僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
暗闇の中を縦横無尽に飛び回りながら翻弄するヴェノム、闇という独壇場の上にこの廃ビルを根城にしているからか内部の構造まで頭に入っているのだろう。高い身体能力に加え身体的な特性に黒糸が、それらを何倍にも引き上げている。そこら中に黒糸を伸ばし、伸縮させる事で高速で移動させつつもターザンのように移動しながら黒糸弾を放ってくる。それらを警戒しようとすれば即座に近接戦に切り替えて、殴りかかってくる。ただ強いだけではない、洞察力や成長速度も速い。
「リュウガ!!」
「ぐっ!!」
一瞬の隙を突いて、迫ったヴェノムの拳が龍牙の横っ面を捉えた。当たった瞬間に風圧が周囲に巻き起こるレベルの攻撃をまともに受けた龍牙に声が飛ぶが、浮こうとする身体を地面に突き刺すように足を置いてそれに耐え、なぎ倒そうとするヴェノムの拳に対抗する。瞳を輝かせながら龍牙はヴェノムを見る。
「なろがぁっ……オールマイトの拳に比べたら全然なんだよぉ!!!」
右腕の龍頭でお返しと言わんばかりにヴェノムの頭部を殴りつける、そこらに飛び散り身体の一部が飛ぶ。それでも即座に飛び散った一部は元の身体へと吸い寄せられていく。歪んだ頭部も直ぐに元に戻っていくが今度は逆サイドからリューキュウの飛び蹴りが炸裂する。
「がぁっ……!!」
思わず怯んだヴェノムは後方へ糸を伸ばし、急速に撤退していく。流石に龍牙の龍頭で固定されている側へと向けられる反対側からの力は受け流しきれなかったのだろう。漸くまともなダメージが入ったと確信できるものが入った、流石に挟まれた状態では流動させきれない。がそれでも高が知れている、直後暗闇から黒糸弾が飛んでくる。それを盾で防ぐが矢張り衝撃がとんでもない、インパクトと呼んでいた種類の物だ。
「駄目だ埒が明かない!!」
「今すぐに撤退すべきなのにできない……僅かでも注意を他に向けた瞬間にゲームオーバーね……!!」
「―――面白い、面白いぞ」
互いに背中を預けながら構えを取っている所に片手に山盛りの肉を持ちながらヴェノムが姿を現す。それを口いっぱいに頬張りながら、こちらを見据えてくる。砕き、裂いて飲み込む音が響く。食べ終わると口元を拭い、見つめてくる。
「リュウガ、確かそんな名前だったな……お前が気に入ってきたぞ」
「気に入ってきた…ね、あんまり嬉しくない」
ヴェノムの興味は龍牙に向けられていた。観察するかのように瞳を向けてくる。
「お前、よく肉を食うみたいだな……」
「燃料補給だ、お前らだって腹が減ったら何か食うだろう」
「貴方……人を食べたりしてないでしょうね……?」
リューキュウは思わず聞いた、先程からヴェノムが食しているのは生の肉。内部に骨があったりもしている、生で肉を喰える、つまり人間だろうと捕食する事は可能である筈。でなければビーストマンとミラー・レイディを喰うなんて言わないだろう、意外な事にヴェノムはそれは即座に否定した。
「誰が人間なんて不味い物を喰うか、一度腹ペコだったからそこらで死んでた奴を喰った事があるが酷く不味かった。それからは一度も喰ってない。俺は豚と鶏の方が好きだ、手に入りやすいしな」
「じゃあなんて喰うなんて言うんだ……!?」
「そいつらが俺をムカつかせた、キレさせた。その報復だ、復讐だ。俺にした事を仕返す為に喰うだけだ」
ヴェノムが二人を喰うと言ったのは相手に恐怖と痛み、自分が受けたそれらを返す手段でしかない。別に人肉を食したいという訳ではない。先程食べた肉の方が好みではあるらしい。人間は不味く出来る事ならば食べたくない、だが自分に屈辱を与えた者は敢えて喰うと言っている、その時に得られる物はきっと不味さを超越して自分に幸福感を与えてくれるはず、だから喰うと宣言した。
