暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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86 勇者たち

 ――などとヒロイックに激突したところで、ギガブレイクとすら相殺したゼロストラッシュが、位階の落ちるライデインストラッシュに負けるワケがない。

 たとえダイの剣術技量が尋常でなく高まっても、純粋な攻撃力が違う。

 魔氷気がライデインオーラを殺し、余った威力でダイ自身の身をも縛り付ける。氷漬け。

 

「くっ、おおおおおお!!!!」

 

 気合の叫びと共に竜闘気(ドラゴニックオーラ)を全開にして吹き飛ばそうにも、氷が邪魔で闘気が噴き出して来ないありさま。氷魔傀儡掌やヒャドカトールに近い状態だ。

 

 これで少し余裕ができた。

 先ほどの激しい剣戟は、全ての感覚をダイに集中しなければならなかった――別行動の敵味方を監視する鷹の目も回収していたのだ。

 それを今、再び放つ――

 

「ベギラマー!!!」

 

 ――間際、ポップの呪文。

 大技の直後、闇の衣が薄い。避けた方がいい。

 後退し避難すると、閃熱は即座に向きを変え、ダイを縛る氷を排除した。

 

「空裂斬!」「虚空閃!」

 

 ヒュンケルとマァムの空の技が、竜眼を狙ってくる。

 竜眼閃で薙ぎ払った。

 

「リュンナさま! ご無礼を!」

 

 魔氷気の閃光を掻い潜って、バルトスが肉薄。

 6刀流を纏めて跳ね飛ばすが、それが隙。

 

「獣王痛恨撃!!!」

 

 クロコダインの闘気渦による足止めを、甘んじて受けることになった。

 

「これはまたゾロゾロと……」

「ダイはやらせねえ! 俺たち全員倒さなきゃ、ゲームオーバーにはならねえってことだぜ! リュンナ!!」

 

 ポップが啖呵を切り、イオラを放ってくる。

 回避、或いは真空斬りによる打ち払いは難い。

 呪文を無効化し魔法力を吸収する闇の衣を纏い直し、

 

「空裂斬」

 

 ソアラの光の闘気が、右腕を後ろから撃ち抜いた。

 その部位のみだが、闇の衣が剥がされる。

 爆裂呪文が着弾――防げず、右腕が焦げ、吹雪の剣を弾き飛ばされた。

 

「姉上……!!」

「悪戯が過ぎるわね、リュンナ。バランは返してもらうわ」

「冷たい声の姉上も素敵」

「もう」

 

 イオラの爆風に乗る形で痛恨撃の渦から脱し、氷漬けのバランに駆け寄った。

 一同、攻撃を一瞬躊躇する気配。凍結したバランを砕いてしまうことを恐れたか。

 

 ダイのみが、躊躇わなかった。

 同じ(ドラゴン)の騎士だから、という無言の信頼なのか?

 

「ベギラマ――」閃熱を剣に宿し、「ストラーッシュッ!!」

 

 閃光、光熱――斬撃がそれを鋭く収束し打ち込む魔法剣の一撃。ストラッシュ(アロー)

 また的確なタイミングで闇の衣を剥がされては敵わない。氷バランを盾に凌いだ――が、ダイはそのまま攻撃を続行。もともとバランの氷を融かすことが狙いか。

 だが禁呪法レベルの封印は容易くは解けぬ。

 

「だったら、これでどうだよ……!!」

 

 ポップが炎熱のアーチを頭上に掲げた。

 本当に成長したモノだ。

 

「マヒャド!」

 

 冷気呪文で相殺する――いや、マァムの闘気盾(オーラシールド)が冷気を阻んだ。

 あまつさえヒュンケルのブラッディースクライドが横合いから迫り、冷気放射を阻んできた。

 

「もいっちょマヒャド!!」

 

 だがそれも剣圧ごと――凍らない。

 

鎧化(アムド)!!!」

 

