個性ソビエト   作:ゆっくり霊沙

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一方的な和解

≪ようやくこちら側に来たな≫

 

 沈む様な感覚の後に、私は瞬きすると半ドーム型の密閉された会議室の中に居ました

 

 真ん中に置かれた長机、椅子は2つ

 

 奥には黒板と通信機、本棚に地図が有るだけの会議室だ

 

 私は椅子に座る

 

 そして対面に座る失敗作を見る

 

「なに? 普段はここで生活しているの? 失敗作」

 

≪いや、普段はもっと開けた場所にいるのだがね……ただ、こんな場所に居なければならない事態に陥っている事を貴様には理解してもらいたい≫

 

「……昨夜の夢のこと?」

 

≪あぁ、ここの近くに何かが有るぞ……そして貴様が体験学習に呼んだ和田歌舞という人物、その親友2人もだが何かを探している≫

 

「探している? 何を?」

 

≪星野鈴、話が進まない。今回は明確に干渉を受けている。このままでは今以上に狂うぞ貴様が。そうなれば私はここですら存在できなくなる≫

 

「……居なくなればいいのに」

 

≪……≫

 

 席を立ち、私の横に歩いてくる

 

≪餓鬼が……いい加減理解しろ。この個性というものも生きている、貴様からしてみれば私は寄生虫のような物かもしれないが、共存できない関係ではないのだぞ……良いか、本来はこんな説教をしている場合ではないのだ。数日以内に夢の場所を探し、原因を取り除かなければ探し続けることとなるのだぞ!!≫

 

「? ……1つ質問、探し続けるってなんだ? つまり歌舞さん達がそれを探し続けてこの町というか村に縛りつけられていると?」

 

≪あぁ、その通りだ。私もパトロールの際にこの町の住民を見てきたが、全員干渉されている……何かあるぞ≫

 

「……信じられないなぁ……今まで散々私の体を乗っ取ろうとしてきた人物が、いきなり干渉されている? ふざけるなよ、お前のせいでどれだけ心がバラバラになったかわかるか!!」

 

≪ふざけてるのは貴様だ!! 個性が無くとも人の心など壊れやすい物よ! 砕いて狂って……それでも前を向かなければ国等動かせないのだ、言ってやる、この世界はなぁ国なんだよ。貴様の器でできた国なのだ。乗っ取ろうとする? 当たり前だろ、国を直接動かせるのだからな……それが例え183センチの国土と国民も私と貴様しかいない滑稽な国であったとしてもだ≫

 

「疑心暗鬼で死にそうなんだよこっちはさぁ!! 何で自分の中身を疑わなくちゃいけないんだよ!! 自分を確立できてないから人も信じきることが出来ない……死にたくなって吐いて、精神病と言われて、周りから障害者って目で見られて、危険な個性で……ヒーローに退治される側だと言われて……なんなの? なんなんだよ!! 個性? 国? 知ったことかぁぁぁああ!!」

 

≪死ねないのは私のおかげだぞ。私というストッパーがいる限り死ねない……私が貴様の体で掌握できた場所はそこだけだ≫

 

「……ぁぁぁああ!! じゃあ今まで必死に生きようと堪えてきたのは私の心ではなく、個性の失敗作が止めていたから? だからなのかぁぁぁあああ!?!?!!」

 

 発狂……完全に私は狂ってしまった

 

 もう今はなにも考えたくない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!! しっかりしろ!! おい!!」

 

 鈴ちゃんが検査薬を体内に摂取した瞬間に泡を拭いて痙攣し始めたら

 

 こんな症例今まで診たこともないし、聞いたこともない

 

 確かに日本ではグレーなため病院では使ってないし、研究機関の一部でしか取り扱ってない物だが、左遷される前は普通に使っていた物だったのに……

 

 私は急いで電話を取り出して

 

「歌舞、鈴ちゃんの体調が急変したからちょっと来て! あと仁菜ちゃん近くに居る?」

 

『ああ居るぞ! 連れていく』

 

「至急お願い!!」

 

 ブランクが有るとはいえ仁菜も医者だ

 

 そこらに居るヤブ医者よりよっぽど良い……頼む鈴ちゃん目を覚まして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪チッ……狂ってしまったか≫

 

 星野は暴れそうなので個室に鍵をかけて閉じ込めた

 

≪さてどうしたものか≫

 

 いくら狂えど奴は体の支配権は手放さなかった……か

 

 しかし時間がない

 

 無理矢理にでも動かして干渉している本体を叩かなくては意味がない

 

 ……ただ、あの化け物が本当に存在していた時、今の星野では100回戦って1回勝てれば良い方だな

 

 不愉快だ……実に不愉快極まりない

 

 和解できる僅かな可能性に賭けて見事に裏目に出たな

 

 生前からここ一番で私は失敗してきたからな……まぁ積み重ねでペイできてきたが

 

