僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「俺はお前に親らしいことなんて一つも……」
「いやあのだから訓練とかあれら全部くれたものじゃないですか、厳しいのは確かでしたけど全部必要な事だったからこそで……」
「だから我が子を無人島で海にぶん投げて、その日の夜に腹が減ってるお前の目の前で飯を食う奴が親か!?」
「それに関しては弁解不可ですね……あっ」
「やっぱり、お前もそう思っていたんだな……」
「いや今の本音が漏れたというか、その事に関してだけは根に持っていたというか……!?」
病室では未だにギャングオルカの懺悔めいた弱気な言葉が続いていた。自分のいう事に従え、お前はこれを乗り越えなければならないと様々な困難を差し向けてきたとは思えない程に身体を小さくさせながらマジ凹みをしているギャングオルカに龍牙もハッキリ言ってどうすればいいのか分からない状況が続いていた。本気で如何したらいいの分からず、身体を休めるべきなのに全く休まらない。本当に如何しようかと思案している時の事、扉がノックされた。
「あっはい!!」
「俺は、俺は親として……」
もう思考停止状態に近いギャングオルカは一旦そのままにして龍牙は来客と思われるノック音に対して返事をした。その直後に扉が開けられるのだがそこにあったのは浮いている服、一瞬思考が凍り付くのだがすぐさまに意味を理解した。来たであろう人に声を掛けようとするだが、それよりも早くに何かが自分に抱き付いていた。透明で何も分からないが確かな感触と体温が身体に伝わってきていた。
「葉隠さん……?」
やってきてくれたと思われる友人へと声を掛けるが返ってくる声はなく、ただただ身体へと回されている腕が静かに力を増して自分の身体をぎゅっと抱きしめた。そして静かに嗚咽が響いていた。
「良かった、本当に……もう龍牙君に会えないんじゃないかって思ったよぉっ……」
囁くような小さな声で聞こえたそれを聞いた時、龍牙は静かに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと彼女は自分が連れて行かれる所を見て酷く不安になったに違いない、それからずっと自分の事を祈っていてくれたのかもしれない。そんな彼女は自分の姿を見るまで心の中に会った不安に押しつぶされそうになりながらずっと耐えていた。しかし改めて龍牙の姿を見て耐えきれなくなって全てが溢れ出してしまったのだろう。
「ごめん、それとありがとう」
「うぇぇぇん……良かったよぉぉぉっっ……」
大粒の涙を流しながら号泣する葉隠を抱きしめながら優しく頭を撫でてやる位の事しか出来ないが、そんな行為は彼女にとっては龍牙が確かに存在しているという証明に他ならないので益々号泣する。そんな彼女を龍牙は唯々抱きしめ続けるのであった。
「うううっっ私だって、私だって龍牙君が攫われて本当に辛かったのにぃ……葉隠ちゃんだけでずるいよぉ……!!」
と受付で手続きをしていたピクシーボブは先に駆け出してしまった葉隠にようやく追いついたのだが、病室では龍牙が優しそうな表情を浮かべながら葉隠を抱きしめているであろう光景を見て素直に嫉妬した。彼女も彼女で自分が不甲斐なかったせいで龍牙を攫われた当事者であった為に、龍牙を心配していた。だから素直に意中の男に抱きしめられている彼女に嫉妬していた。
「……龍牙何をして……ピ、ピクシーボブお前が何故ここにってなんでハンカチを噛んでいる……後なんか泣き声が……待てなんだこの状況は」
漸く正気戻ったギャングオルカは病室の状況に困惑していた、まあ龍牙の困惑の比ではないが。
「成程、龍牙の見舞いにな……それには感謝する、すまんな恥ずかしい所を見られてしまったか」
「い、いえ私なんていきなり龍牙君に、だだだ、抱きちゅいて……しにゃって……うううっ……」
