僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ヴェノムと黒龍

「ハハハハッ……ハハハハハハハハッ!!いいぞ、もっとだお前の事を教えろぉ!!」

 

黒糸弾のラピッド・ファイアは矢張り本人も慣れていない、それに加えてそれに威力重視のインパクトに速度を組み合わせた合わせた物のせいか、黒糸を出さずに真正面からの近接格闘戦に移行し始めたヴェノムは迷う事もなく、一直線に龍牙へと迫って巨体と剛腕を活かしながらの攻撃を仕掛けてくる。それらに対して龍牙は全力に対抗しているが、力はギャングオルカに迫る上に速度は圧倒するレベル。それらの相乗効果が齎す威力はオールマイトに迫りそうな勢い。

 

「させないっ!!」

「させるっ!!」

 

リューキュウは個性を解除せずに龍牙に迫ろうとするヴェノムの攻撃を代わりに受ける、だがその防御を超えて更に腕を伸ばし龍牙へと攻撃を連続される動きに巨体故か付いていけない。だが、個性を発動させなければヴェノムの攻撃を一撃受けただけで自分はダウンしてしまうのも分かっているので解除に踏み切れない。出来るだけ防御するが龍牙にも負担を強いてしまう現状に歯痒い思いをしながらも、龍牙は気にしないと返事をするかのように唸り声を上げながらそれらを受け止める。

 

「自由だ、俺は自由を求め続ける……!!」

「俺は―――ただ、成りたいだけだぁ!!」

 

完全に組みあい、腕をぶつけ合うかのように互いが力を込めて押し合っていく。互いの力が増しているのか、踏ん張っている地面に亀裂から読み取れる。

 

「っ―――!!」

「させるかっ!!」

 

リューキュウは今の内にヴェノムに攻撃を仕掛けようと両腕の爪で切り裂こうとするが、それを防ぐ黒い影が伸びた。ヴェノムの肩甲の辺りから黒い物が盛り上がっていく、そこから新たに二本の腕が伸びて攻撃を受け止めた。完全な二対一、巨龍と黒龍相手にヴェノムは完全に拮抗していた。それ所が更に力を強めていき、二人を同時に押し込めんとする勢いで踏み込んでいく。

 

「こんのぉっ……馬鹿力がぁぁっ!!」

「ぐぅぅっっ!!!」

 

更に力を込めていく、それに呼応するかのようにヴェノムも力を増していく。一度、その手で瀕死の重傷を負った龍牙はオールマイトのようだと正しく思う。まだまだ上があるのかと言わんばかりに力を籠め続けていくそれに対してもういい加減にしろと言いたくなってくる。

 

「何故だリュウガ、お前は何故俺と違う……何が違う!!」

「あらゆる物だ……俺は自由で居たいなんて一度も思った事なんざぁない!!」

「っ!?」

 

その言葉はヴェノムにとっては衝撃だった。自由が欲しいと思った事が無い、自分が最も良いと思っている事こそが自由、自由が己であるとすら思っているのに龍牙はそれが欲しくはないというのかと言わんばかりに驚き、その言葉が何処か自分を侮辱しているように思えたのか更に力を込めるが、今度は龍牙の拳がヴェノムのそれを握り潰さんとする勢いで手にかける圧を強める。

 

「俺は今に絶望して、未来に目を向けようともしてなかった!!自由なんて、その時は持ってなかった!!」

 

思い出す、個性発現直後の事。失意の絶望の中で蹲り、手に取れるはずの自由から眼を反らしてただ只管に無と向き合い続けていた。無の中で只管に虚空を見つめ続けて足を止めていた。自由なんてなくても良かった、自分は唯―――見て欲しかっただけだった。

 

「……嘘を吐くな、自由があれば何でもできる筈だ。自分がやろうとすれば、何でも出来る。それが自由だ!!」

「俺はなにもしようとしてなかったんだ、だから自由なんて分からなかったんだよ!!」

「違う、お前が何もしないのも自由。お前は見えていた筈の物から眼を反らして、理解しようとしなかっただけだ!!」

「かもなっ……だけど、それが真実だぁぁぁ!!!」

 

