(本編完結)なのはのクローンたちが聖王のゆりかごにスターライトブレイカーするそうです。   作:観測者と語り部

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なのはのクローンたちがあの日教えてくれた歌を世界中に響かせるようです

 そうして、星の光を解き放った少女は、優しい夢を見るための眠りにつく。

 

 残された幼い姉妹たちが、崩れ落ちそうになる彼女の身体を支えようとするけれど、力を失った人間の体は子供でも重い。何とか倒れこまないように、地面に横たえるのが精一杯で。舗装された固い地面の上に優しく寝かせて、起きるように何度も体を揺さぶる。

 

「…………っ!」

 

 姉妹の一人は何かを言おうとしたが起きたばかりで上手く声が出せない。なまえをよんであげたいのに、姉妹たちは数字でしか自分のことが分からなくて。それでも繋がりを通して知っていた大好きな12番目のお姉ちゃんだから。なんとか起きてほしくて。

 

 寂しがり屋の199番の『なのは』が起きてって、12番の姉の身体を揺する。それでも目覚める気配がない。脈はある、息もしている。だけど、今にも消えてしまいそうで。心の奥底の繋がりが消えていって、バラバラになってしまいそうで。

 

 だから、この場で一番のお姉ちゃんなのに、199番の『なのは』は泣きそうになってしまう。置いていかないでって言いたいのに声が出ない。ひとりぼっちは嫌だよ。寂しいよって叫びたいのに声が出ない。誰か助けてって言いたいのに声が出ない。

 

 一桁ナンバーの後継として感情を抑制されて生まれてきた199番の『なのは』の瞳から、涙があふれ出す。感情なんてなかった筈なのに。

 

 それにつられて末っ子の500番の『なのは』が泣き出してしまう。双子の312番の『なのは』と412番の『なのは』が手を繋ぐけれど、彼女たちも何故か涙が止まらなくて、どうすれば良いのか分からない。ただ、妹の手を繋いであげることしかできない。

 

 199番の『なのは』が声にならない叫び声をあげながら、眠っている12番の『なのは』の胸に顔を埋めた。

 

 彼女の着ている病院着みたいな服が、妹たちの涙で濡れていく。

 

 多くの姉妹たちが星の光になって消えてしまって。残された12番の『なのは』も眠ったまま目を覚まさない。

 

 そうして時間だけが過ぎてゆく。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 初めて、その子を見たとき変な子だなって思った。

 

 それが7番のわたしの感想だったんだろう。当時は感情とか、心なんて分からなかったから。分からない様にしていたから。自分の浮かべた想いを疑問にも何も思わなかったんだろう。

 

 そんな使い捨ての道具として生み出された私たちの中に、とても個性的な子が生まれてきたから強く印象に残ったのだ。

 

 私たちにも、その子にも名前はない。だけど、あえて呼ぶのなら、管理番号を示すのなら12番と言うべきなんだろうか。彼女が私たちの中で末っ子の妹になる。他の子が量産されてくれば、その子は姉になるだろうけど。今はこの子が一番下の妹だ。

 

 そして、その子はやたら感情豊かで、変な言い回しをする。

 

「ほら、笑って。こうやって笑顔になるの」

「わたしが笑顔を浮かべられるんだから、みんなにもきっと心があるんだよ」

「だから、笑って」

「ふにゅ~~~~!!」

 

 具体的には、こんな風に笑いながら、他の姉妹のほっぺたをつねって無理やり笑顔にしようとしている子だった。ふにゅ~~って言いながら、3番の姉妹のほっぺたを引っ張ることに意味はないと私は思う。

 

「ふにゃ~~~!?」

「いひゃいれす。いひゃいれす!」

「あひゃまるから、ゆるじてくらひゃい~~!!」

 

 3番も、頬を引っ張られる行為が意味わからなかったのか、反射的に12番の行為を反復してみたらしい。12番の妹が引っ張り返された。

 

 教えられたことを学んで、真似して繰り返すのは、私たちの得意分野だ。だから、研究所の人たちに教えられたとおりに、教えられたことを繰り返しただけ。3番目の姉に他意はなく。彼女は何も感じていないように、蹲りながら痛がる12番の妹を見ていた。

 

「絶対あきらめないもん」

「えへへ~~」

 

 でも、それでも12番の妹は笑うんだ。私と同じはずの『なのは』は嬉しそうに笑っていた。人形みたいな姉妹が何かしてくれたことが嬉しかったんだと思う。けれど、その時の私は妹が何故笑うのか分からないまま時間だけが過ぎていく。

