暗黒の勇者姫/竜眼姫   作:液体クラゲ

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97 魔影参謀ミストバーン その2

 世界会議(サミット)の流れは、最終的に原作通りに進んだらしい。

 

 あの後、ノヴァはダイの力を認め、彼こそを旗頭にすべきと進言。それが受け容れられ、世界は勇者ダイの名のもとに一致団結することになった。

 

 また、クロコダインの「以前、死の大地へと向かう鬼岩城の足跡を見た」証言、及びメルルの占術から、魔王軍の本拠地が死の大地であると判明。

 一転攻勢に移ってそこへ乗り込み、一気に決着をつけてしまうべきとの論が賛同を得る。

 

 具体的には各国が力を結集して戦艦を建造、勇者たちを送り込む足とするのだ。

 道中に戦闘があれば、それは軍艦の兵装で行い、勇者たちの力を温存する策である。

 建造完了まで、勇者たちは回復と更なるレベルアップに努めた。

 

 しかし遂に建造が完了して勇者たちが集うその日、港は襲撃され、船は破壊された――白衣の悪魔と4体のオリハルコン生命体によって。

 

「ミストバーン! ――は分かるけど、他のはいったい何だよ!? あの姿は……!?」

 

 勇者たちのうち、トベルーラで先行したメンバーがその地に下り立つ。

 ダイ、ポップ、ノヴァ、リュンナ、バランとソアラ。

 そして見た。完全に回復したと思しきミストバーンと、全身銀色の金属の塊のような人型たちを。

 

 リュンナにはすぐに分かった。

 親衛騎団――ヒム、シグマ、フェンブレン、ブロック。だが様子がおかしい。

 全員がほぼ無言――操り人形というよりは、どこか陰鬱で刺々しい雰囲気がある。

 港の作業員や戦士たちを殺すより甚振ることを目的とするそのさまも、鬱憤晴らし、という言葉を連想させた。騎士道精神が感じられない。

 アルビナスの姿もない。

 

 ポップが勇んで前に出る。

 

「てめえミストバーン! この間は鬼岩城で、次は妙な金属人形! 手を変え品を変えて来るけどよ、俺のメドローアには敵わねえのを忘れたのかよ!」

「……」

 

 ミストバーンは沈黙。

 しかし聞いてはいるらしく、猛るポップに向かって半歩前に出た。

 

 その足音がやけに重い。

 体格からすれば、人間や魔族ならばもっと軽い足音のハズだ。

 中身が違う?

 

 ミストバーンは手振りで、親衛騎団に合図を出した。

 剣呑な雰囲気ではない。それを受けて、4体が名乗りを上げていく――「名乗れ」の合図だったか。

 

兵士(ポーン)、ヒム」

騎士(ナイト)、シグマ」

僧正(ビショップ)、フェンブレン」

「ブローム」

 

 淡々を通り越して陰鬱な声音だった。

 ブロームとの発声を受けて、ヒムが「おっと」とこぼす。

 

「こいつは喋れねえんだったな。城兵(ルック)、ブロックだ。

 そしてこの名乗りで分かったと思うが、俺たちはチェスの駒から禁呪法で作られた金属生命体……。オリハルコンの駒から生まれた、オリハルコンの戦士。バーン親衛騎団だ」

 

「はあっ……!?」

 

 リュンナは思わず声を上げて驚いた。

 ハドラー親衛騎団ではないのか。

 

「どうしたの!?」

 

 ダイが心配そうに聞いてきた。

 胸に手を当て、呼吸を落ち着けていく。

 

「い、いえ……。特には。おばちゃんのことは気にしなくていいです」

「そう……?」

「そうだな……!」

 

 ノヴァが剣を抜いた。

 

「敵が何であれ、戦って倒すだけだ! そして6対5か……。ちょうどいいな」

「はい。ひとりで1体を押さえ、纏めたところにポップくんのメドローアを。ただわたしの竜眼によると、あれは呪文を反射する装備を持っています」

 

 シグマを指し示して述べる。

 原作知識を前提に探ってみると、実際、そういう気配があったのだ。

 

 オリハルコンの騎士(ナイト)は不機嫌そうに唸った。

 

「厄介な……」

「ふん、知ってることと対処できることは違うだろうぜ」

「そうだな。で……誰がどいつをやる?」

 

