僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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足掻きを見せる黒龍

「よし此処の辺りを次の避難所にするぞ!!防衛ラインも構築して万が一にもヴィランの接近にも備えるんだ!!」

『おう!!』

 

救護所の近くにヴィランが出現したことによって移動を余儀なくされた避難所兼救護所、それらが移動するまでの間の時間稼ぎとして龍牙を始めてとした実力者がギャングオルカと王蛇の対応を行っている為に漸く次の救護所が設置され始めていた。

 

「よし、もう大丈夫ですから!!」

 

緑谷は一人の怪我人を下ろしながら手当に回すと未だ戦闘が続いている地点へと目を向ける。黒い炎が絶え間なく上がりながらも氷が飛び散り、そこへ閃光が次々と飛来していく光景が此処からでも見えている。それがヴィランを必死に食い止めているヒーロー達の活躍だと分かるが、緑谷は不安を抱かずにはいられなかった。

 

「(幾ら龍牙君だってギャングオルカと王蛇の相手を防ぎきるのは無茶だ……唯でさえ龍牙君は毎日のようにギャンクオルカに叩きのめされてたって言ったのに……!!)」

 

今いるメンバーの中でギャンクオルカの対応をするべきなのは龍牙なのは言うまでもないだろう、戦闘スタイルなどを知り尽くしている、だがそれはオルカにも適応される。弟子として鍛えながらも龍牙の全てを知り尽くしており、それを真正面から叩きのめすだけの実力を持っているだけではなく最強のサイドキック、王蛇までいる。轟や爆豪が援護を行っているとはいえ余りにも辛すぎる状況に歯ぎしりが起きる。

 

「大丈夫だ、彼らなら確実にヴィランを食い止めます!!だから皆さん安心してください!!!」

 

それでも緑谷は虚勢に近い何かを言葉にしながらその場にいる全員を鼓舞した。今自分が言った所でまともに力に成れないのは分かっている、だからこそ自分は不安になりかけている皆の心を奮い立たせるのに務めるべきだと思いたった。

 

「そうだ、龍牙君が負ける訳なんてない―――葉隠さん?」

 

そう問いかけようとした視線の先には龍牙の事を共に深く心配している葉隠の姿が無かった。

 

 

『グオオオオオォォォォッ!!!』

「だぁぁぁっっ!!!」

「行けぇっ!!」

 

ドラグブラッカー、龍牙、焦凍の三人が一斉に炎を放出して炎の濁流を生み出しながら辺りそこらを飲み込まんとする津波を起こしながらヴィランへと迫っていく。濁流は龍の形になりながら迫っていくがそれに全く恐れを見せずにオルカは笑いながら腰を落としながら牙を剥く。

 

「この程度か、ひよっ子がぁぁっ!!」

 

頭部から放出する爆裂する超音波、それが大きく吼える炎の龍を一瞬でかき消してしまった。そしてそこへ切り込むかのように迫ってくる王蛇は両腕に毒を纏う、それを見た焦凍は黒龍に飛び乗りながらその場を素早く離れ、龍牙は盾を構えながら突進する。

 

「ぐっ!」

「はぁっ……楽しませてくれるじゃねぇかよ、餓鬼ィ!!」

「はぁぁぁっっ!!」

 

ぶつかり合うと同時に龍牙はドラグブラッカーからの炎を自らに浴びせ掛けた。自らの身を焼かんばかりの超高温の黒炎を全身に纏いながらも猛毒を浴びせ掛けてくる王蛇の突進を受け止めながら、龍頭で殴りつけていく。それを軽々と受け止めながらも、黒炎を全く恐れずに膝を崩すと龍牙の顔の真横を全力で蹴りつけた。

 

「ぐぅっ……!!」

「……面白いなお前、テンプルを全力で蹴りつけたのにまだ立つのか」

「全部急所狙って来るか本当にヒーローかよ……!!?」

 

