僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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やりたい事を詰め込んでしまった……。


流れる黒龍

その日、龍牙の姿は繁華街にあった。インターンをリューキュウ事務所で行う事が決定しその日取りも決定した。それに辿り着く前の休日、龍牙は気分転換にと街へと繰り出していた。やや暗めのライダースジャケットに青のTシャツ、上質のデニムにウエストポーチ、そして様々な意味で有名となっている龍牙が騒がれないための変装の伊達眼鏡を着用して出掛けていた。だが休日の殆どを一人で、しかも外でまともに過ごした事の無い龍牙はただただ練り歩いているだけだった。

 

『あら……龍牙君、偶然ねこんなところで会うなんて』

『えっ……あれ、何方ってもしかしてピクシーさん、ですか?』

 

街で偶然であったのは完全なオフの格好をしているピクシーボブこと土川 流子だった。なまじコスチューム姿しか見た事の無い龍牙も一瞬誰か分からなかったが、声に聞き覚えを覚えて記憶と照合すると彼女だと分かった。グレージャケットにネイビーの細身パンツ、スタンドカラーブラウスにオシャレなポーチを下げながらの姿は仕事の出来る女性の可愛らしい私服、私服と仕事着でここまで印象が変わるのも凄いと龍牙は驚きを隠せなかった。

 

「それにしても本当に偶然ね~」

「本当ですね、まさかピクシーさんとこんなところで会うなんて思いませんでしたよ」

「(なぁ~んてね♪本当は葉隠ちゃんを出し抜く為に色々とした準備をしてたのよん♪)」

 

と、偶然オフが重なったように演出しているが完全にした準備をした上での遭遇である。一体どんな方法を取ってそんな準備をしたのかは乙女の謎という事にしておくとしよう。

 

「龍牙君は遊びに此処に?」

「遊びにって言うか気分転換ですね、ぶっちゃけ適当に歩く事しか考えてませんでしたから」

「そうなの、それじゃあ暇なのね」

「まあ暇と言えばそうなると思います、これと言って何かをする予定も入れてませんから」

 

正確に言えば、一人で出掛けて何をして良いのか分からないというべきだろう。今日日此処まで何をしたらいいのか分からない若者というのもいないだろう、がそれを聞いてピクシーボブは見えない所でガッツポーズをするのであった。

 

「それなら私に付き合わないかしら、これから買い物をしようと思ってたところなのよ」

「俺なんかで宜しければお供させて頂きます」

「それとピクシーさんなんて呼ばなくていいわよ、今はプライベートだし流子って呼んでね♪」

「分かりました流子さん」

 

さり気なく下の名前で呼ばせるピクシーボブこと土川 流子(31歳)であっ「心は18ィ!!!」……土川 流子さんであった。龍牙にそのように呼ばれて酷くご機嫌になりつつも言い回しも何処か自分をお嬢様と扱ってくれているような気分になって猶更上機嫌になる。早速龍牙の手を取って歩き出していく、その姿を切り抜けばカップルに見える事だろう。

 

「流子さんは何を買いに行くんですか?」

「服とアクセサリーをかしらね、ちょっと新しいのを買う事になったの」

「へぇっ~……」

「ついでに龍牙君のも見てあげるわよ?」

「えっでも悪いですよ、それに今日は俺が流子さんに付き合うって言ったんですからそちらを優先しますよ」

「んもうカッコいいんだから♪」

 

自分の事を優先する、何処か尊重しているような言い回しと行動に胸が躍りまくるピクシーボブ。彼女的にはヒーローとしての収入はかなり多く龍牙に服を買ってあげる事など雑作もない。というよりも相手がいないから使い道が無いから結果的に貯金をしてきた結果として、結婚式の費用やその後の生活用品に一戸建てを余裕で買える程のお金はあるのである。仲間にそれを無言で肩を叩かれて悲しくもなったが……これはこれで仕事の出来るお姉さんアピールが出来ると前向きに考える。

 

「それじゃあ行きましょう龍牙君♪」

「はい流子さん、お供しますよ」

「いやん嬉しい♪」

 

愉しそうで嬉しそうな声を聞いて自然と口角が上がる、自分でそれに気付いて思う。矢張り自分は誰かの楽しそうな姿と笑顔が好きなんだと龍牙は再認識しながら隣を歩くピクシーボブの歩幅に合わせながら目当ての店に向かっていく。到着した衣装品販売店、基本的に来た事の無い店に少々緊張する龍牙。自分が来ている服などは基本的に似合うからっという事でミッドナイトとMt.レディが用意した服だったりするので、初めてだったりする。

