僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ステインと黒龍

闇に染められた身体、妖しく禍々しく輝く血のような瞳、全てをねじ伏せる強靭な四肢、身体に宿す龍は相手を威圧するかのように黒炎を吐き出す。それらを自分達は酷く恐れたのだ、あれだけ願った息子が恐怖をまき散らし全てを捻じ伏せるヴィランのようだと思えてしまったから。親なのに、子供を恐れ手放した。

 

 

『怖かったのは龍牙じゃなくて世間からの反応だろう、マスメディアは面白可笑しく騒ぐだろうね。あの鏡夫婦の息子はヴィラン!?ってね』

 

『僕は彼の見た目なんて気にしない、世間の目が何だって言うんだい?親ならそれと戦って子供を守るのが役目だろう、君達はそれを放棄したんだ。今更なんだ、君達は龍牙を馬鹿にしてるのかい』

 

 

同時に思いこされるのは根津に言われた言葉。自分達が恐れたのは息子ではない、それによって齎される厄介事だった。自分達の家が築き上げた地位や名誉の心地よさに酔っていた、それで息子を捨てたのだ。だがそれも本当の強さを持った相手には意味がなさない、それは自分達を守る盾にならない。今自分達を守っているのは―――

 

「だぁぁぁぁっっ!!!」

「むっ……!!」

 

自分達が、切り捨てた息子なのは酷い皮肉なのだろうか。

 

 

「オラァァァッッ!!!」

「せぇいっ……!!」

 

唸りを上げる剛腕を受け流しつつも背負い投げ、そして間髪を入れずにほぼ同時にナイフを投擲するステイン。それを腕に装着している巨大な拳の形をしたガントレット『ナックルデモリッション』で咄嗟にガードする、地面に叩きつけられる刹那、地面を殴りつけて身体を浮かび上がらせながら立ち上がるコングだが、そこへステインが鋭い蹴りを放つ。瞬間にブーツの先端から刃が飛び出した。

 

「でぇい!!」

 

その間にリュウガが割り込み、龍頭で刃を真上から殴りつけて圧し折ってコングのサポートをする。それに対してステップを踏んで後ろに引いた。

 

「すまん!!」

「ヒーローは助け合いでしょ!!」

「仰る通りってな!!んじゃ反撃行くぜぇぇえええ!!!!」

 

名誉挽回と言わんばかりにパワーコングは満身の力を込めて地面を殴りつけた。殴りつけられた衝撃は地面を駆け巡りながら、大地を抉る波動となりながらステインへと向かっていく。しかしここは裏路地、周囲は建物に囲まれている。回避は容易だと言わんばかりに跳躍して壁へと飛びついてそれを避けるステインだが次の瞬間目を見張った。

 

「なっ!!?」

 

コングのガントレットが目の前まで迫っていた、それを回避しようと壁から離れるが余りにも咄嗟な事だったので体勢が崩れ、落下するように地面に向かうがその先にはコングが残った左腕を構えながら待機していた。

 

POWER PUNCHING BLAST(パワーパンチングブラスト)!!!

「チィィィィィッッ!!」

 

落下している最悪と言っても過言ではない体勢のまま、ステインは迫る腕を横から蹴って無理矢理身体の向きを変えてみせた。それでも完全に避けきることは難しく脇腹を強く擦るようにコングの必殺技が掠った。

 

「くそっこれでも駄目か!!」

「今の連携を避けるんだなんて……!!」

「ぐっ……流石に今のは危険だった」

 

ステインは再度引きながらも掠った脇腹を押さえる。掠る、と言ってもパワーコングのパワーは文字通り岩を砕き鋼鉄にすら拳の跡を残すほどの強烈な物。掠る程度だったとはいえ身体へのダメージは尋常ではない、肋骨に罅が入っている。鈍痛が重く響いてくる、目の前でガントレットを装備し直すコングを見てステインは笑った。

 

「素晴らしい……お前も本物だな、パワーコング……」

「本物ねぇ……俺にはアンタの言う本物だとか贋作だとかは分からない」

「本物、贋作……今のヒーローは腐っている……オールマイトのようなヒーロー、それこそが真のヒーロー……俺は贋作が蔓延る世界が許せん……!!」

 