毒でのフェイントで次に行う動きを縛りながら、その先の動きを読んで的確に急所へと攻撃を仕掛けてくる王蛇に恐れを抱く。先程も狙ってきたのはこめかみで一瞬僅かに意識が薄らいだ。一瞬でも気を抜いたら気絶していた事だろう。

 

「龍牙っ!!おらぁっ!!」

『グォォッ!!』

 

龍牙を援護せんと黒龍と共に炎を放って王蛇を後退させるとそれに合わせて龍牙も後ろへと退いた、まだまだ避難は救助は終わらない。時間を稼ぎ続ける必要があるがこのままで逆にこちらが狩られてしまうと龍牙は確信めいた物があった。そこまで実力の開きがある、この時龍牙は一つの選択をせざるを得なかった。

 

「爆豪、続けてくれる攻撃をギャングオルカと王蛇に集中してくれ!!」

『アン!?ンなもん意味ねぇってテメェも分かってんだろうが!!』

「知ってるわ!!だからあいつらの足元を重点的に狙ってくれ、時間を稼いでくれ!!」

『……チィッ……わぁったよ!!しくったらぶっ殺すぞヴィラン野郎!!』

 

爆豪は何かを理解したように、苦虫を嚙み潰したような声を出しながら龍牙の指示に了解した。それに理解を示したかのように焦凍はドラグブラッカーから降りながら此方に猛スピードで迫っている空の居る人物へと声を投げた。

 

「おい夜嵐 イナサ!!!」

「っ!!」

 

それは士傑高校の夜嵐 イナサだった。彼も救助を終えてこちらの応援へとやって来ていた、彼の個性は旋風。風を操る事が出来る個性でそれを応用して自らも風を纏って空を駆っていた。彼は焦凍から声を掛けられ、まるで戸惑っているかのように動きを止めた。

 

「お前の個性、風を操れるんだろう!?力を貸してくれ、俺だけじゃあ龍牙の力になれねぇ!!」

 

焦凍も龍牙の意図は察していた。ただ時間を稼ぐだけではない事は承知していた、だが自分だけの力では時間稼ぎにもならない。ならば火力を一気に上げる為に風の力が必要になってくる。その為に応援を要請した、それを聞いたイナサは少しだけ迷ったように思案すると焦凍の隣へと降りてきた。

 

「―――一つだけ聞きたいっス。それは試験に合格する為っスか」

「ちげぇよ。ダチの力になりてぇからだ」

「―――っ!!分かったっス、全力で力を貸すっス!!!」

「助かる!!」

 

「行くぜ……徹甲弾狙撃(A・P・ショットスナイプ)全力発射(フルバースト)!!」

 

爆豪は両手を突き出しようにしながら慎重に狙いを付けながら、両手の爆破を指先だけに集中させてながらそれを連続で起こしながら爆発の弾丸を無数を打ち出していく。それらが二人に見切られているのは当然、だがこれは見切られてもいい、狙っているのは二人の周囲の地面。

 

「これは、敢えて外しているな」

「しかも俺達の身体を僅かに掠めながら……器用じゃねぇか」

 

オルカと王蛇は前に進んでいるのにも拘らず、身体を掠りながらも地面へと炸裂していく弾丸を見つめてその精度に舌を巻きながらも何をしたいのかと一瞬だけ思案した。だが二人の動きに隙を作った。

 

「今だ!行くぞ!!」

「おうっス!!全開っスよぉ!!!」

 

焦凍とイナサ、二人の個性が同時に発動する。焦凍は最大出力で炎を、イナサは全開の力で暴風を巻き起こす。風は通り道となりながらも炎へと酸素を供給して更に大きな大火へと導き、炎は風を通りながらオルカと王蛇の周囲で超巨大な炎の竜巻となりながら二人を一気に拘束する。

 

「ッシャアア!!閉じ込めたっス!!」

「シャチなら乾燥に弱い、そして毒を出そうとしても直ぐに蒸発する。これなら完璧な時間稼ぎが出来る!!」

「完璧だ、よし行くぞっ!!」

『グオオオオオォォォォッ!!!!』

 

