――などとヒロイックに激突したところで、ギガブレイクとすら相殺したゼロストラッシュが、位階の落ちるライデインストラッシュに負けるワケがない。
たとえダイの剣術技量が尋常でなく高まっても、純粋な攻撃力が違う。
魔氷気がライデインオーラを殺し、余った威力でダイ自身の身をも縛り付ける。氷漬け。
「くっ、おおおおおお!!!!」
気合の叫びと共に
これで少し余裕ができた。
先ほどの激しい剣戟は、全ての感覚をダイに集中しなければならなかった――別行動の敵味方を監視する鷹の目も回収していたのだ。
それを今、再び放つ――
「ベギラマー!!!」
――間際、ポップの呪文。
大技の直後、闇の衣が薄い。避けた方がいい。
後退し避難すると、閃熱は即座に向きを変え、ダイを縛る氷を排除した。
「空裂斬!」「虚空閃!」
ヒュンケルとマァムの空の技が、竜眼を狙ってくる。
竜眼閃で薙ぎ払った。
「リュンナさま! ご無礼を!」
魔氷気の閃光を掻い潜って、バルトスが肉薄。
6刀流を纏めて跳ね飛ばすが、それが隙。
「獣王痛恨撃!!!」
クロコダインの闘気渦による足止めを、甘んじて受けることになった。
「これはまたゾロゾロと……」
「ダイはやらせねえ! 俺たち全員倒さなきゃ、ゲームオーバーにはならねえってことだぜ! リュンナ!!」
ポップが啖呵を切り、イオラを放ってくる。
回避、或いは真空斬りによる打ち払いは難い。
呪文を無効化し魔法力を吸収する闇の衣を纏い直し、
「空裂斬」
ソアラの光の闘気が、右腕を後ろから撃ち抜いた。
その部位のみだが、闇の衣が剥がされる。
爆裂呪文が着弾――防げず、右腕が焦げ、吹雪の剣を弾き飛ばされた。
「姉上……!!」
「悪戯が過ぎるわね、リュンナ。バランは返してもらうわ」
「冷たい声の姉上も素敵」
「もう」
イオラの爆風に乗る形で痛恨撃の渦から脱し、氷漬けのバランに駆け寄った。
一同、攻撃を一瞬躊躇する気配。凍結したバランを砕いてしまうことを恐れたか。
ダイのみが、躊躇わなかった。
同じ
「ベギラマ――」閃熱を剣に宿し、「ストラーッシュッ!!」
閃光、光熱――斬撃がそれを鋭く収束し打ち込む魔法剣の一撃。ストラッシュ
また的確なタイミングで闇の衣を剥がされては敵わない。氷バランを盾に凌いだ――が、ダイはそのまま攻撃を続行。もともとバランの氷を融かすことが狙いか。
だが禁呪法レベルの封印は容易くは解けぬ。
「だったら、これでどうだよ……!!」
ポップが炎熱のアーチを頭上に掲げた。
本当に成長したモノだ。
「マヒャド!」
冷気呪文で相殺する――いや、マァムの
あまつさえヒュンケルのブラッディースクライドが横合いから迫り、冷気放射を阻んできた。
「もいっちょマヒャド!!」
だがそれも剣圧ごと――凍らない。
「
鎧の魔剣が、ヒュンケルを包む。
剣自体にも呪文は効かない。
その性質はスクライドの剣圧にすら波及し、身を穿たれた。
「んあっ、……!!」
吹き飛ばされる。ポップに向けマァムに防がれたマヒャドも逸れた。
故にマァムもその射線からどき――
「ベギラゴンッ!!」
禁呪法レベルのヒャドカトールとは言え、流石に極大閃熱呪文はキツい。
何となれば、封印されているバラン自身もまた内から抵抗しているのだ。その相乗効果。
それでも解け切らない。
「カアアーッッ!!」
「シャアアッ!!」
クロコダインの
更にソアラの剣とヒュンケルの剣をそれぞれ片手ずつで防ぎ、ポップを竜眼閃で狙ってマァムを防御に釘付けにする。
――束の間の膠着。
「マトリフさんとレオナちゃんはどこです?」
「さて、どこかしら」
ソアラは素知らぬ顔。
鷹の目で周囲を探る――いた、少し離れた森の中。
マトリフが血の五芒星を描き、レオナがベホマで回復してそれを補助している。マジャスティスの準備だ。ついでにゴメちゃんがレオナの肩に。
そこに追い込む、誘い込むではなく、誰かが抱きついてルーラ辺りで連れ込む気か。マジャスティスなら巻き添えになっても問題はないから。
その周囲には超竜軍団の死骸、残骸。山に放った竜はほとんと片付けられたようだ。
マトリフ、レオナは砦の外。
今、屋上にいるのは、ダイとポップはバランを解かそうとして、マァムがそれを守り、クロコダインとヒュンケルとソアラはリュンナを押さえている。
あとひとり。
「ワシをお忘れですかな、リュンナさま」
背後、バルトスの声。
忘れてはいない。
その気合溜めを妨げる余裕がなかったのみだ。
「ヘキサ・ブラッディースクライドッ!!」
6刀流、6本のブラッディースクライド――それは、非合理的だ。
少なくともリュンナの編み出したスクライドは、全身を協調させ、力を一点に集中するから強いのだ。6等分のスクライドなど、威力が分散し過ぎて、一発一発が闇の衣を貫けない。