 

 やがて、あの子も知ってしまうだろう。あのリアルなシミュレーションを受けさせられたらきっと気付く。

 

 感情(こころ)なんてないほうがいい。何も感じないほうが楽だって。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 初めて、あのシミュレーションを受けされられた12番の妹が先に戻ってきたらしい。

 

 彼女は膝を抱えながら落ち込んで、泣いていた。

 

 私は泣くという行為が分からないし、どうして泣くのかも分からない。そういう感情は捨ててしまったから。だから、妹の気持ちが分からない。

 

「ひどいよ……こんなの……」

「あんまり、すぎるよう……」

 

 そんな風に膝を抱えて泣いている妹を見て、どうして泣くんだろうとしか思わない。

 

 あのシミュレーションはやけに感覚がリアルで、現実と同じように体感できるけど。慣れれば痛みも感じないだろうに。注射や変な薬を飲まされて気持ち悪くなるより全然マシだ。少なくとも急におなかが痛くなったり、身体が熱くなって、急に怠さを覚えたりはしない。

 

 ただ、私によく似た両親らしい男の人と女の人が笑っていて。私の友達らしい男の子と女の子が笑っていて。次の瞬間には設定された敵に襲われて動かなくなるだけ。

 

 別に護るべき対象でもないし、与えられた課題をこなすように、魔法を使って襲ってくる敵を排除すればいい。私たちにはその為の力が備わっているはずで、彼女にも魔法の力がある筈。

 

 私たちはエースオブエースと呼ばれる存在のクローンなんだから。

 

「痛かったよね……苦しかったよね……辛かったよね……」

「無理やり笑ってなんて言って、ごめんね……」

 

 12番の妹は、そんな風に言いながら3番目の姉妹を抱きしめた。その行為に何か意味があるとは思えない。

 

 けれど、3番目のわたしは何か感じることがあったのだろうか。12番の妹を抱きしめて、頭をなで返していた。とてもゆっくりと、優しい手つきで。

 

「……っ、ぐすっ、ありがとう」

「おねえちゃん……」

 

 その行為に意味があるのか分からなかったけれど、私たちの特技は真似することだ。だから、他の姉妹たちも、同じように12番の妹を慰めるようにして、頭を撫でたり、背中をさすったりした。

 

 ………………既に1番と、2番はここにはいない。

 

 彼女たちは、私たち以上に感情を表さなくなって。それどころか研究員の言葉にすら反応しなくなって。息はしているのに動かなくなってしまう症状により、そのまま何処かへ連れて行かれた。

 

 それ以来、二人の姿はみていない。

 

「………決めた」

「わたし、がんばるね」

「お姉ちゃんたちの為にも、生まれてくる妹たちのためにも」

 

 何を、どう頑張るというのか……

 

 けれど、泣きながら、私たちを励まそうと微笑んでいる彼女を放っておけない気がして。

 

 だから、私も、私たちと同じ明るい栗色の髪を持つ12番の妹の頭を撫でた。

 

「わっ、えっと7番さん? ナナお姉ちゃん? どうしたの?」

 

 彼女の髪の毛の感触は指が梳き通るような手触りで。触れ合った手のぬくもりはとても暖かかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 その日から12番の妹は、いろいろとお喋りするようになった。私たちの知らないことを何故か知っていて。よく語って聞かせてくれた。たくさんの事を研究員たちに内緒で教えてくれた。

 

 そして、彼女を通して、私たちは心の繋がりを感じられるようになった。たとえ別の部屋で眠っていても、心の繋がりを通して姉妹たちの暖かさを、温もりを感じられる。

 

 まあ、七番目の私は聞いているほうが得意だったので、あまり返事はしなかったのだけれど。

 

 彼女は他の姉妹を励ましたり、抱きしめて安心させるのがとても上手だった。

 

 感情がない筈のわたしたちの中で、ひときわ明るくて優しい女の子。一緒にいると居心地がよくて、とても安心する。

 

『あなたが、新しい妹かな?』

『あっ、199番なんだ』

『わたしは12番。よろしくね』

『……だいじょうぶ?』

『辛かったよね。苦しかったよね』

『でも、安心してほしいの』

『みんな傍にいるから』

『ここにいるから、ね?』

 

 そんな彼女に、なのはのクローンとして生まれた私たちが惹かれるのは当然で。ひとりぼっちの寂しさを感じないようにいつも励ましてくれるのが嬉しくて。

 

