僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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一時を楽しむ黒龍

「今日も大変だったなぁ……よく頑張ったよぉ私ィ……」

 

雄英での個性伸ばしと必殺技を作る為の合宿訓練がスタートして数日が経過している。連日行われる林間合宿に負けず劣らずの厳しい訓練を今日も超えた自分を褒めながら、イチゴ牛乳をストローで弱弱しく啜る。優しげな甘みと酸味に癒されながらも既に日も落ちて暗くなっている外へと目線をやった。如何やら長風呂し過ぎてしまったのか夜もかなり更けてしまっている。さっさとベットに入って睡眠欲の想うがままにした方が良いかと思った時だった、ある光景が視界に入った。

 

「―――龍牙君?」

 

 

月夜が闇夜を照らし出す真夜中、龍牙は寮から出ながら静かに空を眺め続けていた。無数に輝く星の中に悠然と浮かぶ巨大な月を見上げながらひたすらに考えを動かし続けていた。今の自分とドラグブラッカーが完全にシンクロさせるには単純に時間を掛けるだけが正解なのかと、他にも何か選択肢があり自分はそれを見つけられていないのではないかと問いかけ続けながらも、只管に答えが返るように考え続けていた。

 

「何かが分かりそうなんだけどな……何も分からないってのは歯痒いもんだ」

 

オール・フォー・ワン、奴にドラグブラッカーを返され、ある種強引に次なるステージへと突き飛ばされた自分。そして少しずつそのステージの全貌を手探りながらも把握しているのだろう、その速度は余りにも遅く龍牙としては燻っているように感じられていた。地獄のような苦痛を味わい、無限の闇の炎が身を焦がしたあれを経て自分が何になったのかを理解しきれていない自分。このまま何も分からないままでいるのではないかと言う不安も募り始めている、何も考えずに訓練に励むのがある意味自分らしいがついつい足を止めてしまうのだ。今こうして空を眺めているのもそんな自分の戯れに近い。

 

「龍牙君、如何したの?」

 

そんな自分を現実に引き戻すかのように声が背中を引っ張る、その先には首からタオルを下げながら女の子らしいピンクのパジャマを着用している葉隠の姿がある。入浴を終えたばかりなのか、仄かにシャンプーの花の香りと湯気が立ち上っている。

 

「葉隠さんか、ちょっと夜空でも見ながら考え事だよ」

「必殺技の事を考えてるの、でも龍牙君にはもう立派なやつあるよね」

「ああっ新技っぽいのも出来てる、オールマイトもある意味現時点で十分とも言ってくれてる」

 

新たに盾を出現させる事に成功し防御は今まで以上に強固になり、反射の能力を更に生かすような事も出来るようになっている。一つの技が必殺技の性能を大きく引き上げているというのは非常に素晴らしい事だと思っているが、龍牙はそれだけでは満足しきれていない、納得できていない。

 

「私は龍牙君の悩みは良く分からないけどさ、あんまり考えすぎても煮詰まっちゃうよ。時には一度考えることをやめる事も大切だ~ってお母さん言ってた」

「確かにそれは一理あるね。それじゃあ考えるのはや~めた」

「随分簡単にやめるんだね」

「まあ実際煮詰まってたしね」

 

此処は彼女の母の言葉通りに一旦思考を放棄してみる事にする。分からない問題の解き方をいくら考えても見つけ出せない、ならば一旦そこから離れて遠くから問題を見るだけに留めるのも大切な事なのかもしれない。芝生の上に座り込んだ龍牙、それに並ぶように座り込む葉隠も夜空を見上げた。

 

「お月様が綺麗だね」

「そうだね、こういうのを夜空を愛でるっていうのかな」

「あっなんか詩人っぽいね」

「俺にそんな才能はないよ」

 

何処か茶化すような言葉に笑いながら言葉を返す、夜空を愛でるというのも根津と一緒にお月見をしている時に言っていた言葉を覚えていただけ。自分は何方かと言ったらリカバリーガール特製のお月見団子を食べるのに必死だったような気がする。美味しいから勢い食べ過ぎてのどに詰まらせ、マジで死にかけて以来物をよく噛んで食べるようになった。

 

「(ってそうだ、今私と龍牙君二人っきりじゃない!?こ、こここっこれは告白するチャンスなのでは!!?で、でも近くには寮があるし下手したらみんなに聞かれるかもしれないし、でも早く告白しないとピクシーさんに先を越されちゃうし……そ、そうだよ。恋する乙女は何時も押せ押せモードじゃないと!!って漫画にもあったし!)」

 

と空を見つめ続けている龍牙を見ながらフンスッ!と気合を入れながらガッツポーズを取るとジリジリと行動を起こす。静寂の中、早鐘を打つ心臓の音が周囲に木霊しないかと不安になりつつも必死に龍牙へと近づき、そして―――肩を彼の肩へとくっつけながら頭を彼の肩に預けた。

 

「(やっやっちゃったぁぁぁぁっっ~~~!!!??こ、これが少女漫画における伝説のシチュエーションの一つ、世夜空の下で意中の人に肩ピト&頭コテン預けっっ……!!!!)」

 

彼女なりに必死に勇気を出した結果の行動として、龍牙の肩に頭を預けように寄り添った。入浴によって高くなっている体温があるのにも拘らずに龍牙の暖かさを感じる、龍牙が呼吸する度に僅かに振動する身体の震えまで確かに感じ取れる。龍牙は変わらずに空を見つめ続け自分に何も言わないのに、もうこれだけで胸がいっぱいになる程に満たされているのを感じてしまっていた。

 

「(眠いのかな葉隠さん、流石にもう夜も遅いもんなぁ……)」

 

と肝心の龍牙は必死に勇気を出した彼女の意図を全く理解していないのか、もうそろそろ自分も部屋に戻った方が良いのかと思っていた。だがしかし不思議と立ち上がろうという気持ちが沸き上がってこなかった。彼自身も葉隠の暖かい身体から伝わってくる柔らかい感触と優しい熱に心地良さを覚えていた。今まで誰かとこうした事はある、根津やギャンクオルカ、リカバリーガール。ミッドナイトやMt.レディとも似たような事があった気がする、だがそれらとは違う気がしてならない。

 

「(なんでかな、なんでなんだろう……)」

「(ああっ凄い……)」

 

「「(もっとこうしていたい……)」」

 

厳しい厳しい合宿の夜に起きた小さな出来事。少女と少年の心は何時しか重なり合う日が来るのだろうか、それは分からない。もしかしたら起こらないかもしれない……何故かと言えば―――

 

「あれっメールだ……あっピクシーさんからだ、あっ葉隠さんピクシーさんが今度雄英に顔だせるかもってさ」

「へ、へぇっ~……そうなんだぁっ~……(いいムードが台無しだぁぁぁぁっっ~!!!!ピクシーさんの馬鹿ぁぁぁぁあああああ!!!)」

 

「ネコネコネコ……美味しい所を独り占めにさせる気はないわよ、葉隠ちゃん……!!」

 

龍を狙っているのは一人ではないのだから。


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