僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
林間合宿前のショッピングモール。
―――鏡 龍牙君。君は……親を恨んでいるかい?
そうだ、同じように旧姓で呼ばれた事があった。根津にギャングオルカしか知らない筈の自分の旧姓を知っている者がいた。あの時の男だ、そして同時に記憶が飛んだ、何かが記憶の奥底へと導いている。今まで鍵が開かずに開かなった閉じていた扉が開く。そこにあったのは―――幼い自分が病院にいる場面だ、鏡 乱もいる。つまりこれは個性が発動せずに様々な病院を巡っていた時の頃の事。
『ふむ……矢張り個性は確りと存在しておりますね、原因は矢張りご夫婦の個性を上手く扱い切れていないのでしょうな』
『それだけなのでしょうか、何か病気とか……』
『前の病院での検査結果はこちらにも来てますが特に異常はないですね、寧ろ完璧な位に健康体です』
過去、自らの個性があるにも関わらず発現せず自らも両親も不安がっていた。妹は確りとした個性があるのになぜ自分だけと当時の同級生にも馬鹿にされたりもしていた。両親もその事を深く受け止め有名どころの病院を幾つも回った、そしてまた何時もの通りとある病院から紹介を受けて今の所でも検査を受ける。
『それならこちらでも個性因子が活性化する薬を使いましょう。少し強めですので注射になりますが……龍牙君、注射は大丈夫かい?』
『うん、だいじょうぶ。いたいけどこわくない』
『おおっ強い子だ、それじゃあ……すいません先生、そちらの方から取って貰えますか?』
『ああっ少し待っていて』
個性因子誘発物質は日本では一部合法的なものとして使用が許可されている薬物、脳内物質やホルモンなどに働きかけて結果的に個性因子を誘発活性化させる薬。それを自分も打つ事になった。そんな時にその薬を持ってきたもう一人の先生がこれから注射をするからねと言いながら頭を撫でた。
『大丈夫、大丈夫だよ。君は立派なヒーローになれるさ』
優しい手つき、祖父が孫を撫でるかのような……そうだ、ショッピングモールで感じた不思議な感触はこれだった。以前にもこの男に頭を撫でられている、だからあの時の感触があった。同じような感覚があった……!!
「まさか、お前が……お前が原因で俺は個性を使えるようになったのか!!?」
龍牙が導き出した答えはそれだった。個性因子誘発物質を投与してから約半年、じっくり様子を見て行きましょうという事で病院はそこだけ通っていた、そしてその半年後に自分の運命の日になった。個性が遂に発動、発現し自らの姿が変化した。ならばその原因は打たれた薬かこの男の二択しかない、自分の個性はこいつから与えられたものなのかと龍牙は軽く頭に血が上ってきた。そんな龍牙を鎮めるように声を出しながら男は笑っていた。
『そうでもあり、そうでもないと言える。君は元々個性を使えた、だが使い方が分からなかったみたいだからね。折角だから個性の一部を僕が貰わせてもらったよ』
「ンだとぉ……!?」
龍牙の個性、それはビーストマンとミラー・レイディの二つの個性が混ざり合った結果急激に個性としての質が上昇した物。しかしそれは余りにも強すぎた個性故に幼い龍牙ではエンジンを掛ける事すらできなかった、だから個性を奪った……個性を奪う、つまりそれがこの男の力であり個性。それを考えた瞬間に脳無を連想してしまった。
「まさか、個性を奪った上で誰かに与えられる……!?」
『ほうっ中々に頭の回転が速いね、その通り。ショッピングモールではそれを君に返させてもらったよ』
個性を奪った上でそれを他人へと譲渡出来る、なんてとんでもない個性だと思いつつも龍牙は個性を返したという部分に覚えがあった。そう、ドラグブラッカーだった。自分はオールマイトとの激戦で眠っていた部分が起きたと思っていたが違う、この男の話が本当ならば時期的にも合うからだ。ドラグブラッカーを出せるようになったのはショッピングモールでの出来事の直後……!!
「ドラグブラッカーは元々俺の個性だったのか……!!」
『その通り、寧ろ君の個性の源泉と言っても過言ではない。それを奪った結果として君は大きく変化した、龍から離された結果どうなるか僕も気になっていたんだよ。そして結果が今までの君という訳さ!!』
龍牙の個性は元々ドラグブラッカーの力を身体に纏わせているような物に近い、だがその元になる力が奪われてしまうと本来は個性が使えなくなるはずなのだが……そこで個性因子誘発物質が利いた。因子は身体に残っていたドラグブラッカーの力を保存した。それが時間を経る毎に、変質し歪んだものとして形を成し遂に発現した。それが今の龍牙の個性の姿の正体、つまりこの男こそが龍牙の全てを狂わせた元凶ともいえる。
『そして君は十分に成長した!!その龍、君のいうドラグブラッカーがいない状態でもその力を引き出せるほどに!!そんな状態の君に本来の力の源泉を返す……その意味が分かるかな』
「何を言ってっ―――」
『更に向こうへ、更なる高みへだよ―――鏡 龍牙君』
「がぁっ!!?」
その時、自分の身体に何かが突き刺さった。鋭い何かが身体を貫かんとした、それは身体の内部へと侵入していく。そして何かを刺激すると直ぐにそれは外れた。
「はぁはぁっ……何をっした……!!」
『大きくなった器に嘗て奪った中身を返す、するとどうなるかな。君はさらに成長するのか、それとも―――パンクするのかな?』
直後、龍牙は全身を凄まじい熱病に襲われたかのような熱さと激痛に襲われる。声すら出ないような苦しみが全身を突き抜けていく、そして勝手に個性が発動し姿が変じる。だがその姿になっても炎が消える事が無い、闇のような黒炎の中で龍牙は自らを焼かれ続けていく。
「ぁぁぁぁぁぁっっっ……!!!」
『黒霧、彼を例の場所へ』
「承知しました」
『さあ龍牙君、頑張ってくれよ。戦わなければ、君は生き残れないのだから』
龍牙は決して弱まる事の無い激痛と苦しみの中でもがきながら、更なる闇へと身体を沈めていく。
「ぁぁっっ……闇が、ドラグブラッカーが、俺を……!!」