「もしもーし。其処の貴女、私が見えていますね? ああ、良かった。声も聞こえているみたいで」
リリルカ・アーデの日常は地獄と共にあった。神が作り出す酒に溺れて金を稼ぐ事を強要する両親が死んだ後はサポーターとしてダンジョンで働き、結局は暴力で搾取されるだけの毎日。そんなある日、半透明の体を持つ女性と出会った。
どうもリリルカ以外には姿が見えず声も聞こえない彼女は話が出来る相手が見付かったのが嬉しいのか何度も話し掛けて来たし、リリルカも何時しか愚痴を話す相手にしていた。
転機が訪れたのは数年前、ファミリアから逃亡して住み込みで働いていた花屋がファミリアの団員の手で焼き払われた時、失意の中にあった彼女に半透明の女性が提案して来た。
「私は所詮死人だからと黙認していましたが流石に黙っていられません。……力が欲しくないですか?」
惨めで弱い自分が嫌いで、終わりが見えない地獄から抜け出したくて、リリルカは差し伸べられた手を取った。
「あっ」
「そう言えば触れはしませんでしたね」
それからリリルカは彼女、胡蝶しのぶの弟子となって呼吸を学びながら同時に毒や医学について学び始めた。簡単に手に入る草花を集め、金を奪おうと待ち構える者達はしのぶの先導で上手く避け、研究して調合した毒で弱らせたモンスターを仕留めて行く。
どっちの修行も大変で辛かったけど、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて、遂に…‥。
「ランクアップしているな」
ソーマ・ファミリアではノルマを期日までに達成出来た者だけが酒が飲める上にステイタスの更新が行われる。ランクアップ済みで比較的マトモな部類の団員とホームに行くようにして奪われる事無く更新を続けたリリルカはインファントドラゴンを倒した事でランクアップを果たした。
「では、そろそろ次の計画と行きましょうか」
この次の集会の日、ソーマは転倒時に頭を打った事で送還された。運良く全員が集まる日だったのでダンジョンで恩恵を失う者も出ずに済んだのは幸いだろう。
尚、余談ではあるが遅効性の強力な睡眠薬も脳の血管が切れやすくなる毒もリリルカは調合出来るし、モンスターを倒す際に使ったので吹き矢も得意だと記しておこう。それに何の意味があるのかは別だが。少なくともファミリアを纏めず趣味に没頭して不幸をまき散らしていた神が天界での激務に戻ったと、それだけだ。
(さっきの呼吸音、ティオナが言っていたのと同じ……)
未知のモンスターを毒殺したリリルカに視線を向けながらアイズは仲間から聞いた話を思い出す。あの酒場で出会った少年も息を吸った瞬間に強くなった。目の前の少女も大きな音を立てて呼吸した瞬間に明らかに動きが変わった。片方だけならばスキルと思うが、二人ならば変わってくる。何らかの技術、もしくはスキルだとしても二人共が会得したなら共通点を探せば自分もスキルを手に入れる可能性が出て来る。
「あの、ちょっとお話を…‥」
「え? リリに何か……って、時間が無い! ごめんなさい、剣姫様! ちょっと用事が有りますので!」
少しだけでも何か教えて貰えないかと手を伸ばすもリリルカは慌てて駆けて行く。強さをひたすら追い求めるアイズからすれば非常に興味をそそられる事故に何としても聞きたかったのだが、ちょっと本気を出して追いかけようとした時、背後から仲間の声が聞こえて来た。
「おーい! アイズ、もう終わったのー?」
「うん。倒したのは私じゃないけど……」
ティオナに気を取られた隙に既にリリルカの姿は人混みに消え去り、見知らぬモンスターが出現したからと野次馬が集まって来た。向こうでは野次馬が邪魔で此方に来られないレフィーヤが困っている中、地面を突き破って同じ未確認のモンスターが三体同時に姿を現した。
この後の流れだが、これは彼女達の物語ではないので短く纏めよう。大勢が居たのでパニックに陥りながらもアイズが風を纏った剣で二体を倒し、残り一体という所で剣が壊れるもレフィーヤの活躍で無事に撃破出来た。収束後にギルドから箝口令が出たり、事情聴取の為にモンスターを毒で倒したリリルカの捜索がされるもアイズが彼女の所属ファミリアを知る機会は無かった。
では、場面は切り替わりダンジョン内、本来十階層以上下に出現するトロルと相対したベルの勝利をフレイヤ・ファミリアの面々は信じていなかった。美神のご意志なのだからと従ったまでであり、ベルが死のうと期待に応えられない盆暗程度の評価しか下さないだろう。
(お前が本当にその価値があるのなら見事乗り越えて見せろ)
その中で都市最強のオッタルはベルが死んでも卑下しないが、勝てるとも思っていない。個人としては思う所があってもフレイヤの意志ならば関係が無いのだ。
「此奴は強そうだな、ベル。だが、お前ならば勝てると信じているぞ!」
だが、煉獄は違う。逃げろとも諦めろとも足掻けとすら言わず、只勝利を信じていると告げる。ベルにとっては其れで十分だ。ミノタウロスに善戦したらしいがトロルは更に下に出現するモンスター? 甘い甘い。男子、三日会わざれば刮目して見よ。
唸り声を上げてトロルが左腕を振り上げ突進してくる。そのまま力任せに振り抜くのに合わせてベルも一歩進み出た。
(全集中炎の呼吸 壱ノ型 不知火!)
退屈そうに観戦していたフレイヤ・ファミリアの団員が目を見開き、オッタルでさえ僅かに驚愕の色を見せる。ベルの振るった刃はトロルの腕を切り落とした。自分の腕が失われた事が理解出来ずに棒立ちになるトロル。ベルは更に踏み込んだ。
(伍ノ型
続けざまに放たれたのは大振りの一撃。炎の虎を幻視させる猛烈な勢いの刃はトロルの頑丈な皮膚や筋肉を切り裂き、胸の奥の魔石にまで届く。振り抜かれた刃が体内から出ると同時に魔石を砕かれたトロルは灰になり、ドロップアイテムが地面に落ちた。
「……よし!」
「よくやったぞ、ベル!」
確かな手応えを感じ拳を握るベルの頭に煉獄の手が添えられる。決して触れる事が出来ない師弟だが、この時のベルは本当に撫でられている気がしてならなかった。
「……マジかよ」
「トロルを圧倒するとは……」
他の団員が呆然とする中、オッタルは自分が震えているのを感じていた。恐怖ではなく歓喜からの震え。武人として更に成長したベルと戦ってみたいと感じていた。
「あの御方に頼んでみるか……」
久々に感じる欲求にオッタルは口元を弛ませる。この時、彼は非常に獰猛そうな笑みを浮かべていた。
一方その頃……。
「怪しい人物……いえ、神様ですか?」
「ええ、気になって見に行ってみれば目にしたので少し出掛けて来ます。その間、全集中の呼吸を維持して型の反復練習を続けて下さいね?」
「は…はい!」
お師匠様には感謝しているけど優しい様で矢っ張り怖い、そう思わずには居られないリリルカであった。
オラリオこそこそ噂話
リリルカさんは丁度良い位の強さになったら安全な外でそこそこの生活がしたいそうですよ。そのためにもう一度のランクアップと貯蓄を目標に頑張っているそうです
ベル君の魔法は?
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原作通り
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何でお前は燃えてないんだ
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オリジナル