僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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区別と理解が出来ない黒龍

「んっ美味しいね、でもなんだかいつも味が違うね?」

「隠し味にめんつゆを入れてるんですよ、風味が良いでしょ」

「めんつゆか……不思議な取り合わせだが実にうまいな。米のお代わりをくれ」

「ただいま~」

 

仮免試験の終わった日の日夜の事、龍牙の姿は寮ではなく寮にいるまでいた家にいた。久しぶりに時間を取る事が出来た根津とギャングオルカと水入らずの夕食の時間、それを聞いた時に龍牙は仮免を取れた事よりも喜びながら皆とは共に帰らずに直ぐにスーパーに直行して材料などを調達して出来る限りの下ごしらえを行って食事を作った。メニューは照り焼き風南蛮鳥、マカロニサラダ、茄子の揚げ浸し、豆腐のキノコあんかけとエビを使った味噌汁である。

 

「それにしても仮免の話を聞いて僕は本当に嬉しかったよ、まあ僕自慢の息子だから不合格になるなんて心配は一切してなかったけどさ!!」

「ふんっ俺も一切していなかった、寧ろ俺は落とすつもりの勢いだったからな」

「それは王蛇と一緒に出てきた時点で察せてましたよ。加えて俺の必殺技を平然と受け止めて、俺を地面に叩きつけた上で振り回すんですからね」

 

ギャングオルカ恒例の自信の粉砕。それによって溜息混じりに龍牙は自分の必殺技の方針が今のままで良いのかという迷いを持ってしまった。龍牙の必殺技は発展途上ながらも完成されているに近しい、故にこのまま磨き続ければ唯一無二の物になるのは間違いない、それを今回はギャングオルカが大きく邪魔してしまった事になってしまっており、根津はジト目でオルカを見るとその視線から逃れるように茶碗をわざとらしく上げて米をがっつく。それにため息を漏らしながら根津はある事を聞く。

 

「そういえばさ、龍牙は雄英での生活は如何だい。今更な感じな質問でもあるけどさ、中学校までは通わせてあげてなかったから僕としては教育者としても親としても結構心配だったんだよね」

「楽しいですよ本当に。学校って本当に楽しいんだなって思いました、あと師匠が高校時代は一番楽しい物になるだろうって言ったのも凄い納得出来ました♪」

 

僅かながらに鼻息を荒くしながら興奮混じりに話す龍牙に嬉しさを滲ませながら、次の事を聞く。

 

「そうかそうか。それじゃあ―――そろそろ龍牙にも彼女とかできちゃったりするのかな」

「―――!?」

「彼女……?」

 

湯呑を揺らしながら動揺するオルカ、そうオルカにはそれに関してある事を言ってしまっている。龍牙を狙う肉食獣と化しているピクシーボブ、そして彼にまだ幼いが確実で大きな恋をしている葉隠に対して……。

 

「彼女って漫画とかであるカップルのあれですか?」

「そうそう、それだよ。龍牙は好きな女の子とかできた?」

「好きな女の子……う~ん……」

 

箸をおきながら腕を組んで必死に思案する龍牙。まず自分が関係を築いている女性陣を想像しているのだろう、ハッキリ言えばそれらは親である二人にもあっさりと浮かび上がる者たちばかり。

 

「え~っと実は林間合宿の時にピクシーさんに似たような事を聞かれたんです、好きな人がいるかって。それで俺は答えられなかったんです」

「ほうっ彼女から」

「友達が出来たのも最近ですし、された事もなければした事もないから何とも言えないのが素直な本音です」

「そっかぁっ……」

 

此処まで聞いて矢張り葉隠とピクシーボブの恋は困難としか言いようがないと思う。長年友人がいなかった龍牙にとっては友人が向けてくる好意と異性が向けてくる好意の区別が完全についていない。これも自宅学習と個性の訓練とオルカの修行の弊害という奴なのだろうかと根津とオルカは少し肩を落とした。奇しくもピクシーボブの肉食な方針が龍牙にとって良いのかもしれないとさえ思える。どんどんアタックして貰って心の変化を促した上で相手の意図に気付くのが一番のようにも思える。となると龍牙のお相手はピクシーボブになるのだろうか……と思い始める二人だが、息子はある事を思う。