 鎧の魔剣が、ヒュンケルを包む。

 剣自体にも呪文は効かない。

 その性質はスクライドの剣圧にすら波及し、身を穿たれた。

 

「んあっ、……!!」

 

 吹き飛ばされる。ポップに向けマァムに防がれたマヒャドも逸れた。

 故にマァムもその射線からどき――

 

「ベギラゴンッ!!」

 

 禁呪法レベルのヒャドカトールとは言え、流石に極大閃熱呪文はキツい。

 何となれば、封印されているバラン自身もまた内から抵抗しているのだ。その相乗効果。

 それでも解け切らない。

 

「カアアーッッ!!」

「シャアアッ!!」

 

 クロコダインの焼けつく息(ヒートブレス)を、自らの口から吐く吹雪で相殺。

 更にソアラの剣とヒュンケルの剣をそれぞれ片手ずつで防ぎ、ポップを竜眼閃で狙ってマァムを防御に釘付けにする。

 

 ――束の間の膠着。

 

「マトリフさんとレオナちゃんはどこです?」

「さて、どこかしら」

 

 ソアラは素知らぬ顔。

 鷹の目で周囲を探る――いた、少し離れた森の中。

 

 マトリフが血の五芒星を描き、レオナがベホマで回復してそれを補助している。マジャスティスの準備だ。ついでにゴメちゃんがレオナの肩に。

 そこに追い込む、誘い込むではなく、誰かが抱きついてルーラ辺りで連れ込む気か。マジャスティスなら巻き添えになっても問題はないから。

 その周囲には超竜軍団の死骸、残骸。山に放った竜はほとんと片付けられたようだ。

 

 マトリフ、レオナは砦の外。

 今、屋上にいるのは、ダイとポップはバランを解かそうとして、マァムがそれを守り、クロコダインとヒュンケルとソアラはリュンナを押さえている。

 あとひとり。

 

「ワシをお忘れですかな、リュンナさま」

 

 背後、バルトスの声。

 忘れてはいない。

 その気合溜めを妨げる余裕がなかったのみだ。

 

「ヘキサ・ブラッディースクライドッ!!」

 

 6刀流、6本のブラッディースクライド――それは、非合理的だ。

 少なくともリュンナの編み出したスクライドは、全身を協調させ、力を一点に集中するから強いのだ。6等分のスクライドなど、威力が分散し過ぎて、一発一発が闇の衣を貫けない。

 いや、違う、この角度は――

 

「がはッ、……!!!」

 

 貫かれた。『6本の刺突剣圧を一点に集中する』ことで、その交差した一点での破壊力を飛躍的に向上させたのだ。

 しかもそれは『線』から『点』への集中でもある。弱いワケがない。

 

 右脇腹が内から弾け飛び、右腕の力が低下。

 そちら側の手で相手をしていたヒュンケルが押さえられなくなり、右腕をも斬り落とされた。

 

「ちょっとバルトス、ヒュンケルも!」

「申し訳ない、ソアラ王妃。しかしあとで治せます――今は必要なこと!!」

 

 バルトスやヒュンケルとてリュンナを敬愛しているにも(かか)わらずの蛮行。

 それだけの覚悟か。

 

 リュンナがフラついて倒れそうによろめくころ、ダイの絶叫が響き渡る。

 

「目覚めろ――おれの中の竜よ!!!」

 

 ベギラマストラッシュを(アロー)から(ブレイク)に切り替え突っ込む――それどころではない、ポップの極大閃熱呪文すら剣に吸収していく。

 ベギラゴンストラッシュ。

 

「目覚めてよ!!! 父さん!!!!」

 

 額の紋章が眩いばかりに輝き、呼応して氷の中のバランの紋章さえ輝きを増す。共鳴。

 そしてストラッシュの命中と同時、氷は内外から蒸発し、吹き飛ばされた。

 

「ディーノ――いや、ダイ。聞こえていたぞ……お前の声が……」

「父さん……」

「私が愚かだった。私のすべきは、まずお前を抱き締めてやることだったのに……!! 自慢の息子だ、と言って!!」

 