 ……扉から声が聞こえなくなったな

 

≪星野鈴、聞こえているな。無視でも構わんから聞いてくれ≫

 

≪今動かないと本当に取り返しがつかなくなる。今この空間に避難しているため私は外の世界について分かりづらくなっている……外に出すから歌舞氏達と会話させてくれ≫

 

≪あちらも気がつかないうちに侵食されているだけでショックが有れば解けるかもしれない≫

 

≪頼む≫

 

「……」

 

 ダメ……か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴ちゃん!! 大丈夫!?」

 

「……大丈夫です、ちょっと失敗作と喋ってました」

 

「あぁ、鈴の中に居る人物か」

 

「……何分くらい意識が飛んでましたか?」

 

「20分くらいですね……本当に大丈夫ですか?」

 

「……すこし失敗作と話といただいてよろしいですか……今の自分は人を信じられなくなっているので……」

 

「どういうことだい?」

 

「≪こういうことだ和田歌舞≫」

 

「「「!?」」」

 

「君が失敗作いや、スターリン氏かい?」

 

「≪如何にもと言いたいが、私はこの中に入ってから自分の名を言うことが出来ないのだがね。本名も偽名も ペンネームも……いや、それよりも貴様らの隠していることを言え……どうも政争の臭いがする≫」

 

「くふ、くふふ……アハハハハ!! いや、愉快! 正に化け物だ。いや、失敬失敬」

 

「歌舞……」

 

「……勘の良い餓鬼は嫌いだよ」

 

 ステッキが首元に突きつけられる

 

 ただ、交差するように会話を共有していた鈴が殺気を感じとり手を銃に変えて構えていた

 

「≪首を銀に変えるのが先か、貴様を殺すのが先か試してみるか?≫」

 

「≪鈴は更に疑心暗鬼を強めてしまったぞ、いきなり殺そうとするのは無しではないかね?≫」

 

「いや、殺気を見せた時の反応を知りたかった……ステッキは降ろすとするよ」

 

 歌舞は椅子に座り語り始めた

 

 臨戦態勢になっていた未知さんと仁菜さんも臨戦態勢を解除する

 

「いや、しかし鈴は感情の変化を読むのが早いね。これは生きる上で大切なことだよ。忘れない方がいい」

 

「じゃあ話そうか……実は楯の会と呼ばれる組織が有ったんだ……まぁ4年前まで私達は構成員だったんだよ……親も所属していたから……4年前にその楯の会が警察によって解体されたんだ」

 

「当時東京に事務所を構えてヒーローをして、まったく……子供もいた私は寝耳に水だったんだ」

 

「で、構成員全てに警察から取り調べがあってね……僕の両親は一時拘束後釈放、僕は大丈夫だったけど、ヒーローが捜査を受けたとなると悪影響が……仁菜は父親の経営していた病院が捜査対象になったことで噂に尾がついちゃって経営権を別の組織に譲渡、大学は卒業できたけど黒い噂のせいで医師として働けず、未知は僕と似たような感じだったんだけど、楯の会だけではなく、別の組織というか未知こう見えても政治家の秘書をしてて、その人脈のお陰で僕らはここで働けてるんだ」

 

「去年から独自に楯の会を調べていたら、楯の会そのものが裏組織だったのは驚いたね……と言っても組織事態が何かの下部組織としかどんなに調べても解らなかったから手詰まりだったがな」

 

「ただこうして調べていく内に4年前に複数の組織が強制的に解散されていることが発覚した」

 

「僕らみたいな活動をしている集団も複数いたのでそれらを合体して壁の会というグループが創られた」

 

「構成員42名、基本東京にいて、会長はヒーロー協会の役員をしている人だ」

 

「星野鈴、君をここに呼んだ理由は壁の会に参加してくれれば良いなぁ程度だったんだけどここまで喋ると強制的に参加してもらわなくちゃいけないんだ」

 

「≪まて……貴様らが星野に干渉していたのではないのか?≫」

 

「干渉? なんのことだい?」

 

「≪……不味いな、精神に干渉が有ったから私は出てきたのだ。貴様らが違うとなると誰だ?≫」

 

「待ってくれ話が見えてこない……精神への干渉? ここにいる住民には精神に作用する個性なんかないぞ」

 

「≪貴様らは既に気がつかないまでに精神への干渉が進んでしまっているからだ……周辺の地図と歴史を調べさせろ……これは洒落にならなくなってきた≫」

 

「集団洗脳の危険性も有る……勧誘とかじゃない! 未知、仁菜……ヒーローとして全力で地域を守るぞ、あくまで私達が組織に参加している理由は楯の会とはなんだったのかだ。後回しだ」

 

 2日目の夜……互いに全てを曝け出し、改めて協力体制に入る……

 鈴は疑心暗鬼を更に強めてしまったが……


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