『ぎゅうって抱きしめられると安心する?』

『じゃあ、抱っこしてあげる』

『今日のお話はね。なのはの家族のお話』

『おにーちゃんも、おねーちゃんも、とっても強くて優しいんだよ?』

『おかーさんはいつも明るくて、毎日がすごく楽しそうなの』

『おとーさんはすごく頼りになって、二人ともすごく子煩悩さんだから』

『きっと、私たちでもいっぱい愛してくれると思うんだ』

『えへへ~~』

『いいなぁ~~』

『会ってみたいなぁ~~』

 

 彼女はどんな時でも明るく笑ってくれて。そんな彼女に触れ合うことで、姉妹たちの中に変化が生まれて。

 

『今日は歌をうたってあげる。わたしがたくさんの勇気を貰った曲』

 

 あの日、わたしたちを笑顔にしてくれた女の子。

 

 暖かい心の繋がりで支えてくれる大切な妹。

 

 どうか守ってあげたい。そう思いながら、七番のわたしは自分の中に無くしていた筈の心が芽生えていたことに気づいたんだ。

 

 たぶん、みんなそうだと思うから。なんとなく、繋がりを通して分かるから。

 

 私たちはいろんな話を聞かせてくれる12番のわたしが大好きで。だから、嬉しくて心の中で笑顔を浮かべるんだ。

 

 あんまり言葉は返してあげられないけど、想いとかちゃんとわかっているから。

 

 いつかみんなで自由になって、故郷の海鳴に帰りたいねって思うんだ。この子と一緒に平和な世界で笑いあえたら、それは素敵だなぁって思うから。

 

 でも、その夢が儚い幻なんだって気づくのは、すぐの事だった。

 

 脱走したとき。12番の指示に従って。寿命の話とか、使い捨ての話を聞いたとき、だれよりも絶望していたのが12番の妹だと、心の繋がりで分かってしまって。だから、七番のわたしは声を上げるんだ。故郷の海鳴に帰ろうって。せめて、最期を迎えるにしても、この子だけは『なのは』の家族に会わせてあげたかったから。

 

 あんなに嬉しそうに高町の家のこととか、翠屋の事を話していた妹だから。

 

 けれど、それはミッドチルダの街が大変なことになっていたから叶わなくて。目の前で困っている人たちを放っておけなくて。わたしたちは生まれた意味も知らないまま、当初の役割通りに戦って、戦って、戦い抜いて。

 

 そうしてわたしたちは、たくさんの姉妹たちとも心を繋げて。

 

 護りたいって意志に触発されて、街の人たちを護って。

 

 そうして姉妹みんなで不屈の心を抱いて、星の光を束ねて。

 

 星の光とともにお星さまになった。

 

 それからわたしたちは、他の姉妹たちと一緒に優しい夢を見た。

 

 暖かな草原の上で、姉妹みんなと自由に駆け回りながら、一緒に魔法で空を飛んだり、夢みたいに美味しい料理を食べたりした。何も気にせず遊びまわるのは楽しかった。姉妹たちと追いかけっこしたり、かくれんぼするだけで心が幸せになる。満たされていく。

 

 そうして遊んで、夢見心地でいるうちに、最後に十二番目の妹がやってきて。

 

 そう、この子は妹だ。わたしたちの妹。生まれた順番なんて関係ない。わたしたちにとって、大切な護りたい妹だから。だから、こっちに来てはダメ。

 

 どこか一緒に、遠くへ行こうとしてしまう十二番目の妹の、その両手を包み込むように優しく握りしめて。来ちゃダメだよって諭すように小さく首を振るんだ。わたしたちは、その表情に取り戻した本当の感情を、微笑みを浮かべながら。

 

 だから、そんな風に泣きそうな顔をしないで?

 

 どうか、笑っていて。

 

 ね? いい子だから。

 

『わたし、何にもできなかった……』

『護るって誓ったお姉ちゃんたちも、妹たちも護れなかった』

『会いたかった家族に会わせてあげられなかった。故郷の海鳴にも帰してあげられなかった!』

『高町『なのは』みたいに、誰かを護れるような人になれなかった!』

 

 そんな十二番目(いもうと)の心の叫びを聞きながら、七番目のわたしは彼女を強く抱きしめるんだ。

 

 この子が心の何処かで無理してたのは知ってた。

 

 でもね。

 

 あなたは私たちの心を護ってくれたよって、そう言ってあげたいんだ。

 

 辛いときに励ましてくれて、いろんなお話を聞かせてくれて。

 

 ありがとうって。

 