 

「……そう言えば、あの時はなんだか不思議な感じがしたなぁ……」

「あの時、それは何の時だ」

「雄英での合宿の時に、夜空を眺めてた時に葉隠さんとちょっと話してた事があったんです」

 

夜の一時。月を愛でながらの一時。龍牙にとっては初めてだったこと、厳しい厳しい合宿の夜に起きた小さな出来事。

 

「その時に葉隠さんが眠かったのか俺に寄り掛かったんです」

「(龍牙、それ確実に意図してやってるよ)」

「(いやそれは彼女が勇気を出してやった行動だろ)」

 

息子の考えに若干の呆れを持ってしまう親二人、天然な所があるとは思っていたが鈍感な所も合わさってそんな風に思ってしまうなんて……とため息が漏れる。

 

「その時に葉隠さんの身体の暖かさっていうか、身体の柔らかいのを感じてその凄い、心地いいなぁって思ったんです。今までも父さんや師匠、ばっちゃんにミッドナイトさんに優さんとも似たような事があった気がするのになんか違う感じがした……あれはなんでなんだろう、友達だったからかな……」

 

それを聞いて根津とオルカは少しだけ胸を撫で下ろした。龍牙は自分達が思っている程に酷く鈍感ではない、少しずつではあるが正常な青少年として成長している。今は清純すぎる面が強いだけなんだと分かる。兎も角親としては無自覚に周囲の女性を落とし続けて難聴じみた鈍感になってくれなければそれでいいとさえ思っている。

 

「そうか、つまり君は葉隠さんが好きって事なんだね」

「そりゃ葉隠さんは大好きですよ、だって初めて俺の事をカッコいいって言ってくれた人です。でもA組の皆大好きですよ?」

「いやいやいや龍牙、校長が言っているのはそういう意味ではなくてな……」

「ズバリィ……結婚したいのは葉隠さんとピクシーボブどっちだい!?」

「校長ぉぉおおおアンタ何聞いてんですか!!?」

 

もう変化球を投げるのを諦めてド直球にした根津にオルカは珍しく大声を上げる。そんな言葉を受けて龍牙は考え込んでしまう。

 

「いやだって君だってそれらしい事を言ったらしいじゃないか」

「だからって龍牙にはまだ早すぎるでしょうが!?」

「いやいやいや最近に高校生の交際と言ったら勢いで結婚まで行くのだって統計的に多いからさ。僕としては龍牙には早く幸せになってほしいのさ」

「駄目です龍牙はまだ子供で俺達が守ってやるのが当然な存在なんですよ!!?交際はともかく結婚は早すぎる!!?」

「君が言うのかい?守ってやるのが当然と言いながら虐待一歩手前の訓練付けてるのに」

「うぐっ!!?」

 

そんな言い合いが続けられるが肝心の龍牙はそれを完全に聞き流していた。恋すら知らないのに結婚したいのは誰だと言われても想像すら出来ないのが正しい。なんとか必死にイメージを膨らませて以前見た事のあるドラマに自分を投影してなんとか形にしてみた結果の感想は……

 

「そもそも俺って結婚出来るんですかね」

 

結婚出来ないだろという自己否定だった。それを聞いた根津とオルカはこれを深刻な事として捉え、なんとしてでも龍牙に恋や愛を知って貰う為に葉隠とピクシーボブをバックアップする事を決意してしまうのであった。ある意味完全に外堀が埋められてしまい、逃げる事が不可能になってしまった龍牙。彼の将来はどうなるのだろうか?

 

「恋ってレモン味っていうから酸っぱいだろうな、俺酸っぱいの得意じゃないからなぁ……出来なくても良いかなぁ……」

「「絶対にしろ!!」」

「……なんで俺今怒られたんですか?」


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