暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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96 超魔ハドラー その2

 超魔生物と化したハドラーはもともと異形だから、人竜の様相とは言え、リュンナのそれよりも更に人からかけ離れている。胴体から頭部と四肢が生えている、という基本部分のシルエットが人型であるというのみだ。

 加えて翼と尾。

 

 その翼は飛行能力を増大する。

 トベルーラもスラスターも不全でも、竜翼のみですら圧倒的飛行能力を発揮した。

 

 気付けばハドラーは、ダイの背後を取っていた。

 それはメドローアから逃れつつ、死角に入り込む位置取り。

 必殺の間合を外したことで、同時に意識の死角ですらある。

 

「超魔爆炎覇ッッ!!!」

 

 そして溜めが速過ぎる。

 ダイは振り向くことすらできず、一撃を受けた。

 ついに双竜陣の輝きが陰り、ひとり分の紋章の力のみが残る――吹き飛び、墜落へ。

 

「ダイーーーーッ!!」

「ダイッ!!」

 

 ポップとノヴァが叫び、助けに飛ぶ。

 ハドラーは、ダイも彼らも、どちらも追わなかった。

 

「クッ……。本当に流石だ、ダイ。あの間合から反撃するとは……」

 

 ハドラーの胴に、深く抉られ貫通した傷があった。

 ダイには振り向く間すらなかった。だから咄嗟にアバンストラッシュの構えを取ったのだ。右逆手の剣を、身を捻り大きく振り被る――その動作で、背後のハドラーを突き刺した。

 

 竜闘気(ドラゴニックオーラ)を集中して一瞬に爆発させたことで、再生が遅く、魔炎気もかなりの程度が吹き飛ばされて弱まっている様子。

 上下半身が分断されそうなほどだ。

 

「しかし、諦めて帰るワケにはいかん。リュンナを取り戻さねば……。俺の民を、俺の手に……!!」

 

 わたしを。そうまで。

 

 双竜陣を得た今、リュンナとしては反撃の準備が整いつつある。ハドラーもそれは把握しているハズ。

 だが胸の中に黒の核晶(コア)がある以上、ハドラーは堂々と裏切ってこちら側に来ることは出来ない。

 それ故の、疑いもせずにバーンに従っているというポーズのための戦いだと思っていた。

 

 違うのか。

 まるで、後先を考えずに、ただ。

 

 リュンナは重い体を引き摺ってでも飛ぼうとして、相変わらず押さえられた。

 ハドラーからは遠くて見えない、パプニカ大礼拝堂でのこと。

 ここだと伝えたいのに、鷹の目はただ見るのみだ。

 

 ハドラーはポップを追おうと飛んだ。

 リュンナをバシルーラで飛ばしたのは彼だから、彼を捕まえて飛ばし先を聞き出そうと思ったのだろう。

 だがそれを阻むモノがある。

 

「獣王痛恨撃!!」

 

 この世界ではバダックの前で使う機会がなく、ずっと痛恨撃のままの、クロコダインの闘気渦。

 地上から放たれたそれが空中のハドラーを捕え――あえなく打ち払われる間際、もう片腕からも闘気渦が飛ぶ。逆回転。ハドラーはまるで人に弄ばれるアリめいて、腹の部分で捻じり切られた。ダイのストラッシュの傷口から裂けたのだ。

 オリハルコンですらそうして破壊する威力なのだ、然もありなん。

 

「――獣王激烈掌!!!」

「ぐおおおおお……!!?」

 

 如何な超魔生物の再生能力でも、半身を欠損してはすぐには治らない。

 飛行のバランスが崩れ、錐揉み回転して天地上下を見失う様子。

 

 そこに地上班の更なる攻撃が飛んだ。

 ヒュンケルのグランドクルス、バルトスのヘキサ・ブラッディースクライド、マァムの槍アバンストラッシュ。

 まるで容赦がない。

 それでもハドラーは魔炎気を全開にして防御し、ボロボロになりながらも生き残るありさま。千切れた下半身は消し飛びつつも。

 

「しっかりしろ! ダイ!!」

 

 一方、ポップはダイを、ノヴァはバランを救助していた。

 どちらもまともに応える体力もなさそうだが。

 

「邪魔をするな、有象無象どもッ! 大人しくしておれば放っておいても良かったモノを!」

 

 上半身のみのハドラーは、覇者の剣を仕舞った。

 右手で持ち、左腕の中へと差し込む形。内部に空間の歪みが感じられる。

 

 そして左右の手を繋ぐ炎熱のアーチを掲げた。

 圧縮し、放つ。

 

