「結界を出て外側から攻撃すりゃいい。それなら力は元通りだろ」

「でも、危険じゃないですか!? おれもみんなと行動した方が……!」

「ダメだ」

 

 言い募るダイを、やはりマトリフは止める。

 冷淡なまでに。

 

「向こうはいつでも逃げられるんだぞ。待ち構えてくれてる今しか機会はねえ……! バランごと逃げられないように、お前が押さえなきゃならねえんだ」

「そ、そうか……! おれが父さんを……!」

 

 方針は決まったか。

 鷹の目を通して見ながら、リュンナは歓迎の笑みを浮かべた。

 

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