 たくさんの知らないことを教えてくれて。優しいうたで、みんなの心を慰めてくれて、明日に希望はあるよって信じさせてくれた。姉妹みんなを笑顔にしてくれた。

 

 だから、今度は、わたしたちが大丈夫だよって言ってあげたいの。

 

 強くならなくてもいいよ。誰かを護るために自分を犠牲にしなくてもいいよって。

 

 だって、あなたはこんなにも優しいんだもん。

 

 いつか自分のことが好きになって、誰か好きな人ができて。

 

 それから幸せになってほしいから。

 

 だから、お別れなんだ。

 

 ごめんね。

 

 そして、ありがとう。

 

 いつまでも、大好きな。

 

 わたしたちの妹だから。

 

 だから、最後は笑って見送ってあげるんだ。

 

 この子が教えてくれた優しい歌で。わたしたちの想いを、みんなで繋げて。

 

 わたしたちは歌うんだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 高町なのはが、迎えのヘリの中で、声を押し殺して泣いていた時。ふと、誰かに袖を引かれて、顔を上げた。

 聖王のゆりかごから助け出した娘のヴィヴィオが、なのはを見ていた。

 

 だから、そんなヴィヴィオを母親として心配かけさせまいと、なのはは自分の涙を拭う。

 

「ママ」

「っ……ヴィヴィオ?」

「どうかした?」

「あのね、ヴィヴィオね」

「うたが聞こえるの」

「愛してるよ。大好きなんだよって――」

 

 そうしてヴィヴィオはとても嬉しそうに暖かな笑顔を浮かべて、耳を澄ませた。

 だから、なのはもつられて耳を澄ましてみる。

 

 確かに聞こえる。

 聞こえてくる。

 

 幼いころの自分を思わせる、優しくて暖かい声が。

 たくさんの『なのは』たちの声が。

 

 

 あの日浮かべた笑顔を覚えてる? 

 

 忘れないよ。あなたがたくさんのお話を聞かせてくれたこと。

 

 忘れないよ。あなたがたくさんの優しい歌を歌ってくれたこと。

 

 その暖かい気持ちが嬉しくて、だから私たちも笑ったんだ。

 

 本当はいつまでも一緒にいてあげたいけれど。

 

 だけどお別れなんだ。

 

 でも、どうか泣かないで。寂しくないから。

 

 心はずっと一緒だから。いつまでも繋がってるから。だから、寂しくないよって伝えるから。

 

 あなたのことが大好きだから。生きていてほしいから。

 

 どうか幸せになって、いつまでも笑っていてねと『なのは』たちの歌声が聞こえる。

 

 みんなで幸せになってと、声が聞こえる。

 

 世界は嫌なことばかりじゃない。素敵なことが、楽しい事がたくさんあるんだよって教えてくれたきみだから。

 

 どうか笑っていてねと声が聞こえる。

 

 ラの音は世界を繋げる音。みんなでラララって声を合わせれば一つになるの。

 

 だから、みんなで歌おう? 

 

 この嬉しい気持ち。素敵な想いをみんなに伝えるために。

 

 姉妹みんなで手を繋いで笑顔で歌うの。

 

 あの日、きみがくれた笑顔だから。こうしてみんなで笑っていられるから。

 

 だから、ありがとう。大好きだよ。

 

 そうしてその歌は世界中の人々に届くんだ。

 

「………」

「ルーテシアちゃんも、聞こえる?」

「………っ」

「涙が止まらないね……」

「すごく、すごく優しい歌……」

 

 エリオとキャロが見守る傍で。

 ルーテシアが泣いていた。ガリューも、地雷王も白天王も泣いていた。

 無数のインゼクトたちが身体を揺らす。その歌声に耳を澄ませるように

 

「ドクター……?」

「泣いているのですか?」

「知らなかったな」

「こんな狂人でも……」

「流せる涙があったとは……」

「人は暖かい気持ちで、心を震わせても、涙を流してしまうのだね……」

 

 一番目の秘書は、逃げられないように手足を縛られ、壁を背にして蹲っていた。そんな中で、同じように拘束されたひとりの男が、笑いながら静かに涙を流しているのを見た。

 

「レジアス、この歌が聞こえるか……?」

「………」

「お前にまだ償う意思が、立ち上がる力があるのなら……」

「どうか、この歌のように、明るい未来を……」

「誰もが笑って……生きられる世界を……つくってくれ……」

「……頼む」

「ゼスト……」

「儂は……」

 

「……わたし、いきて、る……?」

 