鈍痛が走る身体に力を入れながらステインが叫んだ、それはヒーロー殺しの源泉(オリジン)。『ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない』、それこそがステインが心に宿す真のヒーロー、オールマイトのようなヒーローこそが本物と語る理由であった。

 

「贋作が……ヒーローという称号を汚すのだ!!!ヒーローとは、目的であり手段ではない!!だから俺が正す、贋作が蔓延る世界の粛清する!!」

 

その様に思いの丈を叫ぶステインに少なからずコングは理解と納得を示してしまった。今の世の中にいるヒーロー達は本当に心から誰かを救いたいと思ってなった者がどれだけいるのだろうか。多くがヒーローというネームバリューが齎す物に目が行って本来すべき事を見失っているのではないか、そう思う。だからと言ってステインの行いを肯定してはいけない、どんな事だろうと彼は人を殺めているのだ。そう思う中でリュウガは言った。

 

「可愛そうな人だ、貴方は……」

「何だと……?」

 

リュウガの言葉から出たのはステインへの同情、思わぬ言葉に不信感を持った声が出た。

 

「貴方は本当のヒーローを知らないんだ」

「何をっ……」

 

リュウガは続ける、ステインに言葉を述べさせない。

 

「オールマイト、大きすぎる光だけを見つめてそれだけが正しいと思っている。違う、大きすぎる光じゃ全てを照らせない。小さな光だっているんだよ、俺を救ってくれたのは小さな思いやりって光だったんだよ。貴方はをそれを知らないんだ」

「……」

「確かにオールマイトは凄いヒーローだよ、俺もそう思うよ。平和の象徴として活動し続けるあの人を俺も尊敬している、だけどオールマイトだけが世界の真実みたいな言い方をしていいわけじゃない」

 

龍牙、彼を失意と絶望の奥底から救い上げたのはたった一人の温かい思いやりだった。その光は影を落として心に芽を出すだけの木洩れ陽を作った。そこから眼を出し、成長を促し未来という先を見せてくれたのは優しげな思いだった。決して大きくない、誰でも施せる小さな光。だがそれによって龍牙は救われた。

 

「貴方だって理解している筈だ。貴方の行動で齎すのは影だ、光じゃないって事は」

「黙れ……」

「現実と理想の狭間で苦しみ続けてる貴方は苛立ちを今の社会にぶつけてるに過ぎない」

「黙れっ……!」

「ただただ自分が認めたヒーロー以外は認めないと駄々を捏ねている、なりたいヒーローになれなかった子供なんだよアンタは!!」

「黙れぇぇぇえええ!!!!」

 

雄叫びを上げた、ステインは荒々しい息を吐きながらもリュウガを黙らせようと刃を差し向けた。黙らなければ殺すという明確な殺意の中でリュウガは一層瞳を鋭くしていた。

 

「黙れっ……何も知らぬ子どもが、理解もせぬ子どもが……俺の、俺の信念を侮辱するなぁぁぁぁぁ!!」

 

ステインはあからさまな程に取り乱していた、自分の心の中を搔き乱されたかのような気分になっていた。目の前の少年に自分が理解されたと僅かながらに思いながらも、それを振り払うかのように否定する。龍牙は読み解いた、ステインの心の中に燻っているヒーローへの憧憬の心を。今の社会に絶望しきっているその心を感じ取った、本当に沈み切ったからこそ感じ取れた。

 

「ァァァァアアアア!!!!」

 

迫るステイン、構えを取るコングよりも先にリュウガが飛び出した。そして龍頭を構え、ステインの斬撃を紙一重で回避しながらそれを叩きこんだ。インパクトの瞬間にステインの身体に龍の紋章のような物が浮かび上がりながらもそれを全力で殴り飛ばした。

 

DRAGON FANG IMPACT(ドラゴンファングインパクト)!!!

「がぁっはっっ……!!!」

 

渾身の一撃、それを受けたステインは壁へと叩きつけられながら意識を手放した。自身が認めた龍の牙、その名を冠する若きヒーローによって、討ち取られた。




なんか、ゼロワン要素が多くなってきたな……。

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