焦凍とイナサのコンビネーションが生み出した爆炎の竜巻によってオルカと王蛇の動きは完璧に封じられた。それを見ながら龍牙はドラグブラッカーを呼び寄せながら自らも黒炎を全身から溢れ出されていく。黒龍は自らも黒炎となりながら龍牙の元へと飛び込んでいく、甲高い龍の雄叫びが木霊していくフィールド。黒炎は次第に収束していき人の形へ近づいて行く。龍牙の目論見が実ろうとした時、竜巻の中心部から超音波と莫大な量の毒液が溢れ出していき炎の竜巻を完全に鎮火してしまった。

 

「ふぅぅぅぅっ……量出すのはきついんだぞおい」

「だがこれで拘束は解けた」

「マジかよ……!?」

「激アツすぎるっスよ!!?」

 

王蛇はオルカからペットボトルの一つを受け取りながらも水分を補給し、オルカは身体に水を掛けていく。王蛇は限界まで毒性を抑える事で大量の毒液を分泌し、それをオルカの超音波に乗せて内部から飛ばす事で竜巻を無力化させてしまった。二人の力が合わさっているからこそ出来る事だがそれでも規格外すぎる力。そして二人は龍牙へと向かおうとしている、あと少しという所だがオルカの超音波が放たれようとした瞬間―――

 

「集光屈折ハイチーズ!!」

 

溢れんばかりの光が龍牙の近くから放たれた。太陽を覗いているかのような猛烈な光を不意に受けたオルカと王蛇は目が眩んでしまい怯んでしまい、後退りをしてしまう。

 

「ぐっなんだこの光は!?」

「ま、前が見えねぇ……!」

 

突如として巻き起こった閃光弾以上の輝き、それは龍牙の真横に近い位置から起こっているがそこには何もないように見える。だがそこから光が起っているのは確か、どういう事なんだと動揺が起きる中で龍牙は黒炎の中で思わず笑いながらそれを起こした恩人に礼を言った。

 

「おいおいいつの間に来てたんだよ、でも有難う―――葉隠さん!!」

「えへへっ……来ちゃった♪」

 

そう、これは葉隠が起こした光だった。透明人間という個性の葉隠は自らで光を屈折させる事で眩いばかりの閃光を巻き起こしていた。自らをレンズにして太陽光を一点に集める事で相手の目を眩ませたのである。そしてその時間稼ぎがそうしたのか、龍牙が纏っていた黒炎が一気に晴れた。そこに立っていたのは新しいリュウガとしての姿をした龍牙。

 

全身に新たな鎧を纏ったかのように大きくなった身体。胸部から伸びるそれはまるで幾重にも重ねられた翼のように広がり、胸部から見える赤い光は瞳のように眼前の敵を睨みつける。身体の各部には黄金の装甲が増えているからか何処か神々しさがありながらも従来の威圧的な風貌を何処か頼もしさへと変えている。

 

「行くぞ―――はぁぁぁぁっっ……ズァァァアアア!!!」

 

力を込めた両足は地面に深々と亀裂を生み出す、そして十分な力を溜め込むとそれを一気に解き放った。一瞬で空高くに跳躍すると全身から尋常ではない黒炎を生み出しながらそれを纏う。黒い太陽と変わらぬ姿へとなるとそれは一匹の黒龍へと変じる。

 

「だああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

黒き太陽と化した黒龍は高々と吼えながら天を切り裂く彗星となって空を駆け、そのまま流星の如く地へと向かっていく。それを見たオルカと王蛇は絶対にあれはやばいという直感に従って後方へ全力で引いた。そして龍牙が地面へと到達すると巨大な黒炎の火柱が出現する。太陽が堕ちた事によって生まれたそれ、それの誕生がある事を招いた。それは―――

 

『只今を持ちまして、最後の要救助者のHUCが救助されました。これにて試験を終了させて頂きます』

 

試験の終了だった。


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