 

「やっぱり最近の流行は青と赤なのか……でも私にこれって合うかな……龍牙君はどう思う?」

「えっ俺ですか?え~っと……個人的には青がお似合いだと思いますよ、でも赤も赤で流子さんの活発さを膨らませて似合うといいと思います」

「あっやっぱりぃ!?私も実はそうじゃないかと思ってたのよぉっ!!あっそれだとこっちのネックレスも合わせるといいのかしら!?」

「いや青だったこっちで、赤だったらこっちじゃないですか?」

「龍牙君ったらいいセンスしてるぅ~!!」

「(冬美さんのアドバイスが思わぬ所で役に立った……今度お礼言わなきゃ)」

 

と龍牙はピクシーボブの洋服やアクセサリー選びに思いのほか協力していた。龍牙自身のセンスも悪くない上に時々やってくる私服の姉&自称姉の服の感想を言ったりしている内にそういう方面の力が磨かれていた。そして最近では冬美に葉隠と共に遊びに行った時の為のアドバイスが良い方向に向かっている。

 

「それじゃあこれとこれ、後これね。それと龍牙君が選んでくれたもの全部ね!」

「何か凄い量ですね……凄い金額になりそう……」

「ああ大丈夫よ、カードでお願いね。後送り先はここで」

「畏まりました」

「……すっげ」

 

と狙い通りに仕事の出来るお姉さんアピールの成功にほくそ笑むピクシーボブであった。そんなこんなで買い物も終わった二人はカフェに入るのであった。

 

「龍牙君って本当にセンスいいわよね」

「いやぁそう言われると照れちゃいますけどね……大した事じゃないですよ、その人に似合うものを選んでただけですから」

 

そう言いながらコーヒーを啜る、そんな龍牙を見つめながらもこれで葉隠に差を付けたなと内心でほくそ笑む。最近は龍牙を狙う新しいライバル的な直感があった、自分は葉隠と違って傍に居れる訳ではないのでこういった機会は貴重なのだから頑張ってアピールしなければと思いながら一つ咳払いをすると、龍牙に問いかけた。

 

「そう言えば龍牙君、貴方何か悩み事あるかしら」

「っ―――なんでそう思うんですか?」

「女の勘よ♪」

「……やっぱり凄いんですね、女性の勘って……」

 

まるで観念した犯人のように両手を上げて降参するように正解ですっと呟く龍牙。ミッドナイトやリカバリーガールで知った事だが、女性というのは勘が酷く鋭い。特に悩みごとに対する勘はずば抜けている気がする。

 

「実は学校でインターンについての事があって……」

「あっそうか、もうそんな時期ね (し、しまったぁぁっ龍牙君にインターンの誘いをするの完全に忘れてたぁぁっ~!?ああでも龍牙君ならオルカさんの所に行くか……)」

「でも師匠からは他の所に行けって言われて……」

「ええっオルカさんが!? (YES!!チャンスはまだあったぁ!!)」

 

龍牙の言葉に一喜一憂しながらも真剣に話を色んな意味で聞いていく。オルカは龍牙の受け入れについてはかなり慎重になっており、他の所で経験を積むべきなのではという意図が汲み取れる。それはきっと龍牙の為を思っての事、様々な経験を積む為に様々な場に出向くべきというのは至極当然、正解ともいえる選択だろう。だがそれはオルカにとっても苦渋の選択。

 

「俺は師匠の所に行きたかったんです、師匠には俺の成長する所を見て欲しかったんです……もっと色々教えて欲しいかった……」

 

龍牙が酷く師を慕っている、それは親だからという単純な理由だけではなく自分をここまで育ててくれたオルカの意図の全てを理解しているからこそ。それはオルカも承知している、だが彼は龍牙に厳しすぎていると方針を変えるべきだと考えている。そして今回の別事務所でのインターンの勧めは一時的にとはいえ愛する弟子を他のヒーローに育成を託すという事になり、師としては屈辱的とも言える苦渋の選択になる。それでもそれを勧めたのは愛する弟子の為。龍牙の思いも理解出来るが、それ以上にオルカの愛情も感じられる出来事。

 

「龍牙君、逆に考えちゃいましょうよ。オルカさんが見ていない所、いない所で成長できちゃうのよ?それって凄い素晴らしい事だと思うわ。こんな言葉があるわ、『男子、三日会わざれば刮目して見よ』。つまりオルカさんが知らない所で凄い成長して驚かす事が出来るいいチャンスなのよ!!」

