僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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伸び悩む黒龍

個性、即ちそれは自らの一部である。多種多様化している個性だがそれらに共通するのは完全に己の一部であるという点である。最初こそ扱いきれない者もあるだろうが身体の成長共に変質し、使用可能になっていく。同時に個性が身体を変質させて変化させていく事も多い。様々な観点がある個性だが、それを踏まえた上で考えると龍牙の個性は矢張り異端と言わざるを得ない。

 

「だぁぁぁぁ!!!」

 

巨悪、オール・フォー・ワンによって個性そのものを揺るがされている。それによって個性が変質し、今の正しく異形の怪物と言うに相応しい状態となっている上に長年の間、個性の根幹を奪われていた。つい最近になってそれを返還され、それを行使可能となった。それこそが龍牙と共にある黒龍、ドラグブラッカーである。

 

「剣!!」

 

元々が個性の根幹であるのも関わらず、奪われていた間も龍牙は個性を行使出来ていた。様々な意味で異端ともいえる存在だがそんな龍牙は訓練で身体を動かし続けながら隣を飛行する黒龍を見つめながら思考する。彼を生かすにはどうすればいいのだろうか、形に何も成していない所へと手を伸ばし、無を形にしようと拳を握るが何もないそれを見ても龍牙は再度拳を伸ばし続けていく。

 

「HEY!龍牙少年、精が出るね」

 

思考の海の中で溺れるかのようにもがき続けている龍牙へと声を掛けたのは未だに片腕を吊っているオールマイト、既に今まであった逞しくも優しい姿ではなく骸骨のような姿だが今まで以上に接しやすく優しそうな雰囲気を纏っている彼に声を掛けられて龍牙は身体を起こした。

 

「オールマイト先生」

「必殺技の訓練をしていると聞いてね、是非とも見たくて来ちゃったよ」

「そうでしたか、にしても大丈夫なんですか」

「何、この程度屁でもないさ」

 

そう言いながらも片腕を吊っている姿は痛々しい、既に平和の象徴としての姿はもうない事を思うと少しだけ寂しい気もするが面には出さずに目の前のオールマイトと接する。

 

「少年は正直言って他の皆と比べて完成度が段違いだね、これもギャングオルカの指導かな」

「ええっそんな所です。まあ必殺技に関しては俺が咄嗟に出しちゃったって言うのが強いんですけどね」

「詳しく聞いてもいいかい」

 

ギャングオルカの指導方針は兎にも角にも厳しい物。殆どが戦闘訓練でありながらもそこに様々な要素を組み込んでいく物、基礎的な戦闘技術だけではなく基礎体力なども纏めて鍛える物。一番多かったのがギャンクオルカとのタイマン戦闘訓練。圧倒的にレベルが違うギャンクオルカの攻撃や防御を破る為には何か突出したものが必要、そんな龍牙が直感に従うがままに繰り出したりしたのが今の必殺技の原型。が、結局それは師を驚かせる程度に留まり、返しの攻撃を受けて自分は撃沈し、その後はそれの質を高める為に只管戦闘訓練を繰り返したという流れがあった。

 

「うわぁ……そりゃ私が受けた先生との訓練を聞いてその程度なのっていうよね……というかそれってマジで訓練なの、虐待の間違いじゃなくて?」

「訓練ですよ、虐待一歩手前の」

「……あの少年、おじさんからオルカに対して一言言っておこうか……?」

 

本当に大丈夫なのかとオールマイトは心配になってきた。グラントリノや塚内と共に病室を訪ねた時も思ったが、この歳で持つべきではない感性を持ったまま、酷く老成してしまっている。痛みに対しては過去との比較を持ってその痛みを簡単に切り捨てるなんて並大抵の事では出来ない。だが龍牙は大丈夫だ、これも師匠の愛だからと笑って答える。自分とは違う意味で歪んでいるのかもしれない。

 

「それで黒鏡少年は今何をしているんだい?」

「ぶっちゃけた話、俺にはもう十分必殺技あるので幅を伸ばそうと思って。それで今一定の成果が出たんですよ、防御(ガード)出現(アドベント)!!」

 

まるで良い点数を取った子供がそれを見せてくるように成果を見せる龍牙、声と共にドラグブラッカーから何やら闇のような物が降りてくるとそれは龍牙の両肩へと装着された。闇がなくなるとそこには黒龍の腕や腹を模したような盾が存在していた。剣も揃えて攻防一体の状態となったと言える。

 

「おおっ盾か!!成程、少年は今まで常に剣を持っていたからそこに目を付けたのだね」

「はい。ドラグブラッカーを出せるようになるまでずっと俺は剣を持ってました、それは俺の中にあった相棒の力を出してたんですよ。だからそれをより深く出せるようにしたら他の物も出せるんじゃないかなっと思ってたら案の定だった訳です」

「うむっいい方向性だ!!しかし少年、君は何やら納得いっていないようだね」

「分かります?」

「教師としては新米だけど、人生経験じゃ負けないからね」

 

その通りですっと素直に龍牙は白状した。確かに必殺技の一つともいえる物は出来た、更に防御を厚くすれば更に出来る事の幅は増えるが本当にこれだけなのかと龍牙は悩んでいたのである。

 

「ふむっ……これはあくまで私の感想で正しいか分からない、君を更に迷わせてしまうかもしれないが聞くかい?」

「聞かせてください。他の人の意見は貴重ですから、見た目の事以外では」

「HAHAHAHA!!君は私以上にセンスあるよ!!」

 

と笑いつつもオールマイトは咳払いをしながら話す。

 

「君の龍、ドラグブラッカーは今までオール・フォー・ワンに奪われていた。本来あるべき個性の始まりと10年以上離れていた事になる。という事は君のレベルにドラグブラッカーがまだ完全に追いついておらず、まだ君との呼吸を合わせきれていないのではないか」

「合わせきれてない……」

「うむ、私はそんな風に感じるよ」

 

言うなればドラグブラッカーは途中合流するような形で龍牙と共に成長を始めているような物、林間合宿では共に成長こそしただろうがその程度では10年以上離れていた時間を取り戻しきれない。まだまだシンクロしなければ本当の力の発揮は難しいのかもしれないっというのがオールマイトの推論。確証こそないが、常闇の黒影のように意志があるように見える黒龍、ならば意思の疎通を重ねて歩幅を合わせるのが成長に最も通じるのではと思った。

 

「シンクロ、か……試してみる、か……?」


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