健康診断で不老不死でなくなったと聞いてからかなりたった頃。僕は実年齢115歳になりましたありがとうございます。体的には95歳らしいけど、いまいち分からないねぇ。
というか年甲斐もなくふざけたりしたから子供や孫達に呆れられたりもした。酷いよね?
両親が亡くなったり、友人らに先立たれたりと辛いことあったんだからさ、気分をあげようとするのは無理もないじゃん?ねえ。
「まあ、夫も生きてるだけマシかな?」
「あっ、お母さん。自室でなにしてるの?」
「えっ?かつての相棒を愛でてるだけよ?」
(…どう見ても遊○王のデッキケース…。いや、お母さんは前からこうだったから今更気にしても負けな気がする)
今はもうほとんど遊ばないのだからしょうがない、としてもらうとして。
なにせ相手もだいぶなものだし、仕方ないものだからねぇ。逆に僕は最初の頃こそ…いや、今もか。加齢に喜ぶバカだからね、どうしようもないね。
「えーと、それはいいとして。お母さん、そろそろ孫が来るんだって。楽しみだね」
「あらぁ、そうなの。確かに楽しみね。なんならその時のご飯、はりきっちゃおうかしら」
「無理はしないでね?……って言っても体内年齢がほぼ20代のお母さんなら平気か」
「ええ、任せてちょうだい!」
(…だ、だいぶはりきってるなあ。というか本当に元不老不死だったの?原因不明でなって、それが治るとか夢物語みたいだけど。いや、色々と他の人との相違があるからありえる……の、かな?なにかとおかしいような気がするけど)
呆れたような眼差しで見られてるような気がするけど、気にしない。
なにせ呆れられる自覚もあるし。
そのあと、いつもの通りに料理してみたり、来るであろう孫となにをするか悩んだりしていた。
ただ、病魔はそれを許してはくれなかったみたいだけどね。仕方ないね。
あれからしばらくたった。というか数ヶ月とかその辺りじゃない?
入院生活って暇すぎない?
「橘さん、退屈なのは分かりますがわざと“徘徊してるのよ”って言うのはやめてください。まぎわらしいですし、貴方のは徘徊でなく散歩って言うんですよ?」
「その方が楽しいからよ。ほら、私っておばあちゃんになったわけでしょ?」
あれ?なんでこの子、呆れてるのかな。というか半目で見てきてる?
うーん、今のはさすがに分からないぞ。
「……な、なにかと違うような気がします。ところで今のところお加減はいかがですか?」
「えっ?元気も元気。治ってきてるんじゃなくて完治しましたって言われても今なら信じるほどよ?」
「それはよかったですね。ただ…ですね?徘徊でないのに徘徊とおっしゃるのはやめてください。困惑する看護師のがたくさんで私にしょっちゅう聞きに来るんですよ?」
あ、そうか。水瀬紫苑になにかと僕ののことを教えて貰ってた人だからその分他の人から聞かれるのか。仕方ないね、頑張れ。
たぶん、天神陸から教えて貰ってた人もそうだろうね。こっちも他人事だからこそ頑張れ。
なんて思っていられたのは、今日までだった。なにせ夜におぼろげで、もうほとんど覚えてないけど色々あったらしいから。
うぅん、なんか凄いことになったなぁ。いや、
夫、子供3人、孫2人、友人1人が看取りに来た。
友人は夫が呼んだのかな。そう思うことにしよう。
「ねぇ、悠希……最期に煙草、いいかしら?」
「ああ……」
と言ってタバコの箱を取り出す彼。医師1人、看護師1人もいるけど止めに来ない。まあ、別にこれぐらいはね?
贅沢させてほしいもの。
「ったく、悠希。お前だって急ぎでもライター持ってきたんだろう?まあ、俺的には葵さんに色々してもらった礼もあるからするけど」
「素直じゃないね、湊さんって方は」
そう言われた彼は少し気まずそうに、スネたように頬をふくらませた。
微笑ましくて笑ったら皆も笑った。
ああ、これはこれでよかった。
一服をもらい、少し吸ったところで灰皿で消した。贅沢だけど、もういいかな。
それで、なにか言われたり、見られてる中眠りについた僕はもう二度と目覚めることはなかったーーー
ーーーバサリ
うおっ!?なんだ!?なんか久しぶりに跳ね起きた気分だよ!?しかもなんか懐かしい感覚!こう、暗闇から這い上がったとかそんな良くわからないやつ!
…ってアレ?横を見たら、普通に皆いるし……うん、ひとまず無かったことにしよう!さあ、やり直しとして布団に入り直そう。たぶん自分の死体が僕の下にあるだろうけど、この際気にしない!
「おーい、葵。なんで布団にまた入ろうとする?というかお婆ちゃん…いや、どっちもお前か。ともかく上にいるせいでもりあがってるんだから分かるんだぞー」
「お、お母さんが死んだと思ったら若い女の人がでてきた……!?私もなにを言ってるのか分からないけど、なんか凄いことになってる…!」
「いや落ち着けって姉ちゃん。きっと夢かなんかだからつねれば覚める」
「お姉ちゃんどころかお兄ちゃんも…。あたし達に言ってたじゃん。ねぇ?」
孫に同意を求めてどうする。
…え、女の子も男の子2人も真面目に聞いてたの?余計に出ずらいじゃん。
というか悠希と末っ子だけ落ち着きすぎじゃない?
「…不老不死ってまたなるものでしたっけ」
「……さあな。俺には全く分からない。というか天神さんも予想はしてなさそうだな…」
って悠希に布団めくられたんだけど!?
「うん、やっぱりお前だな。というか20代近くの葵を見るのは久々だな…懐かしい」
……あー、うん。デスヨネー。
んでもって僕は年寄りだった頃の遺体の上にいると。
どーゆーことなのー!って叫びたいのは僕だけであってほしい。ほんと。
あぁ、これからどうなるんだろうな。
心の中で遠い目をするしかないな、と考えた。というかこういう時の反応の答えを急募したい。
そんな僕はとりあえず顔をそむけることにしたのだった。現実逃避ってやつをしたくなったから。仕方ないね。うん。仕方ない。