僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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少しだけ、嬉しい黒龍

「随分嬉しくなさそうだね、リュウガ君」

「なんというかまあ、複雑な気持ちでして」

 

リュウガが最後の一撃を放って仕留める事に成功したヒーロー殺し・ステイン。誰もがその成果を称賛する事だろうがリュウガは何処か全く別の見方をしながらこの事件にピリオドを自分の気持ちに打ち込んだ。

 

「ステインは分かってたんです。本当はヒーローになって変えるべきだった事は、だけどそれに背中を見せて殺しの手段を取ってしまった。それはたった一人でも彼に理解者が、いや共感してくれる人がいたらそうなってたんですよ」

 

言うなればステインが道を違える事になってしまった理由に対する思いだった。それが酷く自分に似ているように思えたのであった。根津という人が優しさを向けてくれたからこそ今の自分が居る、だが根津が来てくれなかっただけで自分は間違いなく悪からの誘惑に負けてしまって最低最悪なヴィランに堕ちてしまった事だろう。ステインだってそうなのだ、彼のヒーローは手段ではなく称号でなければならない、崇高な意志がない物にヒーローになる資格などはないという事に少しだけでも共感しただけでも道は大きく変わっていた事だろう。そんな瞳を新聞で大きく騒ぎ立てられている記事へと向けた。

 

『ヒーロー殺し・ステイン。遂に確保!』

 

そんな風に大きく取り上げられている記事、そんな記事を吐き捨てるかのようにリュウガは目をそらした。今回の一件ではリュウガの顔は世間には一切出ていない、パワーコングがビーストマンとミラー・レイディと協力して奮戦の結果の確保、と世間的にはなっている。

 

「俺も正直納得いかんよ、なんてリュウガ君の事の手柄を取らなきゃいけんのさ……これじゃあ嫌な上司だよ」

「俺にとってはそっちの方が良いんですよ。それにコングさんだってヒーロー免許持ってない人間に対して、全力での個性使用許可出したペナルティを受けなくて済んだんだからいいじゃないですか」

「むぅっ……それは否定しないけどさ」

 

このような処置が行われた理由としてはパワーコングが下した個性使用許可のペナルティを誤魔化す為、そして―――一番の理由はビーストマンとミラー・レイディに貸しを作る為であった。今回の一見の手柄を得て夫婦のヒーローとしての格は間違いなく上がった、二人が最も気にする社会的地位と名誉を更に大きくした。その代償として本当の意味でリュウガとの決別を約束させられた。

 

「にしてもあの夫婦があんなに屑だったなんて……そりゃシャチョーも嫌う筈だよ。苦労したんだねリュウガ君」

「まあそれなりに」

 

今回の一件でパワーコングも黒鏡 龍牙と鏡一家との一連の事情を把握する事になり、龍牙の理解者の一人となった。同時に今まで尊敬の対象として見ていた鏡一家への見方が激変し、最早嫌悪の領域に入っていた。

 

「兎に角、君は貴重な経験を積んだって事は喜んでおこうね。絶対にいい糧になった筈だから」

「ええっそう思ってますよ、それより早くこの反省レポート終わらせないと……」

「あれっそれ何のレポートだっけ」

「ヒーロー殺し・ステインとの戦闘レポートです。今回の俺の戦闘行動に関して師匠からまだまだ詰めが甘すぎる!!って怒られてその反省文と改善レポートの作成中です」

「うわぁっ厳しいなぁ。俺も手伝うよ」

「有難いですけどコングさんは良いんですか取材とか」

「いいんだよ。だって俺、世間的にはサポートでメインはあの夫婦って事になってるから」

 

コングの申し出を素直に受け入れながらもリュウガはレポートの作成に力を入れる事にした。そんな中、二人のお茶を差し入れる一人の影があった。

 

「ああ悪いね―――ファムちゃん」

「いえっ代わりの職場体験を引き受けて頂いて有難いのはこちらですので」

 

そこには龍牙の実の妹の白鳥の姿があった。彼女は本来、鏡夫婦ことビーストマンとミラー・レイディの事務所で職場体験を行っていたのだが今回のヒーロー殺し確保の一件で様々な事に対応しなければいけなくなってしまい、職場体験どころではなくなってしまった。そんな彼女の職場体験を引き受けたのはギャングオルカの事務所であった。

 

「ファム、お前こっちに来てよかったのか。あっちでも充分貴重な経験出来た筈だろ」

「……うんいいの。私は広報とかああいうのは興味全くないから」

 

何処かそっぽを向くような仕草をしているが、その対象はリュウガではなく両親へと向けられている。今回の一件、白鳥は両親に対する懐疑心がより一層深まった。龍牙の事で既に尊敬の思いが薄れていた所にステインに襲撃された時に緑谷を囮をするかのような指示である種の見切りをつけたような状態へと入った。

 

「ファムちゃん、君はパトロールに行くメンバーが居るからそれに同行して貰う予定だよね。もうそっちに回って貰って構わないよ」

「はいそれじゃあ失礼してそちらに回らせていただきますね」

 

礼儀正しく頭を下げるとそのままパトロール組が待機している部屋へと向かっていく。そんな後姿を見送りながらも思わずリュウガを見つめ直すコングは呟いた。

 

「なんであんなに良い子に育ったんだろうね」

 

龍牙の分まで愛情を受けたからこそあんなに真っ直ぐ成長したのだろうか、そうなのかと考える意味なんてないのだろうが考えずにはいられなくなる。取り合えずそんな考えは一旦打ち切って、リュウガのレポートの作成に思考を切り替えるのであった。

 

だが、その時の龍牙は気づきもしなかった。自分しか入れない鏡の世界の中から、自分を見つめる視線があった事に……。

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