僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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沈む黒龍

「そうだ、一度聞きたかったんだけど龍牙君、君の龍って操作型?それとも自動操縦型?」

「だぁぁぁっっ!!ふうっ……えっはい」

 

今日も今日とて地獄のような日々が続いている林間合宿、B組のメンバーも悲鳴を上げる中、黙々と自分のノルマをこなしながら着実と力を付けている龍牙。矢張りギャングオルカとの特訓が聞いているのだろう。今もドラゴン・ストライクで一体の土魔獣を撃破した所だったのだが、そこへピクシーボブが話しかけた。背後から一体の魔獣が迫っていたが裏拳で沈める。

 

「ドラグブラッカー……どうでしょうね、勝手に俺の意志に合わせてくれる感じはありますけど俺がこう動かしたいと思ったらその通りに動いてくれますし……わかんないですね」

「基本自動で任意操作系って事かな……それとも単純に意思があるって事かな」

 

常闇の黒影のような物なのかは分からない、それはそれでも個性とは幅広く出せるのでこれからの訓練内容の変更に繋がってくる。それを想定して一部変更を考えていた、如何やら進めておいた方がよさそうだと思う。

 

「少しだけ休憩しましょうか、ちょっと龍牙君だけハイペースすぎるし。まあ貴方が凄いタフだから飛ばしても問題ないとは言えばないんだけどね」

「師匠に鍛えられましたから、俺は持久力が一番優れてるらしいので」

 

そう言われて納得しか出てこない。体力の多さはあらゆる面に応用がきいてくる、単純な持久戦だけではなく短期決戦方式でも存分に体力を使える事に繋がるし、撤退などの成功率も大幅に上がってくる。いい育て方と龍牙の長所を完璧に知り尽くしている良い師匠だと素直に感心するピクシーボブだった。

 

「ふぅっ……」

「本当に自在なのね、異形系と言うよりも鎧なのかしら」

「身体をそう置き換えているって感じですかね……実際に鎧みたいなもんですし、オールマイトに破壊寸前までやられましたし」

 

個性を解いて身軽になっている龍牙を見ながら矢張り不思議な個性だと思う。炎に包まれ、その中で鎧を纏い力を使う。それでいて龍を使役する、どちらかと言えばあの龍そのものが力の原動力のような物なのだろうか。そう思いながらもピクシーボブは隣に座る。

 

「ねぇ龍牙君、君っては好きな子っているの?お姉さん気になるなぁ~龍牙君結構イケメンだし」

「好きな人……ですか、そりゃ師匠とか父さんとか……」

「ああいやいやそうじゃなくて、異性で好きな人」

 

そう言われても正直な話、龍牙には分からない以外の選択肢が存在していない。同年代の友人が出来たのも雄英がやっと、それ以外の異性と言えばリカバリーガールにミッドナイト、Mt.レディのような年上の人ばかりで初恋なんて物も経験した事が無い。ミッドナイトもMt.レディも美女だが、龍牙にとっては親しいお姉さんという印象が強い。まあMt.レディは自称姉だが。

 

「……分からないですね、俺初恋とかも分からないです」

 

龍牙にとっての愛情は根津やギャングオルカから向けられた物、鏡夫妻から向けられた愛は確かな物だった事だろうが彼にとってはあの一件でそれが完全に消え去ってしまっているに近い。加えて同年代の友人がいなかった期間が長かったので恋にも距離が遠かったので、それらに対して鈍感になってしまっている節がある。それを聞いて見えない所でガッツポーズをする肉食系が一人。

 

「そちらは如何なんですか」

「えっ私?い、いやぁその全然ねぇ……仕事とかもあるし、あんまりそういう話はないっていうか……」

 

何とも答えにくい質問だがこちらが聞いたのに返さないのも駄目だろうと考えて顔を引き攣らせながらもギリギリの所を探りながらも濁らせるような答えを返す。

 

「そうなんですか……美人でお綺麗なのに変な話ですね」

「っ―――そ、そう思う?」

「はい」

 

龍牙は何の打算もなく素直な感想をもってピクシーボブに言う、それを聞いてよし好感触!!と胸を熱くする。

 

「それじゃあさ、私が付き合ってって言ったらどうする?」

「嬉しいと思います、と言っても俺はそういう経験とかないので上手くリード出来ないと思いますし、ピクシーボブ先生だったらもっと良い人に出会えますよ」

 

そろそろ休憩は終わりと立ち上がりながら軽く腕を回している龍牙を見つめながらピクシーボブは素直に惹かれた。全く打算もなく此処まで自分を褒めてくれる男には出会った事は無いし、素直に胸がドキドキして熱くなってきてしまった。これはマジ恋かもしれないと思いつつ、一緒に立ち上がって訓練の続きを始まる事にした。

 

「そうだ、今日の夕食の後はクラス対抗の肝試しがあるよ!!龍牙君は怖いのって平気?」

「怖いの……う~んさあ?」

「それも分からない?」

「単純な怖い奴って俺の個性が怖いのと同じですかね」

「(ああっ確かに……どっちかと言えば怖がらせる側だもんね……)」

 

 

「という訳で肝試しの時間だよ!!」

 

そんなこんなでやってきた肝試しの時間。クラス対抗で先にB組が脅かす側、A組が脅かされる側。二人一組で3分置きに出発。ルートの真ん中に名前を書いた御札があるから、各自それを持って帰ることがルール。脅かす側は直接接触する事は原則禁止だが、個性を使用してでの脅かしはあり。

