僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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猛威を振るわれる黒龍

「AAAAA!!!」

「ぐっ……!!」

 

薄暗い闇の中、姿を消しながらも唐突に突進を行ったかと思いきや進路を変えて他へと動き、黒糸で加速を付けて蹴り込んでくるヴィラン。巨体のリーチや自重を生かした攻撃に盾を出現させて必死にガードするが。勢いを殺しきれずに後ろに下がってしまう。

 

「たぁっ!!」

 

だがそれでも一瞬動きが鈍る、その瞬間を見逃さずに回し蹴りを叩きこむリューキュウ。だがその感触は酷く鈍い、酷く分厚いゴムボールに蹴り込みを入れているような感触で手応えが全くない。身体の粘液のような物が衝撃吸収の役目を果たしているのか、もっと深くに蹴り込まないと効果的ではない。そしてヴェノムはその足を掴もうとするのだが彼女の手を攻撃を防いでいたリュウガが取った。そして攻撃を振り払うと同時に彼女を振りまわすように回転し、その勢いを利用してヴェノムの頭部へとより深く角度の蹴りが食い込んだ。

 

「ゴォッ……やるな」

 

何処か感心する声を浮かべながらもヴェノムは後方へと飛び退いていく。背中から黒糸を伸ばして身体を引っ張らせる事で後退しながら闇へと紛れていった。正しく縦横無尽、この環境とヴェノムの相性が異常な程に良すぎる。糸を伸ばし付着させる対象が多い上に、闇に紛れて奇襲さえも行える。

 

「野郎……!!」

「立ち回れているけど、有効打が全く入れられないなんて……」

 

この環境でのヴェノムは凄まじく厄介な存在になっている。巨体になった事でとんでもないパワーファイトも可能になっている上に黒糸は身体そのものを使って出してしているのか、量も異常なほど出す事が出来る上に身体のどこからでも出せる。真正面からの殴り合いをしているかと思えば、拳がいきなり膨れ上がって黒糸の塊が飛び出してきてそれに飲まれそうになったりと一々肝が冷えるような戦闘を強いられている。

 

「来るわよ!!」

 

ミラー・レイディは攻撃を察知して注意を促し回避を行う、飛んできたのは黒糸を小さな玉にして放ってきた物。だがそれはあっさりと回避に成功するのだが……それが壁に命中したと同時に壁が崩れるような嫌な音が響いてきた。

 

「うわっ……壁にめり込んでやがる……!?」

「黒糸を小さく固めて威力を重視した攻撃型って訳ね……!!」

「その通り……」

 

上から声が聞こえる、そこには腹と背中から糸を伸ばしてさかさまになりながら此方を見下ろしているヴェノムの姿があった。まるで蜘蛛が降りてくるような姿を連想させる姿。

 

「そいつら二人で学んだ。殴るだけだと負ける、離れた場所からも攻撃出来るのは便利で利く。だから色々と考えた、試して、性能を把握して、改良した。それがこれだ、どうだ面白いだろ」

「……普通に凄いから何とも言えない」

「そりゃどうも」

 

愉快そうに笑うヴェノム、自分達の戦いを心から楽しんでいるようにも思える。自分の技を見せ付け態々解説までする辺り、何処か悪戯心が強い子供のような印象まで与えてくる。しかも真面目で律儀、自分を追い詰めた相手に確実に勝つ為に新しい攻撃を開発し、その検証を繰り返して改良を加えている。ヴィラン……というよりも気質としてはヒーローのそれに近い。

 

「さあ味わえっ!!!」

 

両腕を突き出しながらそのまま連打するように腕を震わせる、両腕から黒糸が飛び出してくる。

 

「舐めんな、スネークウィップ!!!」」

 

