暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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95 超魔ハドラー その1

 ミストバーンの苛烈な反撃を受け、そうして闇の衣が剥がれたところにマホトーンをも受けた。

 あまつさえソアラに抱き締められ拘束されている。どう動こうとも、動きの起こりを察知され潰されてしまう形。

 出来るのは、残してきた鷹の目の視点を窺うのみだ。

 

「ソアラ、頼んだ」

「ええ」

 

 バランが飛び出していった。

 パプニカ南海にて立ったまま沈黙する鬼岩城へ――その顔の前辺りの空中で、ハドラーと対峙するダイたちのもとへ。

 

 リュンナは息を荒げた。

 

「放してください、姉上……! ハドラーを奪って来いって、父上は言ったんですよ!」

「今のあなたじゃ無理よ。奪い返されるだけだわ。それを認めるワケには行かないの」

 

 ハドラーは蘇ってきた。言葉を交わす暇もなかった。

 超魔生物への改造を受けたことは、寿命が縮まるという点では良くないものの、肉体がバーンの眷属でなくなった点では歓迎できる。寿命も策は講じてある。そこはいい。

 だが黒の核晶(コア)は健在だ。いよいよ以て活性化し、胎動しているだろう。ハドラーもそれは分かっていたハズ。それでも改造を受けたのか。

 

 今、突然バーンが核晶(コア)を起爆して全てを吹き飛ばす――それの可能性は、およそ半々といったところか。

 

 彼は強者を好む。ハドラーの覇気を気に入っている節がある。

 ハドラーが命を捨ててまで強さを求めて、その通りに手に入れたなら、とりあえずは引き続き運用しようとするだろう。

 

 つまりミストバーンが追い詰められてもバーンが助けに来なかったのは、こうしてハドラーが来るから。

 そうなれば、最悪、ハドラーの核晶(コア)で全てをご破算にする。それに自分が巻き込まれないために。

 

 爆発を防ぐには――ダイたちに加減してもらう方法はないか。

 そう思いながら、鷹の目でハドラーたちの様子を。

 

 ダイ、ポップ、ノヴァに加えてバランが到着。全員が飛行可能。空中戦だ。

 バランがポップに魔法の聖水を投げた。メドローアを撃つ分を回復させる気か。そしてダイと紋章を共鳴させ、双竜陣に入っていく。

 

 ポップは魔法の聖水をがぶ飲みし、ノヴァがその護衛につく。

 前衛を務めるのはダイとバラン。双竜陣状態においては、それぞれが双竜紋相当のレベルであるとリュンナは見ている。それがふたり。

 いくら超魔ハドラーでも勝てるワケがない。

 

「リュンナはとうにアルキード王国のモノではない! 返してもらうぞッ!!」

「だからと言って、魔王軍に与していいことにはならん!」

「そもそもリュンナはモノじゃないよ!!」

 

 13年間のブランクでリュンナに惨敗した経験からか、バランは余計なプライドを失っていた。鍛え直した今となっても、最初からダイとふたりがかりで戦う構え。

 大柄なバランがハドラーに突っ込み、小柄なダイがその陰から隙を狙っていく。

 

 ハドラーの左腕が、金属的な衝撃音を響かせて真魔剛竜剣を受け止めた。

 

「なに!?」

「ふんっ!!」

 

 そのままハドラーはバランを剣ごと殴り飛ばし、後続のダイにぶつけてその動きを一瞬止める。

 

「イオラ!!」

 

 続いて両手でイオラの連発。

 竜闘気(ドラゴニックオーラ)に並の呪文は効かない――だが、

 

「うおっ!?」

「うわああ!!」

 

 爆熱の嵐が、(ドラゴン)の騎士たちに確かなダメージを与えていく。

 親子は衝撃に後退を余儀なくされる。

 

 鷹の目越しにも分かる。

 魔炎気だ。炎の暗黒闘気。炎熱系魔法力と暗黒闘気の合成――これを純粋な魔法力の代わりに、呪文に注ぎ込んでいる。魔法力耐性を半ば貫通する性質。

 最早『並の呪文』ではないのだ。

 

 なお、魔氷気を使おうという気配はない。

 リュンナの血を組み込んだとは言え、使ったところで、もともと適性のある炎属性ほど強力なモノにはならないからだろう。

 

「バカな! ハドラー如きがこうまで……!?」

「たぶん、超魔生物だ……!! それより今は反撃しよう、父さんっ!!」

 

 ダイが構えを取った。

 ハドラーも既に、炎熱のアーチを掲げる構えを取っていた。

 

「アバンストラッシュ!!!」

「ベギラゴンッ!!」

 