 かつて誓い合った友の頼みを聞き届けながら、地上を護ろうと奔走し続けた男は、ひとりの友を看取って。その傍らで星の光に目を奪われて、一瞬のうちに叩きのめされた二番目の女が、少女たちの歌声を聴きながら目を覚ました。

 

 ミッドチルダの世界に春の暖かい風が吹く。そうして世界に幻想のような花々が咲き乱れて。その、空に、風に乗って黄色い花びらが舞ったんだよ。

 たくさんの菜の花が咲いて、みんな笑ったんだ。姉妹たちみんなが笑ったんだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そうして、わたしたちは光に包まれて。

 

 夢をみる。

 暖かい腕に抱かれて、優しくされている小さなわたしの夢。

 

「なのは」

「生まれてきてくれて、ありがとう」

「お母さん。会えて嬉しい」

 

 それは、生まれ変わったわたしが見ている夢。

 わたしと心の奥底で結びついている姉妹たちの夢。

 

「はにゃあ~~~♪」

「ほら、士郎さん」

「抱っこしてほしいって」

 

 たくさんの姉妹たちの中のひとり。

 生まれ変わった別の世界の、わたしの夢。

 

 どうか、元気で健やかに生きてね。

 たとえ世界が違っても、わたし達は傍にいるから。

 

 わたし達はひとつだから。

 

 心はいつまでも繋がっているから。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 声が聞こえた。

 

「お願い。死んじゃだめ……!」

「目を覚まして」

 

「シャマル先生。みんなのお医者さん!」

「絶対に、絶対に助けるから!」

「お願い。目を覚まして!」

 

 うっすらと目を覚ますと、みんなの顔があった。心配そうに見ている。自分と同じ顔をしているどこか大人びた憧れの人も、記憶よりも大人になった二人の親友も。傍にいてくれた幼い姉妹たちも、みんなが眠りに就くはずだったわたしを見ていた。

 

 みんな泣いてる。幼い姉妹たちが泣いてる。わたしと、同じ顔の、守りたかった女の子たち。

 

 どうか、そんな顔をしないで。

 笑っていて。

 

 だから、震える手をそっと伸ばして、彼女の涙を拭うんだ。

 

「ぐすっ……おねえちゃん……」

「よかった」

「えへへ」

 

 すると、その女の子は笑ってくれて、他の妹たちもつられるように笑顔を浮かべてくれて。

 それが嬉しくて、わたしも笑った。

 

 自分よりも大きくて、暖かい手をした女性が。記憶にあるよりもずっと綺麗な高町なのはが、わたしを優しく抱き上げてくれて。記憶よりも大きなフェイトちゃんや、はやてちゃんが涙を浮かべながら、一緒にいてくれて。

 

 その周りでヴォルケンリッターのみんなや、機動六課のフォワードメンバーが優しく見守ってくれて。

 

 それから一緒にどこかへ歩いていく。その後を、みんなが付いてきてくれて、わたしが寂しくないように見守ってくれる。

 

 この先にある明るい未来を、歩んでいくために。

 

 だから、わたしは小さな声で呟く。

 

――おねえちゃん、ありがとうって。

 

 高町なのはが心配して、なぁにって優しい声で気遣ってくれる。それに何でもないよって小さく首を振る。隣でフェイト・テスタロッサが泣きながら嬉しそうな顔で笑ってくれた。八神はやてが助かったわたしの様子に、安堵した表情を浮かべた。

 

 抱きかかえられたまま、晴れた青空を見上げると、黄色の花びらが風に乗って空を舞っていく。

 暖かい春のような日差しが、わたしに降り注ぐ。

 

 もう歌声は聞こえない。でも、心の奥底で暖かな繋がりを感じる。ひとりじゃないよって、いつまでも支えてくれる。だから、お別れなんかじゃなくて、いつまでも一緒だから。だから、だいじょうぶ。

 

 大好きだよって声が聞こえる。

 

 

 

 

 だから、わたしも――――

 

 

 

 

 大好きだよ。

 

 心はいつもひとつ。ずっと一緒だから。

 

 だから、ありがとう。




震えながら投稿ボタンを押す……

違うんです。頭の中でクラナドのだんご大家族のメロディに合わせて姉妹たちが、生きてとか。大好きだよとか。いつまでも愛してるからとか。歌い始めて涙が止まらなくなったので初投稿したんです。

だから、だんご大家族の歌詞を、なのは大家族に替えて歌うのはやめてくれ……その歌は俺に効く……

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