僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
その龍の存在に気付いたのは本当につい最近だった。自分の身体の中に何か不思議な充実感が満ち満ちていた。足りなかった身体のピースが当てはまっているかのような奇妙な満足感があった。そんな感覚を味わいながらも鍛錬を続ける中で龍牙は鏡の中の世界からまるで何かが自分を見つめているかのような視線を気付いた。そして、思い切って単身でミラーワールドへと足を踏み入れる事にした―――そしてそこであったのが、自らと同じ黒い龍。
『グオオオオオォォォォォッッッ!!!』
ミラーワールドに自分以外の存在がいた事に驚きを隠せなかったが、その龍はまるで自分が会いに来るのを待っていたかのように頭を下げた。そして―――龍牙は真の意味で一つとなった。
「おっ~来た来た!随分早かったね、関心関心!!でもまあお昼抜きからは逃げきれなかったかぁ」
笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。現在時間は午後4時50分、約3時間とマンダレイが語っていた道のりを更に時間掛けて到達した1組生徒は全員が全身から疲労を滲ませて個性の酷使による疲労でフラフラしているものが多い。あの轟と爆豪にも大きな疲れが見えているらしく、疲れきっている。そんな中でマンダレイとピクシーボブは驚きの光景を見ながらあれは見間違いではなかったと思う。
「大丈夫か皆、乗り難くないか」
「い、いえ乗せて頂けるだけでも有難いという物ですわ……」
「ほ、ホントに、ありがっ……うぷっ……」
「お茶子ちゃん無茶しないでね……?」
森の木々の間を縫うようにして抜けてくるのは黒い龍、節々には黄金の模様が浮かびながら獰猛な紅い瞳を輝かせているが、今は全く凶悪さを感じさせない。それ所かもう動けないレベルに疲弊しているメンバーをその身体に乗せながらゆっくりと浮遊しながら龍牙の隣を飛行している。そんな龍牙自身も背中にはウェイ顔になっている上鳴を背負いながらも全然応えていなさそうな表情を作りながら山道を突破してきた。
「降ろすぞ上鳴」
「ウェ、ウェ~イ……サンキュ~……」
「なんか色々とダメになってないかお前……」
上鳴を下ろしながらも周囲へと視線を向ける龍牙はA組の中で唯一まだまだ平気そうに振舞っている。実際、ギャングオルカにそのように鍛えられている故にまだまだ龍牙は動く事が出来る。多少なりとも疲労は溜まっているがそこまでの物ではなく、今から戦って見せろと言われれば龍牙は平然と戦闘態勢を取って戦い始める事だろう。そこまでに龍牙のタフネスさは際立っている。
「それより黒鏡、お前それなんだ」
「何だと言われましても……俺の個性の一部……としか言いようがないと思います」
「一部、か……」
ゆっくりと地面に身体を下ろし、自身の身体に乗っていたメンバーを下ろす黒い龍。常闇の黒影に近い何か、かもしれないがこれが個性の一部として見るのは非常に難しい。黒い龍の騎士に姿を変えるという個性を持っているのにも関わらず、更に黒い龍を呼び出して使役する……。これが本当に一つの個性が持ち得る力なのかと素直に相澤は眉を顰めてしまう。
「龍牙、その黒龍の名はあるのか」
「シンプルにドラグブラッカーって名前にしようかなって思ってる。ネーミングセンスないし俺、あんがと、戻っていいぞ」
その言葉を受けると黒龍ことドラグブラッカーは一吼えすると身体をくねらせながらも龍牙の足元の影に飛び込むようにしながら消えていった。ドラグブラッカーは基本的に龍牙の身体の中にいるらしく、鏡に映ったりするのはその影のような物、と龍牙は考えている。それでも自分と同じくミラーワールドに入れる事は変わりないようだが。
「ネコネコネコ……ミステリアスでクールなイケメン……いい、実にいい……!!」
とピクシーボブは龍牙の持つ黒龍を見ても妙な事は思わずに、単純に魅力が増したと思っている。更に瞳を輝かせながら龍牙を見るのだが……肝心の龍牙は何であそこまで見つめられているのかと全く分かっていないのか、取り敢えず頭を下げるのであった。
「まずはバスから荷物を降ろして来い、部屋に運び込んだら食堂にて食事。そのあとは入浴し、自由時間。本格的なスタートは明日だ」
『はいっ!!』
相澤の号令もあり各自は何とか体を起こしながらバスへと向かって自分の荷物を確保して、施設の中へと入っていくのだが、最後に入ろうとした龍牙を見て物陰から何かの声が漏れた。龍牙は余り気にも留めずに中へと入っていくがマンダレイとピクシーボブはその影へと向かうと心配そうに声を掛ける。そこにはプッシーキャッツのメンバーの一人であるラグドールが居たのだが……彼女は何処か怒りに震えているようだった。
「……ごめん流石にこれは、あの子の事を考えると無暗に言っちゃ駄目」
「……何かやばい物でも見た?」
「極上にやばいのを見た、あの子……どうしてあんなにちゃんと出来てるのかな……」
と彼女は最後に施設に入った龍牙の事を思いながら、自らの個性が見てしまったものをそっと胸の内へとしまい込んだ。
「龍牙、後でまたドラグブラッカーを見せて貰う事は出来るか」
「出来るけど、如何して?」
「……カッコいいからだ」
「分かる、分かるぞ踏陰」
そんな風にラグドールが心配する龍牙はライバルと認め合った男と何やらを深めつつあった。
龍牙、病への兆候。