「恥ずかしいならやらなきゃよかったのに……寧ろ私も抱き付くべきだった……何であそこで躊躇を……」
龍牙は再度の検査の為に少々離れる事になったのでギャングオルカ、葉隠、ピクシーボブは病院内のカフェテラスへと移動する事になった。この病院はそもそもがヒーローを専門的にみる病院なので人は少なく出来るだけ聞かれたくはない話をするのにも向いている、此処ならば軽くぶっちゃけた話も出来るようになっている。
「改めて挨拶をしておこう、ギャングオルカだ。龍牙の保護者をやっている、まあ……実際は根津校長が実質的な親で俺は師匠的な立場なんだけどな……」
「は、葉隠、透でしゅ!龍牙君にはい、いつもお世話になってます!!!」
「そうか、君が葉隠さんとやらか……龍牙が前に話していたな、可愛いクラスメイトが居ると言ってたが……成程な、あいつらしい」
透明な姿を見て可愛いと表現するには少々苦しいかもしれないが、龍牙にとっては彼女の仕草や行動、思いやりなどを含めてそう思っているのだと即座に感じ取る。可愛いという言葉を聞いて更に顔を赤くなり、茹蛸状態になる葉隠にピクシーボブは素直に脹れっ面になる。矢張り既に結構な差が付けられていると自覚せずにはいられなかった。
「あのオルカさん、率直に言っていいですか」
「何だ」
「龍牙君を私に下さい」
「ピクシーさん!!?」
なんというド直球な宣言だろうか、葉隠は此処に来るまで龍牙の事を好いている云々の話をピクシーボブから聞いている。だがまさかこんなことを言い出すなんて思いもしなかった、そして葉隠は龍牙からギャングオルカの厳しさをよく聞いているので大丈夫なのか!?と酷く不安になるのだが……帰ってきたのは
「ああっ構わんぞ」
「良いんですか!!?」
「うおっしゃぁああああ!!!言質、言質取りましたからね!!ボイスレコーダーに録音しましたからね!!」
「まさかのボイレコ!!?」
まさかの了承の言葉だった。そしてピクシーボブも準備が周到すぎる。
「但しだ、俺は龍牙は認めた相手ならば認めるつもりだ。そもそもあいつの事だ、あいつ自身が決めるのが一番筋が通っているだろう」
「成程、つまり私が龍牙君を口説き落とせたら認めてくださると」
「まあ平たく言えばな」
もうここまで来たらピクシーボブは完全に自重なんてかなぐり捨ててマジで龍牙を狙いに行く事だろう、もう取り返しの付きそうにない状況になってきてしまってもう如何したら良いのか分からなくなってきた葉隠はテーブルに手を叩きつけながら叫んだ。
「そんなの駄目です!!龍牙君には私が告白するんですから!!!」
「ほうっ」
「むむむっ矢張りライバル……!!」
それを聞いて酷く愉快そうにするオルカに予想通りにライバルになったと警戒するピクシー、そんな視線を受けて息を荒くしながらも我に返った葉隠はあわわわわわっと困惑の声を漏らす。彼女自身、龍牙に恋をしているというのは僅かながらにしか自覚出来ていない幼い恋心だった。しかしそれが龍牙が攫われた事で一気に大きくなって完全な燃え滾るような恋情へと変化していた。それを乗りこなせないままに叫んでしまったのだが、ギャングオルカは嬉しそうに言った。
「そうか、そうか……あいつはそんなに好かれていたのか……。二人とも、これは親としては失格かもしれない俺の言葉だが聞いてほしい。俺はあいつに幸せな人生を送ってほしいと思っている、だから俺はあいつが素直に恋をしたいというのならば応援するつもりだ。極論あいつを心の底から好いてくれる奴なら良いんだ、だからな―――あいつを頼むな」
「任せてください!!もう龍牙君は私の煌めく眼でロックオンなんですから!!絶対に逃がしませんから!!」
「わ、私だってぇ!!!ピクシーさんなんかには負けません!!!」
「ぶしぇくしぇええい!!!」
「大丈夫かい?風邪かな」
「いえなんか急に鼻が……」