 ストラッシュ(アロー)の剣圧が、ベギラゴンを斬り裂き――それで威力のほとんどを消耗した。

 一方で上下に分かたれたベギラゴンは、その余波のみですら(ドラゴン)の親子を炙る威力。

 しかしその熱気を突っ切って、バランが前に出る。

 

「腕に何か仕込んでいるようだが! (ドラゴン)の騎士最強の秘剣を前にして、防ぎ切れるモノではあるまい!!」

 

 前進飛翔の最中、ギガデインを剣が受ける。

 雷光と竜闘気(ドラゴニックオーラ)が合成されていく。

 

「確かに、仕込んだモノのみでは防ぎ切れん。しかし……!!」

 

 ハドラーの左腕から、不意に(つか)が飛び出てきた。

 彼はそれを右手で掴み、一気に引き抜く。

 暗黒闘気による空間歪曲を利用しているのか、明らかに腕よりも長い刃が現れた。

 

「覇者の剣……!!」

「武術大会の賞品の本物か! オリハルコンの剣!!」

 

 ハドラーは覇者の剣を、両手で握る。

 リュンナが瞑想や剣術を教えたこともあった。それが今、リュンナの血すら改造に取り込んだ超魔生物と化したことで、完全に花開いたのか。

 美しい構えだった。

 そして剣が、激しい魔炎気を纏う。

 

「そうか……! 魔炎気をオリハルコンの剣に伝わらせて戦えば、魔法剣と威力は変わらん……!!」

「そういうことだ。行くぞバランッ!!」

 

 ギガデインオーラを纏う剣の振り下ろし。

 魔炎気を纏う剣の薙ぎ払い。

 

「ギガブレイクッ!!」

「超魔爆炎覇ッ!!」

 

 激突――大爆発。

 

 武器は互角。

 闘気と魔法力の位階はバランが上。

 だが合成闘気の総量と、本体の『ちから』はハドラーが上だった。

 

 ハドラーは左肩を粉砕され、その場に。

 バランは胴を半ばまで断たれつつ全身を黒焦げにされ、落ちた。

 

「げえっ!! ダイの親父さん……!!」

「おいポップ、逃げろ! 僕もバラン王を助けてすぐに――」

 

 ポップとノヴァが動揺する中、しかしダイのみが、いっそドライなほど冷静に戦況を見ていた。

 彼には分かっていたのか――バランが落ちると。

 リュンナの目にはそう見えた。少なくとも、そう思うほどに、彼の行動は迅速だった。

 

 バランのギガブレイクから一拍遅れて、

 

「ギガブレイク!!!」

 

 既に準備されていたダイのギガブレイクが、ハドラーを抉った。既にひとりでギガデインを使えるダイだ。

 超魔爆炎覇の直後、再び相殺するには溜めが間に合わない。

 それでも彼は剣で受け――バランにつけられた左肩の傷が、更に深く。

 そのまま鍔迫り合いへ。

 

「流石は勇者ダイ!! 幾度もこのハドラーを退けてきた、未だ実力の底が見えぬ戦の化身よ」

「ハドラー……!! リュンナに悪いことを、おれはさせたくない……! リュンナだっておれの家族なんだ!」

 

 ダイの紋章が明滅する。

 バランが落ちたことで、双竜陣が切れかかっているのだ。

 むしろ未だ切れていないだけ、戦闘不能となってなおバランが意識と気力を振り絞っている証拠だろう。

 

 ハドラーは淡々と返す。

 

「そのために、再び俺を殺すか? 超魔生物と化した俺は、今度こそ蘇れんが……」

「くっ……!!」

 

 ダイは動揺はしなかったが、明らかに迷った。

 その一瞬でハドラーはメラゾーマを唱え、ダイを焼いて怯ませる。

 一瞬の隙。蹴りでダイを突き放した。

 

「もらった!!」

 

 覇者の剣が振り下ろされ――止まった。

 

「ノーザン・ステラブレードッ! ほんの一瞬なら……僕でも!」

「小賢しいわっ!!」

 

 ノヴァの光の闘気がハドラーを捉え、それはすぐに振り払われるが、ダイが斬撃から逃れるには充分だった。

 あまつさえ、

 

「空裂斬!!」

「ぬっ、……!!」

 

 持続していたトベルーラの魔法力を撃ち抜かれたハドラーは、ガクンと高度を落とす。

 すぐに復帰はするが、それは、もう一拍の時間、そこに留まってしまうことだった。

 

「メドローア!!!」

 

 消滅の光の矢が迫る。

 

「やった! これはもうかわせねえ……!!」

 

 トベルーラはかけ直す瞬間。

 肩のスラスターは左が粉砕されている。

 ハドラーの飛行は不全だった。

 

 当たると思った。

 リュンナも、絶望に胸を締め付けられた――

 

「ドラゴラム」

 

 ――ハドラーが人竜の様相に、瞬時にして変容するまでは。

 

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