本当に先に注意しましたからね?
リリルカの朝は早い。空が白み始めるよりも前に静かな声で起こされる。
「リリルカ、起きなさい。修行の時間ですよ」
「はい、お師匠様」
起床したら寝間着から素早く着替え、全集中の呼吸をしながら蟲の呼吸の反復練習。師匠である胡蝶がランダムで口にする型に素早く切り替えるのだ。ランクアップした事で一段上の領域に登った肉体は全集中の呼吸の持続時間を伸ばし、それに伴って修行もハードになって行く。
次に医学の基礎知識を学ぶ座学をしている頃にミアハやナァーザが目を覚まし朝食や開店の準備が始まる。結構大変な毎日だが、非力な者から搾取するのが当然であったソーマ・ファミリアでの暮らしよりは遥かにマシと本人は思っていた。
「リリ、今日はどうするの?」
「そうですね。ゴブニュ・ファミリアに今月の支払いを持って行った後はダンジョンに潜ろうかと思います。上層部で手に入るドロップアイテムが幾つか欲しいのですよ」
「そうか。一人なのだから無理はせぬ事だ」
リリルカは他の冒険者の様に毎日ダンジョンに向かう訳ではない。最大の武器である毒や新しい薬の研究にも時間を費やしているのだ。彼女の使う刀は胡蝶が使っていた物の構造を模したオーダーメイドであり、前のファミアリアの脱退費用にとコツコツ貯めていたヴァリスを頭金にしてオーダーメイドで注文した物だ。……‥鞘の中で調合する毒で金属が腐食するので
「まあ、搾取されるだけの日々に比べれば大分マシなのですが…‥」
自分のせいで焼かれてしまった花屋の再建費用も月々の収入から工面して送っており、ファミリアに入れるお金や毒の材料で採取では間に合わない物の費用も考えれば収支はプラスに傾いても僅か。ちょっと外食等の贅沢をすれば吹いて飛ぶ。
にも関わらず彼女の足は未だ開店前の豊穣の女主人へと向かう。ダンジョンに向かう冒険者の姿も疎らな中、裏口に回った彼女は戸を叩くとあっさりと招き入れられた。
「リオン様、宜しくお願いしますね」
「……リリルカさん、何度も言っていますが様は不要です。こうして稽古の相手をして貰って私も助かっているのですから」
店の裏に存在する庭でリリルカはウエイトレスの一人であるリオンと木刀を手にして向かい合う。格上の稽古相手を捜そうにも伝手が無いと困っていた最中、害虫や鼠退治の毒団子を配達した際にリオンも稽古相手を捜していると発覚、試しに一度手合わせしてから偶にこうして稽古をしていた。
「どうも長年サポーターをしていた癖が抜けないのですよ。では、時間も少しですし…‥」
「「いざっ!」」
リオン剣を例えるならば鋭さを突き詰めた疾風。一瞬で間合いを詰めて一撃を放つ。
対してリリルカは微風だ。フワフワと掴み所が無く、気が付けば懐に入って強力な突きを放つ様にレベルが二つも上のリオンでさえ圧倒出来ない。一進一退の攻防はリオンが優勢で最後に彼女が勝って終わりなのだが、差は戦う度に僅かだが詰められていた。
(同じレベルならば勝敗は逆転したでしょうね)
此方の攻撃を回避に専念してヒラヒラと避け続け、次の瞬間には一瞬で全力の攻撃を仕掛けて来る。緩急の差が一瞬で激しくなるリリルカにリオンもついつい本気を出してしまうのであった。
「ちょっ、リオンさ…きゃんっ!?」
「あっ……」
仕事仲間が稽古の相手をしてくれなくなった理由である手加減の下手さにより、この日もLv.4の一撃がLv.2を容赦なく叩きのめす。だが、当初は防御さえ出来なかったのが木刀を差し込むも弾き飛ばされるまでになり、今日は弾き飛ばされず押し込まれる迄になった。
「……流石ですね、リリルカさん」
「いえいえ、これでも元は冒険者落第のサポーター。お師匠様が弱いリリを強くして下さったのです」
「そうですか。どの様な方か気になりますし、私も会ってみたいものですね」
多分無理です、と自分の直ぐ後ろに立って観戦していた胡蝶に意識を向ける。多分この後で稽古の評価を下して反省点を克服する為の鍛錬を言い渡されると確信していたのだ…‥。
(きょ、今日は軽いと良いの…‥おや?)
