暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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ミスト編
93 襲来、鬼岩城


 結局ソアラが来たのは、日が暮れてからだった。

 

「ごめんなさい、間に合わなかったわね……。みんな大丈夫だった?」

「はい、姉上。大過なく」

 

 リュンナもダイもポップも、傷はない。

 ザムザと直接戦ったバランも、呪文治療で既に十分だった。

 

 姉は軽鎧に剣を携えた姿で、ブロキーナのもとに行く前と変わっていない。

 武闘家に転職したワケではなく、勇者のまま武闘家の特技のみ覚えた――といったところか。

 

 事の経緯を報告し、労い合う。

 閃華裂光拳以外にも、いくつかの技を覚えてきたらしい。

 しかもそれらの多くを、剣技として使用できる形で。

 やはりこの人は凄い人なんだなあと、改めて思うリュンナだった。

 

 その後、ロモス王から感謝され、そして世界会議(サミット)の開催が明らかとされた。

 この世界では、どの国の王家も滅びていない。8か国が揃い踏みとなる壮観な光景を拝めることだろう。

 

 そして覇者の剣は偽物だとザムザが述べていた(とバランが語った)が、実際にどうかと確かめられ――竜闘気(ドラゴニックオーラ)で燃え尽きないかどうか――見事にボロボロになった。

 が、ダイは既に『ダイの剣』を手に入れている。問題はない。

 ポップもメドローアを覚えている。他の面々も、原作の同時期よりも大きくレベルアップしているハズだ。

 

 この分なら、鬼岩城が襲って来ても勝てるだろう。

 もちろん楽観はせず、その時まで更なるレベルアップに励むワケだが。

 

 何しろ、鬼岩城は実際に来る可能性が高い。

 あれはハドラーが超魔生物に改造される時間稼ぎを頼んだ結果であり、そしてこの世界でもどうやら超魔生物に改造されつつあるようだ。

 ならば備えよう――と思えど、これ以上何を備えればいいのかは分からないが。

 

 ハドラーが超魔生物と化すことは、できれば避けたかった。あれは寿命を縮める。

 それともリュンナの血を組み込んだことで、竜の生命力により解消されるだろうか。正直、それを狙ってザボエラに血を提供した面もあるのだが……。

 

 そうなれば、勇者たちには双竜陣あり、ハドラーには超魔の力あり。

 黒の核晶(コア)を排除して結託し、バーンに反旗を翻したいところだ。

 

 

 

 

 さて、世界会議(サミット)である。

 原作では強気だったベンガーナだが、この世界ではむしろ唯一魔王軍に負けた国となってしまった。そのせいか居丈高な態度はなく、会議は順調に進んでいる気配。

 

 旗頭とするべきは竜の勇者ダイか、北の勇者ノヴァか? という論争はあるが。

 実際、ノヴァはオーザムを氷炎魔団から救い、祖国リンガイアも妖魔士団から守り抜いた実績がある。

 百獣魔団と不死騎団と超竜軍団に勝ったダイ一行と比べれば一見霞むが、ダイには多くの仲間がいるのに対し、ノヴァには同格の仲間がいない。およそひとりで戦い抜いてきた強さは本物。

 

 それを本人も自覚しているのだろう。

 

「君が勇者ダイか……。そっちは元超竜軍団長のリュンナだな。一度戦ったが……」

 

 だから会議室の外でダイと出会ったとき、ノヴァはあからさまな観察の目を向けてきた。本当にこいつが勇者ダイなのか? とばかりに。

 逆にリュンナの方は一瞥してきたのみだ。小物扱いされている気がする。人格的に小物なのはその通り。

 ダイ本人よりも先にムッとするポップを眺めつつ、ノヴァは堂々と名乗る。

 

「僕はノヴァ。人呼んで『北の勇者』……!」

「あっ、おれ聞いたことある! オーザムやリンガイアを守ったんだよね?」

「知っていたか。――フッ」

 

 ノヴァは思わずといった顔で笑う。

 そして何の皮肉も含まぬ、素直な声音で続けた。

 

「光栄だな……! 君ほどの勇者に名前を知られていたとは」

「おれほどのって……」

「おう、そうだろうよ! ダイはなあ、ロモス、パプニカに続いてアルキードをも――」

 

 ポップが勢い込んで述べる。まるで自分のことのように自慢げだ。

 ダイはそれに困った顔を浮かべ、ノヴァも苦笑した。

 

「そういう意味じゃない……。実際に会うのは初めてなんだ、口では何とでも言える」

「何だとォ!?」

「ただ、一目見て実力は分かった! いや……正確には、底知れなくて分からないほど強い、ということがね。僕は自分の感覚を信じている。その感覚が言ってるんだ、ダイ、君は本物だと」

 

 このノヴァは、恐らく原作より大幅にレベルアップしている。

 特にフレイザードを倒したことが大きいのだろう。その後もリンガイアを守る戦いにも参加し続けた。相手は超竜軍団ではなく妖魔士団だったが、とにかく経験を多く積む機会があったのだ。