「チャンス、ですか……?」

「そう、師匠なら自分の弟子が知らない間に凄い成長すれば感無量になること間違いないわよ!!」

 

成長し、驚かせる。そんな風に考えた事などはなかった。自分の訓練は常にオルカと共にあったと言っても過言ではなかった。そしてその中で成長しても目の前故に簡単に対応して真正面から叩き潰す師に驚きつつも尊敬していた。だが逆に自分が師匠を驚かせる事が出来る、もしそれが本当に出来るならこれほどまでにやりがいがある事もないのではないかという気がしてきた。

 

「そんな風、に考えた事、なかったです……何時も師匠に自信を潰されてきて、その度に這い上がって……そうか師匠が驚く位に俺が成長すれば……!!」

「そして弟子の成長は師匠にとってはこれほどにないまでの喜び、きっとオルカさんも驚いたうえで大喜び!」

「大喜び、師匠が……!!そうか、そうなのか……!!」

 

そう言われ龍牙は今まで乗り気ではなかったリューキュウ事務所でのインターンに乗り気になり始めて来ていた。どうせなら師匠が思わない位に大成長して手合わせする時に、驚愕させてしまおう!!という悪戯心が生まれてきた。そんな龍牙は思わずピクシーボブの手を強く握りこんで感謝する。

 

「有難う御座いますピクシーさん!!俺、全然インターンに乗り気じゃなかったんですけどそう言われたら凄いやる気が満ち溢れてきました!!」

「そう、その意気よ!!それでね、インターンだけど是非ウチの―――」

 

とそこまで言いかけた時だった、突如大通りの地面からまるで火山の噴火のように大量の土が溢れ出した。土は様々な物を飲み込みながらどんどん盛り上がっていく、そしてその土の頂上には一人の大男が高笑いをしながらあらゆるものを見下していた。

 

「ハハハハッどうだテメェら!?今まで俺を見下しやがって、俺は今まで誰よりも下にいたが、今日からは俺が頂点だぁぁぁああ!!!!ギャハハハハハハッ!!!!」

 

と有頂天になりながら更に道に沿って土石流のように土が波打ちながら押し寄せ、市民を飲み込もうとしたその時だった。土の動きは完全に静止した。男は驚愕に目を見開きながら自らの個性で更に土を溢れさせようとするが、それらを塞き止める壁が静止していた土から現れて受け止めた。

 

「折角いい所だったのに……折角、良いムードだったのに全部ぶち壊し……!!!!」

「テメェッ!!」

 

土に触れていたピクシーボブ、彼女が自らの個性で土を完全に止めていた。しかもいい雰囲気だったのをぶち壊されたのに完全にキレていた。男はピクシーボブに対して土で生み出した槍を投げて攻撃する、だがそれは彼女に届く前に完全に粉砕されて塵と消えた。彼女の隣に降りた黒い騎士がそれを砕いたのだ。

 

「何だ貴様ぁっ!!?」

「偶々近くにいたヒーロー候補生だ」

「誰であろうと俺を下に、見るじゃねぇ!!!」

 

新たに土砂崩れのような勢いで土を生み出して二人を押し潰さんとする。この量は流石に止めきれないと判断したのだろうが、それを真正面打ち砕いたのは龍牙の力強い叫び声と共に放たれた黒炎だった。

 

「バ―――」

 

声を出す暇もなく男の背後から迫り出した土が男の全身をからめとっていく、そして土は形を変えながら男の顔を呼吸に支障が出ない程度に露出させただけの状態で拘束してしまった。

 

「邪魔するんじゃないわよ、三下」

「相手にならない、出直してこい」

 

発生から僅か3分も立たない内に解決したこの事件。これは夕方のニュースにて報道され、ピクシーボブと龍牙は怪我人0、迅速な解決によって大きな称賛を浴びる事になったのであった。

 

 

「ええええっ龍牙君はもうインターン先を決めてるんですか!?」

『ええ、リューキュウ事務所に行く事になってますね』

「何、ですって……!?そ、そう言えば何処に行くか決めてないなんて一言も言ってなかった……!!」

「まあこんなオチだと思ってたわ」

「我もだ。彼なら欲しい事務所は幾らでもあるからな」

「遅すぎたって奴だね、残念無念だねピクシー」

「そんなぁぁぁぁっ龍牙くぅぅぅううううん!!!」




「へっきしっ!!」
「あれ龍牙君風邪?」
「いやなんか急に鼻が……」
「一応薬飲んでおいたら、はいこれ(ピクシーさんだねきっと。残念でした!!)」


オチ要因としてピクシーさんが優秀過ぎる件について。

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