 バランがそれを今まさに実行し、ダイを抱き締めた。

 

「もう放さん……!! 国民がどれだけ反発しようとも――私とソアラとダイ!!! 家族で共に生きるぞッ!!」

「うん、父さん!! あ、でもブラスじいちゃんも一緒がいいな」

「その方は魔物だったな。ならば大魔王を斃し、世界を平和にしなくてはな……!」

 

 ダイからもバランを抱き返し、更にソアラがふたりを包む込むように抱くさま。

 

「おかえりなさい。あなた」

「ああ。心配をかけたな……」

 

 涙を堪える声、洟を啜る音さえ聞こえてきた。

 

 リュンナは胸に一文字の傷、右脇腹が内から弾け飛び、右腕が上腕で落とされている状態。吹雪の剣も弾き飛ばされた。

 魔氷気で傷を凍らせて出血を防ぎながら、竜の再生能力とベホマでダメージを癒しているが、それでも完治は遠い。

 座り込む。

 

「良かった、良かったなあダイ……!! 本当に良かった……!!」

 

 涙脆く泣くポップだが、言っていることは全員の代弁のようなモノだろうか。

 それこそ、リュンナも含めての。

 

 ヒュンケルが鎧の魔剣の剣部分を、鎧化した兜にバチンと嵌め込んだ。剣身が鞭めいて撓る状態へと。

 

「リュンナさま」

 

 そして告げる。

 

「マジャスティスを受けてください。竜眼を消し去り、再び我々の世界に戻って来ていただきたいのです。

 人間をお恨みかも知れませんが、心底から魔道に堕ちたワケではないでしょう? でなくば我が父を操っていたハズ。貴方にはまだ正義の心がある……!」

 

 手を差し伸べられ――もちろん、その手を取らない。

 そしてふと、ソアラが、

 

「そのことなのだけど……ヒュンケル」

「ああ、母さんも分かるよね」

 

 ダイも、ヒュンケルを制止するよう、彼がリュンナに差し伸べた手を下げさせた。

 

「何だ……? ダイ。ソアラ王妃も……」

 

 不思議そう。

 

「リュンナは、それでは来ないわ」

「うん。リュンナはハドラーが好きだから」

「そんなハズがあるか!! いくら助けられたからとて、なぜハドラー如きを……!! そんなことのために、アルキードを苦しめるのはともかく、アバン先生やベンガーナをまで攻撃したと言うのか!?」

 

 ハドラーはどうしてこうも人望がないのだろうか。

 彼のカッコいいところを、わたし以外は見ていないからか。

 人望なんかなくてもいい。

 

「空っぽになったわたしに、中身を注いでくれた人だから」

 

 座り込んでいたリュンナが、立ち上がる。

 

「放っておけない、可愛い人だから」

 

 傷は塞がっていない。

 

「誰よりも頼りになる人だから」

 

 だから体力よりも、気力で。

 

「ハドラーさまのために、あなたたちと。まだ」

 

 この程度ではバーンに勝てない。

 もっとだ。もっと、もっと、限界を超えて絞り出せ!

 更なる高みに上り詰めろ!

 わたしのハドラーのために。

 

 莫大な魔氷気が、リュンナを中心に吹き荒れた。

 

「そんな――まだ戦うの……ッ!? そのダメージで!?」

 

 マァムはリュンナの心配をした。

 

「本当なのですか……!? リュンナさま! 本当に、あのハドラーに心を売ってしまわれたと!?」

 

 ヒュンケルは困惑した。

 

「こっ、この闘気は……!!」

 

 クロコダインは戦慄した。

 

「今度は不覚は取らんぞ……! ――真魔剛竜剣がない!?」

 

 バランは今更のように気付いた。

 

「あは」

 

 リュンナは、笑って。

 そして歯を食い縛り、叫んだ。

 

「――ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!!!」

 


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