「ヴェノム、なんでお前はヴィランになった」
「好き勝手にやる奴の通称だな。だとしたらYESだ」
ヴェノムの答えは何処か要領を得ない、知性は酷く高いように思えるのに何処か知識が伴っていないように思える。自分の個性の把握、新技の性能の実験やら何やら、頭自体は酷く良いが知らない事が多いように思える。
「俺は自由が好きだ、自由に生きるのが俺だ」
「だから二人を喰うのか」
「それも一つの自由だ、だが―――」
ヴェノムは突如として視線を外した。その先にあるのは壁に拘束されてビーストマンとミラー・レイディ、その二人を見ている。動きも取れずに生存権を完全にヴェノムに握られている状態、もう既にこの二人は自分に敵わないという事は理解した、だとしたら逆に喰う必要があるのだろうか。不味いと分かり切っている物を喰う必要があるのか。
「敢えて喰わずに屈辱を与えるのもありなのか……態々不味い物を喰いたくはない。こいつらよりも100gの鶏むね肉の方が御馳走だ」
「ふざけるな化け物、お前に情けを掛けられるなんて最悪―――ッ!!!」
「うるさい、黙ってろ」
叫ぶビースト、だが身体を覆っていた黒糸の一部が動いて彼の口を完全に防いでしまった。同時にレイディも同じ処置を施していく。リュウガとリューキュウはヴェノムが気の向くまま、己の自由のままに暴れまわる狂暴な獣だとばかり思っていたが、そうではない。自由を重視する傾向にあるが冷静な部分も確りとある。
「俺に屈辱を与えた奴にそれ以上の屈辱を与え、それを挽回させない……成程それは良いな。決めた、そいつらは喰わん」
「信用できると思ってるの……?」
「それは勝手にしろ、お前らの自由だ。俺も自由にする、お前らも自由にしろ」
自由を尊ぶヴェノムの考え方、それは自分もそれに従うが相手の自由も尊重する。選択権を相手にも与える、ある意味信用しやすい相手……といえるかもしれないがヴェノムは龍牙へと指を伸ばし、突きつけた。
「だが―――お前だリュウガ」
「何だと……?」
「お前を気に入った、俺と同じだがお前は違う。何故だ、何故違う?」
ヴェノムと龍牙、龍牙とヴェノム。彼は自分と同じだという、だが違うという。それが酷く気になっている、どうしてここまでの差異があるのか明確にしたいのか龍牙を見続けている。
「俺はお前とは違う」
「そうだ全然違う、だが同じだ。何故だリュウガ、何故お前は俺と同じなのに違うんだ。教えろ、何故お前は俺は対照的だ。右と左のように同じなのに、此処まで正反対なのか俺に教えろ」
言っている事が分かる様で分からない、似ているようで似ていない。方向性こそ同じだが、如何して此処まで立場が違うのかを教えろという事を言っているのだろうか。今のヴェノムの興味はそこなのだろうか。
「だがただ教えるだけじゃつまらん、だからお前は俺に全てをぶつけろ。お前が今まで生きてきた中で得てきた全てをな、俺も同じ事をお前にしてやる。これは対等なやり取りだ、同じ事を互いにする、そうだろリュウガ」
「……」
「話を聞いちゃだめ」
「おい、今いい所なんだ邪魔をするな」
絶対にを受けちゃだめだと忠告するリューキュウにヴェノムは分かってないな、と言わんばかりにリューキュウを睨みつけた。自分はそれを強く望んでいるのに邪魔をするなと言わんばかりに威嚇している。だがそれに動じるような彼女ではない、彼女は個性を発動させる。そして巨体で龍牙を覆うようにしながらヴェノムに対峙する。
「ならまず私の全てを貴方に刻み込んであげる」
「遠慮する、俺はお前を悪くないと思ってるが気に入ってはいない。お前は俺とは完璧に違う。同じじゃない上に違う、お前を理解しても意味はない」
「何を……!!」
「まあいい、俺は俺でお前を理解しよう。リュウガ―――お前も俺を知れ、理解しろ」
ヴェノムとの戦いは続く。