龍牙の腕が変化する、黒炎が龍の頭部になりヴェノムの左腕を食い千切るかのように出現する。そして龍頭からは黒炎が漏れだしていきヴェノムの左腕へと燃え移っていく。

 

「がぁぁぁああああ!!炎、炎だと!!?焼ける、焼けていくっ!!?」

「「今だぁぁっっ!!!」」

 

左腕が尋常じゃない速度で燃え上がっていくヴェノムは苦しみもがくような絶叫を上げる、力が一気に緩まった時を見逃がさなかった龍牙とリューキュウがその身体に攻撃を命中させた。リューキュウの鋭い爪がヴェノムの身体を深々と切り裂き、そこへ龍牙は黒炎を放射してその身体を焼く。

 

「eeeeeeeeeek!!?」

「炎、炎に弱いのかこいつ……!!」

「ふざけるな、炎など、払えばの話だぁぁぁあ!!!」

 

全身を包み込んでいた炎、それを燃えていた身体ごと切り離して炎を払い飛ばしたヴェノム。その身体からは煙が立ち上りヴェノム自身も頭を深く落とすように、身体を落としている。どうやら炎は致命的な弱点であるのか、憔悴しきっているかのように深々と呼吸を繰り返している。所々身体から黒い塊が落ちていく、身体の組織が今を維持しきれないのか崩壊し始めている。

 

「ぅぅぅっ……くそが、てめぇっ……俺の天敵だったのかリュウガ……!!やっぱり、俺とお前は正反対か……同じで違う、その通り……」

「ヴェノム、テメェは一体何なんだ……お前は一体何なんだ……?」

 

改めて龍牙は問う、お前は何だと。ヴェノムはお前も俺を知れと言った、ならばそれを知る為に問いかける。荒い息を吐き続けるヴェノムは言う、そんな事は自分が知りたいと。

 

「俺は自分が何かなんて知った事じゃない、何も分からない俺が俺だ。分からないと理解しながら、分かろうとしない、そんな自由が俺だ。ずっとそうだった、独りだ」

 

淡々と語り続けるヴェノムに不思議とリューキュウも耳を傾ける、ヴェノムはずっと孤独の中で生きていた。親なんて知らないし友もいない、分かるのは自分にあるこの力で生きていくしかないという事だけ。誰もが自分を化け物と蔑んだ、姿を見られれば常に恐怖を与える。無法者としてずっと孤独に生きてきた、姑息な真似もしたし卑怯な事もし続ける。それが自分だ。

 

「何故だ……リュウガ、お前はなんで俺と違う。何が違うんだ、同じだろう。如何してそうなれた……」

 

だからヴェノムには異質に映った、自らと同じように周囲に恐怖をまき散らすような姿をしている。自分も龍牙を見て恐ろしさを覚えた。だが彼は独りじゃない、誰かがいる。目の前の女、リューキュウと会話をし、思いを共有し、連携を取って自分と戦っている。同じような姿をしながら何故此処まで道が違うのかと、考えれば考える程に理解出来ない程の大きな謎になっていく。何も分からない、だから理解したい、龍牙を心から理解したい。

 

「―――俺がそうなったんじゃねぇよ、他の人がそうしてくれたんだよ」

 

龍牙は言う。成ったんじゃない、そうしてくれたのだと。ヴェノムは自分のIF、根津に出会えずオルカを師と仰げなかったのが彼の姿だ。ヴェノムは出会えなかった、他人から暖かみを知らずに悪意を受け続けた。自分の事を肯定するものなど一人もいなかった。

 

「お前が、そうなったんじゃないのか……?」

「導いて貰ったんだよ。今の俺はそうしてこういう今になったんだよ」

「―――分からない、分からないが……そうか、そういう事か」

 

謎が解けたと言わんばかりに上を見上げる、龍牙は自分と違う。色んな意味で違う、その違いがどこまで大きいのか、どんな風に違うのか分からないが……違うのかは分かる。そう思うと不思議と満足感が溢れてくる、一番知りたかった事を理解出来た。この時からヴェノムは完全に動きを止めた、攻撃も移動もしなくなった。それだけ炎のダメージが甚大なのもある、あるがそれ以上に―――何かを見つけたかのような満足そうな様子だった。


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