僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
期末試験の翌日、芦戸曰くナウでヤングな最先端ショッピングモールへと拒否した爆豪と見舞いだからと欠席している轟以外のメンツでやってきた。もう既にヤングじゃないだろと内心で思う龍牙だが敢えて口にはしないでおいた。体育祭の影響もあるのか、まだ自分達の顔を覚えている人もいるのか此方を見つめる声は何処か明るい。
「おおっ!!龍牙君凄いカッコいいんだね私服!!」
「そう、なのか……?知り合いの人が選んでくれたんだけど良く分からないんだファッションって奴は」
白いポロシャツに紺色のジャケット、ライトグレーのジーンズと清潔感のある物でコーディネートされている龍牙の服装。小物入れとして下げているショルダーポーチは何処かギャップのような魅力を引き出している。因みにこのコーディネートは休日にMt.レディこと、岳山 優が龍牙を連れだした際に散々着せ替え人形にした上で似合うという事で買ってくれた服である。
「でも似合ってるよぉ~!普段の黒ってイメージの龍牙君とは逆にホワイトメインで」
「そうか、俺はこんなのが似合うのか……覚えておこうかな、葉隠さんも活発的な感じがして可愛いよ」
「えへへへっ~そうでしょ~♪」
葉隠の纏っているのはピンクと水色のシャツとグレーのショートパンツ、透明であるので何とも似合ってるのか良く分からないが、龍牙的には元気な葉隠のイメージに合うのでそんな風に言うのである。
「龍牙君は何か買うものあるの?」
「強いて言うなら……林間合宿だからトレッキングシューズかな」
「ああっアウトドア系の奴だね!私も丁度みたかったんだぁ~。一緒に行こうよ」
「そうだね」
そんなこんなでそれぞれが買いたいと思っている物がバラバラだったために別行動となる事になったのであった。龍牙は葉隠と共に靴などを見る事になり、共にシューズショップへと足を進めていくのであった。
「やっぱり龍牙君は黒?」
「まあ黒で良いかなとは思ってるんだけど、いやでもこのグレーも良いかな……」
「こっちの赤も似合うんじゃない?」
「いやそういう赤いのは葉隠さんみたいな可愛い子向けだよ」
「いやぁ照れちゃうよ~!」
明るい声で笑っている葉隠だが、本当は頬が赤くなっていて本当は自分が凄いドキドキしていてウキウキしているのが龍牙にバレないかで冷や冷やしてしまっている。葉隠にとって龍牙のようなタイプは出会った事が無い人物だった、透明と言う個性の関係上で可愛いや似合ってるなどは全くと言っていい程に言われてこなかった。両親にはそこまで言われた事が無いのに、龍牙は違っていた。
「あっこのオレンジなんていいと思うよ、葉隠さん向けじゃないかな」
「私が良いと思ってた奴だ~!やっぱりこれが良いかな~!?」
まるで自分の事が見えているかのように接する龍牙、葉隠にとっては酷く新鮮で初めての存在だった。特に自分の手を、直ぐに握れる所など最たるものだった。両親ですらできない事を簡単にやる龍牙に葉隠は日に日に胸の高鳴りが増していくのを感じていた。
「え、えっとごめんね龍牙君、ちょっとお手洗いに……」
「んっ分かった、んじゃその辺にいるからさ」
買い物も終わったタイミングで葉隠は我慢出来なかったのか龍牙の前から姿を隠してしまった。少しばかり行きたいなとは思っていたが完全に建前、本当は此処まで自分と接してくれる異性がいなかったのでもういっぱいいっぱいだったのであった。
「うぅぅぅぅっ……ど、どうしよう、顔が赤いのバレてないよね、心臓の音とか聞こえてないよね……?」
と少し間、トイレに籠って気持ちを落ち着ける事に集中する葉隠であった。
「待ってる間にジュースとか買ってあげてた方が喜ぶかなぁ……いや女の子は甘いアイスの方が喜ぶって冬美さん言ってたな……なんだっけ、ストロベリーチョコナッツ……だっけ?」
