僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ドラグーンと黒龍

先手を取った、いや取らされた龍牙は勢いよく飛び出しながらも突貫しすぎないように留意しながら素早い動きで近接戦をこなしていく。踏みしめる一歩一歩には瞬間的な集中展開を用いて出力を増しながら、相手に自分の力の把握をさせないようにしながら攻撃を仕掛けていく。

 

「だぁっ!!」

「いい、動きね」

 

交互に素早く息も付かせないような連撃は相手に自分のペースを乱させない為とペースを握られない為。ラッシュにフェイントを織り交ぜ、腕だけではなく膝や蹴りなどを含めた連撃。そして此方に睨みを利かせながらも時折、薙ぐような尾撃を放ってくるドラグブラッカーの存在もあった。

 

『グオオオォォォ!!』

「おっとっ!!」

 

前方と後方から迫ってくる薙ぎ払い。龍牙は咄嗟に屈むようにしながらの腿を薙ぐ、ドラグブラッカーはちょうど肩と首の中間あたりを狙っての攻撃。上を意識すれば下が、下を意識すると上が。そして対処が遅れると両方が同時に襲いかかる。片方のダメージを覚悟したとしても体勢は大きく崩れて次に繋げられる、4段構えの策にリューキュウは少しだけ舌を巻く。

 

「たぁっ……やぁっ!!」

 

だが彼女は落ち着き払っていた。焦る様子もなく、思案を急がせる様子もなく咄嗟に最適解を選択する。軽く跳躍する、だが高さを稼ぐのではなく姿勢を変える為の跳躍。身体を横にするようにしながら両面の攻撃を完璧に捌いてしまった。重さを感じさせない軽やかな動きで龍牙の脚と黒龍の尾の間を転がるように避けながら、龍牙には首の辺りに蹴りを、黒龍には尾をしたから殴りつけるような勢いで押し上げる。そして着地すると黒龍の尾を掴んでそのまま振り回して距離を取らせる。

 

「流石リューキュウだよね、今の悪くない攻撃だったのに完璧に捌いちゃったよ」

 

ねじれも思わず感嘆の声を出す。今のは自分ならば個性を発動して両方を対処するだろうが彼女は違う。純粋な技術と身体能力だけで対処して見せた。矢張りまだまだ先にいる存在だと認識させられる。しかし龍牙も負けていない事を見せられる。

 

「ッ―――でぇぇええいやっ!!」

 

元々姿勢を下げていたからか、ダメージを上手く逃がしてそのままサマーソルトの要領で身体を勢いよく持ち上げてリューキュウの顎を狙って一撃を出す。しかしそれは軽く受け流される、直後に腕の力だけで身体を吹き飛ばすようにしながらのドロップキックを放つと流石に予想外だったのかそれには防御で応える。

 

「やるわね、流石はオルカの弟子ね」

「まあ師匠はここまで器用に対応しません、全てを捻じ伏せた上で俺を叩き潰して自信を粉砕する。そうされ続けてきました、リューキュウさんみたいな事を初めてだ」

 

ギャンクオルカも技量を活かした戦法を取る事もあるが、どちらかと言えば自身のパワーと経験に裏付けされた自信で打ち砕いてくる。それが相手にとっては致命的な打撃になる事が多い、故にリューキュウのように技量と能力を活かして、受け流していなすというのは新鮮に映る。

 

「お褒めに預かり光栄、じゃあ―――続きをしましょうか」

「ええっ―――ブラッカー!!」

『グオオオォォォ!!!』

 

龍牙の叫びと連動するように全く同時に黒龍は素早く迫りながら体当たりをするように突進する、黒炎などばかりに意識が行きがちだがドラグブラッカーの力は相当に強い。突進するだけでも相当な武器になってくる、それを先程の尾撃で把握しているリューキュウは突進をいなすだけではなく龍の頭部を強く殴り付ける。それによって動きが止まった瞬間を狙って肘と膝で同時に挟み込むかのように打撃を加える。

 

「少しは動けなくなるでしょ」

 

その言葉の通り、黒龍はフラフラと地面に堕ちながら動きを止めてしまった。頭部を強く打たれた事で意識が乱れてしまっているのだろう。が、そこへ龍牙が迫っていく。動きの終わりを突いた攻撃を繰り出す、だがそれは受け止められる間に停止し即座に身体を切り返した。自らの足元に出現させた龍頭から黒炎を放出させた。

 

「自分諸共……!!」

 

幾らリューキュウとはいえ個性を発動させていない状態では危険になる、そこから一気に後方へと飛び退くのだがそれに合わせて龍牙は黒炎に包まれながらも更なる炎を吐き出して攻撃をする。それを身体をひねるようにして強引に回避する、が直後―――

 

「腕部集中、ドラゴン・ストライクゥ!!!」

「くっ!!」

 

黒炎の中から飛び出した龍牙の巨大化した龍頭の一撃が炸裂する。咄嗟に防御を固めるがそれすらまとめて吹き飛ばす程の破壊力を見せ付け、リューキュウは吹き飛ぶ。だがそこは腐ってもプロヒーロー、飛ばされながらも見事に受け身を取りながら着地してダメージを上手く殺しながら持ち直した。

 