先程までは稽古に集中していて気が付かなかったが(多分周囲への注意が足りないとダメ出しされる)、店の方からシルの嬉しそうな話し声が聞こえて来る。耳を澄ませば少年らしき声の持ち主に弁当を渡しているらしいのだ。
「青春ですねぇ」
「リリルカさんは意中の相手は居ないのですか?」
「お金が貯まったら何処かの町で医者の真似事でもして、家事万能の尻に敷ける相手と結婚を…‥、とは思っているのですがね。冒険者では中々出会いが…‥」
リリルカは、確か胡蝶も出会う前に敵から告白された事があると聞いたのを思い出す。その際、確か何と言ったのかも…‥。
(確か早く地獄に堕ちろとか何とか。お師匠様、美人だったのに変なのにしかモテなかったのですかね? 矢っ張り仕事一筋は…‥)
「リリルカ? 何か余計な事を考えていませんか?」
耳元で囁かれる優しそうな声に身が竦むリリルカであった。
「では、今月のお支払いは確かに……」
今月のローン返済を終え、肩の荷と共に軽くなった懐に溜め息が出そうになる。異様な熱気の中で鉱石が武器へと変わっていく様子を眺めながら店を出ていこうとしたリリルカの耳に他の客の会話が入って来た。相手は主神のゴブニュらしく随分と上客なので第一級冒険者かと思って顔を向ければ向こうも此方に視線を向けた。
「あっ……」
「げぇっ!」
アイズ・ヴァレンシュタインが現れた。リリルカは逃げ出した。だが、回り込まれてしまった。某竜の探求風の文章が入る展開の中、ゴブニュは静かに呟く。
「……邪魔だから此処で暴れるな」
(さてと……あの神と彼女は一体どうしたものでしょうか……)
リリルカがゴブニュ・ファミアリアのホームに行っている最中、胡蝶は劇場に向けて建物の屋上から屋上へと軽やかに飛び交いながら探りを入れたファミリアについて考え事をしていた。糾弾も神の暗殺も不可能ではないが、隠している力が未知数な者が居る以上は動くのに二の足を踏む。実際に危険な橋を渡るのが自分ではないからこそ尚更歯痒い思いをしていた。
「人食いの鬼にされながらも心までは変わりきらず、人を襲わずに守る為に戦った彼女。事情は違うのでしょうが、彼女と違って受け入れて貰った相手に依存して狂気を見逃し、人の命を奪うのなら……相応の罰は受けなければなりません。でなければ殺された人が報われませんから」
穏やかそうな口調と表情には変わりがない。だが、見た者に異様な印象を与える何かを発しながらも胡蝶は目当ての劇場へと辿り着いた。
「代金を払わずに芝居を見るのは心が痛みますが……今度リリルカに代金を投げ込んで貰うとして今は楽しみましょう」
既にこの世界が異国ではなくて竜宮城等の伝説の場所みたいに別の世界だと認識している胡蝶だが、文化が似ている極東の芝居を公演すると知って観に来たのだ。一人分の代金は一人分の代金なのでリリルカに一緒に来て貰っても結局は変わらないとして後で匿名で届けて貰う積もりで中に入れば日本人と服装や顔立ちが似た客が多い。
「さて、何処で見物を……おや?」
「おおっ! 胡蝶も来ていたか」
「煉獄さんもですか。そう言えばお芝居がお好きでしたね。……あれ?」
「「どうして貴方(お前)が此処に?」」
意外な場所で意外な再会があった最中、ベルはというと……。
「……きゅう」
「倒れたっ!? 魔法を使いっぱなしだったし、これが精神力の枯渇って奴か……」
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いや、胡蝶さんならディ蜘蛛姉にると思ったのですよ……鬼になったのと同じみたいな物だから
ベル君の魔法は?
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原作通り
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何でお前は燃えてないんだ
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オリジナル