葉隠を待っている間、適当に携帯でも弄りながら待っていようかと龍牙。皆で決めた集合時間まではまだまだ時間がある、取り敢えずジュースでも買いに行ってその後にアイスでもと思った龍牙だが、そんな時に一人の男が転んでしまい杖を手放してしまったのが見えた。ヒーロー志望云々は関係ないが力になりたいと思い駆け寄る。
「あの大丈夫ですか、手貸しますよ」
「んっ……ああっすまないね。僕は目が良くなくてねぇ……杖は何処かな」
「あっ此処ですよ」
黒いスーツに身を包んだ長身の男、深々と山高帽を被っており更にサングラスのような眼鏡をかけているせいか人相は分からないがそれなりに歳を重ねているのか何処か、老いを感じさせる声をしている。杖を取って握らせてあげると男はゆっくりとだが立ち上がる事が出来た。
「苦労を掛けてすまないね、本当に優しい少年だ。おっとっと」
「大丈夫ですかフラついてますけど」
「恥ずかしい所を見せてしまったね、久しぶりに外出の許可が下りたから散歩とでも思ったんだが……やれやれ僕も歳かな」
「近くに腰を下ろせるところあります、あのご迷惑じゃなければ手を貸しましょうか?」
「……良いのかい?友達と来てるとかじゃないのかい?」
「この位大丈夫です」
そう言うと男は感謝しながら龍牙の手を借りながら近場の腰を下ろせる場まで移動して腰を下ろした。目だけではなく足腰も弱いのか、歩いている際も少々ふらついていた。
「いやはや助かった、手間を掛けさせてしまったね。何かお礼をしたいんだけど」
「いいですよお礼なんて。誰かが困っていたら助けるのは当たり前ですよ」
「これはこれは一本取られたかな、君は本当に良い子だね。親御さんも鼻が高いだろう、君のような息子さんがいたら」
「い、いやぁ照れますよ……」
そう言われると本当に照れてしまう、確かに根津とギャングオルカのお陰で今の自分がある。二人には感謝しかないし、そんな二人の自慢の息子だと胸を言えるのならばこれほどに嬉しい事なんてないのだろう。そう、龍牙がそう思った時だ、鏡夫妻の事など欠片も浮かばなかったその時だ。
「さてとっ……君に聞きたい事がある―――鏡 龍牙君。君は……親を恨んでいるかい?」
「何、をっ……!?」
そう、問いかけられた。一瞬、思考が死んだように固まった。それは恨んでいるかという事を問いかけられたからか、いや違う。鏡 龍牙と言う名前を出されたからだろう。自分の旧姓を、以前の名前を知っている。ならばこの男は根津やギャングオルカの知り合いなのかと一瞬思うのだが違うという確信があった。何故だ、そんな事は如何でもいいんだ、何を言っているんだと言おうとした時、男の手が頭に触れた。
「良いんだ分かっているからね、意地悪な事を聞いて済まなかった。そう君も分かっている筈だからね……」
そう言いながら頭を撫でる男、まるで祖父が孫を撫でるかのような優しい手つきに不思議と妙な感触を覚えた。そして次の瞬間……
「―――っ!!?」
身体の中がカッと熱くなるのを感じた、身体の中で炎が巻き起こったかのような熱さに言葉を失った。胸に手をやりながらも苦しみに耐える、崩れ落ちそうになる身体を必死に立てていると男がそっと自分を先程まで自分が腰かけていたスペースに座らせた。
「今日は会えて良かったよ。君から預かっていた物を返さなければいけないとずっと思っていたからね、これで君は完全だ。これで君は完全になった」
「なに、をっ―――!!」
「さよなら龍牙君、次に会える時を楽しみにしているよ。それじゃあね」
更に熱くなっている身体の奥、重くなっていく瞼と薄れていく意識の中で反抗しながら顔を上げて男を追おうとするのだが男の姿はもうそこにはなかった。そこで龍牙は意識を保てなくなり、意識を失ってしまった。
その直後、麗日の警察への通報が行われた。USJにて殴り込みをかけてきた