僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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死力を尽くす黒龍

「後、10分……もう考えてる時間はなさそうだ」

 

話し合いを進めながら作戦を考えていたがもう時間が迫ってきている。これ以上のロスは拙いと判断し龍牙はもう動くことを決意する。姿を一向に見せないオールマイト、罠だと分かっていてももう飛び込んでそれを乗り越えていくしか選択肢が存在しない。やるしかない、気合を入れて臨むしかない。

 

「このまま待ってても無駄。葉隠さん対策に赤外線やら温度探知系の物でチェックしてる事も考えるとやっぱりこれしかない」

「うっうん。でも幾らなんでも無茶なんじゃ……」

「俺だって無茶だって思ってる、でも食い止める事は出来る筈、手筈通りに行こう」

「うん……頑張ってね!!」

「ああっそっちも気を付けて」

 

葉隠と龍牙はハイタッチをした後に拳を上下からぶつけ合いながらもう一度ぶつけてから硬く握手をする。この時、龍牙からすれば一切葉隠の手は見えていないのに完璧に合わせているのに葉隠は気付いて、胸の前で手を当てて少しだけ顔を赤くしながら笑ってから配置に付いた。

 

「……来るっ」

 

ゲートの前、あと少しでゲートを潜り抜けられる所まで歩み出た瞬間凄まじい存在感が一帯を包み込んだ。とんでもない威圧感と存在感が発散されていた。それは龍牙の目の前でスーパーヒーロー着地をしながらゆっくりと立ち上がりながらこちらを見据えた。常に浮かべられた笑顔と筋骨隆々たるマッスルボディ、平和の象徴、オールマイトがゲートを塞ぐように立ち塞がっている。

 

「HAHAHA!!待ってたよ黒鏡少年、もう誰も来ないんじゃないかって少し心配しちゃってたよ!!」

「俺としては来てくれないほうが嬉しかったですよ、全くどっちが透明人間なんだか……」

「葉隠少女だよ透明人間は、面白い事を言うね!HAHAHA!!」

 

とアメリカンな笑いを上げているオールマイトだが、龍牙的にはこの笑いもきっと分かっていたやっているんだと思わざるを得ない。此処まで来て分かった事だが赤外線や温度探知機のような物は見当たらない、という事はオールマイトは感覚的に気配を察知できる能力がある、いや経験で把握出来るのだろう。これが№1ヒーローという物なのかとつくづく思い知らされる。

 

「どっちみちあなたとの直接戦闘は避けられなかった。ならば―――すべき手は真正面から貴方を突破するしかない!!」

「実にシンプルだ!!良いよいいよそう来なくちゃ、その間に葉隠少女はゲート通過させるつもりかな?」

「さて如何だか……行くぞ平和の象徴、ギャングオルカ仕込みの戦闘を見せる!!」

「来いよ少年、胸を貸してあげよう!!」

 

龍が咆える。幻想の生き物、それが吼えた。そして駆けた。明らかな格上であるオールマイトにカウンターは無謀、超スピードに超パワーを併せ持つ規格外のスーパーヒーローに対して待ち戦法は悪手、攻めの一手しかない!!

 

「攻めか!!流石に豪胆だね!!」

 

龍牙渾身の右ストレート、それに合わせるようにオールマイトも腕を振るう。地面に足がめり込むほどの力を込めながら放たれる一撃、龍牙は龍の口を開きながら炎を吐きながらそれを纏わせながら威力を咄嗟に上げながら振り抜く。

 

「腕部集中、ドラゴン・ストライクゥ!!!」

TEXAS SMASH!!!!

 

オールマイト必殺の右ストレート、尋常ではない膂力によって振るわれるそれは爆風のような風圧を纏いながら放たれる。龍牙の炎を完全にかき消しながら龍頭とぶつかり合った。双方の一撃のぶつかり合い、大気を震わせる一撃、それを受けた龍牙の腕が弾き飛ばされるように震えた。

 

「っっっ!!!」

 

骨の髄まで痺れるような感覚、一瞬腕そのものが消し飛んだような錯覚を覚えながらも龍牙は歯を食いしばって眼前のオールマイトを睨みつけながら更に一歩前へと出た。もう一度、右での一撃を放とうとしている。だがそれを嘲笑うように更なる一撃を龍牙の顔面に炸裂される。

 

「―――っっ!!!うぅぅぅぅ!!!!」

 

それでも龍牙は前へと出てオールマイトの顔面へと龍頭をぶち当てた。神経が麻痺しているのか力を込められているのかもわからない、それでも全力で殴りつけるとオールマイトは一歩後ろに下がる。流石にオールマイトも顔面を殴られれば退くと思ってた、だが龍牙は前へと逆に足を踏みしめた。自分が引いたら誰がヒーローを信じる人達を守るんだと言わんばかりの行動に感動しながらもそれに応えるように新たな技を繰り出す。

 

OKLAHOMA SMASH!!!!

