氷魔塔を守るのは、ベルベルとボラホーンだ。
その姿を遠目に観察しながら、ポップ、マァム、マトリフ、クロコダインは地形の陰に潜んでいた。
「極大呪文は何か使えるか?」
マトリフがポップに問う。
「いや……。契約はしたんだけど、レベルが足りないみたいだ」
「ベギラマは?」
「それなら」
「じゃあ俺はベギラゴンを撃つ。一緒に撃て。そっちの――クロコダインか、オメエも何か大技があるならそれを」
「うむ」
「私は?」
ひとり名を呼ばれなかったマァムが首を傾げる。
「オメエはパラディンだろ? 防御だ」
「奇襲なのに?」
「隙があり過ぎる。見ろ、あくびしてやがる」
金髪の魔族の少女の姿をしたベルベルがふわふわとあくびを漏らし、巨漢のトドマンに凭れかかって眠そうにしていた。
「いつ俺たちが攻めてくるか分からんのに、あり得ないだろ。あからさまな誘いだ。何を企んでるのかは分からんが、何かを企んでる。だから防御の準備だ」
「……分かったわ」
まだ半ば釈然としていない様子だが、マァムは盾を構え、闘気を高め始めた。
ポップが肩に手を置く。
「頼りにしてるぜ、マァム。お前が守ってくれりゃ、俺も本気で呪文をぶっ放せる」
「ええ、任せて」
マァムにとってのポップは、最初から頼れる魔法使いだった――それがこの世界のありさま。
ヘタレやスケベによる確執がないからこそ、ポップの側からのマァムの印象も良くも悪くも『仲間』の一語に集約されるモノで、その信頼関係はとてもサッパリしていると見える。
「よし、狙うのは氷魔塔だ。行くぞ……」
マトリフが合図をし、
「ベギラゴン!!」
「ベギラマ!!」
「獣王痛恨撃!!」
閃熱と闘気渦が奔り、氷魔塔を狙った。
それと全く同時に、ベルベルはふわりと浮き上がる――彼女の触手は鋭敏な触角を兼ね、それが髪になったことで更なる繊細さを得たのだ、奇襲に気付かない理由がない。
射線上に飛び込んで――
「マホカンタ」
呪文反射呪文。
「クソッ!!」
マトリフがベギラゴンの照射をやめ、ポップの腕を叩いてベギラマも止める。だが既に撃った分は止まらない。
ベルベルの前に輝く光の壁が、ふたりの閃熱を跳ね返す。
痛恨撃すら、ボラホーンが凍てつく息で気圧を掻き乱してそよ風に変えてしまった。
「相殺――いや、マァム!」
「安心して!」
マァムが前に出る。
炎熱にも強いドラゴンシールドが闘気で輝き――その物体盾を芯にして、
反射された閃熱を受け切った。
「なあ、呪文ってなんか不遇じゃねえか……!? 今更だけどよ! 簡単に無効化されたり跳ね返されたり!」
「それでも呪文を使うしかねえんだよ、俺たちは……! スカラ!」
マトリフの発した赤い光がクロコダインを包み込む。
「守備力の強化だ! 頑丈になったろ、突っ込め!」
「心得た!」
隠れていた岩場を出て、クロコダインが走る。
迎え撃つのはボラホーンだ。
「如何にも怪力に優れそうなその巨体! グフフッ……ワシと勝負してもらおう」
「望むところよ……! 我が名は『獣王』クロコダイン!」
「『海戦騎』ボラホーン!!!」
がっぷり四つに組み合った。互いの吐息が届く距離。
それをより高く浮いたベルベルが見下ろす。
「『空戦騎』ベルベル。さて、スカラがかかってるね? これは公平じゃないな~。ルカニ!」
青いが光が走り、クロコダインのスカラを剥がした。
だがそれは、その一手分、ベルベルに他の行動をさせなかったということ。
「誰かと思えばベルベルかよ……!」
トベルーラで接近したマトリフは、
「イオ!!!」
呪文の位階を落とし、量で攻めた。
両手から次々と放たれる光弾は、マホカンタの光の壁を迂回し、ベルベル本体に迫っていく。
「バギ。久し振りだね~元気だった?」
だが真空の渦が光弾を煽って道筋を歪め、光弾同士で衝突させ相殺してしまう。
あまつさえ同時に、氷のブーメランを投擲。炎のブーメランと対を成すレア武器だ。
「当たるか!」
マトリフのトベルーラは一流だ。地上を自らの足で走るより、魔法で飛んだ方が彼は遥かに素早く身軽。真正面から来るブーメランを避け、
「危ない、マトリフさん!」
地上からマァムの投げた槍が、マトリフの背後でブーメランと激突した。
あまりにも鋭角に旋回し、マトリフの背を狙っていたブーメランとだ。
「反応いいね? それとも勘がいいのかな」
「前よりやるじゃねえか……!!」
マトリフがその左右の手に、放電めいたエネルギーの表れさえ伴う光弾をそれぞれ宿した。
「効かないよ?」
「試してみろ。――イオナズンッ!!」
その両手を前方で並べれば、ぶつかり合う光弾はひとつの渦となって混ざり迸る――ベルベルのマホカンタで反射――
「イオナズン……!!」
2発目で相殺。大爆発――爆煙が視界を殺す。
「目潰しのつもり? いや――」
触手を触角として使おうにも、空気が激しく掻き乱されている。精確な感知ができない。
だがそれは相手も同じハズ――トベルーラで位置を変えながらも、ベルベルは警戒した。
「おぐああああああああああああああ!!!!!」
そしてボラホーンの絶叫で、真意を知る。
ベルベルは放置されたのだ。
爆煙の中、彼女を置き去りにして、先にトドマンを片付ける作戦だった。
晴れた煙の向こうに、焼け焦げて倒れる巨躯が見える。
「ボラホーンしっかりして!!」
「む、無念……!」
傍らで座り込むクロコダインは、重い疲労に襲われている様子。
肩で息をしている。
「俺に勝るとも劣らぬ力の持ち主だった……! 一対一で戦えなくてすまないが……これは、正義と悪との戦争なのだ……!!」
クロコダインが押さえている隙に、ポップとマトリフが呪文で焼いたのだろう。
撃ち終えた姿勢のふたり。
――もうひとりは?
