僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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垣間見る黒龍

嗤う邪悪は無邪気に嗤う。自らが仕掛けた罠にかかった哀れな獲物を捕獲し、それらを見て嘲笑う。笑う、それは元々攻撃的なものだったという話がある、獣が牙をむく行為が原点と言われるが正しくそうなのだと自覚させられる。目の前の凶悪な獣が向ける笑いこそ悪意ある嗤いで、自分達を捕食しようとする捕食者に違いない。絶対的な捕食者、それこそが弟子が師匠と似ていると感じた絶対的な要因。

 

「「―――っ!!」」

 

本能的に恐れてしまう絶対的捕食者、それが理性と知性を保持して悪意で持って捕食者の力を振るったどうなる事か……考えてしまう。それは致し方ない事だろう、それでも身体を起こしながら構えを取るのはヒーローとしての矜持、意地、誇り、プライドだろう。だがそれよりももっと早く構えを取りながら戦闘態勢を取る龍がいる。黒い炎で身を焼いて姿を変えた。

 

「お前、良いな……」

「そりゃどうも……捕食者なら何時も相手にしてた―――冥界の魔物って言われてる師匠をな」

「流石っ……!!」

 

リューキュウもそれに対抗していた。龍という規格外の幻想の生き物、それらは通常の生き物よりも本能が強く恐怖に耐性があるのかもしれない。そんな龍という個性と共に生き続けながら、明確に自らに殺気と闘気を交えた者を向け続けられた龍牙にとっては絶対的なものではない。感じこそするが真正面から浴びたとしても意志を保ち続ける事は容易。

 

「駄目だリュウガ戦うな!!こいつはもう俺達の手じゃ負えない!!」

「そうよ、もう格が……桁が違う!!」

 

ビーストマンとミラー・レイディが悲鳴じみた声を出す、明らかに手に負えるレベルを超えている。後退しながらの戦闘ならまだ何とかなるだろうが倒すとなると途端に難易度が跳ね上がる。これを倒すというのは無理だ、逃げるしか選択肢がないに等しいと二人は叫ぶ。実際にはそれは正しい、二人の考えは正しい。だがリュウガは一切構えを解こうとはしない。

 

「おいリュウガお前俺達の言葉を無視する気か!?いう事を聞け!!」

「十分聞いてる!!でもこいつが逃がしてくれると思ってるのか、ビーストマンにミラー・レイディ!!」

「そう、逃げるしかない、だけどもう逃げるのは無理。目の前まで接近されている上に此処は罠の中央部、どうやって逃げ切る気なのかお聞きしたいわ」

 

実力差から考えれば逃げるのは妥当、状況から考えれば完全な悪手。この化け物に背を向けて逃亡して逃げ切れるなんて考えていない。そんな都合の良い事はあり得ない、自分達はヴェノムが仕掛けた罠にかかった獲物で相手はそれを狩り取ろうとしている捕食者。折角罠に掛かってくれた獲物を見逃がしてくれる訳がない。かといって、上手く退けたとしてもこれは更に進化して手に負えなくなる可能性がある。何としても此処で倒すしかない。

 

「AAA……最低でもそこの二人を逃がす気はない」

 

その言葉の共に振るわれた腕の一撃が近くの壁へと炸裂した。腕はビルの壁を抉るように深々と砕いた、走っていく亀裂の深さもまるで地震による地割れ。仮にあれが人に使った場合如何なるだろうか、人の身体が簡単に再起不能になり得る。

 

「そいつらは俺を激しく怒らせた……虚仮にして侮辱した」

 

ヴェノムは濁った瞳で身体を震わせているビーストとレイディを睨みつけた、屈辱を味合わせてくれた事を忘れない。自分の事を笑って馬鹿にした事を絶対に忘れない。あの時に決めた事がこいつらを必ずに喰い殺すという事。それだけは譲れない。そんな事を思いながら胸の中央部から小さな機械を取り出す、それには見覚えがある。ビーストマンとミラー・レイディがヴェノムが逃走する際に投げ付けた追跡用の発信機だった。

 

「発信機に気付いていたのか……!!」

「当然、だから罠を張った。お前らなら確実に追ってくると思っていたからな、俺を倒せると油断しているお前らならな……殺気もお前らが射程範囲に入るまで抑えて待ってたからな、そっちの二人は……放置すれば面倒そうだから連れてきた」

 

歪んだ笑みを浮かべながら発信機を握り潰す、暗にこれからお前らをこうしてやると言っているような気分になった二人は更に顔を青くさせる。だがヴェノムは同時に龍牙にも目を向けた、酷く興味深そうに見つめてくるヴェノムの視線に少しだけ、寒気を覚える。

 

「……お前、俺と同じではないのか」

「一緒にするな」

「そうよ、貴方みたいな奴と違ってリュウガは本当に優しくて良い子なんだから……!!」

 

強く否定する二人にヴェノムはそうなのかと顎を触りながら見つめてくる。

 

「そうか俺とした事が、気を悪くしたなら謝ろう」

「……妙な所で律儀で素直だな」

「気にするな、俺は気にしない。だからもうお前の見た目の事も言わない」

 

そう語るヴェノムは指先から黒糸を伸ばすと通路の奥に置かれていたと思われる肉を引っ張ってくる、それを口へと放り込み貪り始める。骨ごとなのか砕ける音を響かせながら肉を咀嚼する、飲み込むと共に微妙にヴェノムの身体が大きくなっているようにも思える。それが成長ではなく質量が増しただけなのだと信じたい所。もしかしてヴェノムも個性ゆえに苦労してきたのかもしれない、嘗ての龍牙のように、IFの存在と言えるのかもしれない。

 

「それで如何する、俺と戦うか」

「当然……でないと脱出も出来ないだろうからな」

「ああそうだな、俺は少なくともその二人を喰わんと気が済まない。だがお前らはそれを許さない、ならば戦うしかない。ヒーローって奴は面倒な生き方をしてる」

 

首を鳴らすような動作をしながら此方を見据えてくる、呆れるような表情を浮かべながらも全く隙を見せない。向こうも既に戦う準備は出来ているという事だろう。

 

「一度だけ言うわ。ヴェノムR、大人しく投降しなさい」

「断る。俺は自由に生きる、束縛されるなんざ真っ平御免被る。そして―――お前にも興味がわいたぞ、リュウガ」

 

ヴェノムは真っ直ぐにリュウガを見据えた、それに何の意図があるのかは完全に不明。それ以上語るつもりもないのか言葉はそこで打ち切られた、ヴェノムは腰を落としながら腕を構える。

 

「ビーストマン、ミラー・レイディ、大人しくやられたくなかったらさっさと立ってくれ」

「出来ればそうして欲しいわ、戦闘経験があるのは貴方達だけよ」

「ああもう分った、分かったよやるしかないんだな!!」

「こうなったら正面突破してやる!!」

「出来るかな―――さあ来いよ、ヒーロー」


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