煉獄さんinオラリオ   作:ケツアゴ

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出会い

「胸を張って生きろ」

 

 この日、多くの人の命を鬼から守り抜いた炎柱煉獄杏寿郎が死んだ。二百人以上の一般市民と仲間を守り抜き、最期に後輩達に未来を託し、その魂は天へと召された。

 

 

 

 

 

 

「……む? これは一体」

 

 その筈だったのだが、煉獄が気付くと失った片目片足は元に戻り周囲は見知らぬ風景。これには的確な判断力を持つ彼も即座に判断が出来ないのだが、代わりに別の事に気が付いた。掌を顔の前に翳してみれば向こう側が透けて見えるのだ。

 

「成る程っ! これが幽霊という奴かっ! 鬼は山ほど見たが、初めて見る幽霊が自分だとは驚きだっ!」

 

 どうして見知らぬ場所に来てしまったのかについては此処があの世なのだと判断し、取り敢えず話に聞く三途の川を目指すのだが、暫く歩いた先で人の姿を発見して話し掛けても自分が見えず声も聞こえない、体が透けてもいない所から幽霊ではなく生者だと理解して疑問は募るばかりだ。

 

「全く見知らぬ建物に、聞き慣れない名前……異国かっ! 成る程、俺は死んで異国に来たという訳だ!」

 

 どうしてそうなったのかは分からないが、実際にそうなっているのだからと納得するしかない。何より自分は死んでしまったし、未来有る後輩に後を託したのだからあの世からのお迎えが来るまでは異国の旅を楽しもうと煉獄は楽観的に考える。

 

 道中、もんすたぁ、と呼ばれる異国の化け物を見かけるも姿を見せる事も触れる事も出来ない事実に歯痒い思いをしながら半年程旅を続けたある日、必死にナイフの素振りをしている少年を発見した。

 

「むむっ! 構えが悪いな。武器はただ振り回せば良いという物ではないのだがっ!」

 

「え? そうなんですか?」

 

「……ん? 少年、俺が見えるのか?」

 

 どうせ聞こえないと分かっていても口から出てしまった言葉に反応が返って来た事に煉獄は驚く。対して少年は何でそんな事を、といった顔の後で煉獄の体が透けているのに気が付いた。

 

 

 

 

「お…お化けぇえええええええええええっ!」

 

「そうだなっ! 俺は幽霊だっ!」

 

 既に死後半年、もう受け入れてしまっている煉獄であった。そして、この出会いは少年の運命を本来のそれから変えてしまう事になるのだが、彼も煉獄も知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断するな、ベル! 続いて三体来るぞ!」

 

「はい、先生!」

 

 迷宮都市オラリオ。世界一の大都市であり、唯一存在するダンジョンから採れる魔石製品の輸出によって莫大な利益を得ているこの都市には大勢の夢を持った者が訪れる。今まさにダンジョンでコボルト相手に戦っている少年、ベル・クラネルもその一人。

 

 あの日、魂は例外なく天界へと向かう筈のこの世界で、誰にも見えない幽霊として旅をしていた煉獄の姿が見えた少年は全能を捨ててまで地上に降りてきた神の眷属となり、恩恵を受けて冒険者となっていた。

 

 尚、強くなりたいという真っ直ぐな瞳を見た彼の師匠となり鍛えていた煉獄も当然の様に()()()きている。する事がなく話し相手もいないのは非常に暇だったらしい。

 

 コボルトの身体を切り裂き絶命させたベルは前方から向かってくる他の三匹に向き直り息を吸った。強烈な吸引力によって離れた場所まで聞こえる呼吸音が鳴り、猛烈な勢いでの踏み込みでベルの姿が消えさる。

 

 

(全集中炎の呼吸 肆ノ型  盛炎のうねり(せいえんのうねり)!)

 

 自らを中心として放つ渦巻く炎を思わせる斬撃がコボルト達の中心で放たれる。二体がその場で崩れ落ち、一体は核である魔石に刃が届いたのか灰になって消え去った。

 

「ああっ!?」

 

「惜しかったな! だが、何度見ても思うのだが、首を切らずとも倒せるのは良いことだ!」

 

「鬼、でしたよね? 先生が戦っていたという人食いの……」

 

 煉獄から鬼について聞かされているベルだが、恐ろしいと思うと同時に元は人間だったとも聞いているので化け物という言葉は口から出てこない。煉獄は当然そのことに気が付いてはいるのだが、優しさ故にと何も言わなかった。

 

 

「しかしベル、先程の技は良かったぞ! 前に比べてブレが少なくなっている!」

 

「本当ですか!」

 

「だが、まだ無駄な動きが多いから帰ったら基礎練習だ!」

 

「はい!」

 

 煉獄にとって最初は幽霊としてこの世に留まる間に縁があったベルを鍛える程度の動機だったが、今は良い生徒に思えていた。優れた才能が有る訳ではないが素直で努力を惜しまない姿は好ましい。最期に後を託した後輩達の姿を重ねながら彼を鍛える日々は充実していた。

 

 

 

(……さて、ベルの担当の彼女は無理をするなと言っていたが)

 

 現在、ベルは特に危ない様子も無くモンスターを倒して魔石を集め、どんどん下の階層へと進んでいる。そろそろ止めるべきかと煉獄が迷った時、幽霊になっても生前同様に研ぎ澄まされた感覚が何かの接近を感じ取っていた。

 

(これは今のベルでは厳しいか……)

 

 一応炎の呼吸は幾つかの型を使えるが煉獄の(厳しい)基準からすればまだ未熟。ステイタスも冒険者になって数日では低く、装備も最低限。感じ取った強さからして疲弊も考えると危険だと判断した煉獄は横道を進む様に促した。だが……。

 

 

 

 

「ブモォオオオオオオオオッ!!」

 

「な…なんでこんな所にミノタウロスがぁああああああっ!?」

 

 ミノタウロスは中層に出現するモンスターであり、間違っても上層の浅い階層で出現する相手ではない。尚、ダンジョン内部よりも遙かに弱い外のモンスターにもミノタウロスは存在し、実はベルがオラリオに向かう際の最後の試験の相手だったりするのは余談だ。

 

「困った! 真っ直ぐ通り過ぎると思ったが、どうも何かから逃げて来た様だな! 俺も戦いから離れて勘が鈍った様だっ!」

 

「いやいや、先生!? どうするんですか、これ!」

 

「立ち向かうより他にあるまい! 何、誰か追いかけてくる音が聞こえるから取り逃がした者がやがて来るだろう! 戦え、ベル!」

 

 煉獄杏寿朗、かなりのスパルタ教師である。ベルは脅えながらも息を整えナイフを構える他無かった。

 

(落ち着け、落ち着いて呼吸を安定させろ)

 

 見ればミノタウロスは怯えて興奮した様子。必死に倒した外のミノタウロスよりずっと強いが、時間稼ぎならば付け入る隙があると落ち着かせる。吸い込んだ空気が全身に行き渡り、血が大量に循環するのを感じ取る。

 

 

 

「全集中炎の呼吸 壱ノ型 不知火(しらぬい)!」

 

 炎を発するかの勢いでの突撃からの一撃はミノタウロスの強靭な皮膚に刃を通す。

 

(浅いっ!)

 

 だが、大した手応えは感じない。胸から流れる血に更に興奮した様子のミノタウロスに少し焦りながらも呼吸をするベル。

 

 

 

 

 

 

「あの子、あんな装備で戦えている……」

 

 その姿を武器を手にしていない褐色の肌の少女が接近しながら目にしていた。

 

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