僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ヴェノムと邂逅する黒龍

遂に始動するヴェノム確保作戦、開始時間は真昼。夜に行うと夜の闇に紛れて逃げられる可能性が高まるからである。姿そのものが影のように黒いというので逆に明るいうちならば目立つから。全ての準備を終えてヴェノムが潜んでいる廃ビルへと向かっていく。廃ビルは普通の物よりも大きい、一般的に想像されるビルを複数一緒にしたようなビル。事前調査でビルの大きさは把握していたが、改めてリューキュウはこの規模ながら個性を発動させたとしても十二分に動き回れると少しだけ安堵する―――だが、現場についてある経験がある者は背筋が凍り付いた。

 

「―――」

「リュッリュウガ君如何したん!?ねじれちゃんまで!?」

「ウラビティちゃん、リュウガちゃんだけじゃないわ。リューキュウにビーストマン、ミラー・レイディもだわ」

 

蛙吹の言う通り、その場にいる麗日と蛙吹を除いた全員が冷や汗をかきながら金縛りにあったかのように停止してしまっている。周辺を静かに支配しているそれを感じ取った全員はそれの濃厚さに息を飲んでしまった。もう此処はお前が思っている場所ではない、此処は俺の縄張りだと言わんばかりの物が周囲に満たされている。

 

「―――リューキュウ、これは下がった方が良いと思う……絶対にやばい……!!」

「ええっ……リュウガの言葉通りに最悪を想定してたつもりだけど、最悪を想定しきれていなかった……!!!」

 

あのねじれですら顔色を悪くさせながらリューキュウに速やかな後退を推奨していた。リューキュウも全く油断などしていなかった、ウラビティもフロッピーも危険を承知で参加したいという意志を尊重しつつ、彼女を守る為の策やねじれにも下がって貰う事にしていた。自分もこの二人が態々要請を出すから自分の最大級の警戒を持っていた、だが―――これはそれをあっさりと飛び越えていた。

 

「師匠の殺気によく似てやがる、静かでいながらその場を支配する殺気だ……獲物を必ず仕留める捕食者の殺気……」

 

ギャングオルカの殺気に似たものを感じたのは正しくそれだった。オルカは迫力や闘気に気押されされるが当人の殺気は酷く静かで穏やか、忍び寄る暗殺者、何も知らない獲物を一瞬で刈り取る捕食者。そんな殺気が辺りに充満している、酷く熟練した技のような殺気は一度体験していないと察知を行うためのステージにすら立てない。

 

「ステインの、ステインの殺気に似てる……!!冷酷な、あの殺気に……!!」

 

白鳥も理解出来たのはそれが理由だった。嘗て保須市で遭遇したヒーロー殺しステイン、彼が放っている殺気にも似通った物がある。冷酷だが冷静、残忍さと凶悪さを合わせたかのような重々しい泥のような空気を生じさせる殺気。ビーストマンとミラー・レイディは顔を真っ青にさせていた。

 

「おいおいおいなんだこれ、俺達が戦った時なんて目じゃない……!!?」

「何よこれ、あり得ない……!!」

「まさか遊んでた……不味い俺達は蜘蛛の巣にかかった蝶と同じだ!!」

 

最悪だ、自分達は攻め入ってきたつもりだが違う。自分から罠に飛び込んできた哀れな獲物だ、ヴェノムは狡猾な手を使った。敢えて自分が拮抗する、まだ対抗出来るレベルの力で応じる事で確実に自分を打つ為に攻め入るように仕組んでいた。更なる戦力も準備した事で確実に狩れるという油断を招くように。

 

「不味い全員全力で引くぞ!!このままじゃあいつの思うツボだ!!」

 

即座に撤退を決断して動き出していく、だがもう遅い。自分達は正しく蜘蛛の巣にかかっているのだ、簡単に逃れられると思ったら御門違いだ―――余り舐めるな。

 

「リュウガ君なんか肩に黒いの付いとるよ!?」

「黒いのってぇええええええええええっっっっっっ!!?」

「不味い奴の黒糸っだぁああああああああ!!?」

「貴方っ!!?ってこっちもぉぉおおおおお!!?」

 

突如、背後から飛来した黒い粘液のような糸のような何かが龍牙の身体に付着する。それは全力で走る龍牙の身体を簡単に引き留めた上で凄まじい力で一気に引っ張っていった。一気に巻き取られる掃除機のコードのように浮き上がって引っ張られていく。そして間髪入れずにビーストマンとミラー・レイディにも糸が飛来して、一気に引っ張っていく。そして再び糸が飛来し、ウラビティを捉えようとするが、それを個性を発動させたリューキュウが代わりに受けた。

 

「ぐっ……!!こんなに細いのになんて力っ……!!!」

 

身体についた確りと付着しているがこの細さでこの力を確りと受け止めて引っ張ってくる。糸の強度が尋常ではない、鋼鉄にも匹敵するほどの強度に異常な粘着力。ヴェノムの物と思われる力強さと融合して凶悪としか言いようがない武器となっている。