 親衛騎団が物色の目。

 一方、勇者たちもそれは同じか。

 リュンナが述べる。

 

「オリハルコンの身に、並の呪文は効かないでしょう。その意味では、最も与しやすい相手はミストバーンです――彼の中身もオリハルコンでなければですけど」

「貴様……ッ!!」

 

 ミストバーンが怒気も露に声を漏らした――その声は、しかし、従来のミストバーンの声ではなかった。

 女だ。

 

「な、何だ!? 今、ミストバーンが喋ったんじゃないのかっ!?」

「中身が違う……? 新しい敵がミストバーンのフリをしてやがったのかよ?」

 

 驚くダイとポップ。

 

 ミストバーンは拳を握って震えた。

 それは怒りか、屈辱か。

 

 そしてリュンナの指摘。

 

「チェスと言いながら、女王(クイーン)の駒がいない……。大方、ミストバーンの中身はそれでしょうね。魔影軍団長ってことを考えても、恐らく奴の正体は実体を持たない霊体か、ガス状の魔物の類……! 他者の肉体を乗っ取って活動するタイプと見ました。

 そして鬼岩城を破壊され自らも負けた先日の一件で、処分を受けたんでしょう。格落ちする別の肉体に着替えさせられたんです。

 どうですか、ミストバーン。合ってます?」

 

「リュンナアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 咆哮。図星か。

 

 しかし、それはつまり――真バーンの降臨は避けられない、もしくは既に降臨している、ということだ。

 ミストバーンがミストアルビナスと化したなら、若バーンの肉体は老バーンに返還されているハズ。ミストバーンを斃すことで真バーン降臨を阻止することは、もうできない。

 

 千載一遇の機会だった。

 あの時――ポップが既にメドローアを覚えていたとは言え、あまりにもピンポイントにミストバーンのいる位置に撃つとは思っていなかった。何となれば、鬼岩城内部での彼の正確な位置など、誰も把握していなかったのだから。

 ポップも狙ったワケではない。偶然だった。偶然が、運命を、命運をも破壊したのだ。

 

 ならば、あとは祈るしかない。

 若バーンは2発のメドローアを受け、右の手足を喪失していた。それがすぐには治らないことを、その前にバーンを斃せるように、どうか神よと祈るしかなかった。

 

 ともあれ今は、ミストバーンと親衛騎団だ。

 ハドラー親衛騎団ならぬ、バーン親衛騎団。その名の通り、バーンの親衛戦力としてのミストバーンに与えられた手駒か。

 凍れる時間(とき)の秘法も解けた以上、最早バーンがミストに肉体を預けておく意味はなかろう。だから代わりの肉体と、その分の戦力ダウンを補う手駒を。

 

 さて、ミストバーンは一旦は激昂したが、やがてそれは懺悔と謝罪に変わっていた。相手はもちろんバーンだ。

 

「どうしたんです、ミストバーン。かかって来ないんですか? 女王(クイーン)の駒の名前でも考えてるんです?」

「……貴様は確実に殺す!!」

 

 リュンナに煽られ、結局は突貫してきた。

 合わせて親衛騎団4人も、ダイたちも動く。

 

 シグマがポップを狙い、ダイが阻んだ。

 この場で最も剛力に優れるバランが、パワー型と思しきブロックを押さえに行く。

 ヒムとノヴァがぶつかり合う。

 フェンブレンが地面に潜り――

 

「土竜昇破剣!!」

 

 ソアラが足元に剣を突き立て、大地へと剣圧を送り込んだ。広がる剣圧によって大地が寸断され、噴火めいて噴き上がる。

 その中にフェンブレンがいた。

 

「うおおおっ!?」

「空裂斬!」

 

 ソアラは剣を跳ね上げ、空裂斬へと繋ぐ。

 本来は『剣を鞘に収め、目を閉じて瞑想に入る』ことが予備動作として必要なハズだが、それを省けるこの技量。

 武神流で何かコツでも掴んだのか。

 

 だがその光の闘気は、フェンブレンの表面で跳ねて逸れた。

 全身の8割が刃物という性質。曲面が多く、真っ直ぐに突くことが難しいようだ。

 

「おのれ人間! ワシを舐めおって!」

 

 フェンブレンがソアラに突撃していく。

 その脇で、ノヴァとヒムが近い間合の斬り殴り合い。

 

