僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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清純の葛藤

日に日に焦りが胸を満たしてしまっていく、ニュース記事で見た超新星ヒーローの中にはリューキュウ事務所でインターン活動に勤しんでいる麗日や蛙吹の姿、そしてでかでかと特集を組まれるかのような大きな写真を載せられている龍牙の姿があった。ヴィランを捕縛する時の様子なのか、大きな機械の翼を広げて逃亡を図ろうとするヴィラン、ヴァルチャーに組み付きながら黒炎を纏いながら、翼を食い千切るかの如く殴り付けている様子が映し出されている。そんな写真を見るたびに沸き上がる衝動は……苦しさだった。

 

『大空を翔るヴィラン・ヴァルチャー確保、天を制する龍は雄々しく吼える』

 

大きな見出しにそう書かれている、確保されたヴィラン・ヴァルチャーは酷く大きな翼を持っている。過去の事故の影響で空を飛べなくなったがそこを機械化した補った上に超高速で飛行出来るようになっている為に、確保が難しかったのだが……龍牙はドラグブラッカーと連携し、ヴァルチャーがトップスピードで直進するように誘導した。直進してコースが読めているならばもう貰ったも同然、地面を殴りつけて浮遊した龍牙が真正面からヴァルチャーにギャングオルカ直伝の喰らい付きで組み付くと、そのまま機械の翼に腕を突っ込んで内部から破壊した上で、機械化している部分を完全にもぎ取って飛行不能にした。そこへウラビティが浮遊させていた瓦礫に乗ったフロッピーが舌でヴァルチャーを拘束して完全に確保完了。四散した翼はねじれちゃんが波動で粉々に粉砕しておいたので被害も出る事もなかった。

 

「―――っ」

 

スマホの画面を切って彼女はベットに身体を投げ出してそれに背中を向けた上で布団を被った。どうしてこんなにも辛くて苦しいのだろうか、龍牙の活躍ならば嬉しくて当然で無条件で喜んでピクシーボブと電話をする。恋のライバルではあるが、それ以外では良い友人関係を築けている。龍牙の此処がカッコいい!!という談義をしたりもするのに。

 

「何でこんなに……いやだよ、いやだよぉっ……!!」

 

身体を震わせながら小さくさせる、愛しの龍牙の活躍が嬉しくないわけがない。嬉しいに決まっている、彼の事を嫌悪なんてしている訳がない。自分が嫌になっているのは他でもない自分自身なのだ。記事へと恐る恐る手を伸ばしながら、もう一度画面を付ける。そして―――映し出される記事を見て、沸き上がってきてしまった嫌悪感に悲鳴にも似た声を出しながら枕で頭を覆うようにしながら倒れこむ。

 

「なんでなの!?なんでお茶子ちゃんと梅雨ちゃんにこんな気持ちをしなきゃいけないの!!?そんなのじゃないでしょ、二人は違うの!!だから収まって、収まってよぉ!!」

 

木霊する声は心にしみ合わっていく。胸にわいてくるその思いは嫉妬と怒りと嫌悪感、それらが入り混じってしまった余りにも醜い感情が入り乱れぐちゃぐちゃになっていた。しかもそれは斜面を転げまわる雪だるまのようにどんどん大きくなっていく。最初は本当に小さなしこり、憧憬のような灯に過ぎなかったのに今では胸を焦がすかのような大火になって心を焼いている。

 

「違う、違う違う違う!!私が悪いの、私が何も出来なくて弱くて隣に居られないせいなの!!二人は何も悪くない、二人は精一杯やって今ああしているの、私だって精いっぱいやってるでしょ、だから今こうしてるの!!だから分かって、分かってるんでしょ、ならどうしてこんなに苦しいの、なんでこんなに嫌な気持になる!!?」

 

羨ましい、最初はその程度だった。活躍してていいなぁ程度だった、確かに龍牙の隣に居られて羨ましいという事もある事にはあったがその時は口に出して笑い話に出来る位の物だった。でも今は……肥大化したそれらは彼女の心を蝕む罪悪感となって重く圧し掛かってきている。彼女は大きな善性を持っている、だからこそそれが余計に重く圧し掛かっている。

 

「いやっ私ってそんなにいや人間だったの……?もうっいやぁぁっ……」

 

理解している、龍牙の隣に居られないのは自分でのせいだと、自分の実力ゆえに近くに居られる事は出来るのに傍に居られる事は出来ない事を強く分かっている。だから応援しよう、今はそれで満足して次に備えて毎日頑張ろうと思ったのに……如何して、決めたのに、こんなにも苦しくなるなんて思っても見なかった。

 

「何で、なんでなんで―――……」

 

あの二人が居なければ……

 

「っ!?違う、違う違う違う!!何を考えてるの!!?」

 

一瞬脳裏を過った考え、余りにも恐ろしいそれに寒気を覚えながら頭を壁に叩きつけてしまった。なんて事を考えるんだ、友達になんてことを……必死にそんな考えを止めようと頭を叩いたり、必死に自分に言い聞かせるように言葉を続ける、だがそんな言葉が止まらない。溢れてくる。

 

「ぁぁっ……ィゃッ……」

 

気付いてしまった自分の内面にある恐ろしくもドロドロとした醜い悪意。それらが今にも溢れてきそうになっている、それらを否定しながら塞き止め、自分を抑えつけていく。合理的に自分を抑えようもする、例え二人がリューキュウ事務所のインターンから外れたとしても全く意味がない。自分がそこに入れるという訳でもないから意味がないと必死に自制する。それでも悪意は溢れる、理性で感情を完璧に抑えつけられるわけではない。胸の苦しさが強くなってきた時、電話が掛かってきた。そんな音が僅かに気持ちを空にした、出なければという思いで携帯を取るとそこにはピクシーさんっと表示されていた。取るべきか悩む前に―――彼女は通話ボタンを押していた。

 

『あっ葉隠ちゃん、私だけど。如何したのよ龍牙君の活躍で話したい事とかいっぱいあるのに電話してこないなんて。ちょっとこれでも心配してたのよ?』

「―――……私はライバル、ですよ……それなのに、心配するんですか……?」

『当たり前じゃない、何言ってるのよ?』

 

そんな言葉に思わず完全に頭が真っ白になった。

 

『ライバルなのは確かだけどそれはそれ、これはこれ。私と葉隠ちゃんは龍牙君を狙ってるけど、それ自体は私とあなたの交友関係を揺るがす物じゃないでしょ。これでもいい友達思ってるんだから心配するのは当然の事』

「―――っ」

 

苦しくなった葉隠は思わず、助けを求めた。もう自分では抑えが完全に利かない、だから―――助けを求める。それを彼女は一字一句真剣に向き直って聞いていた。そして聞き終わると両手を叩いたような音を出しながら言った。

 

『ねぇっ葉隠ちゃん、これから出れるかしら』

「えっこれからって……もう直ぐ夜になっちゃいますよ……?」

『雄英には私から連絡しておくから、女同士でご飯でも食べながら話さない?』


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