ビーストマンは両腕を蛇のように変化させる、そしてそれらを高速で振るい鞭の盾を形成する。振るわれる腕の鞭の線は面となって飛ばされてくる黒糸弾を的確に防いでいく。それらはもう利かないという示威行為だったのだろう、それらがそうしたのかヴェノムは何だもう利かないのか……と何処かつまらなそうな声を漏らす、これで攻撃の一つは無駄だと悟っただろうとビーストは笑うが、突如ビーストの身体を黒い稲妻の電撃が走っていく。

 

「がぁぁっ!!!?なんだ、こりゃぁっ……!?」

「貴方っ!!?何これ、電撃!?」

「じゃなぁ~い!!」

 

ヴェノムは表情を一転させた、先程までのつまらなそうな表情は悪戯が成功して慌てふためいている大人をからかっている子供のような物へと変化している。

 

「がぁぁっ……!!駄目だ、痺れて動けない……!!」

「取れろ!!」

 

リュウガは剣を用いて腕についたそれを弾くように飛ばす、自分にも電気を受けるが一つを弾く分には電気は強くない。複数が身体についてこそ真価を発揮するタイプなのか、飛ばすように取るのが功を奏して取る事が出来た。

 

「如何だ、さっきのインパクトに比べてこっちは罠っぽいだろ……」

「複数が反応して電気を放出する……」

「そうだ。トラップ・エレクトリックって言ったらいいのか、いやスタン……まあそういうのだ」

 

黒糸に微量に電流を纏わせそれを飛ばす、単体では大きな意味こそなさないが複数が付いたらそれらが一気に電気を放出して相手の自由を奪うという黒糸弾の一種。これも追い詰められたヴェノムが開発した技の一つ。

 

「こんなんまで作ってやがったのか……!!」

「いや逃げてる時電線に引っかかったら出来るようになった」

「ええっ……」

 

まさか出来るようになった理由の間抜けさに龍牙は思わず素でそんな声を出した。ヴェノムも何処か気にしているのか顔を背けた。そこをレイディが鏡の破片のような物を飛ばすのだが、ヴェノムの身体がそれを簡単に絡めとってしまい地面へと落として無力化してしまう。

 

「こんな厄介な物まであるなんて……これじゃあ個性を発動させるのは完全に悪手ね……」

 

巨大化してしまうリューキュウの個性、パワーこそ増すが逆に的を大きくさせて黒糸を当て易くさせるような物。故にこのまま戦うのがベスト、一応龍にならずともフルとは言えないが力を出せるのが幸いだが……その程度のパワーはヴェノムは簡単に受け止めてしまうのが大きな問題。

 

「くそだがまあ、対応は出来るようにはなってる。最初こそ絶望しかなかったけど、諦めるもんじゃない……!!」

「ええっ大分マシになって来てる……」

 

幸いな事に防御に徹している事もあってか、暗闇に目が慣れ始めているしヴェノムにも少しずつだが対応出来るようになってきている。ビースト、レイディの言葉に同意を示すが、同時に慣れこそしているがその慣れを如何逆転に使うかが焦点になってくると考える。手札を見せすぎるのも悪いと思って黒炎を見せてない龍牙はそれを遣おうとした時だった。ヴェノムが言った。

 

「―――なら取って置きを見せてやる」

 

直後だった、ビーストとレイディの身体がブレて次の瞬間には壁に叩きつけられながら黒糸に完全に拘束されていた。全身を黒糸で包まれ、辛うじて口元と鼻が露出して呼吸が出来るようになっているが、あれではもう動きを殺されている同然でもう戦闘不能。それを見て満足げに嗤うヴェノムは言った。

 

「ラピッド・ファイア……連射って奴だ。まだ慣れてないからあまり使えない、が、それにインパクトとスピードを足した。これでそいつらは終わり、さてっ―――次はお前らだ」

 

地面へと降りてきたヴェノムは邪悪な笑いを見せ、高々に咆哮を上げる。狂暴な獣がその気になった、黒き暴獣は龍らへと襲い掛かっていく。黒い尾を引きながら……邪悪な叫びを木霊させながら、己の欲求を満たす為に……。


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