 そして強者は強者を知る。

 ダイの強さを測れるだけの物差しを、ノヴァは手に入れていた。

 

「今――会議室では、僕かダイか、どっちを中核にするべきか話し合っているハズだ」

 

 防音が施された部屋から、会話は漏れ聞こえて来ない。

 だが彼は確信を滲ませて述べた。

 

「勇者の名のもとに、力と心をひとつに束ねる必要があるからだ。勇者のような猛者は何人いてもいいが、その意味で、真の勇者はひとりでなきゃいけない……! だからダイ! 僕と勝負してくれ」

「ええっ!?」

 

 ダイ一行の驚きをモノともせず、ノヴァは指を突きつけた。

 

「誰が真の勇者かなんて、当事者以外がどれだけ話し合ったって決まるもんじゃない。僕たちが直接雌雄を決する! それが最も手っ取り早い。そうは思わないか?」

「みんなを束ねるんなら、そのみんなに認められるっていうのは、強さより重要なんじゃないかな」

 

 ダイがあっけらかんと正論を述べる。

 だがノヴァは怯まない。

 

「一理ある。しかし――」

 

 そのときだった。

 ゴウウウウン――あまりにも重い、遠雷めいた、しかし地の底から響くような音。

 それはしかも一定の間隔で、段々と近付いてくるようでもある。

 

 すわ何事かと、会議室の内も外も、皆が窓の向こう――パプニカ南海の方角を見る。

 天を突くような岩の巨人が、海を歩いてきていた。

 停泊していた船を軽く拾い上げ、握り潰しながら。

 

「きっ――鬼岩城!!」

 

 クロコダインが呻く。

 皆の視線が集中した。

 

「魔王軍の基地だ。ギルドメイン山脈に、歩いていった跡があったが――本当にそうして移動するとは……!! この目で見てもまだ信じられんっ!」

「ということは、間違いなく魔王軍の攻撃! ダイ――」

「うん、ノヴァ。勝負はあとだっ!」

 

 勇者たちは巨人を討つべく飛び出していった。

 ベンガーナの戦車隊はない――ベンガーナ王にそういった示威の意思がないからだ。

 いや、最低限の戦車は船に積んでいたのだが、それも今、船ごと引っ繰り返されてしまった。

 

 まずはトベルーラを使える者たちが飛び立つ。ダイ、ポップ、ノヴァ。彼らに掴まる形で、ヒュンケルとマァム。

 マトリフは「疲れた」と言って、元から来ていない。竜騎衆はアルキードを守っている。

 次いでソアラとバランも飛び立とうと――

 

「ってちょっと姉上! バランも! どっちかはここに残って王さまたちを護衛してくださいよ!!」

 

 自分も飛んでいこうとしたリュンナだが、その前に指摘せざるを得なかった。止まる。

 バランは渋った。

 

「しかし……!」

「姉上と離れたくないとでも?」

「……」

 

 戦場で離れるのは心配なのだろう。

 然もありなん。

 

「じゃあふたりでここですね」

「お前は?」

「そりゃ行きますよ」

「仕方ない」

 

 ザムザの謀略を潰すことに一役買ったため、扱いは一段良くなっているのだ。

 ある程度の自由が認められつつある。

 

 ともあれ、そういうことになった。

 そしてリュンナはクロコダインとバルトスを抱えて飛んでいく。

 

「どうしてわたしだけふたりも……!! 軍団長時代もウチだけ2か国だったんですよ!?」

「ぬう……」

「すまぬ、リュンナさま……」

 

 ともあれ、戦場だ。

 先行した勇者たちの攻撃によって、リュンナが到着する頃には、既に岩の覆いは剥がれていた。無数の砲門を備えた城の様相が露。

 

「世界の指導者たちよ……」

 

 不気味な声が響く。

 それは名乗った――魔影軍団長ミストバーン、と。

 そして突きつけた。

 

「命令する――死ね」

 

 人間どもには一片の存在価値もなく、大魔王バーンの大望を汚す害虫に過ぎぬ、と。

 極まったバーン信者であるミストからすれば、それはそうだろう。リュンナは平然と受け止めた。

 しかし勇者たちの中には、怒りでより奮起する者もいるようだ。

 

「ちくしょう……!! 何さまのつもりだああーーーッッ!!」

 

 飛ぶポップが鬼岩城の頭上を取る。

 そして左右の手に、それぞれメラ系とヒャド系の魔法力を灯し――合成して――

 

「メドローア!!!!」

 

 巨人の頭頂から股下までを、光が貫通した。

 結果、文字通りの風穴が開いて、それで鬼岩城の動きは中途半端なところで止まり――しかし立ち続けるだけのバランスは取った。

 動力源を破壊したというよりは、操縦者がいなくなったような雰囲気。

 

 これは――まさか、ミストバーンが死んだか?

 


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