「ベギラゴンッ!!」

 

 それはこれまで見てきたモノではまるで比にならぬ、まさに最強のベギラゴン。

 極大の閃熱は地上を薙ぎ払い、傍らに立ち続けていた鬼岩城すら爆炎に煽られて、半ば以上が焦げカスと化して海に倒れ込む始末。

 

 地上班は――無事とは、言えない。

 マァムの闘気盾(オーラシールド)も、クロコダインの鋼鉄の肉体も貫かれ、鷹の目で見ても一瞬焼死体かと思ったほど。

 呪文が効かない鎧の魔剣を纏っているハズのヒュンケルでさえ、僅かな隙間から熱に侵入されたのか、膝をつく様子。

 バルトスはその背後に庇われていた。それでなおピクピクと動く程度が関の山か。

 

 そしてポップが、ハドラーの頭上を取っていた。

 ルーラか。

 ダイを抱えたままに。

 

「貴様、ポップ……!!」

「テメエにもくれてやるぜ、この呪文を!!」

 

 ハドラーは再び覇者の剣を繰り出してポップを貫こうと近付き、

 

「バシルーラ!!!」

 

 そこに撃たれた追放呪文をまともに受け、彼方に飛ばされた。

 

 最善の判断だ、と言えよう。

 まさか胴体を抉られ捻じり切られ、上半身のみになってなお、たったひとりで敵を圧倒する――そんな化物をまともに正面から相手取れるワケがない。

 

 バシルーラは本来格上に通るような呪文ではないが、それでも弱っている今ならば、と考えたのだろう。

 そして確かに、ハドラーは弱っていた。あれで弱っていたのだ。

 

 しばらく、ポップは警戒を続けた。

 

「戻って来ねえ――な。そこまでの余力は流石になかったか……。おい皆、生きてるよな!? 助けを呼んでくる!」

 

 ポップはルーラで世界会議(サミット)を開催していたパプニカ大礼拝堂へ、回復呪文の使い手たちを呼びに飛んだ。

 そして鷹の目で追ったところ、更に国外へルーラ――間もなく、ベルベルとリバストを連れて戻ってきた。

 

 鬼岩城は上陸前に止められたため、民間の犠牲者はいない。停泊していて鬼岩城に粉砕された船の乗組員も、多くは咄嗟に海へ逃げて助かったらしい。

 だが勇者のパーティーには重傷者が多かった。

 

 マァム、クロコダインは全身大火傷。

 ヒュンケルはそれよりは軽傷。

 バルトスも焼けたが、庇われた上、ヒュンケルの暗黒闘気で回復しやすいため、すぐに復帰できるようだが。アンデッドの強み。

 ダイとバランは超魔爆炎覇のダメージで黒焦げ。

 

 リュンナは闘魔最終掌で胴と両腕を貫かれている。

 それを見てベルベルは取り乱し、リバストは神に祈った。

 

 とは言え誰も彼も、治る傷だ。

 

 だからリュンナにとっての問題はダメージよりも、今後どうするのか、だった。

 つまりハドラーと合流しつつ、ダイたちとも協力してバーンと戦う流れに持っていくには。

 

 超魔ハドラーは想像を遥かに超えて強かった。更に双竜陣も手札にある今、バーンにも勝てるハズだ。

 それでも不安になるのは、リュンナがそのレベルアップに最早置いていかれつつあるからだろうか。

 状況が自分の手から離れることが怖いのか。

 それとも結局はバーンの底が見えたワケではないからか。

 

 原作ではこの後、魔王軍の本拠地のある死の大地へと突入し、一転攻勢をかけるべきだと世界会議(サミット)は進む。

 この世界ではどうなるのか分からないが、どちらにせよノンビリとはできない。

 せっかくここまで、どの国も滅ばないようにしてきたのだ。ピラァ・オブ・バーンによる空襲を赦すワケには行かない。

 

 死の大地に乗り込み、そこで決着をつける――そのために、短期間での劇的なレベルアップが欲しい。

 そもそも竜眼自体が劇的なレベルアップそのものなのに、これ以上どうやって。

 

 原作でバーンが鬼眼王と化したように、自分自身を竜眼の魔力で進化させるか。

 できるか? 二度と戻れないのに、それだけの覚悟があるか。

 ハドラーのためならとは思うが、もし魔獣の姿を拒まれたら……。いや、十中八九ないだろうが……。

 

 リュンナは瞑想した。

 瞑想して、ずっと考えた。

 治療されている間も、終わってからも。

 ずっと。

 

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