「虚空閃!」
マァムは氷魔塔を駆け上がり、既にベルベルの上を取っていた。
心眼が魔法力のムラを暴き出し、闘気の刺突がマホカンタを撃ち抜く――光の壁が粉砕。
「闘魔傀儡掌!!」
「ううッ……!?」
だがそのマァムを、ベルベルの放つ暗黒闘気の糸が絡め取った。
あまつさえ彼女のすぐ背後にある氷魔塔、その極太の棘めいて尖った氷へと叩き付けるように操る。
「マァムーー!!! ルーラ!」
行ったことがなくても、見えている範囲にはルーラで飛べる。
ポップがマァムを抱き止めて庇い――身代わりに彼が氷に抉られた。トベルーラの浮力で抵抗し、貫通するほどではないが。
「ぐああっ!」
「ポップ……!!」
更に予備の氷のブーメランが放たれた。
それはマァムの魔法の鎧を拉げさせ、その向こうにいるポップを更に氷魔塔へと押し付けていく。
「そのまま塔のオブジェになりなよ。ぼくに勝てないようなら、どうせリュンナにも勝てないんだからさ。
マ――ヒャ――ド――!!!」
その両手と、髪触手、その全ての先端に冷気の塊が灯った。計11。
「
リュンナの影響で、攻撃呪文ではヒャド系を得意とするベルベルだ。
なおかつ本性はホイミスライム故に、魔法を放てる『手』の数が抜群に多い。
その威力も、範囲も、フレイザードが同じ技を使った際の比ではない。
「ベギラマ!」マトリフは自分に降る吹雪を、背後にクロコダインを庇いながら防ぎ、「ニフラム!」もう片手で聖なる光をマァムに飛ばし、傀儡掌の縛めを解いた。
マァムが
ポップはその後ろからベギラマを放ち――押さえ切れない。
ふと吹雪の向こうに、マトリフが片手を用の済んだニフラムから切り替え、両手でベギラマを放っているのが見えた。
それでもジリ貧だ。極大呪文を既に3発も放った以上、
「ガフッ、……!!!」
体がついて来ない。血を吐く。
如何に無の瞑想を取り入れて魔法力の運用を効率的に行おうと、体力までは如何ともしがたいのだ。
だがそれは、ポップにきっかけを与えた。
右手からベギラマ。それとは別に、左手からベギラマ。
できた。吹雪を防げる。だがやはりジリ貧。
その上で。
もしそれを別々でなく、ひとつにできたら――と、思い至れたか?
「マァム、一瞬でいい、防御を!」
「それが役目だもの……ッ!!」
なぜならポップは、両手に灯したベギラマの光を頭上で重ね合わせ――
「うおおおおおおおお!!!!」
――両手で支えて撃ち放つまでに、この数秒が必要だったから。
「ベギラゴンッッ!!!」
マァムを後ろから挟み抱くように両腕を前方へ伸ばし、その組み合わされた手指から極大の閃熱が生じる。
「うそぉん……」
ベルベルは半笑いでその光景を見た。
敵4人に拡散する
かと言ってそちらに吹雪を集中すれば、マトリフのベギラマに焼かれる。
どの道やられるなら――
「――見事!! ってやつだ」
閃熱を前に吹雪は蒸発し、弾け、多少は威力を減じたが、そこまでだ。
マホカンタも使えなかった――必要な集中力が極めて大きいからだ。この鍔迫り合いの最中では、とても。
ベルベルは、ベギラゴンに焼かれた。
「ぎゃっ、あああああが、!! ……ッ!!!」
炎上しのたうちながらトベルーラの浮力を失い墜落、それでもリリルーラでボラホーンを回収して逃亡はする。
最終的に、氷魔塔はベギラゴンで破壊された。