 

「リューキュウ!!」

「来ちゃ駄目……!!ねじれ、皆を連れて退避して!!そして他の事務所に、いえギャングオルカやエンデヴァーに応援を要請して!!彼らレベルがいないと恐らく駄目よ!!それと殺気を見極めて離れるのよ!!!」

「分かったリューキュウも絶対に無理はしないで!!」

 

力強い笑みを浮かべているが、リューキュウはもう糸の力に耐えきれなくなっていた。その巨体が余裕で浮いて勢いよく引っ張られていく。廃ビルの闇の中へと吸い込まれて行ってしまった。

 

「お兄ちゃん……大丈夫、だよね……うんきっと大丈夫だよね……?」

 

 

「キャッ!?」

 

内部に入ってしまったリューキュウは咄嗟に個性を解除する。すると黒糸が離れた、そして暗闇の中で何かにぶつかりながらも着地したようだった。辺りは薄暗く視界が悪くなっている、だが近くにはビーストマンとミラー・レイディが居ることを確認するが龍牙の姿が全く見えなかった。

 

「リュウガ、リュウガ!?どこ、何処に行ったの!?まさか一人だけヴェノムに……!?」

 

だとしたら直ぐに助けに行かなくてはならない、だがその時だ。何かが肌を少し強く叩いてきた。咄嗟にそれを掴むとそれは普通の手だった、そして近くでは床を何度も何度も殴る様に叩いている腕があった。まさかと思って下を向いてみると……そこには自分が押し倒してしまっている龍牙の姿があった。しかもご丁寧に胸で顔を押し潰すように覆ってしまっていて呼吸が完全に出来なくなっている。

 

「キャアッごめんなさい大丈夫リュウガ!!?」

「ブハァッ!!?はぁはぁはぁ……お、俺は平気です……俺がクッションになったおかげでリューキュウさんに怪我が無くてよかったです……」

 

どうやら龍牙は背中を強打してしまい、その際に思いっきり息を吐いて咽てしまった。その直後にリューキュウが飛んできて押し潰されて完全に息が出来なくなってしまった。リューキュウは顔を真っ赤にしながら詫びる、まさかこんなことをしてしまうなんて……酷い失態だと思いつつ龍牙は何か思ってないだろうかと視線を向けると特に何も思っていないようだった。

 

「それよりもリューキュウさんは怪我無いですか……俺クッションとしては硬いでしょうから」

「い、いえ大丈夫よ、貴方のお陰で無傷よ」

「それなら良かった……俺のせいで怪我したとか笑えませんからね」

 

寧ろ自分の事を気遣って身体の心配までしてくれる、あんなことまでしてしまったのに顔色も全く変化していない。こんな時には感謝すべきかもしれないのか、それとも女として見られていないのかもしれないという事にショックを受けるべきなのか……迷うリューキュウであった。

 

「おう青春ラブコメってる場合じゃねえだろ」

「まさかこんな場面を見る事になんて……ある意味ラッキーなのかしら、これって……」

 

完全に呆れた表情を浮かべているビーストと複雑そうなレイディ。それを見てやってしまったとばかりに思うが、即座にそんなものは消え失せた。目の前に現れたそれを見たら吹き飛んでしまった。先程の黒糸、それの集合体という見た目、だが糸の繊維一つ一つが動脈のように蠢き鼓動している。全てが生きているかのように見える。

 

「AAAA……よぉっ少し振りだな……」

 

低い唸り声、魂を揺さぶるような重苦しい声。それは何処か自分達を見て愉快そうにしながら舌なめずりをしながら自分達を見下す。以前腹筋がシックスパックのスポーツマンと言っていたが、それ所じゃない。オールマイトを思わせるような巨体に吊り上がった大理石のような色の瞳は何を映しているのか予想も付かない程に濁っている。理性があるのかすら読み取れないのに理性があると理解出来る、何もかもが不条理の塊のような物。

 

「お前は、なんだ……!?」

 

ビーストが思わずそう叫んだ、叫ばずにはいられなかった。健康的なスポーツマンが僅か数日で3メートルの屈強な巨人になるなんて誰が思うだろうか。ビーストの気持ちも分かる、するとヴェノムは一瞬キョトンとしたように表情を固めると首を傾げた。

 

「分かっている筈だ、お前は俺の名を知っている。だが敢えて名乗ろう―――ヴェノム。それが名前だ……覚えておけ―――いや、覚える必要もないのか」

 

邪悪に嗤うそれは何処か人間臭く、何処か化け物じみている。ヴェノム、そんなヴィランが目の前にいる。




―――龍牙テメェ……テメェ……。

ぁぁぁぁぁぁっっっ……!!! (言葉にならない怒りの叫び)

今だけヴェノムの味方になろうかな俺。

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