俺があの子に出会った……いや、あの子を知ったのは弱い人が現実逃避をしたくて考えた物でしかないと思っていた地獄の責め苦を受けていた時だったよ。えっと、俺は本当に生きているだけで辛くて救いがないから殺して救ってあげたのに、それを理由に地獄行きなんだから失礼だよ。
まあ、そんな事はどうでも良かったんだけれどね。俺が抱いた初めての感情、俺の初恋。しのぶちゃんの事を想っていたら何かされても邪魔にならなかったんだ。
「……あれれ? 此処って何処だろう?」
うん、俺が勧誘したあの兄妹、兄の方が妹のオデコに目を作れたけれど、多分こんな感じだったのかな? 今、俺は確かに地獄の責め苦を受けているんだけれど、それと同時に教主としての部屋に座っていたんだ。玉壺殿がくれて女の首を生けていた壷とか色々無いし、他の部屋にも行けないんだけれどね。ただ、その場所に居る俺は知らない誰かの耳と目を通して、知らない世界の様子を眺めていた。
リリルカ・アーデ、神様にすら見捨てられた哀れで可哀想な女の子。是非とも直ぐに救って俺の中で生き続けさせてあげたいと思ったのに、今の俺には何も出来ないって落ち込んだよ。奪われ、絶望し、蔑視されるだけの人生。でも、流石に飽きてあくびが出始めた頃、リリルカ、リリは見えない誰かに話し掛けた。
「胡蝶……しのぶ?」
「しのぶちゃん!?」
ああ、まさか別の世界で幽霊になった君が見える子を通して再会するだなんて、俺達は運命で結ばれていたんだ。うん、一緒に地獄に落ちるべき二人だったんだね。
それからは毎日が楽しかった。リリの言葉を通してしのぶちゃんを感じる日々は最高で、そんなある日、自分を見捨てた神を殺したリリが夢の中で俺と出会ったんだ。
「やあ、リリ。会いたかったよ」
「いや、どなた様ですか?」
ふふふ、まさかリリがあんな血鬼術……魔法だっけ? を覚えるだなんてね。もう惨めで弱くて生きる意味の無い子は卒業だ。だって俺もリリを鍛える事にしたし、しのぶちゃんの教えを受けたんだから当然さ。
「……あれれ? 俺の弟子でしのぶちゃんの弟子だし、実質的に俺としのぶちゃんの弟子だな。うん、もっと鍛えてあげよう。そうか、俺は父親になったんだ」
俺の父親は色狂いで最期は母に殺されて血で部屋を汚した迷惑な人だったけれど、俺はちゃんと娘の役に立とう。なにせ俺としのぶちゃんの間の娘だからね。
「……うげ、やっぱり毒を使った痕跡は無く、頭の皮が剥がされてます」
しのぶちゃんの教えで医学を身に付けたリリが死体を調べるけれど、いやいや、酷い有様だね。殆ど裸の状態で頭を潰されているんだから。彼、何の為に冒険者になったのやら。夢だの野望を持って少しは強くなって、最期は宿に連れ込んだ女に殺されるんだからさ。
死体を調べ終わったリリは背中を調べやすい様にうつ伏せにすると部屋を出る。部屋の外には一山幾らの有象無象に混じって美味しそうな子達と……リリに色目を使ういけ好かない子供みたいな姿の男が待っていたよ。
「やあ、アーデさん。どうだった?」
「毒殺の痕跡は無し。死因は首の圧迫による窒息か骨折でしょう。……あと、頭の皮が丸々剥がされていました。顔を隠すだけなら潰すだけで良いはずですが……鎧も無くなっていますしね」
「おいおい、って事は先生よぉ。死人の皮被った奴が町に潜んで居るって事かよ」
「そうでしょうね、ボールス様。では、背中の方は向けていますのでお願いしますね。私、手元に持ってないので」
この町の顔役だって彼は随分驚いた様子だけれど、ならず者の町なのに人が一人死んだ程度で騒ぐんだから平和なんだな。リリなんて生前の俺なら直ぐに救ってあげる位に殺伐とした人生だってのにさ。役目は済んだとばかりに去るリリだけれど、すれ違い様に同行した子達に囁いたよ。
「鞄に残されたドロップアイテムからしてLv.3以上、顔に何重も包帯を巻いた人がいました」
「……分かった」
さて、リリは未だ弱いから戦闘に巻き込まれない為に調査中に少し離れた場所に行くみたいだね。まあ、全集中の呼吸・常中ってのが何とか使える程度じゃ厳しい相手だと思ったんだろう。うんうん、しのぶちゃんとの会話で彼女もロキ・ファミリアに任せるべきだって意見みたいだし、俺も彼女に賛成だ。
「……はぁ。矢っ張りこうなっちゃうんですね。まあ、予想していましたけれど」
少し落胆した様子で肩を落とすリリの視界の先には町を囲む程に大勢の花のモンスター。以前瞬殺した相手だけれど、流石にこの数は難しいな。まあ、俺としのぶちゃんの娘なんだ、頑張ってくれ。
「……蟲の呼吸 蝶ノ舞い 戯れ」
迫り来る数匹を跳躍と同時に斬りつければ直ぐに痙攣して動かなくなる。それでも未だ襲って来るのだけれど、リリは懐から小さな袋と、制作の相談に向かった時、俺でさえドン引きする盛り上がりを見せた物を取り出した。それは金属の筒状の武器。人が編み出した効率良く人を殺す為の道具。
「銃のお披露目ですね。……極秘にしたかったのですが」
残念そうに呟きながら投げた袋は食人花の群れの中心に向かい、発砲音と共に撃ち抜かれて中の細かい粉末が一気に広がった。うんうん、隠したい手の内をさらけ出さなければならないのは残念だよね。でも、それは君が弱いからなんだ。銃は強力な武器だ。それこそ俺の親友だった彼は必死に技を磨いていたけど、人間だったら銃を持った大して鍛えていない相手に呆気なく殺されただろうね。そう、強力だからこそ隠す必要があるのさ。
「ガガッ!?」
リリが散布した粉の正体はモンスター用の毒薬だ。魔石に作用するらしいし、口の中で露出しているから効果的だったみたいだね。食人花達は一瞬悶えた後で倒れて動かなくなる。あれ? 他のが仲間の死骸に食らいついているけれど共食いの習性でもあるのかな?
「……成る程。粉に含まれた魔石に反応しているのですね。流石はお師匠様です」
おや、しのぶちゃんが理由を考えたみたいだね。確かに仲間に食べられている奴は粉を浴びているし、それなら説明が付くや。それにしても流石だなあ。うん、どんな表情なのか姿が見えなくても分かるぞ。
「さて、そうと分かれば……経験値になって貰いましょう」
珍しくやる気になったリリは次々と毒薬を散布して食人花を倒していく。うん、やる気になるのは良い事だけれど……。
「がはっ!? こ、小娘。貴様、何をした……?」
「ほへ?」
散布した瞬間、ロキ・ファミリアと戦っている赤い髪をした女が運悪く割り込んで顔面にモロに浴びてしまう。でも、あれってモンスター用だから人には大して効かない筈なのに随分と苦しそうにしているよ。それと同時にリリを睨んでるね。
「……ヤバい」
オラリオでも有数の実力者複数相手に戦える相手の反感を買った事に思わず呟くけれど、うん、仕方ないね。
「さて、よく分からないけれど好機だね。捕らえさせて貰うよ」
あのちびっ子が前に出た時、町の端で異変が起きる。食人花が無数に集まって一つになろうとしていたんだ……。
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ベル君の魔法は?
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