「……いい連携ね、そうか考えてみれば貴方は身体に炎を纏って蹴り込むから元々炎は利かないのね」

「炎には慣れてます、特にこの黒い炎には……!!」

 

時には炎で肌を燃やし、時には肉を焼き、時には骨すら焦がす。それが自分の黒炎、それと何年間も付き合い続け、自らもその炎で幾度となく身体を燃やし続けてきた。一度―――それで地獄を味わった。無限に身体を焼き続ける獄炎地獄をも体験した。生物にとって炎は本能的に恐れる物、だが龍牙にとって炎は恐れる対象ではない。脅威ですらない―――自らの一部でしかない。

 

「黒き炎は俺の矛であり盾、そして我が身その物……!!友が名付けてくれた名前は闇炎龍、それが俺達の名前で良い!!」

 

その言葉に呼応し、黒龍が目を覚ます。だが今までの荒々しさが無い、静かに即座に龍牙の傍へと移動しとぐろを巻く。まるで完璧に躾けられた軍用犬のように、指令があるまで全く行動を起こさない。確固としてあった黒龍の意思が完全に龍牙に準じている、制御されている。

 

「俺達は元は一つ、龍の戦士と黒龍は元より一匹の龍。分かたれたそれが今は一つになっている、ならばもう一度一つになればいいだけ」

 

そうだ、自分で思考したそれを見なおした気付く。シンクロしようとするのが可笑しかったんだ、元々ドラグブラッカーは自分だ、自分と一つだったんだ。ならば最初から一つだった。それが巨悪によって分かたれ、一つは歪な形の二つへと化した。ならばそれらの歪を受け入れよう、完璧な一となればいい。それが答えだ。

 

「一瞬で大きくなった……成長してる、いや進化した」

 

目の前にいる龍たちの雰囲気が変わった。元々二つの意識、意志を一つにしようと互いが思いあったとしてそれは確実でも完璧でもない。如何しても綻びが生じてくるだろう、どれ程に完璧なシンクロの為に訓練を積んだとしても複数であるが故に100%には辿り着けない。だから龍牙は至った、元々一つの個性、命だからこそ出来る事を。単一への統合の行使。

 

「成程、オルカが言っていた事ってそういう事……漸く理解が出来た」

「すっごい……」

 

素直に称賛するしかない、いや元々彼にはそれだけのポテンシャルがあった。少しばかりの至高の違いがそこに辿り着く鍵を違えていた。しかしもうそれを理解した、もう鍵は間違えないしこれから加速度的に伸びていく。そんな姿を見てギャンクオルカが言っていた事を思い出した。

 

『ヒーローとしてサイドキックを育てる事もあったが、弟子を育てるというのは全く違う。弟子は師の教えを基にして、糧にして成長していく。それを見るのが堪らなく面白く嬉しいんだ。あいつが成長する所を見るのが―――俺は堪らなく好きなんだ』

『それ親馬鹿の間違いじゃないですか?』

 

その時は揶揄うように言ったが確かにこれは嬉しいと思えるのも頷ける、自分の下で成長するねじれと同じように感じられる。成長の瞬間、それを見た時に感じられる感覚は堪らないというのも分かった。それに応えるかのようにリューキュウは個性を発動し巨大な龍となる。

 

「さあ続けましょうリュウガ、来なさい」

「……はぁっ!!」

 

言うのではない、促すのでもなく黒龍と共に龍牙が駆ける。既に一つとなっている互いに言葉はいらない、思うだけで互いの身体が動く。それは既に一匹の龍といえるだろう―――だがまだ余りにも幼い。

 

 

 

「まだまだねリュウガ」

「ぐぅっ……」

「むふぅ♪」

 

龍牙の身体は床に沈められていた、それを見つめるリューキュウの瞳は手の掛かる息子を見つめる母のように優しい。そしてねじれは満足げに声を漏らしながら倒れこんでいる龍牙を撫でている。

 

「経験が足りないの一言ね、それに身体に対する負担も大きい。実用段階とは言えないわね」

「仰る通りです……」

 

ドラグブラッカーと己の統合、それに成功はしたがまだまだそれを自在に扱うには時間がかかる。経験とは言えぬほどに幼い、まともに身体は動かせずにリューキュウにあっさりと制圧されてしまった。加えて個性解除後には尋常ではない反動(バックファイア)が襲い掛かり、龍牙はまともに動けなくなってしまった。今の段階では使い物にならないお粗末な物、まだまだ修行が足りないという奴である。

 

「でも貴方は絶対に大きくなるわ、私が保証してあげる」

「リュ、リューキュウさん……」

 

リューキュウはそっと、彼の隣に座りながら頭を撫でる。優しくゆっくりと撫でる。

 

「大丈夫よ、貴方ならきっと大丈夫よ」

 

龍牙はその言葉を聞いて、身体を襲う痛みの中で深い安堵を覚えながら大人しく撫でられ続けた。まだまだ先は長い、だからこそ良いと思える。きっとこれを乗り越えて師匠に驚いて貰おう……。まあ一先ずは……動けるようになるまで休むのがすべき事だ……。




かぁっ……龍牙、そこ変われ(羨望)。

自分で書いてなんだけど、マジでそこ変われ。

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