 

「肝を試す時間だ~!!」

「「「「おう、試すぜぇ!!!」」」」

 

芦戸、切島、瀬呂、上鳴、砂藤は非常にやる気満々で楽しみにしていた模様。辛い事が多い林間合宿だがこの肝試しは所謂飴なのだからある意味当然なのかもしれない。特に彼らは補修組なのでそれが強く出ている、が―――そこに相澤の捕縛布が彼らを拘束する。

 

「その前に、大変心苦しいのだが……補修連中はこれから俺と授業だ」

『嘘でしょ先生!!?』

「生憎マジだ。日中が疎かになってたのでこちらを削る」

『勘弁してぇぇぇぇッッ!!!!』

「こういう時ってなんていうんだ、御愁傷さま?」

「龍牙君、それ確実に煽ってる」

 

そんな風に補修連中を見送った龍牙たち、そして今度は自分達が肝試しに出発する順番を決める事になった。男女混合の二人一組、龍牙がくじを引くと初手且つパートナー葉隠であった。

 

「一緒だね龍牙君!」

「そうだね、葉隠さんが一緒なら怖くないかな」

「それはこっちの台詞だよ~、私実は怖いの得意じゃないんだよ~」

 

葉隠も相手が龍牙で非常に嬉しそうにしている、気心知っている相手である上に龍牙の優しさや強さを重々承知しているからだろう。だが龍牙と一緒ならばきっと怖くないという不思議な実感があった。そんな風に仲良そうにしている二人だが、それをピクシーボブは見て直観的にライバルだっと思ったりするのであった。

 

「それでさ龍牙君、ちょっとお耳を拝借していい?」

「んっ如何したの」

「今のルールを聞いてちょっと思ったんだけど、ごにょごにょ……」

 

膝を曲げて耳元に声を当て易くする龍牙、それに感謝しながら相談する葉隠。周囲はもしかして葉隠の事が見えてるのかと軽い疑問を持っているうちに相談事は終わった模様。

 

「それじゃあ最初のペア、龍牙君&葉隠ちゃんゴッー!!」

「ゴー」

「あっ言った方が良い?それじゃゴー!!」

 

此処でも天然のような物を炸裂させる龍牙は元気よく声を出して隣を歩く葉隠と共に森へと入っていく。道はループを描いた一本道で迷う事は無い。中間地点にはラグドールも待機しているのでいざという時も安心、次の常闇と障子が準備に掛かろうとした次の瞬間―――!!!

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッッッッ!!!!』

『ビャアアアアアアアアアアアア!!!!!????』

『キャアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!??』

 

尋常じゃない絶叫と泣き叫ぶ声が森から木霊した。思わず待機組は身体を強張らせ、スタッフ的な立場のピクシーボブ、マンダレイ、虎も思わず顔を見合わせてしまうほどの大絶叫。そして一番なのは明らかに悲鳴の数が夥しいという点だった。龍牙と葉隠の悲鳴、とは考えられなかった。

 

「ねえこれどういう事だと思う……?」

「ラグドールからの連絡もないし緊急事態ではない、と思うけど……」

「だがこの悲鳴の数、明らかにあの2人だけではないぞ」

 

そんな風に様子を見に行くべきかと会議をしつつ、次のペアの出発を待って貰ってもらう。そして時間が少し経った頃の事、森の出口から人影が見えた。それを見て安心する皆だったが、そこにはドラグブラッカーの背中に大量に気絶しているB組の面々に申し訳なさそうにしながらも数名の生徒を背負っている龍牙、苦笑いを浮かべるとラグドールと何処かウキウキしているような葉隠の姿があった。

 

「一体何があったのこれ!!?まさかのB組の皆全滅なの!!?」

「いやぁそれがね……どうやら龍牙君、脅かされた時にうっかり個性を発動させちゃったみたいで……それでそのまま発動させてたまま進んじゃったみたいで……」

『ああっ……』

 

ラグドールの説明を聞いて皆納得してしまった。普通に進んでいた龍牙と葉隠だったが、B組の驚かし方が上手かったので龍牙は驚いてしまい、うっかり自己防衛意識が働いてしまい個性を発動させてしまったのだ。ご存じの通り、龍牙の見た目は恐ろしい物。此処にいる皆は既に慣れているが……B組は慣れているかと言われたらそうではない上に暗闇の森の中というシチュエーションも相まってとんでもない相乗効果を発揮してしまったのだ。

 

暗闇の中でボンヤリと輝く赤い瞳をした恐ろしい風貌をした龍戦士が森の中を歩いていた光景に、ビビりまくった結果、気絶者が大量に出る結果となった。

 

「すいません……その、結構怖くて……」

 

と当人は顔を反らしていた、本人も悪気があったわけではないという事で龍牙は怒られなかった。そんなこんなで肝試しはある意味で龍牙の一人勝ちという結果になってしまった。

 

「龍牙君って結構怖いの駄目なんだね」

「……なんか、すいませんでした……」

 

因みに、葉隠の話は逆にこっちが驚かせようか!?という趣旨の話で龍牙もそれに賛成して個性を使うつもりではいたのだが……想像以上にB組の驚かし方が上手く、龍牙は怖くて個性を解除出来なかったのである。

 

 

その影で、動く出す者がある。

 

 

「さあ行くぞ、敵連合開闢行動隊―――目的を果たせ」


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