「俺の体に傷をつけるとは……!」

「我が闘気剣(オーラブレード)は、伝説級の武器にも引けを取らないということだ!」

 

 メドローア使いのポップを執拗に狙うシグマに対し、ダイは逆にその動きを読んで効率的に攻撃を置いていく。

 ダイ自身がシグマに狙われていない以上、攻撃を阻害されることもない。

 

「大丈夫か、ポップ!?」

「って言いながら、半分俺を囮にしてねえか!? いいけどよ!」

「くっ、例の呪文を撃たせるワケには……!」

 

 一方でバランは、小手調べなのか、ギガデインから位階を落としたライデインの魔法剣でブロックを削っていく。

 その剣術と素早さに、ブロックはついていけない様子。

 

「ブローム……!」

「確かにオリハルコンの体だが――それだけだな。大したことはない」

 

 そう、この親衛騎団、別に大したことがない。

 もちろんそれぞれ強者ではあるのだが、個々での戦いに集中していて、チームワークを取ろうとしないのもある。

 

「リュンナ! おのれリュンナああああ!!! 貴様さえ、貴様さえ……!! ハドラーのオモチャだけやっていれば良かったものを!!」

 

 何しろ大将のミストバーンがこのありさまだ。

 激昂のあまり、味方を指揮しない。そもそも『何千年もひとりでバーンを守ってきた』自負からなのか、連携というモノを重視していないのかも知れない。

 禁呪法を使ったのがミスト自身であれば、その気質が影響して、親衛騎団が個人戦闘に走るのも然もありなん、というところ。

 

「ハドラーにオモチャにされるなら嬉しいですけどね。あ、あなたはバーンのオモチャなんですか?」

「オモチャなどであるものか!! 私は、私こそがバーンさまの! 誰よりも……!!」

 

 高速で伸びる鋼の爪――ビュートデストリンガー。

 高速ではあるのだが、リュンナに斬り払えないレベルでは到底ない。

 

 爪を伸ばし刃に変えたデストリンガー・ブレード。

 魔神斬りを擁するリュンナに敵うほどの剣術技量がない。

 

 闘魔傀儡掌、或いは滅砕陣。

 闇の衣を打ち破れない。

 

 ミストバーンの攻めは苛烈だが、最早リュンナのレベルに届いていない。

 (ひのき)の棒を芯にした闘気剣(オーラブレード)と、布の服――そんな最低限の装備のリュンナに。

 闘気剣(オーラブレード)を前提にするなら、吹雪の剣よりも、この方が軽く振れて素早く強いと気付いた。

 

「――闘魔最終掌!!!」

 

 暗黒闘気を限界まで集約させた右手で掴みかかってきた。

 破れかぶれに過ぎる。

 

 魔神斬り・破。殺気で最終掌の矛先を誘導、実体はそれを避ける形で踏み込んだ。虚空を貫く最終掌を掻い潜り、懐。

 闘気剣(オーラブレード)を胸に突き立てる――中央やや左、心臓の位置。(コア)を貫いた手応え。

 アルビナスは可哀想だが、『親』がハドラーでなかった時点で諦めてもらう。丁寧にミストの憑依を解いて救うほどの相手ではないし、ミストが『親』ならその意味もない。

 

凍結封印呪文(ヒャドカトール)

「ううッ、……!!」

 

 あまつさえミストごと氷漬け。呪いの氷はそれ自体がひとつの結界であり、物理を超えて対象を捕え封じる。凍れる時間(とき)のミストバーンですら例外ではなかったのだ、ミストアルビナスなど物の数ではない。

 封印――そうして確実に空の技でトドメを刺してもらう算段。空の技そのものはリュンナも使えるが、闇の者にはやはり光の闘気の方が効く。

 アルビナスが爆発するどさくさで逃がしたりはしない。封印は爆発も抑えるのだ。

 

 ブロックが外殻を脱ぎ捨ててスリムな本体を露出、走ってくるのが横目に見える。

 キャスリングの力か。速い。知覚は辛うじてできても反応できない――しかしバランのギガデインが撃ち抜いた。

 如何なオリハルコンとは言え、(ドラゴン)の騎士の雷撃呪文には威力でも速度でも敵わないらしい。ブロックは粉々に砕け散った。それでも外殻を纏っていれば、まだもう少しは耐えられたろうに。

 

 均衡は崩れた。終わりだ。

 

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