僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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退院前の黒龍

「しかしまあ好き勝手言ってくれるな……そりゃ父さんだって好きになれるわけがない」

 

退院を間もなくと言った所でやって来た葉隠とピクシーボブ、二人の相手をしつつも龍牙は朝の散歩がてら病院の売店で買ってきた新聞を読みながら思わずそんな言葉を浮かべずにはいられなかった。

 

「『雄英高校生徒、黒鏡 龍牙がヴィラン連合に誘拐されたのは当人自身がヴィランとして勧誘するに相応しい物がある為であり、彼自身の個性風貌を鑑みるに他と逸脱している為である』ねぇ……悪かったな悪人面で」

 

少なからず龍牙を非難する世間の流れは存在する。ヒーローに相応しくない、させるべきではない、そんな主義主張が新聞だけではなくテレビ番組でも行われている。当人としては非常に面白くないのが素直な感想で根津のマスコミは余り信じない方が良いという言葉には同意を浮かべずにはいられない。

 

「でも嫌いすぎるのも問題なのが実情よね、良くも悪くもヒーローの活躍を広めるのもマスコミの仕事だから。だからこそ一社ぐらいは味方をしてくれるマスコミを作るっていうのがある位だからね」

「それじゃあピクシーさんも仲良しな所があるんですか?」

「一応ね。後は山岳関係の旅行誌とか出版社なんかとは仲が良いわね」

 

当然のように来客用の椅子に腰掛けながらリンゴを剥くピクシーボブと葉隠、慣れているのかすいすいと皮を剥いて行くピクシーボブに対して葉隠は一生懸命にゆっくりと慎重に果物ナイフを持って皮を少しずつ剥いている。そんな様子に少しだけの優越感を感じる、これでもプッシーキャッツの中でも家庭的だという自信がある。きっと龍牙もそんな女性も好きかもと思いながらもリンゴを剥く。

 

「でも酷くないですか!?異形系の人たちを完全に差別してるじゃないですか!!」

「そうね、だからこの新聞は酷く不快なのは私も同意見。でも大丈夫よ、今時こんな新聞を出すなんてこの新聞社は血迷ったわね。多分夕方か明日辺りには謝罪が出るわね」

 

ピクシーボブの言う通り、この新聞社に対してその日のうちに抗議の電話が殺到していた。全て異形系の個性を持つ者とそれらの個性を持つ者と関りが強い者から、この一件によって新聞社は大きく信用を落とす結果となったという。

 

「それに非難されるべきは私よ、龍牙君に交戦許可を出したのは私なんだから」

「それ以上は言わなくていいよピクシーボブ」

 

そんな言葉を放ちながら扉が開かれる、そこには龍牙の親である根津が果物を乗せたバスケット共に姿を見せていた。

 

「校長先生」

「やぁっ龍牙!ちゃんと療養しているかい、後ここでは父さんと呼んでくれて構わないよ」

「してますよ、もう直ぐ退院なのに二人に見張られてベットで寝るしかやる事なくて暇な位なんですから」

「それが入院という物だよ、それに世論の事もあったからね。でも大丈夫、全寮制の準備は整ってるからもう直ぐ出られるさ」

 

そんな風に笑みを浮かべている根津の言葉にひと先ず安心を漏らす。雄英はヴィランの襲撃を酷く重く受け止めている、こんな状況だからこそ全寮制を取り入れる事を決めて生徒たちを守る決断をした。それは龍牙にとってはマスコミからのやっかみも無くなるという事にも繋がる、安心して熟睡できる。

 

「やぁっ葉隠 透さん、龍牙と仲良くしてくれて本当に有難うね。親としてお礼を言わせてもらうよ」

「い、いえとんでもない!!私なんて龍牙君に勉強を教えて貰ったり寧ろ迷惑かけてばっかりで……」

「僕としてはもっと龍牙を振りまわしてくれて構わないよ、もう両手を掴んでジャイアントスイングする位に」

「ちょっと父さん、それじゃあ俺武器みたいじゃないですか」

 

おっとこれは失敬、とそう言うと皆が笑う。根津なりのジョークはそれなりに受けた、そしてそれとなく目線をやると酷く不格好で凸凹になっているリンゴを見つける。ピクシーボブが剥いたと思われる綺麗な物に比べると料理になれていない女の子が好きな男の子の為に頑張って挑戦しているという物が透けてみえると、根津は何処か暖かな気持ちになった。

 

「(そうか、龍牙ももうそんな歳になるのか……)」

 

龍牙を引き取ってもう10年は経つだろうか、気付けば龍牙は大きく成長して今や雄英の一年生でヴィランの襲撃から無事に帰ってきた。大きくなってきた息子にこれからも幸せな事があってくれて欲しいと願う。

 

「そしてピクシーボブ、君も龍牙を必死に守ろうとしてくれて本当に有難う」

「私なんて何も……龍牙君を守る筈なのに何も出来ませんでしたし」

「それでもだよ。君があの時咄嗟に交戦許可を出したのは本気で龍牙を守ろうとした意思があったからこそだよ、責任の追及やらがあるかもしれないから普通は物怖じするのに君は迷うことなく許可を出した。それは龍牙ならきっと危機を脱せるだけの力があると分かっていたからさ、龍牙の事を本当に分かってくれてたって事になるんだよ。有難う」

「ヒーローにとって最高の報酬です」

 

ヒーローにとって一番の報酬は矢張り感謝の言葉だ。金や名誉は確かにあったら嬉しい物だがヒーローとしては矢張り感謝の気持ちが一番大きな報酬になる、山岳救助で多くの人たちを救ってきた身としては矢張り笑顔や有難うという言葉が一番うれしいのだ。その後、根津が帰ろうとした時にピクシーボブと葉隠は彼を引き留めて、別の場所である宣言をした。

 

「私は龍牙君に本気で恋をしております、なので本気で口説き落とすつもりです」

「わ、私も龍牙君の事が大好きです!!ですからその……頑張ります!!」

「僕の息子って意外にそういう才能があるのか」

 

と素直に驚く根津がいた。


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