 

宛ら竜巻のような高速回転をしながら両腕でのラリアットを龍牙へとぶち当てていく。顔の次は肩、そして腹部と次々と剛腕がクリティカルヒットしていく。本来なら一撃当たっただけで吹き飛ぶはずだが龍牙のタフネスさがそれに耐えてしまったがために、連続ヒットに繋がってしまっている。

 

一撃一撃が身体を揺さぶる、超巨大なハリケーンと戦っているかのような気分になりながら龍牙は剛腕の連打を浴び続けた。鎧の役目をしている筈の身体が罅割れていく、身体の芯まで衝撃と痛みが突き抜けていく。最後の一撃と言わんばかりに振り抜いた剛腕が龍牙の顔を捉える。それは凶悪な龍の頭部を叩き潰し、その奥にあった龍牙の瞳を露わにさせながら遂に龍牙を地に伏せた。

 

「―――ガフゥ……!!」

「……やべっちょっとやりすぎちゃった……かな」

 

声を上げながら痙攣しているように身体を震わせる龍牙を見て思わずそんな声が漏れた。前へと進んでくる龍牙に一応ヴィランを演じて演習の担当をしているオールマイトは、危険だと思い攻撃を行った。だが流石にやりすぎたと思い、声を掛けようと手を伸ばした時だった。

 

「―――!!!」

「おいおいおいおいおい、マジかよ……結構本気で打ち込んだんだけど」

 

朽ちかけている龍頭を地面に突き刺し、膝を立てそこに腕を置くようにしながら、身体を震わせながら立ち上がろうとしている龍牙の姿がそこにあったのだ。自身の必殺技を2つも披露し、それを完璧に食らっておきながらまだ立ち上がろうとしている龍牙にオールマイトは一種の恐ろしさと敬意を持った。確かに龍牙が最も優れているのはその精神力とタフネスさというのは聞いているが、此処までの物なのかと思い知らされる。

 

「ま、だっ動ける、ぞぉっ……ウォォル、マイッドォォ……!!!」

 

露出している瞳は血が入り込んでいるからか、赤くなっている。そんな瞳はまだ折れていない、まだ自分と戦う気満々と言わんばかりだ。

 

「まいったな……こういう相手が一番やばいんだよなぁ……!!」

 

何が何でも立ち向かってくる相手、それが何よりも厄介でやばい。長いヒーロー活動でそれを知っているオールマイトは改めて構えを取る、がその直後に目の前に歪んだ鏡が出現する。

 

「これは……そうか反射か!!」

 

そう、龍牙のとっておきとでも言うべき攻撃の反射能力。それをここで切った、そして同時に悟った。何故龍牙が前に出たのか、それは敢えて自分の攻撃を受けて反射するつもりだった。力の差は明白、ならばオールマイトには自分の力をぶつけてやろうと考えたのだろう。鏡からはハリケーンのように迫ってくる自分が現れる。

 

「だけど、自分の技なんて怖くはないのさ!!フゥゥウウン!!!」

 

軽くジャンプしながら迫ってくる自分を上から両腕を叩きつけて強引にかき消すように粉砕する。確かにある程度本気で撃ったがそれでもまだまだ上の力がある。それで捻じ伏せればいい、とオールマイトが顔を上げた時、そこに龍牙の姿はなかった。

 

「何っまさかゲートに!?い、いや上っ!!?」

 

真上を向くとそこには黒い炎の龍を背負いながら自分を見下ろしている龍牙の姿があった。反射すら囮、時間のかかる必殺技の発動までの時間稼ぎに過ぎない。全ては自分の最強の一撃を放つための布石。

 

「だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

甲高い龍の咆哮と共に吐き出される極大の黒炎、それを受けながら天から落ちる流星のような勢いで落下しながらオールマイトへと向かっていく。常闇との技とのぶつかり合いで天候をも捻じ曲げた龍牙渾身の一撃、それをオールマイトは受けて立つかのように腰を落としながら構えを取った。

 

「いいぜ黒鏡少年、私も全力で君を迎え撃とうじゃないか!!さあ受けてみろ!!!DETORIT SMASH!!!!

 

オールマイトが放つ、彼も本気で龍牙を迎え撃った。その一撃、それは天候すら自らの力だけで変化させる馬鹿げた領域の力、それと龍牙の必殺の一撃が今衝突する―――その時

 

「オ、オールマイト先生確保ぉ!!」

「えっ嘘ぉ!!?」

 

それは唐突に現れた。オールマイトの脚にはハンドカフスが掛けられており、葉隠だと思われる手袋が浮かんでいた。それを見た龍牙は安心したように身体から力を抜いたのかあらぬ方向へと向かって突っ込んでいき、倒れこんでしまった。

 

「わああああ龍牙君大丈夫ぅ~!!!??」

「参ったなこりゃ……」

 

走っていく葉隠を見つめながらオールマイトは思わず頭を欠いた。龍牙の存在感と異常なタフネスさと迫力故か葉隠の事が頭から抜けてしまっていた、これもまた龍牙が仕掛けた罠だった。そもそもが龍牙本人自体が囮で葉隠はずっと隙を伺ってハンドカフスを掛けるタイミングを見計らっていた。そして自分が龍牙とぶつかり合いを見せる瞬間の切れ目を見事に突いて葉隠はオールマイトを確保したのだ。葉隠の透明と言う神出鬼没さと龍牙の存在感と耐久力が無ければ成立しない作戦に見事にやられてしまったという事だ。

 

『黒鏡・葉隠チーム、条件達成!!』

 

「やったぁぁぁ!!!龍牙君、私たちオールマイト先生相手に勝ったよぉおお!!!」

「……」

「りゅ、龍牙君……?えっだ、大丈夫!!?えっ個性解除されて……わぁぁああああっ龍牙君血塗れぇぇええええ!!!?オ、オオオオオオールマイト先生ェェェェェ医務室に運ばなきゃあああ!!!!?」

「マジでやりすぎたぁ!!?確りしろ黒鏡少年んんんんんん!!!!??」

 

この後医務室に運ばれた龍牙だが、オールマイトの攻撃を受けて骨の髄までボロボロになっており、ギャングオルカ事務所からスイーツァを呼ばなければ治癒させられないという緊急事態が発生して暫く医務室はぎゃあぎゃあと大騒ぎとなり、オールマイトは根津に次の受け持つ試験までお説教を受ける事になった。


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