僕がどのようにして6つの分霊箱を作るに至ったか。すなわち、なぜ僕が7という数に固執したか。

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 リハビリです。即興で書きました。相棒はキンキンに冷やしたアブソルートと塩です。

 セクシャルマイノリティに対して差別的な発言、思想が含まれています。しかし、賢明な読者の皆さんが理解してらっしゃるとおり、これは作中の人物が差別的思想を抱えているのであって、ヘイトスピーチを目的とした作品ではありません。




「7という数は、いちばん強い魔法数字ではないですか」

 

 

 ホラス・スラグホーンにそう問いかけたが、たとえ7より強い数があったとしても、僕は7を選ぶだろう。

 

 数占いのセプティマ・ベクトルに言わせれば、7は極めて強い男性性を帯びており、処女性と自然発生性に結びつけられ、生命と身体を象徴している。分霊箱――そう、命の錨を作るにあたっては、7が最適であることに間違いはない。

 

 わかっている。たとえ不死を得られるとはいえ、いくつもに魂を分断すれば、存在は希薄になり、ひょっとしたら魔法の行使にも支障が出るかもしれない。分霊箱を全て破壊され、そしてとどめを刺されたあと、ゴーストとして残ることすらできないだろう。

 

 それでも、僕は7がほしかった。

 

 数占いでは当然O、優を取った。それも一番の成績だっただろう。極めて論理的で、非常に伝統的なこの学問は、僕に適していた。そして、だからこそ、授業中に算出された値は、僕にとって受け入れがたいものだった。

 

 僕は7と8が欠如している存在だ。生年月日、名前、誕生した地域とその星座、魔法的性質、あらゆる点で7と8の両方が欠如している。

 

 8、8はどうでもいい。8は愛と友情の数だ。そんなものは求めていないし、むしろ僕が極めて純粋であることを示している。8の欠落によって僕は純粋であることができる。

 

 しかし、7の欠如は許すことができなかった。

 

 生命と連関する7の欠如。これは解釈次第で素晴らしい捉え方をすることができる。僕は偉大で、かつ死をも超越した魔法使いにならねばならない。そのためには、生命などという煩わしいものが欠落しているのはむしろ喜ばしいと思うべきだ。

 

 処女性と自然発生性と連関する7の欠如。これも僕にとって相応しい。僕は誰からも生まれず、誰の親でもない。完全なる1として存在する。親もなく、子もなく、ただ僕だけが存在するのだ。

 

 男性性と連関する7の欠如。これは――これは、僕に対する僕への侮辱ですらあった。

 

 

「――ねえ、リドル。よかったら今度のホグズミード行き、私と一緒に」

 

「すまない、ミス・グリーングラス。読み途中の本があって」

 

 

 ほら、まただ。

 

 僕は僕の「男性性」の欠如を、欠落を認めまいと、そう振る舞った結果、「男性性」のない振る舞いをしている。

 

 スリザリン寮に入って、少なくない女性と交流を持った。しかし、それは単なる交流で、交際ではなかった。様々な噂が飛び交っているのは知っている。しかし、僕は異性とまともに交際したことはない。

 

 あの孤児院にいたころから、ずっとそうだ。僕の周りに侍らせるのは男だけで、そのほうがずっと気が楽だった。

 

 年上の男の子に特別な力を使って屈服させたことがある。縋るような目で僕を見上げる彼の顔を踏むのは、とてつもない高揚感を僕にもたらした。

 

 年下の男の子を泣かせて、心を砕いて、僕だけの従順な奴隷にしたことがある。僕の命令に従っているときだけ生きている。僕が命を与えている。素晴らしい体験だった。

 

 これが異常である、問題であると知ったのは、スリザリンの上級生が話しているのを聞いたときだった。

 

 

「最近は男にしか興奮しない男がいるんだってよ、ホグワーツにもそういう連中の集まりがあるらしい」

 

「それは中身が女なんだろうな、きっと。まあ、いずれにせよ、血を残さない連中は血を穢す連中と同等さ」

 

「確かに。魔法族の血を自分から絶やしにいくんだものな。それとも、男の尻から子どもが生まれる魔法でも開発するのかね」

 

「尻から生まれた奴を魔法族だと思うか?」

 

「まさか!」

 

 

 男にしか興奮しない。中身が女。

 

 総毛立つような思いで記憶を巡らせたが、女を侍らせたことも、女を屈服させたことも、女と付き合ったことも、一度もない。

 

 僕は焦った。何度か自ら交際を申し込んだことすらある。しかし、結果は散々だった。彼女たちの考えは理解できず、何も楽しみを見出すことはできず、ただただ時間を浪費しているような感覚だけが残り、やがて静かに、誰かになすりつける形で相手を遠ざけた。

 

 

「トム、あなたって……まるで私に興味がないみたいだわ」

 

 

 そうだろうとも。僕が興味を持っているのは僕自身だ。別れ際に彼女が放った言葉はすんなりと飲み込むことができた。しかし、結果はそうそうたやすく飲み込めるものではなかった。

 

 結局、監督生になる5年生まで、「彼女」というものはできなかった。

 

 では、男にも興奮しないようになればいい。

 

 この試みは失敗だった。下級生のしゃくり上げるような泣き声を聞くだけで、にこやかに、穏やかに「助け」を差し伸べてやる僕がいた。威勢よく喚く間抜けな上級生を見ると、跪いて僕の靴を舐める彼の姿が目に浮かんだ。打ち消そうと思って打ち消すことのできるものではなかった。

 

 監督生という地位は、そしてスリザリンというコミュニティは、僕を満たすのに十分すぎた。

 

 

「7。そう、7だ。最も強力な……」

 

 

 最も強力な、男性性。

 

 それさえ獲得すれば、おおよそ僕は完璧な魔法使いになることができる。新たな一族を興し、魔法界を、いや、世界を代々支配する一族の始祖になることができるだろう。しかし、今の僕は不完全だ。7の欠如こそがそれを示している。

 

 だから、僕は白紙の日記帳を分霊箱にした。僕に恥じるべき過去はない。その証明として。

 

 僕はゴーント家の指輪を分霊箱にした。血族すら踏み台に過ぎない。その証明として。

 

 僕はサラザール・スリザリンのロケットを分霊箱にした。偉大なる先祖は己の一部である。その証明として。

 

 僕はロウェナ・レイブンクローの髪飾りを分霊箱にした。計り知れぬ叡智すら我が永遠の糧となる。その証明として。

 

 僕はヘルガ・ハッフルパフのロケットを分霊箱にした。温かさも豊かさも僕の前に屈服する。その証明として。

 

 僕は蛇のマレディクタスを分霊箱にした。特別な存在と特別な存在は共にあり続ける。その証明として。

 

 僕は――俺は――俺様は、6つの分霊箱を作り、自身と合わせて7つの魂に「なった」のだ。

 

 我が名はヴォルデモート卿、死の飛翔、完全なる超越者。



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