いや、違う、この角度は――
「がはッ、……!!!」
貫かれた。『6本の刺突剣圧を一点に集中する』ことで、その交差した一点での破壊力を飛躍的に向上させたのだ。
しかもそれは『線』から『点』への集中でもある。弱いワケがない。
右脇腹が内から弾け飛び、右腕の力が低下。
そちら側の手で相手をしていたヒュンケルが押さえられなくなり、右腕をも斬り落とされた。
「ちょっとバルトス、ヒュンケルも!」
「申し訳ない、ソアラ王妃。しかしあとで治せます――今は必要なこと!!」
バルトスやヒュンケルとてリュンナを敬愛しているにも
それだけの覚悟か。
リュンナがフラついて倒れそうによろめくころ、ダイの絶叫が響き渡る。
「目覚めろ――おれの中の竜よ!!!」
ベギラマストラッシュを
ベギラゴンストラッシュ。
「目覚めてよ!!! 父さん!!!!」
額の紋章が眩いばかりに輝き、呼応して氷の中のバランの紋章さえ輝きを増す。共鳴。
そしてストラッシュの命中と同時、氷は内外から蒸発し、吹き飛ばされた。
「ディーノ――いや、ダイ。聞こえていたぞ……お前の声が……」
「父さん……」
「私が愚かだった。私のすべきは、まずお前を抱き締めてやることだったのに……!! 自慢の息子だ、と言って!!」
バランがそれを今まさに実行し、ダイを抱き締めた。
「もう放さん……!! 国民がどれだけ反発しようとも――私とソアラとダイ!!! 家族で共に生きるぞッ!!」
「うん、父さん!! あ、でもブラスじいちゃんも一緒がいいな」
「その方は魔物だったな。ならば大魔王を斃し、世界を平和にしなくてはな……!」
ダイからもバランを抱き返し、更にソアラがふたりを包む込むように抱くさま。
「おかえりなさい。あなた」
「ああ。心配をかけたな……」
涙を堪える声、洟を啜る音さえ聞こえてきた。
リュンナは胸に一文字の傷、右脇腹が内から弾け飛び、右腕が上腕で落とされている状態。吹雪の剣も弾き飛ばされた。
魔氷気で傷を凍らせて出血を防ぎながら、竜の再生能力とベホマでダメージを癒しているが、それでも完治は遠い。
座り込む。
「良かった、良かったなあダイ……!! 本当に良かった……!!」
涙脆く泣くポップだが、言っていることは全員の代弁のようなモノだろうか。
それこそ、リュンナも含めての。
ヒュンケルが鎧の魔剣の剣部分を、鎧化した兜にバチンと嵌め込んだ。剣身が鞭めいて撓る状態へと。
「リュンナさま」
そして告げる。
「マジャスティスを受けてください。竜眼を消し去り、再び我々の世界に戻って来ていただきたいのです。
人間をお恨みかも知れませんが、心底から魔道に堕ちたワケではないでしょう? でなくば我が父を操っていたハズ。貴方にはまだ正義の心がある……!」
手を差し伸べられ――もちろん、その手を取らない。
そしてふと、ソアラが、
「そのことなのだけど……ヒュンケル」
「ああ、母さんも分かるよね」
ダイも、ヒュンケルを制止するよう、彼がリュンナに差し伸べた手を下げさせた。
「何だ……? ダイ。ソアラ王妃も……」
不思議そう。
「リュンナは、それでは来ないわ」
「うん。リュンナはハドラーが好きだから」
「そんなハズがあるか!! いくら助けられたからとて、なぜハドラー如きを……!! そんなことのために、アルキードを苦しめるのはともかく、アバン先生やベンガーナをまで攻撃したと言うのか!?」
ハドラーはどうしてこうも人望がないのだろうか。
彼のカッコいいところを、わたし以外は見ていないからか。
人望なんかなくてもいい。
「空っぽになったわたしに、中身を注いでくれた人だから」
座り込んでいたリュンナが、立ち上がる。
「放っておけない、可愛い人だから」
傷は塞がっていない。
「誰よりも頼りになる人だから」
だから体力よりも、気力で。
「ハドラーさまのために、あなたたちと。まだ」
この程度ではバーンに勝てない。
もっとだ。もっと、もっと、限界を超えて絞り出せ!
更なる高みに上り詰めろ!
わたしのハドラーのために。
莫大な魔氷気が、リュンナを中心に吹き荒れた。
「そんな――まだ戦うの……ッ!? そのダメージで!?」
マァムはリュンナの心配をした。
「本当なのですか……!? リュンナさま! 本当に、あのハドラーに心を売ってしまわれたと!?」
ヒュンケルは困惑した。
「こっ、この闘気は……!!」
クロコダインは戦慄した。
「今度は不覚は取らんぞ……! ――真魔剛竜剣がない!?」
バランは今更のように気付いた。
「あは」
リュンナは、笑って。
そして歯を食い縛り、叫んだ。
「――ド・ラ・ゴ・ラ・ム!!!!」